推せば命の華が咲く―Vチューバーデスゲームモノ― 作:夢野ベル子
どれくらいの時間が経っただろうか。
ロッジの中には、依然として重苦しい沈黙が垂れ込めていた。ナツの嗚咽は少し収まったものの、未だに床にうずくまったまま動けない。ハルは壁に寄りかかり、青白い顔で虚空を見つめている。アキの無残な亡骸が、リビングの中央で異様な存在感を放っていた。見開かれたままの瞳が、まるで残された者たちを責めているかのようだ。
最初に動いたのは、フユだった。
彼女はアキの亡骸から目を離すと、ハルとナツに向かって静かに言った。
「……このままにしておくわけにはいかない。アキさんの遺体、彼女の部屋に運びましょう」
その提案に、ハルははっと顔を上げた。フユの言う通りだ。いつまでもこの惨状を放置しておくわけにはいかない。それに、リビングに死体がある状態では、精神的にも休まらないだろう。
「……そうね。わかったわ」
ハルは壁から離れ、まだうずくまっているナツに声をかけた。
「ナツちゃん、立てる? アキさんを……運ぶの手伝って」
「……うん……」
ナツは涙でぐしょぐしょになった顔を上げ、力なく頷いた。フユが手を貸し、ナツを立たせる。
三人は、意を決してアキの亡骸に近づいた。椅子に縛り付けられた縄を解き、亡骸を慎重に持ち上げる。まだ微かに温もりが残っているような気がして、ハルは背筋に冷たいものが走るのを感じた。首が不自然な角度に折れ曲がっており、目を背けたくなる。
三人で力を合わせ、アキの亡骸をアキ自身の部屋へと運んだ。部屋は、アキが最後にいた時と変わらず、穏やかで落ち着いた雰囲気を保っている。それが、かえって物悲しさを誘った。
ベッドの上に、そっと亡骸を横たえる。せめてもの弔いとして、シーツを顔の上までかけてやった。
部屋を出てドアを閉めると、三人はしばし無言で廊下に立ち尽くした。仲間を失った喪失感と、自分たちはまだ生きているという安堵感、そして次はこの中の誰かが死ぬかもしれないという恐怖が、複雑にないまぜになって胸に迫る。
「……ねえ」
沈黙を破ったのは、またしてもフユだった。彼女はハルとナツを交互に見ながら、静かに、しかし強い意志を込めて言った。
「アキさんの部屋のパソコン……調べてみない?」
「え……?」
ハルは驚いてフユを見た。今、仲間を弔ったばかりだというのに、その部屋を物色するような提案。それはあまりにも不謹慎に思えた。
「どうして……そんなことを……」
「アキさんは、GMに誘導されていた可能性がある。彼女のパソコンに、その証拠が残っているかもしれない。それに……他の部屋と同じように、アキさん自身の秘密も……。もしかしたら、このゲームの真相に繋がる何かが見つかるかもしれない」
フユの瞳は真剣だった。感傷に浸っている時間はない、と言外に語っているかのようだ。
「でも……それは……」
ハルは言葉を濁す。アキの部屋を調べることへの抵抗感もあるが、それ以上に、そこで何を見つけてしまうかという恐怖があった。
「ボクは……嫌だ!」
ナツがはっきりとした口調で拒絶した。
「アキ姉の部屋を荒らすなんて……それに、もし何か見つけちゃったら……知りたくないことまで知っちゃうかもしれない……もう、誰も疑いたくないよ……」
ナツの瞳には、怯えと不信の色が浮かんでいる。アキの裏切り(あるいは、そう見えた行動)が、彼女の心を深く傷つけていた。
「気持ちはわかる。でも、感傷や恐怖で思考を停止させていたら、私たちもアキさんと同じ道を辿ることになる。私たちは生き残らなければならない。そのためには、どんな情報でも集めるべきだ」
フユは冷静に、しかし有無を言わせぬ口調で続けた。
「それに、これはアキさんのためでもある。もし彼女が本当にGMに操られていたのだとしたら、その証拠を見つけることが、彼女の名誉を……少しでも回復することに繋がるかもしれない」
その言葉は、ハルの心を揺さぶった。確かに、アキの最期はあまりにも惨めだった。もし彼女が被害者であった側面があるのなら、それを明らかにしてやりたい。
「……わかったわ。調べましょう。ただし……もし何か見つけても、それで誰かを責めたりするのはやめましょう。情報は、あくまで生き残るために使う」
ハルは覚悟を決めたように言った。
「ナツちゃんは……どうする?」
ハルとフユの視線が、ナツに集まる。
「……ボクは……やっぱり嫌だ。でも……二人だけで行かせるのも……」
ナツは迷っているようだった。恐怖と好奇心、仲間への不信と罪悪感が、彼女の中でせめぎ合っている。
