モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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11.休息

『クルシェフスキー卿、サザーランドの調子はどうだ』

 

「良好です。 調整感謝いたします。 ジェレミア卿」

 

 サザーランドの試運転をしながら、ジェレミアへ通信越しに感謝の言葉を口にする。 あの件以降、少なくともKMFから不当に距離を置かさせるというような露骨な冷遇は行われなくなった。

 

 また風紀に関してもあの二人の見せしめもあってかなり改善されており、演習中に乱痴気騒ぎというのも起こらなくなった。 尤もあの時に不当に消費された物資の行先は分からないものが未だ多いが。私が把握しているものも含めて。

 

『近々、グンマ近辺で潜伏しているらしい日本解放戦線を叩く予定だ。 その際に恥を晒さんように少しでも研鑽をしておけよ』

 

 ジェレミアはそう行って自身の訓練へと戻った。 彼との関係に関しては、まぁ良くもなく悪くもなく、と言った感じだ。

 前ほど表立って嘲ることは無くなったが、それでも敬愛するかつての主と少なからず結び付けられている私に対して思うところはあるらしい。

 

 ただ初陣には問題なくKMFを伴い参戦できるようなので、そこまで心配する必要は無さそうだ。 必要以上に親しくしたところで良いこともない。

 まだ詳細は聞かされていないが、私の役割は遊撃らしく、誰かの指揮下で戦う訳ではなさそうだ。 冷遇と取るべきか、優遇ととるべきかはわからない。 それ以前の問題としてクロヴィス配下ではないために、編成に関してどう扱えばいいかわからない、というところが大きそうだ。

 

 宙ぶらりんに次ぐ宙ぶらりんに嘆息しながら、KMFの使用感を確かめた。

 

 

 学園での生活は極めて順調だった。 望ましくないことに。

 ここ最近は演習が続いていたため、久しぶりに顔を出すこととなったのだが、私に対しての慰労会が開催されることとなった。 発案者はなんとルルーシュだそうだ。 喜んでいいのか、反省すべきなのか。

 

 生徒会に入ってから雑務よりもパーティーばかりやっているような気がする。 ミレイの性分がこれ以上ないくらいに反映されている。

 

 彼らが私の顔を忘却するのに、あと何十年くらい疎遠になればいいだろうか。 未来のルルーシュのように、相手の記憶をピンポイントに消す能力が欲しい。

 

 疎遠と言えば、このアットホームすぎる生徒会の中でも一人だけあからさまに距離を置いている人物がいる。 ニーナ・アインシュタインだ。 私が生徒会に居る時、彼女は決まってパソコンと睨めっこをしていた。単純に集中しているというわけではなく、時たまこちらの様子をこっそりと確認している辺り、パソコンはコミュニケーション拒否の口実だろう。

 

 こちらから積極的なコミュニケーションを取る理由はないため、初対面時の挨拶くらいしかまともな会話をとっていない。

 

 なぜ避けられてるかの理由は当たりがついている。恐らく、ミレイが原因だろう。 私にとってそうであるように、彼女にとってミレイは幼馴染なのだ。 にも拘らず、彼女と幼い頃に接触したことは無い。

 

 言うなれば彼女と私は友達の友達という間柄であり、その曖昧な関係に困惑しつつ、突如として自分とミレイの関係性に割り込んできた私へ警戒を抱いているのだ。

 

 本来であれば、こちらからコミュニケーションを取り関係性を築くのが好ましいのだろう。 しかし、ニーナもまた物語の根幹にいる人物。 関わるべきでは無い。

 

 なによりニーナが開発するあの兵器は、物語の中で大きな意味を持つ。 それが産まれるのを妨げるのは

 

────今なら、あの悍ましい魔物がこの世に産み落とされるのを止めることが出来るのでは?

