モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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12.奇襲戦①

 皇暦2013年8月9日。グンマ周辺で日本解放戦線の動きを察知したことを理由に、バトレー将軍の指揮のもと、ジェレミアを中心としたKMF部隊もグンマ基地へ派遣されることとなった。 無論、その中には私も含まれている。

 

 移動は輸送トラックだ。快適性はエリア11赴任の際の輸送機と大差ない。

 前世の知識だとグンマ周辺はジャングル地帯だったので、普通に整備されていることに少し驚いた。前世のグンマと私の世界のグンマはかなり乖離しているのかもしれない。

 

 もしかしたら今回が初陣になるかもしれない。 そう思うと、どうにも落ち着かなかった。

 それは他の新人兵士たちも同じようで、みな一様に黙り込んで外をじっと眺めていた。多分彼らにとって今日が最も死に近づいている日だろうから。 尤も私の場合はどこぞのプリン伯爵のせいで既に100回は死にかけているが。

 

「最近だとテロリストたちもKMFを使うらしいぞ………」

 

 トラックの中の誰かがそう零した。無頼の事だろう。

 性能としてはグラスゴーと大差ないが、それでもKMFはKMF。絶対的な心理アドバンテージが揺らぐ要因になってしまう。

 

 希望的観測と、悲観が入り交じり混沌とした無音のハーモニーがトラック内を覆った。 訓練通りに動かせるのか、脱出機能で無事に帰還できるのか。 果たして本当にテロリストはいるのか。

 

「まぁ、でもサザーランドにビビって攻めてこないってことも」

 

─────刹那、10km先の目的地「グンマ基地」の方で爆発音が鳴り響き、黒煙が空を彩った。

 

 途端、トラック内は騒然となり、新兵たちは目に見えて慌てふためいた。 トラックは停止し、前方の方で他の兵士たちが慌ただしく右往左往している。

 

 私は窓から顔を出して、基地の方を見る。 少なくとも付近にはKMFらしき影は見当たらない。潜り込まれ、倉庫を爆破でもされたか。

 紅月ナオトの件で痛感したが、エリア11はどうにも警備が緩すぎるきらいがある。

 

『ジェレミア隊、各自所定のKMFに騎乗せよ』

 

 インカムに指示が届く。 私は即座にトラックから降り、荷台に積まれているサザーランドへと乗り込んだ。 基地でお茶をする時間くらいはあるかと思ったが、やむを得ない。

 

「こちらG-12。騎乗した」

 

『了解。 待機せよ』

 

 指示通り待機していると、やや遅れて他の兵士たちの騎乗報告が続いた。 その間、二度ほど基地の方で爆発音が聞こえた。

 

「こちらG-12。 状況説明求む」

 

『現在、グンマ基地の弾薬庫が相次いで爆破されているとの報告あり。 テロリストの攻撃の可能性大。 しかし、レーダーでは基地周辺にKMFの反応は…なにっ!?』

 

 刹那、背後で爆発が起きた。

 私は即座にサザーランドを駆動させ、トラックから飛び降りる。 爆発の方を見ると、待機していたサザーランドに無頼が刀を突き刺し、完全に沈黙させているところだった。

 

 なるほど、本命は基地ではなく増援に来た私たちだったか。まんまと釣られたようだ。

 

「こちらG-12。 接敵。 グラスゴー相当のKMF1機……いえ、訂正。 5機ほど」

 

 オペレーターから返事は無い。 やられたか。

 私よりも前方に3機、後方に2機。 触覚ありは……いない。 まだマシだ。 無頼改はまだまだ先の話とはいえ、四聖剣を今の装備で相手取るのは不味すぎる。

 

 敵の中には刀のような兵装を構えている物がいた。

 後に日本系KMFの主武装となる廻転刃刀……の試作品か何かだろうか。刃はノコギリのようになっているあたり、設計思想は似ている。

 

 どうやらこの作戦、日本解放戦線はかなり本気らしい。

 奇襲は成功し、私と同じ隊だった騎士の半分は今の攻撃で為す術もなく、やられていた。まともに武器も渡されていないのだから仕方ない話だろう。

 

 まともに動いているのは私を入れて3機。

 性能差で言えばまだ優位性は残っているが、問題は騎乗しているのが新兵だということと、まともに武装がなされていないということ。

 

 ジェレミアたちのような練度の高い騎士は3kmほど前方にいる。 車列の所々で黒煙が上がっている。 彼らも同様に囲まれていると考えると、増援は望めないだろう。

 

「お二方。 階級を教えて頂けますか。 私はクルシェフスキー少尉です」

 

