力が欲しい主人公VS代償ありきの魔剣   作:テムテムLvMAX

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復讐と悲しみの1話目です


1話目 ありふれた話

「くそぉ! これじゃいつまで経っても敵討ちなんて出来やしねぇ! クソがぁぁぁあ!」

 

 山のど真ん中で激情を吐き出すのはこの男、ミザウルという少年。

 彼の故郷は魔皇を名乗る怪物に滅ぼされ彼一人だけが出かけていたことで難を逃れた、それが彼にとっては死ぬより辛く、残されたことを嘆いたが後を追うことなんて出来る肝っ玉は無く無力感に打ちひしがれていた。

 

 村を滅ぼされて1年、村から離れた街に難民として迎え入れられ何とか子供でも出来る仕事で日々を食いつないでいる、それと並行して、彼は復讐の刃を研いでいたのだ。

 

 

「ふっ! ふっ! うぅっ! はぁっ!」

 

 

 今もこうして森の木々相手に安い稼ぎの中からなんとか捻出して買った素朴な鉄剣を力一杯打ちつけ剣の腕を鍛えていた、いつか魔皇を滅ぼし魔物すらも絶滅させようと心に固く決意している、今の彼が振るう剣は憎しみと怒りによって凶暴な獣と同じ、無数の斬撃が積み重なり遂には一本の木を切り倒すまでになった。

 

 

「クソックソッ! 1年かけて1本の木を切る程度じゃ誰にだって勝てやしねぇ! 何で俺に魔法の才能も剣の才能も無いんだっ!」

 

 

 握る剣を目一杯の力を込めて地面へ投げつけ何度も何度も地団駄を踏む、手はタコだらけ、血の滲む努力をしていた勲章だが、それは彼にとって何の価値もない傷跡に過ぎず、彼は今すぐにでも魔皇の首を切り飛ばして胴体を3枚に下ろし、二度と自分のような悲劇を起こさないために魔物を絶滅させたいのだ。

 

 

「魔剣……! 魔剣さえあれば……! 王様が持ってるって噂だったよなぁ……」

 

 

 ミザウルは仕事柄街の噂には敏感であった、とある商家の荷運び番として日々使い倒されている彼は取引に集まる商人たちの“日常会話”をそれとなく耳にしている、なんてこと無い物からとある貴族の失態まで、何でも。

 

 その中にあったのが魔剣の噂、彼の住む国イーストドランの王が極秘裏に何処かの商人から魔剣を買い付けたという、その商人の正体はいまだ不明だが買った者がイーストドラン王であることに間違いは無いらしい。

 

 平和主義者として知られるイーストドラン王が何故魔剣を手に入れたのか、一部では戦争の噂もある、もしくはコレクション目的で、あくまで噂、されど火のない所に煙は立たない……魔剣はあると彼は確信している。

 

 彼は考えた、その魔剣を俺が奪ってしまえばいいと、そうすれば魔剣の力で魔皇を斬殺出来る、強くなれる。

 

 

「王様は、そんな力をどうするつもりなんだろうな……ただ宝としてしまっておくだけなら……俺が使わせて欲しいもんだ、よっ! 世話んなったな、あばよ」

 

 

 剣を拾い上げ、近くにある幹へ深く突き刺す、この剣には1年世話になった、そして今日が別れの日である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「王様相手に盗みを働く奴は俺くらいなもんだろうな」

 

 

 月が隠れた宵闇の中で、街のとある屋敷の前に彼は居た。この屋敷は王が息抜きに来る別荘であり、王族が利用する唯一プライベートな場所でもある、何故ここへ来たかと言えば魔剣の在処を口滑らせた“身内”がいたということだ。

 

 その噂が出回って不利になることはほとんどない、なんせ王様の評判はここ最近右肩上がりで歴代最高の治世だと誰もが言う、そんなことはないと彼は思っていた、最高の治世であるなら彼の村は襲われずに済んだはずと、恨みの矛先は僅かに王にも向いていた。

 

 

「門に見張りの一人もいねぇ、が、念の為裏口だな」

 

 

 いくら月のない夜だとは言え慎重にならなければ簡単に捕まってしまう、幸い見張り番が居ない、交代の時間と被っているのが、盗まれて困る物ものが何もないからと油断しているのか。

 

 彼が一生縁が無いと思っていた豪勢な屋敷の裏口からすんなりと中へ侵入できた、ロウソクの一つも明かりはなく、ほんのり差し込む街の灯りだけが頼りだ。

 

 

「壁伝いに……虱潰ししかないか」

 

 

 なんせこの屋敷は大きい、地下合わせて3階ありメイドを数十人も雇うほど、調度品も彼の生涯年収では買えないような柄のある壺、何かの風景絵、王族の集合画、数えていてはきりが無い。

