モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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16.ヨコハマゲットー殲滅戦線②

 元となった無頼の面影を隠せていない、所々で配線が飛び出ているなど外装すらまともに繕えていないまさにサザーランド擬きだが、その性能自体はサザーランドに匹敵するものがあった。あくまで部分的にだが。少なくとも無頼を相手した時と比べれば圧倒的に苦戦を強いられていた。

 

──いや、今の私が弱いだけか。

 

 胃の中が本当に空っぽになってくれたおかげで、嘔吐は止まってくれた。しかし、いつもならKMFに乗った瞬間に澄み渡る思考が一向に定まってくれない。

 

 ここに来るまで殺してきた人たちの怨嗟が纏わりついて離れない。敵の荒い動きに、殺せそうな瞬間を見つける度に手が竦む。

 

『なんたる惰弱よブリキィ! この最上テツマが貴様をあの世へ送ってやろう!!』

 

 敵のKMF搭乗者がスピーカーで己の存在を誇示した。最上テツマ、敵の首魁。

 未だに流れ続けているであろう味方たちによる殺害報告を止めるには、彼を討つ必要がある。 でも、それが出来ない。

 

 突出したせいで、味方がこちらに来るまでまだ時間はかかる。なら、私一人で目の前の敵を殺すしかない。

 

 回避から攻撃に転じようとする度に、私が殺した彼らの顔が過ぎる。

 きっと、彼らは白馬衆に脅されてこの戦闘に参加していたのだろう。あの時、もし私が投降を呼び掛けていたら、もしかしたら────

 

『そこォ!!!』

 

 テツマはこちらの迷いを見逃してくれるほど、弱くはなかった。

 右腕部をスラッシュハーケンで抉られ、コックピットが激しく揺れる。

 

 今の攻撃により、右腕部は使い物にならなくなった。 死が近付いてくる。何とか、続く敵の攻撃を回避しながら攻撃の機会を探る。しかし、その度に強烈な不快感が腹の底から湧き出て、動けなくなってしまうのを繰り返していた。

 

『獲ったァ!!』

 

 こちらがバランスを崩したのに合わせ、スタントンファーでこちらのコックピット目掛け、鋭い刺突を仕掛けてきた。

 避ける、ダメだ、間に合わない。反撃、手が動かない。 ああ、私、死ぬのか───

 

『──なにッ!?』

 

 攻撃がこちらに届く寸前、サザーランド擬きに視界の端から現われた無頼がタックルを行った。

 サザーランド擬きはそのまま衝撃で転び、私とサザーランド擬きの間に無頼が立ち塞がった。 まるでこちらの盾になるかのように。

 

「─────」

 

 何が起きているか分からず、戦場でありながら呆然としてしまう。

 

『なにぼーっとしてる! いつもの生意気な君はどこに行った!?』

 

 目の前の無頼からそんな声が響いた。

 

「紅月ナオ、ト……?」

 

 なぜ、彼がここに?

 いや、それよりもなぜ彼が無頼に乗り込んで、私を助けているのか。

 

『言ったろ、借りは返すって!!』

 

 そう言って起き上がり、こちらへ突進してくるサザーランド擬きに組み付く。無頼より明確に性能は上なサザーランド擬きに、どういう訳か彼は押し勝ち、サザーランド擬きを退ける。

 

『シミュレーターでも思ったがKMF操作って案外……簡単だなッ!』

 

 やはりカレンの兄なだけあるということなのか。

 彼が駆る無頼は、縦横無尽に動き回りサザーランド擬きを翻弄する。

 

『紅月ナオトォ! 貴様、日本人でありながら我らに牙を剥くだけでなく、ブリキに与するか!!』

 

 サザーランド擬きは激昂しながらスタントンファーを振り回すが、かすりもしていない。だが、無頼の装備では決め手がない。

 

「私も、動かないと────」

 

 加勢しようとして、手が震える。怖い。死ぬのが、では無い。 何かを奪うことが、怖いのだ。

 操縦桿を意識する度に、ここに至るまで殺してきた人達の顔が思い浮ぶ。皆一様に、怯えていた。

 

 KMFを動かせば人が死ぬ。 そんな単純な原理を私は今まで見て見ぬふりをしていた。今まで私が人を殺さなかったのは運が良かっただけ。

 

『───戦場でビビるな! 最年少騎士!!