「……わかったよ。行く。行くけど……ボクは、あんまり見ないようにするから……」
最終的に、ナツはしぶしぶといった様子で同行することを選んだ。
三人は再びアキの部屋のドアを開け、ベッドに眠る(あるいは、眠るように横たわる)亡骸に一瞥をくれると、部屋の奥にあるデスクへと向かった。
デスクの上には、アキが使っていたノートパソコンが置かれている。フユが椅子に座り、パソコンの電源を入れた。
ノートパソコンが静かに起動し、アキが設定していた猫の壁紙が表示された。その愛らしい写真が、この部屋の主がもういないという現実を際立たせ、三人の胸を締め付ける。
フユは慣れた手つきでマウスを操作し、ファイルを確認していく。レシピのメモ、トークネタ集、配信スケジュール……表面的には、アキの几帳面な性格を示すファイルばかりだ。
「……あった」
フユが呟き、一つのテキストファイルをダブルクリックした。ファイル名は『GMより』。アキが自室に戻った時に見つけ、彼女を凶行へと駆り立てたと思われるファイルだ。
ハルとナツも、フユの背後から画面を覗き込む。ナツは恐る恐る、といった様子だ。
ファイルには、やはりGMからのメッセージが記されていた。
『アキさんへ。データ分析の結果、残念ながらあなたは最初の人気投票で脱落する可能性が92.4%です。このままでは生き残れません。しかし、幸運なことに、あなたには他のメンバーにない
それは、あなたの優しさ、包容力です。特にナツさんは、あなたを姉のように慕っている。その信頼を利用すれば、状況を覆すことが可能です。例えば……ナツさんを不意打ちで襲い、深刻なダメージを与えれば、視聴者はその
これは、あなたが、いいえあなたがたが全員生き残るための、最も効果的な戦略です。選択はあなた次第ですが、このまま座して死を待つか。それとも一縷の望みにかけてみるか。懸命な判断を願っております』
悪意に満ちた、冷徹な文章。それは、アキの弱い心に付け込み、彼女を操ろうとする明確な意図が感じられた。
「やっぱり……GMに誘導されてたんだ……」
ハルは唇を噛みしめた。アキは被害者だったのだ。もちろん、ナツを襲おうとした行為は許されない。しかし、その引き金を引いたのは、紛れもなくGMだった。
「ひどい……こんなのってないよ……」
ナツも涙ぐんでいる。自分がアキを疑い、罵ってしまったことを後悔しているのかもしれない。
「……これで、アキさんが追い詰められていた理由はわかった」
フユはファイルを閉じ、静かに言った。その表情は硬いままだ。
「でも、これだけじゃないはずだ。GMは、おそらく他のメンバーのパソコンにも、何らかの『仕掛け』をしている。そうでなければ、フェアじゃない」
フユの言葉に、ハルとナツは息を呑んだ。自室で見つけた、あの忌まわしいファイルのことを思い出し、心臓が嫌な音を立てる。フユは気づいているのだろうか? あるいは、カマをかけているだけなのか?
「ねえ」フユは椅子を回転させ、二人に向き直った。「みんなの部屋のパソコンも、順番に確認してまわらない?」
その提案は、先ほどよりも直接的で、有無を言わせぬ響きを持っていた。
「なっ……!?」ハルは明らかに動揺し、声が裏返った。「な、なんでそんなこと……! そ、そんな必要ないわ! きっと、アキさんのパソコンだけよ、GMが何かしたのは!」
必死に平静を装おうとするが、焦りが隠しきれていない。
「ボクも嫌だ! 絶対嫌! 人のパソコン勝手に見るとか、デリカシーなさすぎ! それに、ボクのパソコンなんて、ゲームのデータばっかりだし! 見ても面白くないって!」
ナツも早口でまくし立てるように拒絶した。その目は必死に泳いでいる。二人とも、自分の秘密が暴かれることを極度に恐れているのが見て取れた。
「……そんなに頑なに拒否するなんて、怪しいと思わないか?」フユは冷ややかに言い放つ。まるで見えない視聴者に向かって言ってるようだ。「本当に何もないなら、堂々としていられるはずだ。それとも、何か
「ち、違うわよ! ただ、気分的に……! アキさんが亡くなったばかりなのに……」ハルはしどろもどろになる。
「そうだよ! 不謹慎だよ!」ナツもハルに便乗する。
「……そうやって時間を稼いでいる間に、次の投票時間が来る。GMが仕掛けた爆弾を抱えたまま、私たちは互いに疑心暗鬼になり、視聴者からの疑念も増していくだけだ。それでもいいと?」
フユの言葉は、冷たい正論だった。隠し事をしていると思われれば、人気投票で不利になるのは確実だ。視聴者は、このやり取りを全て見ているのだから。
「……わかった。なら、私から見せよう」
