モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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10.追及と録音

 紅月ナオトとの邂逅の翌日、私は他の部隊員の目に晒されながら、ジェレミアからの追及を受けていた。 罪状は余剰物資の横領。

 

「各種食料品並びに嗜好品の煙草、酒…etc。 これらが一晩で大量に無くなっていることになにか申し開きはあるか? モニカ・クルシェフスキー卿」

 

 部隊員の中から小さな嘲りが聞こえた。 顔は見なくても、その主が誰たちかはわかる。

 

「失礼ですが、ジェレミア卿。 なぜ私にその疑問を向けるのか意図が不明です」

 

「……ほぉ?」

 

「私は別にこの部隊の物資管理の担当者でもなければ、ましてや責任者でもありません。 この拠点に私が居たのも、あくまで搭乗できるKMFが不足しているが故の暫定的な処置であったはずですが」

 

 無論、それは建前に過ぎない。

 そも、私がエリア11に配属されたのとともに、シュナイゼルから一機のサザーランドをわざわざ贈呈されているのだから。

 

「何か勘違いしているな、モニカ・クルシェフスキー」

 

「勘違いとは?」

 

「この場は貴様の責任問題を問う場ではなく、貴様個人の背徳行為を責める場だ」

 

 ジェレミアは忌々しげに口を歪めた。 どうやらこれに関しては本気で憤りを感じているらしい。 さて、背徳行為とは何か。 私は内心でその内容に緊張しながら、表面上は心当たりなど一切ないように平静に努めた。

 

「アボット曹長、事の経緯を説明しろ。 私にしたのと、全く同じように」

 

「ハッ!

昨夜、自分とスウィフト曹長の二人で歩哨を行っていたところ、予備倉庫から出てきたクルシェフスキー少尉を発見。

何をしていたか質問していたところ、余剰物資を私用のために無断で拝借している旨を答えました。

自分たちはそれを咎めましたが、少尉は銃を向けながら自身の階級と爵位、そして恐れ多くもシュナイゼル殿下の名前を盾に自分たちを脅し、その場を後にした次第です!」

 

「スウィフト曹長、アボット曹長が供述している内容に間違いはないか?」

 

「ハッ、相違ありません!!」

 どうやら彼は上手く逃げ仰せたようだ。

 

「宜しい。 ……で、モニカ・クルシェフスキー。 彼らが言うことが確かならば君には横領の罪に加え、皇族の名を穢したことによる不敬罪が断定できるが?」

 

「発言を許されるのであれば、一つ」

 

「なんだね?」

 

 私はポケットの中の機器の存在を確かめながら、スウィフトとアボットを見つめながら、答えた。

 

「私が箱を幾つも一人で消費出来るほどに煙草と酒の味を知っていると皆様に思われていることが、少し、いえ、かなり不服ですね」

 

「……共犯者がいると?」

 

 ジェレミアの言葉に、スウィフトとアボットの顔が少し引き攣る。

 

「いえ、それは違います、ジェレミア卿。 言いたいのはつまり、私が横領した物資として煙草や酒が挙げられているのは些か不自然ではないか、ということですよ」

 

「何が言いたい?」

 

「スウィフト曹長とアボット曹長。 彼らが昨日、私に遭遇するまでどこをどのように歩哨していたか。 それに関して詳細をお聞きしましたか?」

 

 ジェレミアは眉を顰め、しばし何かを考え込むかのように黙した。そして、顔を上げて二人に視線を向ける。

 

「………スウィフト曹長。 君らは昨日、何処を歩哨していた?」

 

「……ジェレミア卿にご指示された通りにブラボー地点周辺を!」

 

「ほう?」

 

 ジェレミア卿は訝しげにスウィフトを見つめた。私はそれを見逃さずに、反撃を行う。

 

「ブラボー地点。 おかしいですね。 物資が無くなっている倉庫はブラボー地点ではなく、チャーリー地点に位置しているはずですが」

 

「それはその通り」

 

「あ、怪しい動きをしていたクルシェフスキー卿を追跡したまでです! 一切不自然な点はありません!」

 

「それもその通り」

 

 傾きかけた天秤を元に戻そうとスウィフトとアボットが必死に言い繕いを行う。さて。

 

「ジェレミア卿、この件に関して内密にお伝えしたいことが」

 

「内密に? なんだ、賄賂でも握らせるつもりか?」

 

 ジェレミアは軽蔑を隠さず、私に寄ってきて嘲った。これ幸いと私は彼にしか聞こえない声で、囁く。

 

「……この件についてシュナイゼル殿下にご報告しなければいけない事柄がありまして。 貴方様の進退にも関わり得るのでご相談を、と」

 

「……なに?」

 

 不安そうにこちらを眺める二人を他所に、私はジェレミアとともにブリーフィング用のテントの中へと入っていった。

 

「それで、モニカ・クルシェフスキー。 私の進退に関わることとは?」

 

 そんなものあるのか? と言わんばかりに疑念が乗った声色に、私は一つのボイスレコーダーを見せることで応える。

 

『貴方たちこそ何をやっているのでしょうか、アボット曹長にスウィフト曹長』『俺ら騎士がKMFに乗らないってことはそれつまり休んでてよしっていう意味だろ? なぁ?』

 

 テントに私と、件の軽薄な二人の録音音声が鳴り響く。ジェレミアは黙しながら、しかし怒りを滾らせながら、その一部始終を聞いた。

 一通り流し終えたあと、私はボイスレコーダーをしまいながらこれからの自分の行動を予告する。

 

「と、まぁこのような次第です。

私としては今回の件をシュナイゼル殿下にご報告すべき事柄だと判断いたしましたので、彼らが所属している純血派の領袖である貴方に前もって伝えさせていただきました」

 

「……成程」

 

 ジェレミアは沈痛な面持ちで、椅子に座った。怒りに震えているが、その怒りの矛先は私ではなく、外で待機している二人に向けられているようだった。

 

「大義も矜恃も持たぬ愚か者どもめ…

怠惰に酔いしれるに留まらず、シュナイゼル殿下の麾下に汚名を着せるか」

 

「……」

 

 貴方がそれを言うのか、と言いたくなったが黙っておく。ここまでの理不尽な扱き、もしかして本当に私のためを思ってやっていたのか?

