力が欲しい主人公VS代償ありきの魔剣 作:テムテムLvMAX
「いやァ──ッ!!!」
少女の悲鳴とともに剣は振り下ろされた。
その瞬間、ミザウルの視界は閉じられ遥か彼方の一点に光が見える闇へ投げ出されていた。
一体何が起きて何処へ来てしまったのかを理解出来るほど魔剣の力を熟知していないミザウルは呆気にとられ、その手に収まっていたはずの魔剣が何処にもない事に、気が付かない。
見渡す限りの闇は一点の光によって、闇であることを保っている、そしてこの光がミザウルを照らしているからこそ、この様な場所でも自分が保てている。
「ここは……地獄……か? ……まぁ、地獄だよな……魔剣に呑まれて“二人”殺したんだしな……」
魔剣を握ったその時、もっと以前の見た瞬間には、魔剣に魅入られていた……ミザウルの魔剣を求める思い、その原点である憎悪が魔剣によって増幅され、ありもしない恨みを二人に向けて、斬った。
力を求め、得体の知れない力を持つ魔剣へ手を出した、その事がミザウルの罪、ミザウルも自覚していた。
だからこそここは地獄であるべきだとミザウルは思う、しかしミザウルの言葉に呼応するように違うと訂正する者がいた。
「ここは愚かな地獄ではない、ここは墓場、世界のあらゆるモノの、な」
「誰……!」
「ウルトヒウ、この場所に住む者」
ウルトヒウと名乗りミザウルの前に現れた男は、顔半分を仮面でもう半分を髪で隠していた。
同じ人間の姿をしているのに、感じられる気配は空のように大きい、ここに居るのに気配が大きすぎてそこに居ないようにも見えてしまう。
ウルトヒウはミザウルに問う、何かを言いかけたミザウルを無視してただ問いかけた。
「なんなんだここは、墓場って──」
「お前の質問に興味はない、私の質問に答えるべきだ」
「おい、ちょっとくらい答えろよ!」
激昂して近寄ろうとするミザウル、だがたった一言の圧に簡単に制するウルトヒウ。
「黙れ」
「……っ」
ウルトヒウの圧にミザウルは引き下がった、逆らえる相手ではないのは嫌でも分かってしまう、そう言うモノだ、ウルトヒウと言う存在は、いわばこの場所そのもの、人の形を取っているだけに過ぎない。
そのウルトヒウはミザウルを見つめて、その胸の奥にある心を見透かして、その上で問う。
「さぁ聞かせろ、何故魔剣を求めたのか」
「力が必要だったからだ! 村を焼いた魔皇に、村の皆の仇討ちを、家族のカタキを討ちたかったんだよ!」
「それで魔剣を選んだか、愚かな」
「悪いかよ!」
切り捨てるような言葉に馬鹿にされたと怒り詰め寄るミザウル、ウルトヒウは冷水を掛けるように言葉を紡いだ。
「分かっているだろう、魔剣に呑まれた時、力に頼ったことを後悔した筈だ」
「俺はっ! ……俺は、魔剣に呑まれて無関係な二人を斬ってこのまま魔皇みたいになるかと思った……まぁその前に死んだがな……どうやって死んだかは分かんねぇけど……俺が俺じゃなくなるよりマシだ」
ウルトヒウの言葉は的確にミザウルの心に届く、この場でウルトヒウを欺くことの出来る存在は居ないのだから。
「なぁ教えてくれよウルトヒウ……俺はどうしたら良かった、魔剣にでも頼らなきゃ復讐なんて出来やしねぇ……!」
「己の主は己であるべし、魔剣が定めたルールだ。それを破り魔剣を頼る者は呑まれ滅ぶ、確かに魔剣は世界をも変える力がある、だがその力は魔剣の為にある力、誰かの為に使えるものではない」
「……じゃあ俺が二人を殺したことは必然だったのかよ、俺のせいで意味もなく死んで…………! うっ……、オエッ!」
ミザウルの精神は崩壊寸前だった、もう崩壊していてもおかしくない、彼の復讐心はただ魔皇も魔物に向けられるべきで、無関係な人々を殺す動機ではない、彼の最も嫌う行為が嫌うが故に起こったのだから、内臓全部をひっくり返して吐き出しても収まらない気持ち悪さだった。
だが、とウルトヒウは言うのだ。
「だが、裏を返せば、己の主が己である限り、魔剣に呑まれることはない」
「はぁ……はぁ……どういう……ことだ……?」
「対等であれば良いのだ、その為の方法は、一つ」
ウルトヒウはミザウルに手を差し伸べる、嘔吐する彼の手助けでなく、これから先の人生の選択である。
「ミザウル、お前は力の代償に何を私に捧げる?」