 

 ふと、そんな考えが頭を過った。

 例えば私が今ここでニーナを殺せば、少なくともフレイヤによって生じる幾万の死者を失くすことが出来るのでは? いや、そんな極端なことをせずとも、ユーフェミアのようにニーナと親交を深めれば彼女の研究を安全な方向へと誘導できるのでは。

 

 既に私は数多の悲劇を無力故に傍観してきた。 でも、もしかしたら、今の私なら─────

 

「モニカ先輩? ご飯無くなっちゃいますよ?」

 

 ふと隣を見るとシャーリーが心配そうにこちらの様子を伺っていた。

 

「……あら、本当。 リヴァルとルルーシュに全部食べられる前に私もいただくことにしますね」

 

「モニカ先輩……リヴァルはともかく、俺はそんな食い意地は張っていませんよ」

 

「はぁ!? ルルーシュ、お前もかなり食ってたんじゃんか! モニカ先輩の前だからってカッコつけやがって」

 

「もー!これは先輩のためのパーティーなんだからね!」

 

 3人のやりとりを傍目に、ニーナの方を見るとこっそりとテーブルの上をチキンを取ろうとしているところだった。 こちらの視線に気づいたのか、すぐに手を引っこめる。

 

 まるで子リスのようで可愛らしく、笑みを零しそうになったがきっとニーナはそれを酷く嫌がるだろう。 私は見ない振りをして、ミレイに話しかける。

 

「生徒会ってパーティーが随分と多いのね。 少し太ったんじゃない?」

 

「失礼ねぇ〜! ちゃんと生徒会長として働いてるから大丈夫です〜! そういうモニカは……うわ、腹筋カッチカチ!!」

 

「きゃっ…ちょっと、ミレイの方が百倍失礼よ…」

 

 私の腹を触って騒ぐミレイに苦笑いを隠せずにいると、ルルーシュが呆れたような顔で近寄ってきた。

 

「ミレイ会長、先輩が演習で欠席してる間すごく心配してたんですよ。

普段が嘘みたいに静かで…」

 

「あら、それは本当?」

 

「ちょっとルルーシュ!?」

 

 照れ隠しにミレイはさらに喧しくなった。 最終的に八つ当たりとばかりにリヴァルに一発芸として皇帝陛下のモノマネをするように無茶振りをし出した頃合で、ようやくお開きとなった。

 

 この空間に安らぎを感じている自分を、どう処理すればいいのだろうか。

 

 

 パーティーの翌日、私はミレイと街で遊ぶことになった。

 軍務を理由に断ろうかとも考えたが、ルルーシュが言っていたように親友に心配を掛けたのだから、多少は付き合うべきだろうと思い承諾してしまった。

 

 ミレイが夢中になっている流行りの服だったり、恋愛小説は何がいいのかまったく分からなかったが、楽しそうなミレイを見ていると私まで楽しくなってしまうのは何故だろうか。

 

 トウキョウ租界はやはりそこら中に差別や迫害の気配が感じられた。

 ルルーシュはこんな空間で何年も息を殺しながら生きてきたのだ。あのような苛烈な価値観になるのも、なんとなくだがわかるような気がした。

 

 街往く日本人たちはみな、私たちに目を合わせないように下を向きながら歩いている。

 彼らが胸を張って生きることを許される日は、まだ遠い。

 

 彼らのような弱者が真に救われるには、物語が動き始めるのを待つ必要がある。 そして、私は物語を妨害すべきでは無い。 例え、それが誰かを救うためであっても。 無力を言い訳に全てのきっかけとなる悲劇を傍観した私に、その資格はないのだ。

 

「モニカ?」

 

 試着室に数十着の服を持ち込もうとしていたミレイが、こちらを心配そうに見ていた。

 

「……ごめんなさい、ちょっと疲れてるみたい。 外で待ってるね」

 

「えっ、それじゃあ私も」

 

「いいわよ。 ゆっくり楽しんで。 そっちのほうが長く休めるから」

 

「もー! モニカはすぐそういうこと言う!」

 

「ふふっ」

 