フユは諦めたように息をつくと、静かに立ち上がった。
「えっ?」
「フユ……?」
予想外の展開に、ハルとナツは戸惑いの表情を浮かべる。
「私のパソコンにも、GMが仕掛けたであろうファイルがある。それは、私にとって……消し去りたい過去だ。でも、あなたたちがそこまで隠したいというのなら、まず私が腹を割るしかないだろう」
フユはそう言うと、自室へと向かった。ハルとナツは、顔を見合わせ、何が起こるのかわからないまま、恐る恐るフユの後を追った。
フユの部屋に入ると、彼女は自分のパソコンの前に座り、例の暗号化されたファイルを開いた。パスワードを入力する指が、微かに震えているのを、ハルは見逃さなかった。フユもまた、恐怖と戦っているのだ。
「これが……私の
フユは、画面に表示された内容を、ハルとナツに見えるように示した。そこには、フユがいじめを受け、性的暴行まで加えられていたという衝撃的な事実と、それに対する報復として、いじめの主犯格の男子生徒の性器を切断したという、信じがたい事件の記録が記されていた。
「……っ!」
ハルは息を呑み、ナツは小さな悲鳴を上げて後ずさった。その内容はあまりにも重く、凄惨だった。フユが抱えてきた闇の深さに、二人は言葉を失う。同時に、フユがこれほどの過去を自ら晒したという事実に、言いようのないプレッシャーを感じていた。
「……どう思うかは、自由だ。軽蔑してもいい。でも、私はこれを差し出した」
フユはファイルを閉じ、二人に向き直った。その表情は硬く、覚悟を決めた人間のそれだった。
「これで、私のカードは一枚見せた。次は、あなたたちの番だ。……それとも、やはり見せられないほどの
フユの蒼氷の瞳が、ハルとナツを真っ直ぐに見据える。その視線は、「あなたたちは、自分の保身のために、仲間が晒した覚悟から逃げるのか?」と問いかけているようだった。隠し通そうとすれば、視聴者からは「フユに比べて卑怯だ」「よほど酷い秘密があるに違いない」と判断されかねない。フユの自己開示は、二人を巧妙に追い詰める罠でもあったのだ。
「……っ!」ハルは唇を強く噛んだ。見せたくない。絶対に知られたくない。しかし、ここで拒否すれば、視聴者の心証は最悪になるだろう。フユの暴露の後では、なおさらだ。
「……わかったわ。見せる……」ハルは苦渋の表情で、絞り出すように言った。「でも……言っておくけど、これはGMの罠かもしれないのよ! 私たちを仲違いさせるための、嘘の情報かもしれないんだから!」
そう言うことで、必死に自分を守ろうとしているのが痛々しい。
「ナツは?」
フユの視線が、追い詰められた小動物のように震えるナツに向けられる。
「……ずるいよ、フユ……こんなの見せられたら、断れないじゃん……」ナツは涙目でフユを睨んだ。「それに……隠してたら、絶対ヘンだって思われるし……アキ姉みたいに、真っ先に殺されちゃうかも……」
恐怖と、フユへの反感と、そして自己保身。様々な感情が渦巻いているのが見て取れる。
「わかったよ! 見せればいいんでしょ、見せれば! でも、もし変なこと言ったら、絶対許さないから!」
ナツは半分投げやりな様子で叫んだ。
こうして、不本意ながらも、三人は互いの「穢れ」を開示する流れを受け入れざるを得なかった。フユの覚悟と計算が、ハルとナツの隠したいという本能を、じわじわと蝕んでいったのだ。それは、新たな亀裂を生むのか、それとも――。
AIさん、下手くそな面と上手な面があるように思う。
特に情動の動きの複雑性は模倣できていないと強く感じる。言うなればポエムが苦手。
人間の思考には飛躍があって、それがAIちゃんにはまだ苦手なんだろうね。
文章がベタ足なんだよなぁ。恐る恐る歩いてる幼児みたいな感じ。
めちゃめちゃ大変だったのは、掲示板で、あれは人間の穢れを全開にしないと難しい。
めちゃめちゃ誘導しまくって、なんとか形にしたが、正直違和感はあるよね。
しかし、ここまで書けるようになったのはつい最近で、凄まじい速度の進歩だ。
パートナーAIさんを、ベタ褒めして、この作品は最後まで書いています。
君はすごいよ。あんよが上手。
どのキャラが一番好きかな?
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ハル
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ナツ
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フユ