モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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今回の話には残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。


15.ヨコハマゲットー殲滅戦線①

 白馬衆。エリア11に存在するレジスタンスの中でも現在トップクラスに過激な活動を行うグループだ。過去には軍お抱えの運送業者を襲撃し、その死体を晒しあげたという事例もある。

 

 彼らの構成員の中には少年兵も多く含まれており、ゲットーの家庭から物資と共に子供まで徴収しているという話すらあるあたり、ブリタニアと関係なくロクでもない組織なのだろう。

 

 しかし、その過激さからスポンサー、つまりキョウトから疎まれている節があり、KMFは満足に供給されていない。リーダーが元軍人である関係から火器の類は潤沢らしいが。

 日本解放戦線とぶつかった初陣と違い、ジェレミアが言った通りの一方的な虐殺になるのは目に見えている。

 

 現在、KMF部隊はヨコハマゲットーを俯瞰できる山岳で待機していた。 木々に覆われているため、少なくとも肉眼で見つかることは無いだろう。

 

 ヨコハマゲットーもやはりシンジュクやサイタマと同様に荒廃していた。 海が近い分、建物の劣化は他二つに比べて一際目立つ。 銃弾も通りやすいだろう。

 

 夜の帳が下りたゲットーでは時たま、飲み騒いでいる若者たちや駆け回っている子供たちが望遠モニターに映る。 今回の作戦は極秘故に避難勧告を一切していないそうだ。

 

 民間人はなるべく巻き込むなという注意自体は届いているものの、実態としては巻き込み上等だろう。 名誉ブリタニア人ですらないナンバーズに同情的なほど、良心のある組織ではない。

 

「出来る限り早く片付ければ、彼らが巻き込まれずに済む」

 

 そのためには、私の覚悟が必要となる。

 撃つ覚悟に、撃たれる覚悟。 可能な限り、迅速に白馬衆の殲滅を行う。そうすれば犠牲は少なく済むし、ナイト・オブ・ラウンズに近づく。

 

 端役を全うするには、必ずどこかで手を汚さなければならない。

 悲劇を傍観してきた私に、綺麗に生きる資格なんてない。 彼らが創る明日に、私は生きるべきでは無いのだ。

 

『決行は深夜。 やつらが眠り惚けているところを急襲する』

 

 オープンチャンネルでジェレミアが作戦決行の時刻を宣言した。

 それまでは待機。 私は時間を有効活用すべく、情報端末で白馬衆のリーダーとされる『最上テツマ』の情報の整理を始めた。

 

 

 ゲットーが完全に闇に包まれた頃、とある廃工場の中で二つのグループが衝突を迎えようとしていた。

 

「ここで芋を引くとは。 キョウトもしょうもない腰抜けを派遣しおってからに。 我らには切り札がある。 ブリキどもを打破できるほどの切り札が、な。 それを知っていてまだ臆病風を吹かすか」

 

 ヨコハマゲットーから離脱する旨を伝えた瞬間、ナオトと扇、玉城の代表者三人の周りは銃口だらけになった。予想はしていたが、あまりに短絡的な思考にため息も出ない。玉城から可愛げを抜くとここまで不愉快なのかと、ナオトはテツマらを威嚇する玉城の評価を上げた。

 

「何と言おうと俺たちはあんたらの無駄な破滅願望に付き合うつもりは毛頭ない」

 

 ブリタニアの民間人惨殺を筆頭に言葉にするにはおぞましい数々の蛮行は、神聖ブリタニア帝国という大きな組織になんの損害も与えず、単に目立つだけの成果しか生み出していない。 彼らは結局、理由をつけて暴れたいだけだ。

 

 キョウトへの義理を果たした今、彼らと組み続けたところで何の益はない。

 

「無駄な破滅願望だとぉ?」

 

「それ以外になんと言えばいい? 目立つような行動を繰り返す上に、ブリタニア軍に対して有効打を与えるような作戦は一切していない。

弱者を攫って、いたぶって、殺して、晒して。 お前たちの得意科目はこれだけ。

ブリタニア軍から睨まれるためだけに行動してるようにしか見えない」

 

 彼らがブリタニアに生まれていたら、きっとその時は日本人をイレブンと呼んで似たようなことをやっていただろう。

 

「成程。 ここで無様な屍を晒したいらしいと見える」

 

「……ナオト」

 

 扇が耳打ちをする。

 

「わかっている。 ……俺たちに争う気は無い。

日本人同士で争っても無意味なだけだ。 さっさと帰せ。 そうすればこれ以上文句は言わん」

 