殺しに来てる敵がいる時は、まず生き残ることだけを考えろ!!』

 

 紅月ナオトが、吠えた。それに応えるように、私の身体が震えた。生き残る、生き残れ? 私が? なんのために─────

 

『君を待っている人がいるんだろ!? じゃあ、そいつらの顔を思い浮かべろ!!』

 

 リヴァル、ニーナ、シャーリー、ルルーシュ、ナナリー…アッシュフォード学園で出会った掛け替えのない友人たち。

 

 セシル、ラクシャータ、プリン伯爵…まだ宙ぶらりんだった私に、良くしてくれた人達。 実の子でないのに、目一杯に愛してくれた両親たち。

 

 彼らの顔が思い浮かぶ。だが、それでも。

 

 出来損ないのサザーランドは、ナオトの動きに適応しつつあるようで、かすりもしなかった攻撃は徐々にナオトを捉えつつある。だが、私は動けない。

 

 生き残る、それはつまり敵を殺すということ。生きる対価として私は敵の命を死神に捧げなければならない。 私に、そこまでして生きる価値はあるのか?

 

────死ぬ事が贖罪なのでしょう? では、いつ死のうが同じでは? いえ今死ねば貴女の分だけ、未来での死者が減る。 このまま死にましょう?

 

 もう一人の私が、震える私を囁きとともに優しく抱擁した。そうだ、ここで死ねば、もう誰も殺さずに済む。 なにも、奪わなくていい。

 

『俺にだって待たせてるやつはいる!! 最近は素っ気ないがッ!!』

 

 そうか、彼には生き残らなければならない理由があるのか。 例え奪ってでも。 けれどそんな生き方、私にはできない。

 

 サザーランド擬きのスタントンファーが無頼を捉え、痛打を与えた。無頼は大きくバランスを崩しながらも、やはり時間稼ぎに徹する。

 

『ッ! クソ、武器さえあれば…』

 

『よくもまぁごちゃごちゃと騒ぐッ! 早く死ね!!!』

 

 逃げろ、と叫びたくなる。

 このままではナオトは死ぬ。 サザーランド擬きに殺られなくとも、これからやってくるであろうジェレミアたちによって、サザーランド擬き諸共、情け容赦なく屠られるだろう。

 

 私が動けば彼を救える。 いつものように、動けさえ出来れば。

 

───そう、さっきみたいに効率的に敵を殺せば、彼を助けることができるでしょう。

 

 生殺は表裏一体。 ナオトを生かすためには、目の前の敵を殺さなければならない。それも速やかに、確実に。出来るのか。 それはきっと出来る。 問題は、それを私がやっていいかどうか。

 

 サザーランド擬きは動きの精度を増していく。 それに反比例するように無頼は鈍くなっていく。隙を見てはこちらへ向かおうとしてくるサザーランド擬きと、それをボロボロになりながら阻む無頼の戦いはきっとあと少しで終わりを迎え、呆然と傍観するだけの私の人生も閉幕する。

 

 四方から絶えず聞こえてくる銃声と断末魔もまた、少しずつ確実にこの廃工場へ近付いてきている。 全てがあと少しで終わる。私は全てを放棄して、目を瞑った。瞼の裏に流れる物語、それはある種の走馬灯のようで。

 

────さぁ、物語はお終い。 楽になりましょう。

 

 退廃的な安堵が私を包み込もうとした、その時。

 

『お前が死んだら、どんな顔をする!? 少なくとも喜びはしないだろ!!!』

 

 それを許さないと弾劾するように、ナオトの声がコックピットまで届く。目を開けると、スタントンファーによって今にも貫かんとされてるナオトの無頼が映った。 なぜ、そこまでして。 そんな疑問を抱く前に、彼の言葉によって呼応された一人の少女の泣き顔が思い浮かんだ。

 

─────私のために泣きながら縋りついてきたミレイ。 本来、知り合うことすら無かったはずの、親友。

 

『だったら!!!』

 

『いい加減口を閉じろ、匹夫がッ! これで楽に…』

 

─────紅月ナオトの方に向けて、私は操縦桿を握りしめ、ランドスピナーを急速に回転させる。

 

 懺悔も、自責も、まずは生き残ってからだ。

 そのために先ずは────────

 

『なっ!? な、なんだその動きは!?』

 

───────目の前の敵を屠る。

 

 アサルトライフルは、もう要らない。 間合いを詰めながら、敵に投げつける。 クルクルと円盤のように横回転しながら投擲されたライフルは、敵へと直撃した。

 

 よろけた。 私はスタントンファーを伸ばし、急接近する。両腕のスタントンファーは敵のコックピット部に突き刺さり、激しい電流が走った。

 

『おのれ、ブリキィィィィィ!!』

 

 敵の断末魔に、身が竦む。 だが、それ以上に彼らに会いたいという気持ちが一瞬だけでも勝ってしまった。

 ああ、自分で思っていたよりも───

 

