力が欲しい主人公VS代償ありきの魔剣 作:テムテムLvMAX
「オラオラかっ飛ばすぜかっ飛ばすぜ! グランドマン様のお通りだぁぁぁ!」
経験の差からグランドマンが一歩早く飛び出す、筋肉を唸らせ体重より重い鉄塊をぶん回しながら敵陣ど真ん中へ殴り込む、近くにいたダークゴブリンどもは哀れにも轢き殺され、まるで重い戦馬車か土砂崩れだ。
勢いそのままにダークゴブリンたちの中心にたどり着くと気合を入れて雄叫びを上げる、ダークゴブリンはグランドマンから目が離せなくなり、何が起きているのか分からず混乱していた。
「こっちを見ろおおおおっ! よぉし! 大地の霊よ命のゆりかごよ! 俺様とひと暴れしようぜぇぇぇっ!」
グランドマンの雄叫びはただの雄叫びではなかった、魔力を込めた声がダークゴブリンの意識に割り込んで強制的にグランドマンへ注視させ、宿場へ向かう群れの進行を停滞させた。
更にグランドマンの背中の紋様が光を放ち、何か光の玉が彼から飛び出し、そして彼へ吸い込まれていく。
瞬く間に筋骨隆々だったグランドマンの体に血管に沿うように赤いラインが走り、更に筋肉量が増していった。
一般的に魔法と呼ばれる技術の中の一つに精霊の力を借りる精霊魔法がある、グランドマンはその使い手だ。
「
「ギャァッ!」
「う、らぁ!」
「モガァ?!」
飛びかかるダークゴブリンの頭を掴み頭突きをお見舞いし頭蓋を砕いて、大金槌でボールのごとく打ち返し数体纏めて薙ぎ倒すと追い打ちに地面を抉り取るようにかち上げで埋まっていた岩石を飛ばす。
「よぉしいくぞ! 景気よくド派手になぁ!」
まさに豪快でパワフルの一言に尽きる戦い方だが、まだまだこれだけはない、大金槌を乱雑に振り上げ両手でしっかり握り込み大地へ叩きつけるれば、大地が弾けた。
「どらぁ!」
―ドゴンッ!!!
隆起してめくれ上がる土や弾き飛ばされる小石や土砂に殺傷能力を持たせるほどの馬鹿力で大金槌を地面へ叩きつける!
これが敵陣中央で放たれたことでダークゴブリンの半数がクレーター発生時の衝撃波で転倒し地割れに足を取られるものや、衝撃波で巻き上げられた小石や土に体を泣き別れにされ、その被害は甚大。
「ギャァァァ?!」
「アギャ!?」
「アギギギッ!」
グランドマンの一撃で戦況は傾くが、元の数が多く魔物の生命力が高いこともあって群れを追い返すには足りない。
しかしグランドマンを無視して宿場へはたどり着けない、グランドマンが守るのは街へ続く入り口だ、中へ入るために避けられず、グランドマンも避けられないのだ。
グランドマンの活躍の一方でミザウルは魔剣を手にダークゴブリンと斬り結んでいた。
斬りかかるダークゴブリンの攻撃を防ぎ、力任せにせず、力を逃がす方向へ刃を傾け滑らせ、できた隙に蹴りを入れて体勢を崩し、首元へ刺し貫く、細く鋭い魔剣は重さを操る力ではなく軽さを操る技が求められる、1年ほどの我流修行で剣の握り方と重さに慣れた彼は、魔剣から流れてくる力に頼りながら戦っていく。
「はぁっ!」
「ギッ!?」
一つ振れば一つ殺す、彼が魔剣に捧げた全てがこの程度の魔物たちに止められるわけがない、今度は下から切り上げ武器を持つ手を切り裂き、足を切り払い膝立ちになった所を首を跳ねていく。
「でやぁっ!」
「ギ__っ!?」
宙を舞い土へ転がる首を見て彼は納得する、魔剣の力で強くなっていることを。
魔剣を握りしめ実感に浸る背後からダークゴブリンが迫っていたが、彼にはそれも通用しない。
(やれる……間違いなく強くなっている、代償は払ったが十分釣りがくる)
「ギァァッ! ……ァツ!?」
「余裕で見えてんぜ」
逆手に素早く握り直し背後にもたれかかるようにダークゴブリンの腹を深々と突き刺し、持ち替えずに力ずくで引き抜く反動で体を回転させ首を横薙ぎで跳ね飛ばした。
(まるで自分の体じゃないみたいだ、想像以上の動きができる!)