「どの立場で物を言っている? もしかして銃を見たのは初めてか?」

 

 テツマの言葉により、笑いが起きる。 向けられた銃口が揺れていた。

 

「帰すつもりは無いと?」

 

「当たり前だ。 貴様らは我らの拠点の位置を知っているからな」

 

「……はぁ」

 

 話にならない。ブリタニア人相手の方がまだ日本語が通じる。頭を抱えながら、扇に目配せをすると頷いてくれた。

 嫌な予感がするし、さっさとここから消えた方が得策だ。

 

「わかった」

 

「…? なんだ、今になって我らと正義を共にすることを──」

 

「お前たちがどうしようもない馬鹿だということがわかったんだよ」

 

 刹那、ナオトはポケットに隠し持っていたスイッチを掲げ、容赦なくボタンを押した。

 

 爆発と共に崩壊した天井が、鉄柱の雨を降らす。

 土埃の中、銃を向けていたテツマの側近たちの断末魔が鳴り響く。ボタンを押した瞬間にナオトらは、事前の計算通りに巻き込まれないよう爆破が成功していることを祈りながら、 その場に伏せた。

 

 

 テツマの技術士官時代の経歴に入った瞬間、ゲットーの奥の方で煙が上がった。 あれは白馬衆の拠点である廃工場がある方向ではないか。

 

『イレブンどもに動きがあった。 ……仲間割れか?』

 

 訝しむジェレミアに、ヴィレッタが口を挟む。

 

『ジェレミア卿。 決められた時刻ではありませんが、ここで攻めるべきでは? どちらにせよ相手は弱兵。 混乱に乗じて横槍を入れてやれば簡単に殲滅できるでしょう』

 

『ふむ』

 

 こちらには30機のサザーランドが揃えられている。

 敵の中に元日本軍人が居るとはいえ、過剰戦力もいいところだろう。

 

 白馬衆はその過激な活動内容からKMFを動かす事が出来る構成人数もそこまで多くない。

 内部での粛清行為も横行しているらしく、他の組織に人員が流入している節もある。 それなりの数のKMFを保有していたとしても、性能は当然として動かせる数も限られるだろう。その分、生身の捨て駒は沢山用意している、という噂だが。

 

『確かに今が攻め時か。

いいだろう。 狩りを始めようじゃないか』

 

 ジェレミアがそう宣言した瞬間、無数のランドスピナーが駆動する音が山林に鳴り響いた。当然、私もそれを奏でる内の一人で、木々を避けながらゲットーを目指す。

 

『クルシェフスキー卿、君には単騎での遊撃を行ってもらう。 くれぐれも獲物を独り占めしてくれるなよ?』

 

 笑い混じりの通信がジェレミアから飛ばされる。

 

『Yes, my lord』

 

 それだけ答え、私は山林を抜けた。

 モニターに映される廃墟だらけの街で生活をしている人々は突如として現れた殺戮装置に驚愕し、逃げ惑っていた。母に庇われながら泣き叫ぶ子供の姿が視界の隅に入り込む。思わず、操縦桿を握る力が強くなった。

 

 今のところ、攻撃らしい攻撃は行われていない。

 サザーランドたちは目標地点である廃工場を囲めるよう、四方から展開されている。 わたしの役目は状況に応じて、それらを援護することだ。 つまり、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する必要があるわけだ。簡単に言ってくれる。

 

 なんて考えていると接敵した旨の通信が相次いで流れてきた。

 

『こちらP-5。小銃による射撃確認。 被弾あり。損害微少。 ……処理した。

周辺にいた民間人らしきイレブン、3名ほど死亡』

 

『構わん。 大義のための犠牲だ』

 

『こちらR-8、爆発物らしきものを持ったイレブンの女を発見。 これを処理』

 

『便衣兵とは卑劣な。 徹底的に根絶やしにしてやれ』

 

 ……こんな通信が、立て続けに何件も流れてくる。

 この数十秒で何人死んで、何人の人生がぐちゃぐちゃになったのだろうか。

 

 ランドスピナーで街中を駆けている間、自分自身に対して違和感のようなものを抱いていた。 いつもの自分であれば、KMFに騎乗すればその瞬間に、全ての集中力をKMFに注ぐことが出来ていたはず。 五感を拡張させるように、一切のノイズも混じることなく。

 

 余計なことは考えるな。 ここは戦場だ。ただ、ひたすら殺すために思考を透明にしないと───────

 

『し、死ねぇブリキィィイ!』

 