 生き残りの2機に通信を行う。怯えた声が返ってきた。

 

『じ、自分は准尉です!』

 

『私は曹長です!!』

 

「承知致しました。 ではこの場では私が指揮を執らせていただきます。

騎士ではない兵士たちは至急散開。 確実に敵歩兵が付近に隠れているので、警戒して対処を」

 

 外で慌てふためいている兵士たちに、スピーカーで指示を出す。それぞれトドメを刺し終えた敵がこちらに向き直る。

 

「では准尉と曹長。 私より後方にいるグラスゴーもどき2機の相手を」

 

『えっ!? しかし…』

 

「私が即刻、残り3機を蹴散らします。 では、そのように」

 

 言って、こちらに銃を向けている前方の無頼まで間合いを一気に詰める。 機体の反応速度と運動性能の差により、振るわれた刀は的外れのところを通過し、簡単に懐まで飛び込めた。

 

 サザーランドのスタントンファーが、相手のコックピットを大きく揺す。

 無頼のバランスが大きく崩れ、地面に沈む。 接近しているおかげで、他の無頼からの攻撃はなく、2機の内1機が刀を構えながらこちらに向かってきているくらいだ。

 

 地面に転がっている無頼の手から離れた刀を拾い上げる。 規格違いで使えないことを危惧していたが、杞憂だったようだ。

 

 前方を見ると、敵は既に刀を振り上げており今まさに私を縦に切り裂こうとしているところだった。

 私は即座に構え、勢いよく振り下ろされた剣撃を受け止める。 かなり重い。 関節部から金属が軋む音が聞こえる。

 

 エナジーフィラーを限界まで稼働させ、出力を上げる。 そして、その勢いのまま敵の刀を跳ね返す。そして、そのまま返す刀で相手の右腕部を切断する。 刀と腕が宙を舞う。

 

 よろけた所を間髪を容れず、左脚部に一撃入れる。 切断、とまでは行かなかったもののほぼ破壊に成功し、跪く。 そして、やや遅れて脱出装置が発動して、道端の森林へと消えていった。

 

「残り2機」

 

 未だ地面から起き上がれてない1機は捨て置くとして、怯んでいたもう1機はどうやら遠距離戦に持ち込む腹づもりのようで、丁度こちらへアサルトライフルの銃口を向けていた。

 

 私は搭乗者を失い跪いているだけの無頼を盾にし、弾丸を防ぐ。

 敵も焦っているのか、あっという間に弾丸を使い切りリロードへと移行した。 私は即座に間合い詰めを再開し、距離を詰める。

 

 あと30メートル、といった距離で敵のリロードが終わり銃口が素早くこちらへ向けられる。 だが既に間合いだ。

 

 刹那、弾丸が銃口より飛び出すよりも早くスラッシュハーケンが敵に突き刺さった。 胸部が砕け散る。 が、どうやら中身は無事だったようで脱出装置が作動し、搭乗者はやはり遠くへと消えていった。

 

 振り返り、最後の敵を、と思ったがどうやらそちらも敗北を悟ったようで背を向けて逃走を選んでいた。 追っても仕方ないので捨ておくことにし、残りの2機の様子を見ると、丁度サザーランドによるトドメの瞬間だった。

 

 脱出機能はあまりに有用なようで、他の2機もそのまま抜け殻となってその場に沈黙していた。せめて捕虜は欲しかったが。

 

『クルシェフスキー少尉!! こちら2機撃破!! すぐにそちらへ助太刀に……って、嘘だろ…?』

 

「無事でよかったです。 こちらは1機逃がしてしまいました。 申し訳ありません」

 

『い、いえ。 まさか本当に3対1で……俺たちと同じ新兵だよな…?』

 

 3機蹴散らす、とカッコよく言った自分が少し恥ずかしい。

 

「歩兵の皆さんは……特に欠員はない。 随伴しているKMFが負けたのを見て退いたようですね」

 

 足元に血の海が広がっていることを覚悟していたので、これに関しては素直に安心だ。

 

「准尉。 貴方はここに残って引き続き警戒を。

曹長、貴方は私と共に車列前方のジェレミア卿のもとに救援へ」

 

『ハッ!』

 

 さて、四聖剣や藤堂が出張っているとすればきっと前方だろう。死がより近くに寄ってきていることを、私は確かに感じた。

 

 

 無頼がキョウトから支給されてから、戦場の様相は明確に変貌した。

 それまではどう一矢報いるかを問うていた作戦立案も、今ではブリタニアをどう打倒するかを真面目に論じることが出来るようになったのだ。

 