この瞬間、ミザウルの中で繋がった。
ウルトヒウが魔剣であること今の自分がどうなっているのかを、そして代償のことだが悩むまでもない、全部くれてやれば良いんだと考える。
「俺の全てだ……俺の全部、やる」
「全てか……良いだろう、こちらで好きにさせてもらおう」
契約成立の証としてミザウルはウルトヒウの手を握った、瞬間、ミザウルの目に映るものが変わった。
斬ったと思ったあの少女の真横に逸れた切っ先が地下室の床に突き刺ささっている、魔剣と長い語らいをしていたと思った彼だったが現実時間で1秒も過ぎていない。
「あ……あ…………!」
「ごめん……!」
彼はすぐさま少女の額に手を当て意識を奪う、魔剣との契約により魔法とその知識がそれを可能としたのだ、続けて斬ってしまった老人の背中に手を当て回復魔法を使う、傷が塞がり乱れていた呼吸は落ち着きを取り戻した。
「お、お前は……」
「じいさん、すまなかった……そこのお嬢様には全部夢だったんだと言っといてくれ」
「ふん、それは無理な話じゃな……」
彼は(気が使えないじじいめ)と内心吐き捨て、彼はこの地下室からでていこうと階段に足をかけた所で思い切り服の裾を引かれ、立ち止まる、あの老人が引き止めに来たかと後ろを見れば、掴んでいのは少女だった。
「いかないで……!」
「お、お嬢様……! 危のうございます!」
「(なっ……魔法が効いてない!?)……そうだぞ、俺は悪い人間なんだ、近寄ると斬ってしまうんだぞ」
「いや! わたしもつれていって!」
(な、何を言ってるんだこの子!? 殺されかけたんだぞ!)
彼がどれだけ裾を引こうとも少女は手を離さない、少女をそこまでさせるのは、やはり生い立ちにある。
「わたし、ずっとここにいたくない! おそとでいきたい! とじこめられるのはいや!」
「……おい、じいさん、どういうこった?」
ミザウルが老爺に問えば、老爺は彼に警戒心を向けつつも、それ以上の憤りを込めて事情を語る。
「忌み子、お嬢様はそう呼ばれてきた。誰がいつ決めたのか分からん因習に王は踊らされ、お嬢様の母上もろともこの屋敷に閉じ込めた、そして……その魔剣ウルトヒウによってお嬢様を殺そうとしたのじゃ……お嬢様は、こうして生きておられるがな」
「なんだそりゃ! 忌み子? そんな理屈で実の娘も殺そうとしてたのか……!」
「意味が分からんなお主……盗賊かと思えばお嬢様の為に怒るのか」
老爺の言葉通り、彼は頭の天辺から爪先まで烈火のような怒りで燃えている、少女が亡くなった彼の妹に重なるのもそうだが、王のクセして娘の一人守れないのか、そんなことだから俺の村は魔皇に滅ぼされたのだ、と、王への失望と娘への仕打ちが重なっていた。
話を聞いたあとの彼は決断が早かった。
「よし、連れて行く」
「え? ほんと!」
「なぁっ!? いけませんお嬢様! 殺されてしまいますぞ!」
「さっきはすまなかった、魔剣がそういうものだった知らなかった俺のせいだ、だけど今は誰も殺さないし殺させない、絶対守る」
「勝手なことを!」
一触即発、老爺とミザウルの間に見えない稲妻が走る、しかしそんな事少女には関係ないとばかりに華やかな声を上げる。
「じいや! いくよ!」
「おいこのじいさんまで連れて行くのか!?」
「お嬢様がそう言うならば、このじいやどこまでもお供しますぞ!」
一触即発の空気が何処へか消えて、あっという間に少女が話の主導権を握った、やはり忌み子と呼ばれた所で民の上に立つ王族の血は消えないと言うことだろう。
少女の誘いで老爺も彼についていく事になったが、彼としては一度斬ってしまったので後ろめたく、今一度、考えが聞きたかった。
「それでいいのか……?」
「お前のような尻に毛も生えていない魔剣士にお嬢様は任せられんわ」
なるほどこの老爺、少女に忠誠を誓っているのだろう、それも盗みに入って斬りつけた男についていくくらいには。
少女の方も、何故アレだけ怖い思いをしているのに彼についていくと言ったのかも、イーストドラン王の彼女への仕打ちで慣れていたからと、理解は出来た。
「俺は魔皇を、村を滅ぼした奴をぶっ殺す旅に出る」
「ぶっころ!」
「お嬢様、はしたないですぞ」
こうして三人は、夜更け頃には街から抜け出しただの旅人に身をやつし、魔皇探しの旅に出る。