初めての実戦にも関わらず怖じることなくダークゴブリンを斬り伏せながら前進していく、魔剣も彼も返り血で赤黒く染まるものの気にする素振りは一つも見せず、魔剣を振るった。
「この調子で皆殺しだ……!」
ミザウルは次なる獲物を求め群れの奥へと飛び込んでいく、二つ四つ六つと増えるダークゴブリン、首と身体が分かたれて無造作に転がり、それを踏みつけて仲間のカタキを討つ為に群がるもののミザウルとその魔剣を止めるものではなかった。
「上等だ、全部来い!」
囲まれるミザウル、しかし魔剣を片手に一回転し、空いた手で火を放ち焼き捨てる、包囲はかえって危険だと思い知らせていく、ダークゴブリンは賢い、危険と分かれば近寄らない、だがそれも魔剣の力を持ってすれば距離などないも同じ。
「はぁっ!」
大きく踏み込み突撃、後に土埃を舞うほどの速さで懐へ飛び込み心臓を一突きし、細い刀身にベッタリと血が付けば見ていた者は震え、恐れ、後退する。
逆も然り。
「カモーン!!! グッドキル!」
「ギビィィィ……!?」
ミザウルに恐れをなして破れかぶれになり捨て身になるダークゴブリンには入り口前で暴れているグランドマンに粉砕され、死体となって仲間の元へ戻るのだった。
二人の獅子奮迅の活躍は宿場に集まる誰もがつばを飲み込んだ、頼もしいのではなく、恐ろしいとさえ思うほど、強すぎた。
グランドマンは噂と評判があるからこそ、それが事実だったことに震えるがミザウルに関しては全くの未知、見慣れない剣を振り回して屍山血河を生み出す化け物だ。
しかし二人の活躍なくして宿場が守れるはずもない、この場に集まった兵士と呼べる者たちは全員二人の援護に回り戦線を維持し時には押し込んだ。防衛戦であるのだが、二人のおかげで殲滅戦となろうとしていた。
しかし、一度攻め込んだ宿場に手こずり続けるほどダークゴブリンは馬鹿ではない、知能の高さを知っておきながら馬鹿にするのはまた馬鹿のすることである……馬鹿はどちらだったのか、今に分かるだろう。
「ゴブリンが! 隊長! 丘の上にゴブリンが!」
「なにっ!」
「奴ら前に襲った時に避難場所を覚えたんだ! 人を! 人をよこして下さい!」
衛兵隊長の顔に動揺が浮かぶ、前回の事を覚え対策し目的を達成する、人も同じ事をしてダークゴブリンの巣を滅ぼしたこともあった、同じ事をやり返された事に焦りと恐れが思考を支配する、だが同時にこうも考える、ここで兵を引けば宿場は持たないとも。
「(兵を半分に分けるわけにはいかん……! しかし丘の上に配置したのは僅か数人……!)」
「某が手伝おう、丘の上で相違ないか?」
衛兵隊長の前に現れたのは黒い布に全身を包んだ身軽な者、後ろ腰に一振りの刀をぶら下げた女。
「ジパラビアン人か……! なんて奇跡か……いやそれよりも、数が分からん、それに女一人では行かせてもな」
「そこは某ではなくあの男子に任せる、男子が抜けた穴は某が埋めよう、それくらいの技は持ち合わせている、では」
そう言うと彼女は僅かな音も出さずに溶けるように姿を消し、次に現れたのは魔剣を振るう彼の背後。
「はぁっ!」
瞬間的に振るわれる魔剣を僅か一歩の移動で避け、ミザウルの背中に手を置いた、その動きは並の人間の技ではなく、完全に動きを見切り、一手で動きを封じた。
「誰だっ」
「某はシノメ、手短に用件だけ、丘の上にダークゴブリンが奇襲を仕掛けた、そこまで送る」
「どう言う、いや、分かった」
言葉少なに意思疎通し彼を丘の上へ、彼女の方法と同じように姿を消し丘の上へ姿を現した。
残った彼女、シノメは彼の代わりにダークゴブリンの前へ立つ、腰の刀を逆手に引き抜き、流麗な構えを見せた。
「シノビの技は痛いと評判だ」
「ギギャァ!」
「それと、速いとも」