 私はできる限り笑顔を保ちながら、ミレイから離れる。

 店から出てベンチへと座り、瞼裏の物語を回顧する。物語の中で多くの命が無残に散っていく。 最後には世界は救われる。決して牧歌的ではないが、それでも今よりは希望に満ち溢れている、平和な世界。

 

 もし、全てを知っている私が関わったら、全てがぶち壊しになるかもしれない。そう戒める。 でも、もしかしたら、今なら、例えば紅月ナオトの死を防いだり────

 

「動くな」

 

 私の腰に、硬い何かがポケット越しに押し当てられる。銃口。それを理解した刹那、思考の迷路は霧散し、脳内が透き通っていく。 声の主は、いつの間にか私の隣に座っていた。

 

「……注意散漫ですね。 おめでとうございます、テロリストさん。 どうですか、罪もない中等部生の命を握ったお気持ちは?」

 

「この状況で減らず口。 早死するぞ」

 

 ぶかぶかのフードを被った紅月ナオトは正面を向いたまま冷たく言い放つ。 私もやはり正面を向いて、じっとミレイと店員のやり取りを見つめているフリをする。

 

「どこから尾けていたのですか? 」

 

「君らがさっき寄った本屋。 あそこから出る瞬間、偶然見つけた」

 

「なるほど」

 

 おそらく嘘だろう。

 もっとそれ以前から尾けてきている。 偶然なのは本当だろうが。

 

「その制服。 アッシュフォードの学生だったんだな。

道理でアイツを……」

 

「なんの話をしてるのかはわかりませんが、なんで私に銃口を? かなりハイリスクなことをやっている自覚はあるのでしょう?」

 

「……真意が気になった。 それに逃走ルートは確保している」

 

「31個くらい? なら安心ですね。 真意はあの場で言った通り、面倒事が嫌いだからです。 そろそろ友人が戻ってくるので席を空けてくださると幸いなのですが」

 

「面倒事を嫌うやつはイレブンのテロリストに食料を分け与えない」

 

「それは違いますね。 敵に対してこちらが痛くない程度の利益をさっさと与えることで、多大な損害と面倒を生じさせることを防いだだけです。

実際、お仲間への言い訳に役に立ったでしょう?」

 

「……」

 

 きっと彼の中で玉城あたりが作戦変更に対して喚き散らかしたあとに、調達してきた食糧を見て一転して大喜びしている様が思い浮かんでいるのだろう。

 

「だが…」

 

「もし、私に内通者的な役割を望んでいるのならそれは間違いだといっておきます。

友人が会計を終えそうです。 彼女は軍人ではありません。 友達に密着する怪しい日本人を見たら騒ぎになるかも」

 

「……わかったよ。 ただ、もし次会えたらそのときは礼をさせてくれ。 今のやり取りでわかった。 生意気なだけで優しい子なんだろ、君。 普通のブリタニア人は俺たちを日本人とは呼ばない」

 

「礼はいりませんし、次はありません。あと生意気でもありません。

出世に響きますので、二度と私の視界に入らないで」

 

「最近のアイツみたいな口の利き方するな。 年頃の女の子ってみんなこうなのか…? ……まぁ、俺も子供を殺すことになるのは真っ平御免だから、戦場で会わないことを祈っておくよ」

 

「私も口封じ的な観点から貴方を捕虜にすることが出来ないので、任務中は大人しくして貰えると幸いです」

 

「善処する。 それじゃあな、()()()()()()()

 

「……」

 

 やはり笑って、彼は雑踏に消えていった。

 よく分からない人物だ。 今のやり取りをする為だけに多大なリスクを負ったというのなら、不合理極まりない。 だが、そういうところは少しルルーシュと似ていた。 扇がゼロを受け入れた理由も、そういう所にあるのかもしれない。

 

 ミレイが大量の紙袋を持って帰ってくる頃には、私はいつものモニカ・クルシェフスキーに戻ることが出来ていた。彼女たちと言葉を交わすほどに、瞼を閉じるのが怖くなっていく。

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