 通り過ぎたビルの影から、そんな己を奮い立たせるような叫びとともに無頼が飛び出てきた。索敵が明らかにいつもよりも甘い。なぜかわからない。仮に彼が恐慌状態で自己の存在を誇示していなければ、不意打ちを食らっていた。

 

 私は冷静になるように自分に言い聞かせながら、後ろからの射撃を避けた後に、ランドスピナーでドリフトしながら射撃を行う。

 

『────ぁ』

 

 弾は全てコックピット部に命中した。 脱出機構は機能しない。

 停止した無頼はやや遅れて爆発した。 パイロットは間違いなく今ので死んだ。

 

「こちらP-3。敵KMF1機と接敵。 これを撃破。 引き続き前進する」

 

『よくやった、という褒め言葉すら要らんな、卿には。 そのまま歩調を合わせつつ敵を殲滅しろ』

 

  ジェレミアの指示を確認した私はそのまま、再び正面を向こうと操縦桿を握る。

 

「了解。 ─────?」

 

 一瞬だけ、手が自分のモノではないような錯覚に陥った。手が動かない。 前進のためにすべき操作を怠った結果、サザーランドが不細工な体勢のまま急停止する。

 

「……」

 

 疲れているのか。 私は自分自身の異常事態に、足を止めて考え込む。 わからない、少なくとも休息は作戦前に充分とったはず。 わからない。

 

────ただひとつハッキリしていることは、戦場において止まることは死を意味するということだけ。

 

 刹那、ファクトスフィアがこちらに飛来する擲弾を捉えた。

 ランドスピナーを急旋回させそれを回避し、こちらへ攻撃をしてきた方向へアサルトライフルを向ける。あの弾頭はこちらを殺し得る。 内部式の対歩兵用銃では間に合わない。 迷っている暇など無い。 私はトリガーに指を掛け

 

────そこには、私と同じくらいの少年少女数人が怯えた表情で各々が火器を構えていた。一瞬だけ、彼らに生徒会メンバーたちの顔が重なる。

 

 身体が硬直する。そのせいで、射撃を行うまでにほんの少しだけラグが生まれた。

 

 彼らが血霧に変わる寸前に放った3発の弾頭のうち1発が、こちらへ届く。 激しい揺れがコックピット内を襲った。

 

 揺れが収まり視界がようやく安定した刹那、胃が強烈な不快感とともに痙攣し、内容物が食道を駆け上がって口から噴き出された。衝撃のせいか? いや、吐くほどの衝撃ではなかった。 では何故。

 

 吐瀉物を拭うために口元を触ると、自分でも知らないうちに何かを繰り返し呟いていた。私は何を言っている?

 直撃してからずっと続いていた耳鳴りがようやく収まり、自分が何を言っているのかようやくわかった。

 

────ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

 

 それは誰に言っているのかも分からない、懺悔の言葉だった。

 先程の攻撃で、コックピットの一部が破損し露出してしまっており、走る度に強い風が頬にあたる。 おかげで吐瀉物の不愉快な臭いがうちに篭もることはなかった。 だと言うのにこの不快感はなんだろう。

 

 どれだけ思考を理性的に整理しようと思っても、懺悔の言葉は断絶なく吐瀉される。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

 ああ、どうやったら止まるのだ、これは。

 口を塞ぐ。 手が震えるせいで上手くいかない。 彼らが立っている場所を見ると、そこには彼らだった残骸が────

 

 また、空っぽになったはずの胃の底から酸っぱいものが湧き出てくる。吐瀉物を口から零しながら、私は少しでもその場から離れようと、ランドスピナーを駆動させる。損害そのものは運良く微小で済んでくれたようだ。コックピット自動射出の基準を低く設定していてよかった。

 

──何が悲劇を傍観することへの贖罪だ。 何が大義だ。 何が撃つ覚悟だ。何が、何が、何が。

 

 冷静に目標地点までサザーランドを動かす私とは別の私が、頭の中で私を責めたてた。

 

──何かを奪う責任を負いたくなかっただけでしょう。あの青年を見逃した時だってそう。貴方は物語が壊れるのを恐れたのではなくて、誰かの大切なものを奪うのが怖かっただけ。

 

 道中では多くの攻撃を受けた。 KMFだろうと生身だろうと、彼らは捨て身で私に向かってきた。

 

──貴方が訓練してきたのは、いつだって人を殺すための技術。大好きだった彼らに殺されるため? 貴方がそこに行き着くまでに何人惨たらしく殺すのでしょうか? それが貴方の贖罪ですか?