 

 目的は魔剣だけ、高価な物には目もくれず一部屋一部屋素早く覗いていく、扉を僅かに開けて隙間から覗き込む。

 一階はメイドの宿直室と大広間で埋まり特に見るべきところはない、さっさと2階へ上がり見てみるも寝室やクローゼットばかりでこれもハズレだ。

 

 彼は地下室の存在を知らず、もう魔剣は他所に移されたと考え帰ろうとした。

 

 

「そこにいるのはだれ?」

 

「やばっ!」

 

 

 彼が二階の寝室を覗いている時、背後から高く透きとおった声が明らかに彼に目掛けて話しかけてきていた、ここで慌てて逃げるより何か誤魔化す方が可能性があるかと考えゆっくり後ろを振り向くと、いたのはまだ15に満たない彼より幼い少女だった。

 

 ブロンドヘアを揺らし赤色のシルクで編まれたパジャマを着て、小さい腕でめいっぱいクマさん人形を抱いていた、さしずめ王族の誰かの子供だろう、王は妃と上手く行ってないと噂で聞くので、この子は誰の子供だろうと疑問は残るが。

 

 

「あなた、だぁれ?」

 

 

 彼は彼女の反応に活路を見いだした、不法侵入者だとは気付かれていない、この少女は誰から見ても世間知らずで浮いている、警戒心の一つもないこの少女に逆に彼の警戒心を緩めてしまうほどだった。

 

 

「あ、最近入った見習いだよ……よろしくね?」

 

 

 ともかく誤魔化せそうな雰囲気だから誤魔化そうと試みた。

 

 

「ふぅん? そうなの、今から遊ぶ?」

 

「えっ……今から……?」

 

 

 既に時間は深夜、凶悪な魔物でさえ眠気を覚えて眠る時間だ、それなのに彼女は遊ぼうという、抱きかかえていてクマさん人形を突き出して彼に見せていたのだから、本気なのだろう。

 

 

(困ったな、下手に否定して泣かれちゃたまったもんじゃない)

 

「だめなの? いやなの?」

 

「あ、遊ぼう、遊ぶから泣かないで……!」

 

 

 今にも泣きそうな彼女を見て慌てて遊ぶ事にした、ギリギリのところだったので彼はホッと一息吐いて、彼女の言う遊びをする事に。

 

 

(そう言えば……生きてりゃ俺の妹もこれくらいか……魔皇の野郎……!)

 

「おこったの? ……やっぱりいや?」

 

「へ? あ、ごめんねそんなつもりはないよ! ちょっと奥歯に物が挟まってただけだから、ね、泣かないでね?」

 

 

 危うく自分でブービートラップを鳴らすヘマをやらかす事態は避けられた、しかし本来の目的である魔剣が見つからなかったのだから、早く逃げ出したいのが彼の本音。

 なんとか上手く利用できないかと考える彼は、同時に彼女の遊びを蔑ろにもしたくないと良心が訴え掛けてきている、理由は明白、もういない妹に重ね合わせてしまったからだ。

 

 

「ね、ねぇ……何して遊ぼう?」

 

「うふふ、おままごとはあきちやった、かくれんぼなんてどう?」

 

「かくれんぼかぁ……(あ、そうか、いいこと思いついた)ねぇ、僕はまだここに来て日が浅いから、あんまりここに詳しくないんだ、一階や二階以外に隠れられるところは教えてくれないかな?」

 

 

 言ってしまえば逃走経路を確保しようと言う魂胆だった、しかしこれが意外な所へ片道切符である事は知る由もなかった。

 

 

「えー、それじゃあおもしろくないわ」

 

「でも、不公平で勝つのは楽しい?」

 

「それはいや、とっておきのかくればしょおしえてあげる、みんなにはないしょよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 屋敷の一階から大広間に入る、大広間は主に王族たちのパーティー会場であり、それ以上の意味はない、しかし彼女が壁掛けのランタンを引っ張ると暖炉の真横にあった僅かな空間が瞬く間に地下へ降りる階段の入り口になる。

 

 

「へぇ!? すご……」

 

「ふふん、ここはちかしつよ、あぶないものがいっぱいおいてあるんだから、さわっちゃだめよ?」

 

「はい、わかりましたよお嬢様」

 

 

 あぶないものに満ちた地下室へ彼らが臆せず進んでいく中で、別の場所では慌てふためく誰かの声が右往左往していた。

 その声に気が付くことのない二人は、地下室の入り口にまで降りて来て、壁掛けのランタンに火を入れた。

 

 火によって照らされた地下室の全容はまるで簡素、王族のきらびやかな印象は感じられずひたすらに石と鉄の鈍い輝きが照らされ続けていた。

 