飛び込んてくるダークゴブリンの胴体に向け音速を超え空気の壁を切り裂くほどの一撃を持って切り分けた。丘の上へ飛んだミザウルもまた、魔剣で敵を切り裂く。
丘の上の戦況は衛兵が数人と大勢の避難者の協力でギリギリ保たれていた、ダークゴブリンも奇襲に多く数を割けなかったようだが、盾にしていた荷車がボロボロで限界を迎えようとしている。
必死の抵抗虚しく、ダークゴブリンが市民に手をかけようとした時横合いから飛んでくる魔剣がダークゴブリンの首筋を突き抜けた。
「ギャァァァゥ!?」
「うるせぇ」
「た、助かったよ!」
「感謝は後だ! 引け! 俺の背中より前に出んなよ!」
助けた市民にそう言い浴びせると魔剣を死体から引き抜き迫るダークゴブリンへ飛び掛かる、両断とはいかないが鎧通しと言えるほど魔剣はダークゴブリンの鎧を突き抜け、醜悪な顔を半分に切り裂く。
後ろにいる市民の一人も殺させないと奮起する彼は、より強く握りより強く斬る、ダークゴブリンも気迫に押され徐々に後ろへ下がっていく……しかし、そのダークゴブリンの群れの奥から生きたまま投げ飛ばされてくる。
「投げられた? 誰が投げた」
飛んで来るダークゴブリンを片手で掴み勢いを殺すように回転しながら地面へ叩きつけ魔剣で喉を突く、流れるように処理した後、彼の視線はダークゴブリンたちの一つ奥にある林を見据えていた。
「グロォォォ……」
木々の合間から現れたのは人間の数倍もある巨体、人に近い作りの顔を笑いで歪め鋭利な牙を見せる、魔物。
ダークオークと呼ばれる大型の人型魔物だ、見たものは絶望し強さを知るものは生きることを諦めるほどダークオークは強い、木を根ごと引き抜き武器とするような力と、魔法を弱める黒い肌、天然の剣と鎧を揃えた産まれながらの強者だ。
市民の中にはダークオークに恐れをなして発狂したもの、気を失うものもいた。
「お……おお、オークだ! ダークオークが! ……終わった、殺されるんだ……!」
「うるせーぞ、ダークオークだか何だか知らねぇが……魔物なら……殺す!」
ダークオークを気にしつつも、ダークゴブリンの動きにも気を払うが、彼はダークゴブリンたちの動きがおかしいことに気がついた、ダークオークから距離を置く者や背を見せて逃げ出し行く者もいる。
「ギギギ……!」
「アウゥ……! イィ!」
「……ゴブリン共が引いていく、あいつはリーダーじゃないのか? やりやすくなるが……おかしくねぇか?」
ミザウルが疑問を口に出すとそれを聞いていた衛兵が静かに側に駆け寄り、怯えながらも落ち着いて、控えめな声でダークオークの特性を語る。
「おい……そこのお兄さん、ダークオークに手出したらいかんぞ、怒ると見境なく暴れる、ゴブリン共が恐れてるのはそういう所だ、あいつには自分とそれ以外しか区別がないんだ。魔物に恨みがあるんだろうが……堪えてくれ」
「そういう事か……1年前にもあれは居たか?」
「いたさ……アイツは血を見るのが好きだからな……だが俺たち程度が勝てる相手じゃなかった……立ち向かって死んでいった同僚たちの為にもこちらから手を出して被害を大きくすることは、出来ない」
「なるほど、なら殺すしかねぇな」
ミザウルは制止の声を振り切りダークオークへ走り出す。
「おいっ!?」
「殺されたんだろ! 殺されもするってことを分からせねぇと駄目だろうが!」
「お前……死ぬんじゃないぞ!」
ダークオークはミザウルを見ていた、その視線から感じ取れるのは喜び、反抗的な獲物ほど叩き潰した時の快感はひとしおだと、そう思っていることだろう、ダークオークにそこまでの知性があるとはどの記録にも記載はないが。
「グロォォウ……」
「お前を殺せば救われる人がいる、俺も嬉しい」
「グァッフフ……」
「笑ったか? 殺す」
導べの丘の上で、彼と魔剣が空へ舞う。