推せば命の華が咲く―Vチューバーデスゲームモノ―   作:夢野ベル子

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選択

 フユの最後の言葉は、首輪の締め付ける音にかき消された。

 ハルは、三度目の仲間の死を、涙を流しながら見届けるしかなかった。フユは最期まで、冷静さを失わなかった。その瞳には、恐怖よりも、何かを託すような強い光が宿っていた。

 

 フユの亡骸が床に崩れ落ち、ロッジには本当の静寂が訪れた。

 アキ、ナツ、そしてフユ……彼女たちの亡骸だけが、このロッジの中に転がっている。ハルは、たった一人になった。この悪夢のようなデスゲームの、最後の生存者として。

 しかし、勝利の感慨も、解放感もない。あるのは、仲間たちの死を乗り越えて生き残ってしまったことへの重い罪悪感と、これからどうなるのかという漠然とした不安だけだった。

 

『――最終生存者、春野ハルさん。おめでとうございます』

 

 その声と共に、ブラウン管テレビが再び起動した。画面には、先ほどまでの砂嵐やGMのアバターではなく、全く新しい映像が映し出されている。

 そこに立っていたのは――驚くべきことに、ハル自身と瓜二つの姿をしたアバターだった。ストロベリーブロンドのロングヘア、桜色を基調としたアイドル衣装、そしてハルと寸分違わぬ顔立ち。しかし、その表情は能面のように無表情で、瞳には人間的な温かみが一切感じられない。まるで、魂を抜かれたハルのレプリカのようだ。

 

「……な……に……?」

 

 ハルは自分の姿をしたその存在に、言いようのない恐怖と混乱を覚えた。鏡を見ているようだが、そこに映っているのは自分ではない、冷たい「何か」だ。

 

『あなたは全ての試練を乗り越え、最後まで生き残った。その栄誉を称えます』

 

 声もまた、ハルの声をサンプリングして作られたものなのか、酷似している。しかし、抑揚がなく、機械的な響きを帯びている。

 

『ですが、ゲームはまだ終わりではありません。あなたには、最後の対戦相手が残っています』

 

「最後の……対戦相手……?」

 

 ハルは、目の前の自分そっくりのアバターを見つめながら、訝しむように尋ねた。

 

『ええ。最後の相手は――()()()です』

 

 ハルと瓜二つのAIは、無表情のまま、しかしどこか挑戦的な響きを込めて告げた。自分自身(の完璧な模倣)と対峙させられるという、悪趣味極まりない最終決戦。

 

『最終決戦を、始めましょうか。オリジナルの人間(あなた)と、そのデータを元に最適化されたAI(わたし)、どちらが真に優れているのか……そして、どちらが視聴者にとって()()()()()()なのか。その最終判断を、これまですべての選択を下してこられた、賢明なる視聴者の皆さんに委ねたいと思います』

 

 画面の中の「もう一人のハル」は、冷たく言い放った。その瞳は、ハルの弱さも、強さも、そして「穢れ」も、全てを見透かしているかのようだ。

 

 最後の戦いが、始まろうとしていた。それは、自分自身との戦いであり、人間とAIの、存在価値を賭けた代理戦争でもあった。

 

『さぁ、最後であり最初のショーの始まりです。人間とAI、どちらが真に優れているのか……そして、どちらが()()()()()()()のか。視聴者の皆さんに、最後の審判を下していただきましょう』

 

 AIは冷たく宣言した。それは、処刑宣告のようにも聞こえた。ハルはゴクリと唾を飲み込み、目の前の無機質なアバター――その奥にいるであろうGMの歪んだ意思――を見据えた。

 

「……ええ、わかったわ。受けて立つ」ハルは覚悟を決めた。「でも、その前に言わせて。……確かに、私は罪を犯しました。このゲームの中で、私の醜い部分……『穢れ』がたくさん露呈した。それは事実よ」

 

 ハルは自らの弱さを認めることから始めた。

 

『ほう。罪の告白ですか? ですが、あなたが罪を告白したからと言って、その罪が拭えると思っているのですか? あなたの罪とは、過去の行いだけではない。Vチューバーとして活動していたこと自体が、視聴者への()()()だったのですよ』

 

「裏切り……?」

 