 

「ここが地下室……思ってたより何もない」

 

「でもね、けんとか、たてとか、ナイフとかあぶないものもおいてあるから、きをつけねて」

 

 

 彼女の言葉通り剣や盾、槍、弓が抜き身で誰にでも触れる配置なのは、うっかりすれば手を切る事もあるだろうと、危険性はあった、そして一際目を引くのは一番奥に鎮座する真っ黒な刀身の直剣。

 

 細長く、飾り気がなく、軽そうに見えて金属の光沢で重厚感があり、刃が薄く、見ているだけで体を切られてしまう錯覚すら覚える、そう、この剣こそ、彼が求めるもの。

 

 

「魔剣だ……魔剣だろ……! あれ……!」

 

「? あぶないよ」

 

「やっぱりそうだ、魔剣だ……! 魔剣だ……っ!」

 

「さわっちゃだめなの!」

 

 

 直感的にそうだと彼は理解した、吸い寄せられるようにその柄を握る。もはや呼び止める声の一つも耳に入っていなかった。

 

 

 ──ドクン

 

 

「っ!?」

 

 

 ナニかが脈動した、それが彼のものだったのかはたまた魔剣が脈打ったのか、それに驚き反射的に手を離そうとするが離れない、むしろ吸い付くように手が握られていく。

 

 

 ──ドクン

 

 

 2回目の脈動は明確に感じ取れ、この脈動は彼と魔剣どちらのものでもない、既に“両方”の脈動だと彼の脳が理解した、つまりそれは魔剣と彼とが一体になったことでもあった。

 

 

(これで……復讐できる! 皆の仇討ちが……!!)

 

 

 ──バクン!!! 

 

 

「ぎ、ぎぎ……ああぁぅっ?!」

 

「だいじょうぶ? ねぇ、なにかへんじして!」

 

「来る……なっ……! やめろ……俺は、俺は……そんな……殺したいだけの人間じゃ……ありえ……な……ハッ……ハッ……ハッ……あ、く、はぁ……!!」

 

 

 3回目の脈動は彼の精神を蝕んで、増幅していく、苦しいのではない、むしろ快楽とも言える、だからこそ怖い、それが恐ろしくて痛いとさえ言う、過呼吸になろうとも、窒息したとしても、この侵食は止まらない、これこそ魔剣の最たるものだから。

 

 

「お嬢様ぁっ!!!」

 

「あ、じいや……!」

 

「お怪我はありませんか! ……な、ウルトヒウが適合しようとしている……!!! あの者は……いや、それよりもお嬢様、逃げなければ!」

 

 

 彼が魔剣に侵食されている間に地下室めがけて突撃するように駆け付けてきたのは紳士であった、年老いた白髪の翁であるにも関わらずその動きは洗練された兵士そのもの、尻餅をついて腰を抜かしていた彼女を抱き上げ逃げようとするが……

 

 

「ぅぅぅ……!」

 

 

 ―バサッ! 

 

 

「ぐぁっ!」

 

「じいやぁっ!」

 

 

 その逃げる背中目掛けて袈裟斬りに斬撃を浴びせ引き止めた、まだ老爺に息はあるもののすぐにでも処置しなければまもなく尽きる状態だ、彼女も理解しているが、目の前にいる彼からは目が離せない、離せば切られるのは彼女だから。

 

 

「ぅぅっ……ぅぅ……」

 

「ね? やめて……ねぇ……! なんで……あそんでいるのよ……ね? そうよね……! ねぇ……!」

 

 

 もはや彼の握る魔剣に付いた血を見れば遊びと誤魔化せるはずもなく、彼女も分かっていた、でも信じられない、だって彼は彼女に遊ぼうと言ったのだ。

 

 彼女がこの国で忌み子と言われる白金の髪を持ち、生まれながらに呪われた子としてこの屋敷に生涯飼い殺されることが決まっていた彼女に、誰もが見向きもしない忌み子に、誰もが死ねと吐き捨てる忌み子に、彼だけはまるで何事もないように振る舞う、忌み子などいない清廉な世界から来た使者だった、それがいきなりおかしくなり、唯一の理解者であるじいやを切ってしまった。

 

 幼い彼女は混乱した、錯乱した、でも、彼女は聡い子でもあった、だから目を閉じ思考を閉ざして夢の中に引きこもるなんてことが出来なかった、ひたすら苦しくて残酷な現実だけが叩きつけられてどうにかならないように耐えるのが精一杯。

 

 

「ぅ……ぅ……!」

 

 

 彼は、そんな事を知ら無いとばかりに魔剣を振り上げた。

 

 

 

 

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