 

 いや流石にそれは贔屓目がすぎるか。ただあの忌まわしいアダ名のせいで、無意識的にリスキーな冷遇をやっていた部分はありそうだが。私としてはマリアンヌ皇妃のような恐ろしい御方にあやかろうなんてつもりは毛頭ない。

 

「この件に関しては私に責がある。 シュナイゼル殿下もきっとそうご判断なされるだろうな。 ああ、私の騎士としての最後の仕事はあの馬鹿者共への処罰になりそうだ」

 

 過剰な悲観とともに、ジェレミアが呟く。シュナイゼルの干渉で彼が再起不能になるまで責任追及がなされるとは思えないが、マリアンヌ暗殺から今日まで、常勝と言えるほどの手際と清廉さで政争を勝ち抜いてきた彼からすれば致命的に見えてしまうのだろう。

 

「あの二人を処罰して終わり。 本当にそれで良いのでしょうか?」

 

 仕方なく、私は口を開いた。

 

「なに?」

 

「今回無くなった余剰物資。 あれらは決して彼ら二人のみで浪費された訳ではありません。 私と遭遇したのが偶然、彼らであったと言うだけです」

 

「……つまり、これは部隊全体に及ぶ話だと? 随分と上からのご指摘だな」

 

「いえ、貴方が率いる純血派全体の話です」

 

「……ッ! それは」侮辱だぞ、と言い終わる前に私は続ける。「何も貴方やキューエル卿と言った真に血を貴ぶ方々を侮辱しているのではありません。 問題は、浅はかな我欲のみで純血派の旗下に加わっている輩なのです」

 

「……つまり何が言いたい?」

 

「純血派の理念、それを正しく理解せずに権威のみに阿る輩はこれから沢山湧いてくることでしょう。

彼らはやがてその振る舞いで純血派の名を貶めるようになる。 発足したばかりの純血派に彼らのような存在は致命的としか言えません」

 

 純血派に所属する若手貴族たちの増長と堕落ぶりは酷く、私がボイスレコーダーを隠し持っていたのも、今回のような件が必ずどこかで起きるであろうと確信できたが故だった。 ルルーシュであればそれ見た事かと高笑いをしていた事だろう。

 

 実際のところ、彼らのような輩は物語開始前にジェレミアらにより駆逐されるのだろう。しかし、私がシュナイゼルに告げ口をした場合、事情は変わってくる。

 

「実を言うと私としては、まだこの件に関して報告するかを迷っています。

改善の余地が無いのであればやむ無し、クロヴィス殿下の名に泥を塗ることになる前に対処すべきだと考えていますが、逆に純血派内で健全に自浄作用が働くのであれば、報告には及ばないとも考えています」

 

「……自浄作用」

 

「ええ。 私としてはそちらを期待していますが」

 

「ふん、簡単に言ってくれる」

 

 私はボイスレコーダーをジェレミアに渡す。 彼は一度、躊躇った後にそれを受け取った。必要なことを言い終えた私はテントを後にしようとしたが、ジェレミアに呼び止められ振り返る。

 

「……ひとつ聞きたい、クルシェフスキー」

 

「なんでしょうか」

 

「なぜ、このような便宜を図ってくれた? 私情から卿を嘲った私に。 これを上手く使えば君は私を蹴落せていただろう」

 

「……」

 

 困惑を隠そうともしない一人の騎士は、私をじっと見つめた。

 

「簡単な話です。 ジェレミア卿」

 

「……」

 

「私の目的は大義のために剣を振るうことのみ。 そこに私心や私欲は必要ないのですから」

 

「大義、そうか、やはり大義か」

 

 そう、大義。

 私は物語という名の大義のために剣を振るってその末に死ぬのだ。 今度こそ私はその場を後にした。

 

 その後、件の二人は見せしめとして懲戒処分となり、そして正式に私へサザーランドが宛てがわれた。騎士として干されるという耐え難い冷遇からも解放され、ようやく軍務の方も上向いてきた。 ナオトの件は少々、いやかなり不安ではあるが。

 

 ちなみに、あの無駄に理不尽な筋トレに関しては本当に鍛錬の一環だったらしく、これまでよりもやや丁寧な口調で扱きが続行されることとなった。

 

 私が冷遇だと思っていたコレは、KMF普及以前からの騎士である彼からするとこれ以上ないほどの厚遇だったらしい。

 

 腹筋が固くなり、二の腕が太くなっていくことに耐えかねた私は、ついに直属の上司であるカノンさんに定期報告がてら告げ口することにした。 オレンジ卿もこれで終わりだ、と心の中で冗談交じりにほくそ笑んでいたのだが────

 

『ああ、これが噂のミニプリンちゃんね。 私も少しは仲良くなれたってことかしら?』

 

 と何故か不名誉な方のあだ名を呼ばれ、微笑みとともに激励されて話が終わった。意味がわからない。

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