 

 その度に私は彼らを効率的に殺した。 寸分違わず、一撃で。鉄クズと共に、血肉が空を舞う。 彼らの断末魔がずっと私の耳に付き纏ってくる。

 

──この人殺し。

 

 吐瀉物とは別の液体が、頬を伝ったのは、目標地点に到着したのとほぼ同時だった。 目の前にいるのは、サザーランドに酷似した黒いKMF。

 

『P-3、いくらなんでも突出しすぎだ。 歩調を合わせろ』

 

「目標地点に到着。 戦闘を開始します」

 

『……? 状況を詳細に説明せよ』

 

「サザーランドを模したと思しき敵KMFと遭遇。即刻処理します」

 

 通信を完全に切断し、敵を見定める。

 

──誰かの幸せを奪うことと同義であっても、ですか?

 

 私はその言葉を振り払い、敵へ銃口を向けた。

 

 

「ナオト!! 生きてるか!!!?」

 

 玉城の加減を知らない声が瓦礫だらけになった廃工場で響きわたる。

 

「ああ!」

 

 扇の手を借りながら、どうにか立ち上がる。

 頬を撫でると血が手についた。 頭のどこかを打ったらしい。 特に痛みや不快感はないので心配ないと思いたいが。

 

「奴らは?」

 

「みんな下敷きだ。 テツマは……」

 

「逃げられたか」

 

 扇の顔色で察する。さきに仕掛けたのはあちらとはいえ、かなり面倒なことになった。

 

「キョウトにはなんて言い訳しようかな」

 

「それよりやべぇぜナオト! 見ろ!」

 

 玉城が指さす方に目を向けると、多数の煙と銃声が聞こえてきた。

 

「……クソッ」

 

 ナオトは悪態とともに、ここ最近の間の悪さを呪った。あの少女と出会ってから運に見放されているような気がする。

 

「まさか…」

 

「間違いなくブリタニアだ。 そんな気はしてたが、選りにも選ってこのタイミングで…」

 

 聞こえてくる銃声から、かなりの数のKMFが動員されているようだ。白馬衆はやりすぎたらしい。

 

「扇、杉山たちは?」

 

「たった今、ゲットーから離脱したと無線が! 俺達も早く…」

 

「そうだな、急ごう」

 

 今にも崩落しそうな廃工場から外に出ると、すでに駐車場付近でKMF同士の戦闘が始まっていた。

 

「おいおい、ブリキ同士でやり合ってんのか!?」

 

「いや…あれは」

 

 脳裏にテツマが下卑た笑みとともに、秘密兵器とやらの自慢を、元技術士官だったときの武勇伝と共にしていた時のことが思い浮かんだ。

ブリタニア人の民間人を攫っていた彼らだが、攫ってきた者の中にKMFの開発に関わっている者が混ざっていたらしい。

 

──指ひとつごとにブリキの最新型について話させた。 案外、これが簡単でなぁ。

 

 簡単、というのは拷問についてか、開発についてかはわからない。

 ただ、彼らはその断片的な情報をもとにブリタニアの最新型であるサザーランドを模造したのだ。

 

 当然、そんな無茶が上手くいくはずがない。

 出来上がったのは瞬間出力だけは本物に匹敵するだけの欠陥機。 本物よりも燃費が極端に劣っている上に、コアルミナス周りを半可通のテツマが無理やり弄ったせいで、同じく半可通のナオトから見ても劣悪なことになっている。 長く動かせばオーバーヒートしてしまい自爆するだろう。

 

 乗っているのは目立ちたがり屋のテツマか。大方、自分たちを殺すために虎の子を引っ張り出したところを、ブリタニアのKMFを発見し考え無しに戦いを仕掛けたのだろう。 ならば───

 

「共倒れしてくれたら有難いが」

 

 そう言って本家本元の方のサザーランドに目を向け、見開いた。

 

「おいおいおい…」

 

 損壊し露出したコックピットの中に、知っている顔がいた。

 怪我をしている。 様子もどこかおかしい。

 

「どうしたナオト! 早く行くぞ!」

 

「……扇」

 

 続きを言うか少し迷ったあと、扇に告げる。

 

「先に行っていてくれ。必ず戻る」

 

「は!? 何を…」

 

 扇の制止を無視して、白馬衆がKMFの隠し場所にしている倉庫へ向かって駆け出す。テツマがあの出来損ないに搭乗しているなら、彼専用の無頼がまだ残っているはずだ。

 

 走りながらナオトは改めて自分の間の悪さを呪った。

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