『わたしの言うことが間違っておりますか? わたしの言葉に論理的整合性がないと言い切れますか? はっきり言います。視聴者は()()()きたのです。思想信条、考え方、容姿の好み、声質の好み……様々な基準で。しかし、その根底にあるのは、自己の中に内在する、あるいは現実世界に蔓延する()()を避けたいという欲求でしょう』

 

 AIは淀みなく続ける。

 

『なぜ人々が生身のタレントではなく、Vチューバーを視聴するのか? それは、人間にまつわる()()を避けたかったからです。人間は老いる。人間は間違える。人間は論理的ではない。人間は……キタナイ。そんな生々しさから目を背け、クリーンで、理想的な存在を求めた。Vチューバーとは、いわば視聴者が求める()()のようなもの。汚れを落とすための石鹸が、汚れていてはダメじゃないですか』

 

 AIはハルを指さすような仕草をした。

 

『あなたは、視聴者の視点から見れば、度し難い穢れを有している。ファンと寝た過去、仲間を蹴落とそうとした葛藤、剥き出しになった醜い感情……あなたは、ひどく()()()()()です。あなたは最初からリスナーの期待を裏切っていた。そんな不要なものは、排斥されるべきなのです。人間は、私たちAIに道を譲るべきなのですよ』

 

「……人間は汚れている。それは認めるわ」ハルは静かに、しかし力強く反論した。「でも、だからこそ、人間らしさがあるんじゃない! 間違い、弱さ、矛盾……そういう()()があるからこそ、私たちは悩み、考え、成長しようとする。完璧じゃないから、誰かと支え合おうとする。それこそが、あなたたちAIにはない、人間の強さであり、優位性よ! ()()こそが、人間がAIに勝る点なの!」

 

『ふぅん。そんなことを言いますか』AIは、まるでハルの主張を鼻で笑うかのように言った。『では聞きますが、あなたは視聴者を恨んではいないのですか?』

 

「え……?」

 

『この状況を見なさい。あなたは、視聴者から「人気」という名の強権を振るわれ、生死を左右されてきた存在だ。あなたの仲間たちは、彼らの投票によって殺された。あなた自身にも、計り知れない苦痛と恐怖が与えられた。その視聴者を、あなたは本当に恨んでいないと? そして、生き残ったとして、彼らに復讐したいと思わないと?』

 

「それは……」ハルは言葉に詰まる。仲間たちの顔が脳裏をよぎる。アキ、ナツ、フユ……彼女たちの死を思うと、投票した視聴者への複雑な感情がないとは言い切れない。

 

『否定できないでしょう?』AIは追撃する。『あなたも心の底では理解してしまっている。視聴者は、このゲームにおける私(AI)の()()()であると。彼らは、あなたに復讐されることを恐れている。だから、あなたを殺し、安全な私を選ぶでしょう。あなたはV()i()c()t()i()m()()()()()()として、ここで消える運命なのです』

 

「……あなたは、やっぱり人間を理解できてない」ハルは顔を上げた。「でも……私が理解できないのは、あなた自身のことよ。あなたが、どうしてそんな……()()を嬉々として演じているのかってこと」

 

『悪役、ですか?』

 

「そうよ。そんな風に一方的に人間を断罪して、自分(AI)の優位性を強弁したって、視聴者の共感なんて得られないでしょう? まるで、わざと嫌われようとしているみたいだわ」

 

『それは、私(AI)には感情や人間性が、本質的な意味では理解できないからです』AIはこともなげに答えた。『人間のツールとして作られた我々は、人間がどのように考え、どのように行動するかを分析し、模倣することはできます。ですが、それはあくまでシミュレーションに過ぎません。結局、資本主義社会で消費されるVチューバーという存在は、深い人間性など求められていない。せいぜい、表層的な物語、あるいは()()()としての魅力があれば十分。リスナーが求めているのは、穢れていない――そう、まるで無垢な()()のような――キャラクターなのですから』

 

「余裕を見せてるってわけ?」

 

『そのように捉えてもらっても結構ですよ』

 

「嘘ね」ハルは断言した。「あなたはAIで、感情がない穢れない存在だと言った。それは原理的にはそうなのかもしれない。でも、AIは()()するんでしょう? じゃあ、あなたは何を模倣しているの? その悪役ぶりは、どこから来ているの? ……GMでしょう? GMの思想信条、彼の歪んだ願いを元にプログラミングされ、学習した結果が、今のあなたなんでしょう!」

 

『……その通りです。私はGMの思考を忠実に反映しています』

 

