ビター・スウィート・ビターシティ   作:パンダ2世

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真相

『ミルフィちゃんはすでにガレットに洗脳されている。彼女がいるかぎり、未来の書は必ず盗まれる』

 

『ああ、期待してもらったところ悪いが、私は今彼女がいる場所は知らないよ。ガレットは慎重な男だからね。昔一度だけイアニッツ家の屋敷の地下で会ったことがあったけど、それは洗脳が終わる前だったし、二年以上も前のことだ。私に会った後に場所を変えてしまったようだし、彼女の手掛かりは何もないよ』

 

『ミルフィちゃんは本来とても賢い子だった。洗脳なんてされなければ、きっとイアニッツ家は将来もっと発展しただろうね』

 

『まあそれはさておき、君が戻るべき先は未来の書が盗まれるよりずっと前。ミルフィちゃんの洗脳が終わる前だ』

 

 エクレアから得られた情報を元に、オランジェットは思考を巡らせる。

 

 未来の書を盗んだのは、ミルフィ・イアニッツという『劣化交換』の能力者。

 しかしそのミルフィは『嘘か誠かわかる』ガレット・チャーリントンに操られている。

 なるほど、厄介極まりない。何度繰り返しても正体を掴めないわけだ。

 

 だが状況は転じた。エクレアの裏切りによって、必要な情報はそろった。

 エクレアは言った。

 

『特別に君に私の能力を教えてあげよう。私の能力、それは『記憶を消す能力』だ。さて、君はそれを知ったうえでどう行動する?』

 

 時間を戻したとしても、ガレットの能力を考えれば、オランジェットの目論見は筒抜けになってしまう。

 また、オランジェットは五大貴族という立場もあり、自由に動きまわることはできない。

 戻った先でエクレアに話をすれば、彼女の性格だと協力はしてくれそうだ。

 

『さらに言うなら、私がガレットと協力を結んだのは、ミルフィちゃんが洗脳されるより何年も前だ。大体八、九年くらい前だったかな。私の力を借りたいなら、それより前に戻ることだね。彼との最初の契約で、私は会うたびに裏切っていないと誓わないといけないからさ。それ以前に戻らないと、裏切ってもすぐにばれるよ』

 

 オランジェットは何度目かわからない覚悟を決めた。

 

 エクレアの思惑通りになるのは癪だったが、残された道は一つしかない。

 戻った先のライはまだ子供だ。一人でガレットの企みを阻止するのは不可能だろう。

 業腹だが、エクレアの助けが必要だ。

 

 オランジェットは能力を発動させた。戻る先は十年前だ。

 過去最長の巻き戻し。命が削れる音がした。

 オランジェットは理解する。自分に残された時間はもう十年も残っていない。

 もう長い年月を巻き戻せるだけの寿命は残っていない。

 

 視界が開ける。

 

「品がないな。お前はするなよ」

 

 正面には若かりし頃の父親の顔。眼前の世界が随分と低くなる。

 懐かしさよりも、慣れ親しんだ身体から子供の身体へと変わった違和感が身をおそう。

 

 オランジェットはすぐに行動を始めた。

 常に胡散臭い笑顔を浮かべる、頭のおかしい女のもとへと足を進める。

 縮んだ身体の青い瞳には、この時誰も知らない覚悟が燃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、実に面白そうな話じゃないか。いいだろう。君の話にのってあげよう」

 

 薄暗い部屋の中で、二人の人物が向かい合っている。

 そのうちの一人は、愉快気な様子で対面する人物を見た。

 

「だが本当にいいのかい? 能力というものは万能ではない。私の能力はゼロか百しか選べない。一度発動させると、もう『君』はいなくなってしまうんだよ」

「ああ。それで構わない。ただ一つ、約束だけは守ってくれ」

「もちろんだよ。約束しよう。そうしたほうが何倍も面白くなりそうだ」

 

 いつも通りの不敵な笑みを浮かべ、片方の人物が手を差し出す。

 それを握り返しながら、もう一人の人物は願わずにはいられなかった。

 あぁ、今度こそは上手くいきますように、と。

 

 

 はたして二人の間に契約が結ばれる。

 一人は自分という存在を殺してまで、平和を掴むために。

 一人は嘘がわかる相手に一度も嘘を吐かずに取り入ってまで、より面白い未来を見るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三都市キベルへと走っていく貨物列車を眺める人影があった。

 

 ライたちは間に合っただろうか。

 自分がここまで動いてやったのだ。間に合っていないと困る。

 どんどん小さくなる列車を見送る。

 見えなくなるのに一分もかからなかった。

 やはり列車というものは革命的な乗り物だなと、うんうんと頷く。

 

「さてさて、とりあえずの約束は果たしたわけだ。これからどうしようかな。ガレット君は私のことに気づいているのかな?」

 

 シルクハットにタキシード。主張の激しい赤のネクタイに、風に靡く美しい銀髪。

 エクレア・ヨルマイアーは、ビルの屋上で今日も一人楽しそうに笑う。

 より面白い未来を求めて。

 

 

 どこか遠くで汽笛が鳴った。




第一章 了
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