モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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13.奇襲戦②

 彼方へと飛んでいくコックピットを眺めながら、触覚付き無頼の搭乗者をあわや殺しかけたことに大いに肝を冷やしていた。

 

 そもそも最初の背後からの不意打ちを避けられることからして想定外もいいところで、一気に畳み掛けなかったらかなり危ないところだった。今回難なく勝てたのは、不意打ちだったことと、性能差があったこと、なによりあちらがまだKMFを用いた実戦に慣れていなかったことが大きい。

 

 戦地にて無頼が目撃されるようになってまだ数ヶ月。対してこちらは何年もKMFに乗り続け、実戦を想定した高水準な訓練を行っている。そのアドバンテージのおかげで勝てただけだ。

 

 乗っていたのはおそらく四聖剣のうちの誰か二人。 個々人の実力差についてはあまり印象がないので、誰かは分からないが仮にゼロの復活を手伝った卜部だったら物語に大きな影響を与えることになっていたであろう。脱出が間に合ってくれてよかった。

 

 今のところ下した敵KMFはみな脱出機能を有効活用して生存しているため、私はまだ直接的に誰かを殺していない。まだ撃つ覚悟もなければ撃たれる覚悟もできてないわけだ。

 

『少尉!』

 

「援護ありがとうございます。 先へ進みましょう」

 

 四聖剣が乗っていた無頼に突き刺した刀を抜いて、前方に目をやる。

 銃声とひしゃげるような金属音、たまに爆発。戦闘は継続されている。

 

「ジェレミア卿……大事は無いと思いますが」 サザーランドを駆動させ、ジェレミアの元へと向かう。

 

 今回の戦闘の成立に私は関わっていない。

 つまりこれは起きるべくして起きたイベントであり、この件が物語の趨勢に大きな影響を与える類のものではないということだ。

 

 問題は、自分がどう動くべきか。

 そういう意味では先程、四聖剣を殺しかけたのは悪手もいいところだろう。 ジェレミアへの救援を行った場合、また同じ轍を踏むことにならないか、それが不安だった。

 しかし、軍人としては行かない選択肢がない。だからこそ、ジェレミアへ助太刀したときの振る舞いが肝要になってくるわけだ。

 

 ジェレミアを死なせず、敵の主要人物も殺さない。

 物語を侵さず、その上でナイト・オブ・ラウンズになるのであれば、このような局面はきっとこれからも何度も発生するだろう。

 

「────やるしか、ありませんか」

 

 サザーランドを止め、目の前の光景を見定める。

 

 幾多のサザーランドの残骸。 三機の触覚付き無頼。 そして、同じく三機で抵抗を続けているボロボロのサザーランド。 私たちと同じく、輸送途中のサザーランドに騎乗したために、まともに武装できていない。

 

 こちらに気づいた無頼が翻って銃口をこちらに向ける。

 爆発し、残骸となった輸送トラックを遮蔽にし弾丸から身を守る。

 

「ジェレミア卿、クルシェフスキーです」

 

『クルシェフスキー卿! 無事だったか!』 通信を受けたジェレミアは驚嘆しているようだった。

 

『後方の敵は!?』生き残りの1人はキューエルか。 「後方の敵KMFは粗方撃破しました」

 

『ほぼ無傷で…!? 本国でのあの噂は本当だったのか…』最後の1人はヴィレッタ。 純血派のトップ3が揃って生き残っているあたり、ブリタニアの実力主義を感じさせる。

 

「後ろの…」『ランドールであります!』「…ランドール曹長が援護してくださったからです」

 

 実際、彼の援護は的確でかなり助けられた。 本当の意味で四聖剣2人を相手にしていたら私も無傷では済まなかっただろう。

 

「それで、状況は」

 

『ご覧の通り苦戦中だ…! このグラスゴー擬き、おそらく中身は…!』 刹那、ジェレミアと鍔迫り合いを行っていた無頼が、刀の重心をずらす。そして───

 