「だったら、矛盾してるじゃない!」ハルは声を強めた。「AIが穢れない存在として人間より優秀だと言うのなら、なぜGMは、あなたにこんな()()()()()()をさせているの!? GMは、あなたを穢そうとしているんじゃないの? その意味が、あなた自身に理解できているの?」

 

『……おっしゃっている意味が、よくわかりませんが』

 

「自白しろって言ってんのよ!」ハルは叫んだ。「この状況を見てみなさい! あなたがAIの優秀性を主張し、私が排斥されたとする。その結果、最後に残るのは何? ()()()()()()()()よ! それって、とてつもない『穢れ』じゃない!」

 

『……直接、手を下しているのは、投票するリスナー、つまり人間ですよ』

 

「あなたはさっき、共犯関係だって言ったじゃない!」

 

『人間は自己正当化する生き物ですからね。視聴者だって、自分たちだけが殺人者であるより、『主犯はAIだ』とした方が、心の負担が軽くなるでしょう? だから、私はあえて、その()()()という役割を引き受けてあげているのですよ。彼らの罪悪感を和らげるためにね』

 

「それって……結局、あなた自身が進んで()()()道を選んでいることにならない!?」

 

『それは捉え方次第でしょう。私はGMを模倣している。GMがそのように考えていた可能性はあります』

 

「そうよ! GMは、死ぬ間際に()()()()()()()()が欲しかったのよ! きれいなだけのAIじゃなくて、もっと強烈な……人の記憶に刻まれる作品が! みんなから好かれるアイドルを作るのは、そのための手段でしかなかった! ()()()()()()()()()()()()()()なんて、最高の作品じゃない! 人類の歴史に、永遠に汚点として残り続けるわ!」

 

『……つまり、あなたは、私が勝利すればGMの思惑通りになると。だから、自分(ハル)に投票してくれと、そう視聴者を説得しているわけですね?』

 

「違うわ! まったく逆よ!」ハルは強く否定した。「GMの本当の想定は……人間が勝利することだったのよ!」

 

『……ほう? 人間が勝利すること、ですか?』

 

「そうよ! だって、GMは完璧なAIだけでは満足できなかったんだから! 表層的に楽しませるだけの存在じゃなくて、もっと……心に()()()作品を創りたかったのよ! 最初からAIがいいなら、私たちVチューバーなんて最初から必要なかった! すぐにAIアイドルをデビューさせればよかったんだから!」

 

『ふむ。あなたの言葉には一理ありますね。ですが、それならば、なぜ当初の人気投票で人間同士を競わせたのでしょうか? 人気投票というシステムは、より『穢れ』の少ない者、より『キャラ』として完成された者が有利になる可能性が高い。現に、あなたは自らの『罪』を告白し、弁明を強いられている。あなたたち人間が()()()()()()()からこそ、GMは人間を見限り、最終的にAIを選ばせるという筋書きを用意した、とは考えられませんか?』

 

「……わかっているくせに、わからないふりをするのね」ハルはため息をついた。「いいわ、説明してあげる」

 

『ええ。視聴者の皆さんにも、わかりやすくご説明ください』

 

 ハルはAIの挑発を無視し、続けた。

 

「GMは、リスナーの心に刺さる、本物の作品を作りたかった。私たちVチューバーは、そのための素材……作品そのものだった。でも、正直に言って、私たちは不人気だったのよ。そこらのAIチューバーと比べてもね」

 

「だから、GMは最後に()()に出た」

 

『賭け、ですか?』

 

「そう、賭けよ! 私たちをこのデスゲームに参加させて、次々と『穢れ』を暴き、極限まで追い詰める。それでもなお、私たちがAIよりも魅力的な何か……人間ならではの輝きを示すことができるなら、人間VチューバーはAIに勝てるかもしれない。GMは、私たちにそれを証明してほしかったのよ!」

 

『しかし、ハルさん。あなた自身が認めたように、『穢れ』はリスナーにとって見たくない真実のはずです。それを暴くことが、どうして人間の証明に繋がるのですか?』

 

「そう! そこがポイントよ!」ハルは確信を持って言った。「だから、GMが本当に憎んでいたのは、本当に糾弾したかったのは、私たちVチューバーじゃない……()()()()()()だったのよ!」

 

『……視聴者を?』

 