 そしてその矢先、今回の作戦で奇襲を成功させ敵戦力の多くを分散、各個撃破することを実現できた。

 

 これは無頼だけでなく、それを最大限活用する作戦を考案した藤堂の功績であると千葉は強く感じていた。

 

「やはり中佐の戦略眼は凄まじい」

 

 千葉は地面に転がるブリタニアの最新量産機の残骸を一瞥し、敬愛する藤堂に思いを馳せた。

 

『千葉、何をほうけてるんだ』

 

「仙波さん…そちらは」

 

『全て片付いた。 武器も持たん相手など、いくら最新鋭と言え容易いものよ』

 

 無頼はあくまで旧世代KMFグラスゴーの派生型。最新型であるサザーランドと比べると明確に性能で劣る。

 

 だからこそ増援として輸送途中だったところを奇襲したのだ。 わざと基地周辺で自分たちの影をチラつかせることで。

 

『やつらが我らを油断してくれていたのが功を奏した』

 

「ええ。 奴らは自分たちの傲慢を省みることをしなかった。 この戦いでそれを思い知ることでしょう」

 

 あとは部隊長を下しているであろう藤堂中佐や他の二人と合流して、基地を叩くのみ。そう思い、前方に上がる黒煙を見上げた矢先─────

 

「────ッ!?」

 

 まるで、心臓を掴み込まれたかのような怖気。 ほぼ反射的に左に逸れる。 刹那、先程まで立っていた場所に刀が振り下ろされていた。仙波とともに、大きく飛び退き間合いをあける。

 

『なっ!? いつの間に…!』

 

「後方に生き残りが…!? 戦力の八割は後方の雑兵散らしに注いだはず…」

 

 無傷のサザーランドが1機。 携えるは無頼が装備していたはずの試作型の刀。

 やや遅れてやってきたサザーランドはそれ相応に損傷しているあたり、目の前のサザーランドの異様さが際立つ。

 

「……後方へ宛てた部隊との通信断絶。 まさかこいつ」

 

────ここに至る道中、全ての無頼を無傷で斃して来たと…?

 

 最新型のサザーランドとは言え、明らかに規格外すぎる。

 情報によれば車列後方は練度の低い兵士で固められていたという話だった。 しかし、目の前の敵にはどう考えても当てはまらない。

 

 敵は刀を構え、幽鬼のような不気味な静けさを伴って距離をゆっくりと詰めてくる。

 

『千葉、構えろ!』

 

「言われなくとも……ッ!?」

 

 間合いが、一瞬で縮まった。

 刹那、ほんの刹那だった。 刀を構えるために、自身の刃が視界を横切ったほんの刹那で、相手はすでに懐に入り込んでいて─────

 

「馬鹿なッ」

 

 刀で受け止めようとするが、敵はそれを無視し、刀を握っていた両腕を切り飛ばした。 尋常ではない操作精度。 それに驚嘆する間もなく、切断された腕が宙を舞った。

 

『千葉ッ! ……くっ、鬱陶しいッ!』

 

 片割れのサザーランドからの援護射撃に、仙波は回避するので精一杯。 攻撃手段をほぼなくした千葉は、どうにか飛び退きながらスラッシュハーケンで攻撃を仕掛ける。 が────

 

 サザーランドは鉄の鎖を容易く避け、あまつさえそれを切り落として見せた。 そして───

 

「───ッ! もはやここまで…!」

 

 気づけば敵の刺突が、すぐそこまで迫っていた。

 脱出レバーを引く、が果たして間に合うか。 コックピット部と敵の刀の切っ先が接触したその刹那、千葉の体は後方に強く押し出され、どうにか九死に一生を得た。

 

 着地に伴い、凄まじい衝撃が千葉を襲う。

 どうにか強い目眩と、吐き気に耐えて、絶え間なく聞こえてくる通信に応答する。

 

「仙波さん…そっちは」

 

『ぐぅ……こ、こっちもやられた。 なんとか脱出はできたが……いや、見逃されただけか…?』

 

「完全に我々の敗北ですね…」

 

 四聖剣二人で相手をしてここまで一方的に敗北を喫するとは思いもしていなかった千葉にとって、この結果は屈辱以外の何物でもなかった。

 

 しかしそれ以上に、あの化け物じみたサザーランドへの畏怖が心の底から湧き出てくる。 性能で片付けるには、あまりにも速かった。

 

 顔も知らない化け物じみた敵が、藤堂と接敵しない事を千葉は心から願った。

 

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