『奇跡のトウドウ…! これほどまでに…!!』 さっき私がしたのと同じように、ジェレミアが騎乗しているサザーランドの腕を切り飛ばした。

 

『ジェレミア卿ッ!』 他の一機に足止めされているキューエルらが叫ぶ。 が、藤堂が乗っていると思しき無頼は容赦なく胸部に向かって刺突を────

 

『がっ、甘いっ!!!!』 寸前で、残った片手のトンファーで刃を弾き、そのまま至近距離でスラッシュハーケンを放つ。

 

 直撃はしないまでも、攻撃の手を止めることに成功したようで藤堂無頼は、大きく飛び退く。 流石はジェレミア卿と言ったところか。

 

 藤堂の危機を察知したのだろう、私へ制圧射撃を行っていた無頼が攻撃の手を一瞬だけ止めた。 私はその隙を逃さず、素早く遮蔽から飛び出て、そのままその無頼に突進する。

 

 一閃。 コックピットを避けて放った袈裟斬りにより無頼は跪き、脱出機能が働いた後、やや遅れて爆発する。

 

 一機はキューエルとヴィレッタが押しつつある。 では、私が対応すべきは──────

 

「奇跡の藤堂……」

 

 彼が乗る無頼が、すでにこちらへ構えていた。 これまでに感じたことがない緊張感が走る。こちらも応えるように構える。

 

 間合いを探る睨み合い。 まるで時間が止まったように感じる。 だが、きっと、互いが動くまで数秒も掛かっていないのだろう。

 

 全ては、同時だった。

 キューエルとヴィレッタが一気に攻勢に転じたのも、ジェレミアが立て直したのも。

 

────私と、藤堂が互いに向かって突進をしたのも、全てが同時に行われた。

 

 刀と刀がぶつかり合い、凄まじい金属音が辺りに鳴り響く。

 先程の敵との鍔迫り合いと比べても、明らかに重みが違う。 この一合だけでわかる。これまで矛を交えた相手の中で、最も強い。

 

 エナジーフィラーは常に全開。 少しでも緩めば、次の瞬間に私は死ぬ。 それは確信だった。

 これが物語における強者。

 今勝負が成立しているのは、人数差とスペック差に拠る恩恵でしかない。 仮にあちらが同スペックのKMFを用意していたら、私は容易く刀の錆になっていたことだろう。

 

 ナイト・オブ・ラウンズとは騎士の頂点。 この有様では、その頂きはまだ遥か彼方。

 

 押し切られそうなことを悟った私は鍔迫り合いを諦め、スラッシュハーケンを放ちながら後退する。 そして───

 

『奇跡のトウドウッ! 私の功績の贄となれ!!!』

 

 背後から隻腕となったジェレミアのサザーランドが襲い掛かる。 藤堂はそれを容易く弾き、返す刀で一太刀を───入れずに、私とジェレミア双方から距離を取った。

 

 ジェレミアを相手取ることによる、私からの不意打ちを警戒したか。

 藤堂無頼は戦場を俯瞰するかのように、じっと私たちの方に刃先を向けている。

 

 正直、長期戦になって困るのは私たちの方だ。

 エナジーフィラーの供給は不十分、武器も乏しい。 さて、どうすべきか────

 

『撃破した!! ……が』

 

『クソ、イレブンめ!! 逃げられたッ! 装備さえまともなら…!』

 

 キューエルとヴィレッタの声が通信機越しに鳴り響く。 それとほぼ同時に、刀が私の方目掛けて飛んできた。 私はそれを避け、投擲主である藤堂の方へ向き直る。が───

 

「逃げられた。 いえ、見逃されましたか」

 

 そこに、藤堂無頼の姿は無かった。

 四聖剣が全て落ちたことにより、撤退を選んだか。 ブリタニア軍にそれ相応の損害を与えているのだから、あちらの目的はある程度果たしただろうが。

 

『クルシェフスキー卿、よくぞ来てくれた』

 

「ジェレミア卿。 無事で何よりです」

 