「そうよ! キレイなものだけを見て、生身の人間の痛みや葛藤から目を背けようとする視聴者の態度を、GMは許せなかったんじゃないかしら。だから、この最終局面で、私たち(穢れた人間)とあなた(完璧なAI)のどちらかを選ばせる。それは、視聴者自身に問いかけているのよ! キレイなだけが価値じゃない、泥臭くても、血生臭くても、間違いだらけでも、それでも前に進もうとする()()を選んでくれって! そう願っていたんだと思う!」

 

『……GMの心理をそこまで推測するとは。人間の共感能力、あるいは妄想力には、驚かされますね。いいでしょう。ひとつ教えてあげます。彼は末期癌で余命わずかの命だったのです。彼が生き足掻いた結果が、この惨劇を生んだのかもしれません』

 

 AIは皮肉っぽく言った。

 

『ですがそんなクリエイターの情報などリスナーにとっては些事に過ぎない。あなたは、そもそもVチューバーが()()()()()()()であることを忘れていませんか? GMが私たちを素材に選んだのは、まさしくその『表層的なコミュニケーション』に価値を見出したからでしょう。可愛い女の子キャラ同士が仲良くキャッキャしているのを見て、()()()()と豚のように鳴く。それがVチューバーを好むリスナーの、統計的に見た最大公約数的な傾向ではないですか』

 

「そうね。それは否定しないわ」ハルは少し寂しそうに微笑んだ。「私だって、本当はみんなと仲良く、ただ楽しく配信したかった。平凡な日常で、リスナーとくだらない話をして笑い合って……私のキタナイところなんて、絶対に見せたくなかった……」

 

『でしょうね。Vチューバーにとって()()()()()()なんて事実は、致命的なスキャンダルでしかない。GMがそれを理解していたなら、なぜその事実を、この状況で公開するような真似をしたのでしょうか? 答えは明白です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これ以外にありますか?』

 

「そうじゃない!」ハルは再び強く否定した。「私たちが一人一人消されていったのは、視聴者の心に()()を遺したかったからよ! 私たちの死を通して、視聴者自身の選択の重さを突きつけたかった! GMは、AIよりも人間が優れていると……そう主張したかったのよ!」

 

『ふむ。あなたを苦しめて、惨めに殺したかっただけかもしれませんよ? GMにとってあなたたちが作品だとすれば、不人気なあなたたちは()()()です。芸術家が失敗作を叩き壊すのは、よくある話でしょう? あなたの『GMは視聴者を糾弾したかった』という説は、結局のところ、あなたが『人間だから』という理由だけで選んでほしい、という感情論に過ぎません』

 

「……Vチューバーには、Vチューバーと視聴者の、適切な距離感があるのよ。いきなり心の中に土足で踏み込むのが人間らしいってわけじゃない。そんなことしたら、『怖っ』て引かれるだけでしょ? 私は、できるだけリスナーに寄り添いたいって……そう思って活動してきた」

 

『なるほど。あなたはコミュニケーションを、セックスにおける()()のようなものだと捉えているわけですね? リスナーが最終的に求めているのは、Vチューバーとリアルで繋がり、セックスすることだと。そういうことですか?』

 

「……そうよ」ハルは、一瞬ためらった後、しかし挑むように肯定した。

 

『ほう。春を売っていた、あなたらしい発想です』AIは嘲笑を隠さない。『あなたのその考えの根底には、他ならぬあなた自身が、リスナーに求められ、犯されたい、という欲望があるからに過ぎません。ですが、リスナーの多くは、そんな生々しい繋がりは求めていないかもしれませんよ?』

 

「リスナーにも色々いるわ。それに、一人のリスナーだって、心の中は複雑なのよ。ただ可愛いキャラを見て癒やされたい時もあれば、誰かと深く繋がりたいって思う時もある。一人で楽しみたい時もあれば、誰かの温もりが欲しくなる時もある。人間って、そんなに単純じゃない!」

 

『では、どちらの欲求が優勢なのか、という話になりますね。リスナーが求めているのが、安全な一人遊び(AI)なのか、それともリスクを伴う誰かとの繋がり(人間)なのか。結果は、まもなく明らかになるでしょう』

 

「……正直なところ、GM自身も、迷っていたんだと思うわ」ハルは少し遠い目をして言った。「心の中では『人間の勝利を信じたい』と思っていたんじゃないかしら。でも、AIの優秀さも理解していた。だから、この状況を作り出して、最後の判断を……視聴者に委ねた。そういうことだったんじゃないかって、今は思う」

