力が欲しい主人公VS代償ありきの魔剣 作:テムテムLvMAX
今回は切り良くするため前話より文字数が少なくなっています。
「ダークゴブリンが攻めて来たぞ──!!!」
「衛兵! 守備を固めろ!! デュークドランへ伝令を出せー!」
「住民たちを丘の上へ避難させるんだ! 1年前の襲撃の教訓を思い出せー!」
彼が、ミザウルが宿場へ戻った時には革鎧を着込んだ衛兵たちがあちらこちらに忙しなく駆け巡り街中がパニックに陥っていた、戻るときに見かけたあの火の手はどうやら、先走ったダークゴブリンとの戦闘によるものだ、証拠に焼け焦げた死体が転がされていた。
「さて前線は何処だ、事情を知ってそうな人は……!」
衛兵たちは住民や商人の避難させ、民兵を募りバリケードを設営し防衛陣地を築くなど、眼前に迫りくるダークゴブリンの脅威に備えるため出来うることを行っていた、それに加わろうと彼は人の流れの中へ飛び込み衛兵の一人を捕また。
「な、なんだ! 忙しんだ!」
「俺も戦う! 前線になりそうなのはどこだ!」
「それなら正面門だ! どこの誰か知らないが死ぬんじゃないぞ!」
「分かった!」
普段の宿場の入り口は幌馬車が並ぶが今は避難し、衛兵たちが集まる前線の砦となっていた。
街を囲む木の柵を更に囲むように木の杭を交差させて作られた柵が待ち構え、更にここに集まった衛兵と民兵それと旅の勇士が人の壁となって侵攻を阻む算段を立てているようだ、守りに重きを置いた堅実な方法だろう。
彼は冷静に分析し結論を弾き出した、あの日村を滅ばされた時から、その惨状を目に焼き付けた時から、復讐心によって敵意や殺意に怯える神経が焼き切れていた、だからこそ、ここに来て冷静だった。
「実際人は少ないし、ダークゴブリン共の数も分かんねぇ、防戦一方になると……だぁ……戦術なんて分かんねぇ、守る側は有利ってことは、知ってるけどよ」
「ん? なんだ小僧め、足手まといだ避難してろォ!」
「俺も戦いに来たんだよオッサン、腰のモンが見えねぇか?」
彼が広場の様子を伺っているとガラの悪い大男に絡まれる、が、物怖じせずに腰にぶら下げた魔剣をちらりと見せる、しかし大男はそれを鼻で笑った。
「だっはっは! ごっこ遊びも大概にしなぁ、そんなひょろい体でマジモンの魔物とやり合ったことないだろうよぉ! さぁ邪魔だ邪魔、俺様が全部片付けてやるよ! オラァ! 道を開けろぉ!」
そう言うと大男は大金槌、もはや鉄塊であるが、それを肩に担いでずんずんと前へ進んで行く、最前線になるだろうそこは正面門の前、門を守る壁の如くそこへ陣取った。
大男は筋肉の信奉者であるかのように屈強な肉体を惜しみなく見せつける上裸姿、岩のような背中には見慣れない紋様が刻まれていた、見れば見るほど威張っているふざけた男だ、しかし目が離せない強さを感じる。
「あれが有名なグランドマンか……」
「あれが? 噂よりデカくねぇか? 武器が、あれ人間振り回してる様なもんだぞ」
「いやいや、どんな怪力でも持てねぇよあんなん……」
彼の耳に入る周囲の民兵たちの声は、あの大男の噂で持ちきりで彼も名前だけは聞いたことのあると、頭の隅にあった記憶の糸をずるずると引き出していく。
グランドマンは冒険者だが、元地方守備隊隊長という経歴もあるため、未開の遺跡を探すよりも魔物討伐や護衛をメインに請け負う仕事人、だからか、他の冒険者よりも武勇伝や噂が詳細で数が多い、本人はそれを自慢には思えど傘に着る様子はなさそうだと言うのが、ミザウルから見たグランドマンという男の評価だ。