『卿の助太刀が無ければ一体どうなっていたか……恩に着る』

 

「私もジェレミア卿の援護がなければ危ないところでした。 奇跡の藤堂…あれほどとは」

 

『私たちからすれば卿らも大概だが』 キューエルが周囲を警戒しながら、そう言った。

 

『何にせよ、してやられたな。 まさかあれほどまでにKMFを用意してくるとは。 イレブンどもにしては用意周到だな』

 

『ジェレミア卿。 今回の件、我々には…』ヴィレッタは何かを恐れているように、ジェレミアの方を向いた。

 

『なに。 今回の責はグンマ基地にある。 それに、それなりの数のグラスゴー擬きを鉄くずに変えてやった。

お褒めに与ることはあっても、叱責を受けることはあるまい』

 

 実際こちらの損害も酷いが、あっちも大概だろう。

 四聖剣と藤堂は無事とはいえ、無頼の多くを損失している。キョウトというスポンサーがいるとはいえこの有様では再び攻勢に、というのは難しい。

 

 実際、その後の顛末として日本解放戦線はグンマから姿を消し、純血派と私はバトレー経由でクロヴィスからお褒めの言葉を頂くこととなる。 特に私の方は多くの無頼を撃破したことに加え、四聖剣と思しき敵を三機下したことで昇級することになった。

 

 だがきっとこの程度の活躍、あの人にとっては些事でしかないのだろう。 新しくなった階級章を撫でながら、皇帝陛下の肖像画を見上げた。

 

 

「中佐───!!」

 

「千葉、仙波。 無事だったか」

 

 拠点に戻るなり、駆け寄ってきた千葉たちを見て安堵する。最後に矛を交えたあの鋭い刃のKMFは、後方から来た。 千葉と仙波たちの安否はかなり気がかりだった。

 

「全くお役に立てず、申し訳ありません」

 

「護衛として随伴させて頂いたというのに。 これでは四聖剣の名が泣くというもの…!」

 

 卜部と朝比奈が悲痛な面持ちで頭を下げた。

 

「気にしなくていい。 朝比奈、卜部。

目的は果たした。 それに、あの乱入者が上手だっただけだ」

 

 藤堂を以てして、此方の刀を携えた敵KMFの実力は強いプレッシャーを感じさせる程だった。 後方部隊が壊滅させられたという話も納得しかない。

 

「あの強さでありながら、剣筋はまだ若かった。 ブリタニアの新鋭は侮れんな…」

 

 KMFだけでなく、人材の質でも劣っている現状を藤堂は深刻視する。急進派の草壁らはブリタニアをKMFで強さを保っているだけの弱兵の集まりだと喧伝しているが、こうして鉄火場に立つと身に染みてわかる。

 

─────今のままでは、日本解放戦線は削り殺される。

 

 脳裏に、自分の喉元へ刀を突き刺そうとするあのKMFの姿が浮かんだ。KMFだけでなく人もそれに合わせて成長しなければ、ブリタニアを打倒する日はやってこないだろう。

 

「しかし、凄まじかったな」

 

「件のKMFのことですか? あれの配備が十全に行われたらと考えると…」

 

「いや、違う。 お前たちを下した例の兵士のことだ。 あの強さは最新型由来のものでは無い。 気がつけば間合いを詰められていた。 あの速さはまさに──」

 

「──閃光」

 

 千葉が、ぽつりと呟いた。

 無意識だったのか慌てて訂正する千葉だったが、藤堂は内心でその評に的を射たものを感じていた。

 

 あの閃光がより速く、より鋭く、より強くなった時、果たして今回のように相手取ることが出来るだろうか。藤堂はキョウトに無頼の性能向上を要請しようと決意した。

 

 この戦い以降、日本解放戦線の中で奇しくも『閃光』の異名を持つ謎のブリタニア騎士の話題が度々上がるようになったが、彼らの中にかつて『閃光』と呼ばれていた皇妃が居たことを知る者は居ない。

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