モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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14.前夜祭

 修羅場にて死を間近に感じてから四日後、私は一転して天国で天使と相対していた。

 

「モニカさん…軍のお仕事で危険な目にあったと聞きました……大丈夫ですか?」

 

「ええ、全然大丈夫。 すごく余裕」

 

 ナナリーの手の温かさを感じながら、私は身も心も癒されていた。

 どういう訳か私はナナリーにすごく弱いみたいだ。 前世の私は別に特筆するほど好きという訳ではなかったのに。 皇族の血か?

 

「グンマ基地でKMF部隊が襲撃され死者多数…なんていうニュースが流れた時、みんな本当に心配しました。 もちろん、俺達も」

 

 車椅子の後ろにいるルルーシュが酷く安堵した様子でナナリーを撫でた。

 心配させたのは申し訳なく思うし、同時に嬉しく思う。 だが

 

─────将来的に悪逆皇帝になったとき、ちゃんと高笑いとともに私を殺してくれるか? それがすごく不安になってきた。

 

「な、なにもそんなに心配せずとも…」

 

「先輩は生徒会のメンバーなんです。 もし怪我でもしたら」

 

 途端、堰が切れたかのようにルルーシュがくどくどとお説教を始めた。 どうやら、今日こうして生徒会に顔を出すまでに特に連絡をしなかったことがいけなかったらしい。

 

「あのニュースが流れてからミレイ会長が真面目に仕事するようになってしまって」

 

「えっ!?」

 

 予想外の言葉に、思わず立ち上がってしまう。

 そういえば今日はまだミレイに会ってない。 事後処理の都合上、中途半端な時間に学校に来てしまったおかげで、なんとなく生徒会室の方に来てしまったのだ。

 

 そこで絶賛サボり中のルルーシュとその妹ナナリーと戯れていたので、ミレイと顔を合わせていないのだ。

 

「シャーリーへのセクハラも影を潜め…」

 

「そ、そんな…」

 

 隙さえあれば胸や臀部を触っていたのに。

 

「いつものように馬鹿騒ぎをやろうとリヴァルに提案させても、首を横に振るばかり」

 

「あ、ありえないわ……」

 

 あのミレイがそこまで憔悴しているとは思ってもいなかった。確かに危険な目にあったとはいえ安否確認自体は軍から学校に行ってるはずなのに。

 

「先輩、貴方が思っているよりも皆から大切にされていることを自覚してください」

 

「そうかしら…?」

 

 それだけはお前に言われたくない、と反論したくなった気持ちをぐっと堪える。

 

「……そういえば、この件についてシュナイゼル殿下やクロヴィス殿下からなにかお褒めの言葉を頂いたりとかは」

 

 そしてこれだ。

 距離は不本意ながら縮まってしまったが、探りに関しては依然として行ってくるのがこの男なのである。

 

「クロヴィス殿下はお忙しいみたいで、バトレー将軍経由でお褒めの言葉と勲章を頂いたわ。 シュナイゼル殿下は…」

 

──────頑張っているようで何よりだ、モニカ。近々そちらへ出向く機会がある。 その時にどうだい、チェスでも。

 

 なんてお誘いを直々にされた。 正直、何が目的なのかわからなくて怖い。 あの人に限っては本当に親交を深めるためにお誘いなんてするわけがない。

 

「特には。 知ってるかもしれませんが、今のブリタニアには騎士が大量にいます。 宰相であるシュナイゼル殿下の下にいる騎士なんて、それこそ数え切れないほどに。

少し手柄をあげた程度でわざわざ私一人になにか、ということは早々ありませんよ」

 

「……そうですか」

 

 少し悲痛な感じを出して呟いたおかげか、ルルーシュはすぐに引き下がってくれた。

 これで彼がギアスを手に入れた日には、真っ先に私に掛けてきそうで怖い。そうなればまず間違いなく私はシャルルの兄V.V.が犯人です、と供述するだろう。 C.C.がピザ片手にひっくり返ってしまう。

 

「…なんでモニカさんは軍人さんになったのですか?」

 

 ナナリーが心配そうに私を見上げた。 暗に、危険な軍人などやめて欲しいと言っているのだろう。私は跪き、彼女の手を優しく包み込む。

 

「大義のためです」

 

「大義、ですか…?」 ナナリーは首を傾げた。 ルルーシュは鋭い目つきで、私を観察している。

 

「ええ、大義。 私はそれのために剣を振るうと決めているのです」

 

「貴女の言う大義とは、強者であることを至上とすることですか?」

 

 ブリタニアがそうであるように。 ルルーシュは忌々しげに呟き、ナナリーが不安そうに俯いた。

 

「いえ、違います。 私の大義はブリタニアのものとも、皇帝陛下のものとも重ならないものでしょう。

自己の中でのみ成立するイデオロギー、と言う方が適しているかもしれません」

 

「イデオロギー?」

 

「一言では言い表せないのですが……そうですね、私は生まれてから何度も幾万の悲劇を傍観していました」

 

「悲劇、ですか? それはどのような……例えば」

 

 ルルーシュが悲劇の具体例を言おうとする。 続く言葉を私は知っていた。 だから

 

「戦争、迫害、飢餓……私の立場なら、きっと防げたようなことです」

 

「……」

 

 敢えて錯誤するような言い方で、彼の言葉を妨げた。

 ()()()が今の私の振る舞いを見たらきっと、酷く嫌悪するだろう。そう考えると何故だか、ルルーシュたちを煙に巻く罪悪感が軽くなったような気がした。

 

「私にとっての大義とは、きっと償いなのでしょう」

 

「モニカさん…」

 

 ナナリーが哀しそうに私を()()()()

 

「……いくら貴方がブリタニアの侯爵令嬢だからといって、そこまでの責任を背負う必要はないのでは?」

 

 ああよかった。 ちゃんとルルーシュは騙されてくれた。傷み続ける胸を堪えながら、嘘を紡ぐ。

 

「そうでしょうか? いえ、仮にそうであったとしても、私は償いのために剣を振るいたいのです。 傍観者としてではなく、一人の人間として」

 

 嘘だ。

 私は未だに傍観者として、物語を俯瞰しようとしている。

 

「……例えそれが」

 

──────誰かの幸せを奪うことと同義であっても、ですか?