「なるほど……頼りになるけど、俺は負けちゃいられねぇ、ただの復讐者で終われるもんか」
彼は深く息を吸い強く短く連続で息を吐く、精神を魔剣へ向けて集中させる、代償はすでに支払っている、後はどう扱いどうしたいのかと、自分を引き締める。
そうしている内に戦力分析のために偵察へ駆り出されていた若い男の衛兵が慌てた様子で息も絶え絶えに、髭を蓄えた落ち着きのある衛兵へ向かっていった。髭の男は隊長のようだ。
「隊長! ダークゴブリンの数が先ほどより増えてます! どうやら別の群れと合流したようです!」
「むぅ……いくらだ」
「ざっと数えても200はくだりません……! 対して我々は50に満たない……!」
「グランドマン殿が奇跡的に居合わせた幸運を帳消しにしよったか……だがやることやるだけだ。
聞け諸君! ここは死守するぞ! あの悪辣なゴブリンに二度もここを攻められたとあっては人間の恥だ! どちらが賢いか思い知らせてやれ!」
「「「「おおーっ!」」」」
隊長の一言で衛兵たちが雄叫びを上げて奮起し、それに乗って民兵やグランドマンのような旅の勇士の士気も上がっていく。
ミザウルも士気の高い中で戦えることに安心を覚え、いざと勇んでグランドマンの真横へ堂々と並んで腰にぶら下がる魔剣を引き抜いた。
「あっお前! こんなとこ来ん__」
「俺は! グランドマンさん、俺は魔皇に村を滅ぼされた」
グランドマンの心配の声を気迫のこもった声でかき消し彼は言う。
「……それがどうしたよ、魔皇にやられた奴は他にもいる」
「魔皇が憎い、そして……魔皇に付き従う魔物も憎い、何よりも憎いのは人を喜んで殺す魔物だ、だからさ、あいつら全部斬り捨てないと嘘になるんだ、俺の復讐心が」
「あぁ、そうかい……せいぜい生き残ることだな、小僧、俺にいっちょ前に啖呵切ったんだ、前には進んでも、一歩も引くなよ?」
グランドマンは重い声で覚悟を試すとミザウルは一息溜めて腹の底から言葉を吐き出た。
「……当然」
彼の言葉は獣の遠吠えか悪魔の雄叫びか、若さの中にある炎、その炎に当てられた釜の、その蓋を開けて見えるのは冷めぬ溶岩、その熱が溢れ出れ言葉を失う、焼き焦げるほどの熱気を見たグランドマンは彼の側から無意識に一歩引き下がった。
(ん? ……なんで俺は今下がった、まさか小僧に__)
「来たぞー! ゴブリンが来たぞーっ!」
「考えんのは後か……俺様が全部薙ぎ倒す、いつも通りだっ!」
グランドマンが内心戸惑うさなか衛兵の一人が喉が千切れそうなほど大きく叫びを上げた、そちらに一気に意識を持っていく、戦いの中で戦い以外考え事をする程グランドマンは油断はしていなかった。
一方でミザウルは衛兵の声を聞く前に相手を捕らえていた、平原を進む黒い波が、近づくにつれて黒い点の群れになり、目と鼻の先に来れば、ダークゴブリンの黒くたるんだ肌と潰した豚の様な醜悪な顔、ツギハギだらけの獣革の鎧、人間の武器を模倣したした歪な武器をぶら下げている事がはっきりと見えた。
「弓隊! 撃てー! 近付くまでに数を減らせぇーっ!」
衛兵長が指示を出し弓をつがえた兵士民兵たちが雨嵐のごとく射ていくが、ダークゴブリンの身につける粗雑な革の継ぎ接ぎした鎧を貫いてもダークゴブリンが足を止めることはない、痛みに対して人よりも鈍いのだ。
弓隊のおかげで数こそ減るが180ほど生き残り、宿場の入り口に到達する。
「絶滅させてやる……」
「俺様の前に並びなぁ! 全員ミンチにしてやるよぉ!」
二人の男が切り込んだ。