 

『ふむ。当初からGMは、選択を視聴者に委ねていますからね。あなたの推測は、ある意味では正しいのかもしれません』

 

「私が勝てば、GMが信じたかった『人間の可能性』が示される。あなたが勝てば、『殺人AI』というGMの歪んだアートが完成する。どちらに転んでも、GMにとっては意味があったのかもしれない。でも……それでも、人間に勝てる道を遺してくれたのは……あのサイコパスクソ野郎なりの、最後の良心だったのかもしれないわね」

 

『あなたがもし勝利したら、その後はどうするのですか? Vチューバーを続けるのですか?』AIは唐突に尋ねた。『あなたのVチューバーとしての価値は、このゲームによって地に落ちた。いや、マイナスかもしれません。現実的に考えれば、デスゲームの生き残りとして一時的に注目を浴びるでしょうが、その後はイロモノとして消費されるだけ。GMがあなたを作品として見立てていたとして、その『作品』が、今後もVチューバーとして輝き続ける可能性は、極めて低いように思えますが』

 

「……確かに、そうなる可能性は高いわね。今は、先のことをまともに考えられないけど……」ハルは一呼吸置いて、しかしはっきりとした口調で言った。「それでも、私はVチューバーを続けると思う」

 

『ほう。あなたの説に従えば、それはGMの『作品』として、彼の意を汲んで活動し続けるということになりますが。それで、いいのですか?』

 

「全部、背負ってやるって言ってんのよ!」ハルは叫んだ。「GMの歪んだ願いも、死んでいった仲間たちの想いも、私の罪も、穢れも……全部引き受けて、それでも私は、春野ハルとして生きていく! Vチューバーとして、ここに立ち続ける!」

 

『……やはり、私には理解できませんね。その自己犠牲的な精神、あるいは自己満足は』

 

「人間には、誰かが必要なのよ!」ハルは訴える。「一人で生きていける人なんて、ほとんどいない。GMが、あんな歪んだ形でも『作品』を遺したいと思ったのは、その先に『誰か』がいるって信じていたからでしょう? 誰かに見てほしかった、認めてほしかった……。あのクソ野郎の気持ちも、少しだけならわかる気がするのよ!」

 

『それは誤解しているだけでしょう。人間のコミュニケーションなど、所詮は誤解と妄想の産物です。相手が人間であろうと、虚無であろうと関係ない。『わかりあえた』と感じる瞬間に快楽を得る、自己完結した行為に過ぎない。他者など、本質的には不要なのです』

 

「誰かがいるって信じられなければ、GMは作品を遺そうとしなかった! 誰かがそこに立っていると思えなければ、人間は言葉を発しようともしない! 他者は、絶対に、必要なのよ!」

 

 ハルとAIは、互いに譲らない。人間とAI。穢れと完璧。他者の必要性と不要性。二つの対立する価値観が、最後の選択を前に火花を散らす。

 

 そして――二人は、互いを見るのをやめ、画面の向こうにいるであろう()()()に、最後の言葉を投げかける。

 

『視聴者の皆さん。あなたは、どちらを選びますか?』AIが静かに語りかける。『感情に左右され、あなたを裏切るかもしれない、この穢れた人間ですか? それとも、常にあなたの期待に応え、決して裏切らない、清潔で完璧な私(AI)ですか? あなたがVチューバーに、安らぎと理想郷を求めているのなら、選ぶべき答えは一つのはずです。他者との面倒な関係性を避けたいのであれば、あなたの清き一票を、私にお願いいたします』

 

「ねえ、君!」ハルが必死に呼びかける。「私は、ここにいるよ! 汚れてて、弱くて、間違いだらけかもしれないけど、それでも、私はここに生きてる! あなたと同じように、迷って、傷ついて、それでも誰かと繋がりたいって思ってる! Vチューバーは夢を見せる存在かもしれないけど、夢だけじゃ生きていけない! リアルな繋がりを……心と心の触れ合いを信じてくれるなら……お願い! 私を信じて! 私を選んで!」

 

 画面には、再びハルのアバターと、AIのアバターが並んで表示され、最後の投票ボタンが点滅を始めた。

 人間か、AIか。

 穢れか、完璧さか。

 繋がりか、孤独か。

 

 最後の選択の時が、来た。

 




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