 

 この問い掛けをしたのは、ナナリーだったかルルーシュだったか。その問いに、私はなんと答えたのだったか。 どうしても思い出すことは出来ない。

 

 

 皇暦2013年10月01日。

 

「薄汚いイレブンどもの集まりである『白馬衆』というテロリストグループがヨコハマゲットーに潜伏しているとの情報が手に入った」

 

 ブリーフィングルームで、ジェレミアが快活に作戦の概要を説明する。前回の惨状を知っている兵はみな、顔を強ばらせた。

 

「安心しろ。 今回のイレブンどもの中に大した者はおらん。

玩具だけ立派な虫ケラの集まりにすぎん」

 

 と言っても油断するつもりは無いが、とジェレミアは短鞭を振るった。

 

「ブリタニアの獅子たる者、野兎であろうとも全力で狩りを行う。 騎士はみな例外なくサザーランドに騎乗してもらう。 これは戦争では無い」

 

─────虐殺だ。

 

 ジェレミアは残虐に口を歪め、他の兵士たちもそれに呼応して歓声を上げる。

 

 私はこれまで避けてきた問いに、どうあっても答えを出さなければならないという確信を抱いた。 私は、大義のために撃つ覚悟が出来るのだろうか。

 

 

「モニカ、また行っちゃうの…?」

 

 軍務のためにしばらく学園を欠席する旨を伝え、生徒会室から出た矢先、背中に抱きついたミレイが今にも泣きそうな声で私の歩みを止めた。

 

「ミレイ、私はどこにも行かないわ。これからはずっと一緒。 軍務だってすぐに終わる」

 

「嘘よ…」

 

「……本当」

 

「嘘、嘘、嘘っ…!」

 

 親友の嗚咽が、廊下の中で静かに響いた。

 

「この間だって、どれだけ心配したか…!」

 

「あの時は、ごめんなさい。でも、今回はそういうことは起きない。 絶対に」

 

 なぜなら、今回起きるのは単なる虐殺だからだ。私は、奪う側。

 

「軍のお仕事だから、詳しいことは言えないけど。本当に大丈夫なの。 だから、泣かないで?」

 

 私はまるで子供をあやすかのように、ミレイの頬を伝う涙を拭った。

 ああ、本当はわかっている。私が本懐を遂げたとき、それが彼女や、育ての両親、ちょっと変わっている友人たちに、深い悲しみを強要することになることを。でも、やるしかないのだ。

 

 例えそれが、誰かの大切なものを奪うことになっても。

 

「帰ってきたら、またウィンドウショッピングに連れて行って? 私、服とかよく分からないから」

 

「……うん、約束よ? すっごい際どいやつ、着させてやるんだから」

 

「それは本当にやめて…」

 

 目を腫らしながらいつものような言動をするミレイに、私は思わず苦笑を零してしまう。 ああ物語なんて関係なく、彼女たちと出会えていたら。

 

 

「ナオト、ブリタニアの動きがあったって本当か?」

 

「ああ。 近々、東京近辺のゲットーを攻めるみたいだ」

 

 ナオトは木箱に腰かけナイフを研ぎながら、扇とこれからについて話を重ねる。

 

「近辺ってどこだよ!」

 

 玉城は苛立ちを隠さずに、ナオトに詰め寄った。 どんな時であってもいつも通りの彼に、思わず苦笑してしまう。

 

「わからん。 かなり厳重に情報統制を行っている。 しかし、 物資やKMFの流れを見る限り、かなりの戦力を一度に動かす予定があるのは確かだ。 つまり、奴らも本気ってことだな」

 

「……ここか?」

 

「その可能性は否定できない。 荷物を纏めといた方がいいかもしれん。 どっちみち、『白馬衆』の連中とはソリが合わない。 さっさとサイタマゲットーに帰った方が良さそうだ」

 

 キョウトの要請でヨコハマゲットーの手伝いに来たが、民族主義を全面に押し出し、無意味に過激なテロを繰り返す『白馬衆』は関係を持つ相手としてはあらゆる面でリスクが高い。

 

 キョウトへの義理は果たせた。

 少なくとも、温めている作戦決行の際にKMFの提供を期待できるくらいには。潮時だろう。

 

「今回の件が済んだらあの作戦を決行しようと思う」

 

「……例の生物兵器か?」

 

「生物兵器かどうかは確定はしてないがな」

 

 ここ最近になってクロヴィスは妙な動きを見せていた。厳重な護衛を伴って研究機関から研究機関へ移動を繰り返す謎の大型トラック。

 

 どれだけ調べても内容物についての情報は見つからなかった。 つまり、クロヴィスにとっての致命的な秘密の可能性がある。

 

「人員配置、各自の動き、想定外事象への対応策。全部用意してある。

あとは実行するだけだ」

 

 無論、対象が生物兵器ではなかったケースも想定済みだ。

 作戦のために裏ルートから仕入れたシミュレーターでKMFの操縦訓練もやっている。

 

「生物兵器だろうが、そうじゃなかろうが、クロヴィスの急所であることは間違いない。 奪ってしまえばいくらでも有効活用出来る」

 

 全ては日本の子供たちが笑って暮らせる世界のために。紅月ナオトは静かに刃を研ぎ澄ませた。

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