「我が身が可愛かったんだ、わたし」

 

─────電流が流れ終わった頃には、サザーランド擬きも断末魔も沈黙していた。 それを確認した私は、煙を上げるスタントンファーを引き抜いた。

 

 まだ、罪悪感は消えない。 さっきまで殺されかけていた敵だって如何に残酷なことをしてきたかを知っているはずなのに、殺したことを考えると胸が酷く傷む。 それでも、私は生き残ったことに嬉しさを感じていた。感じてしまっていた。安堵と自己嫌悪は、私の首を優しく締め付ける。

 

 ああ、そうだ、お礼を言わないと。

 私はそう思い紅月ナオトの方に、向き直り────

 

『バカッ! その出来損ないから離れろ!!!』

 

「────え?」

 

 紅月ナオトが乗る無頼が私を押し退けたのと、背後のサザーランド擬きが桃色の光を強く放ちながら爆発したのは、ほぼ同時だった。 強い衝撃の後、意識が暗転し────

 

 

 強い痛みとともに目を覚ますと、視界には星空が広がっていた。

 先程よりもさらに損壊したコックピットは完全に天井が無くなっていた。動く度に激痛が走る身体をどうにか言うことを聞かせながら、外に顔を出す。そこには、見知らぬ景色が広がっていた。

 

「……脱出機構。 まさかお世話になるとは」

 

 サザーランドから脱出したコックピットはどうやらかなり遠くまで私を避難させたらしい。辺りには木々しかない。 振り返ると、赤々と燃える廃墟街が目に入った。

 

 銃声は止んでいる。 少なくとも最上テツマの死亡は確認されたのだろう。

 

 味方の元へ向かおうと足を動かした刹那、鋭い痛みで停止する。そして、その痛みを切っ掛けとして、大切なことを思い出した。

 

「───紅月ナオト」

 

 そうだ、彼はどうなった?

 記憶は曖昧だがサザーランド擬きが爆発する寸前、彼は身を呈して私を庇ったはずだ。

 

 彼が盾になってくれていなければ、私は死んでいたことだろう。

 だがそれはつまり、彼が私の分のダメージを請け負ってくれたことを意味する。

 

 最悪な想像が脳裏を過ぎる。

 駄目だ。 まだお礼を言っていない。 二度も助けられたのだ。

 

「────ぁ」

 

 焦燥に駆られながら、辺りを見渡していると、ほんの少し離れたところで、煙が上がっているのが見えた。

 私は痛みに耐えながら、その煙の元へと急いだ。 そこには、所々が黒く焦げたボロボロのコックピットがあった。

 

 絶望的な気持ちになりながら、私は這う這うの体でそのコックピットまで歩く。 怨嗟の声はずっと続いている。 さっき殺した最上テツマの声も加わりさっきよりもより強く、私の身体を呪縛する。

 

 この声の中に紅月ナオトやカレンが混ざるとしたら、私はもう耐えられない。思わず、腰に携えている拳銃に意識が行ってしまった。それだけは、絶対にしてはいけないのに。

 

「からっぽ。……よかった」

 

 中身を確認して思わず、腰が抜ける。 こんな所をロイドに見られたらきっと「おめでとお〜」なんて揶揄われるだろうな、なんて思って小さな笑いが零れた。

 

 ふと尻もちを搗いている地面を見てみると、足跡を発見した。 本当に良かった、生きていた、と思った刹那、その足跡の付近に多量の血痕があることに気付き、私はその足跡を追うために、フラフラと立ち上がった。

 

 この血痕を見る限り、ナオトはかなりの傷を負っている。まだそこまで遠くに行けてないはず。

 そもそもそんな状況で、どこに行くというのか。呼び戻さないと、死ぬかもしれない。

 

 私はフラフラと時に木に靠れながらも、足跡を追った。

 途中で、本質的に敵である自分が彼に追いついてどうするのか、このまま行方不明になってもらった方が物語としては良いのではないか。 そんな考えが次々と浮かんでくるが、私はその全てを拒絶して、ナオトを追った。

 

「───いた」

 

 夜であることと木の背面にいるせいで幹からはみ出た脚部しか見えないが、足跡と血痕は間違いなくその人影につづいている。

 

「紅月ナオト────!!」

 

 私は駆け寄ろうとした。 が、

 

「来るな、モニカ・クルシェフスキー」

 

 木の裏にいる彼の声で、制止された。私がどうして、と尋ねる前に彼が答える。

 

「来てどうするつもりだよ、全く。 ブリタニア軍人が手負いのテロリストを介抱するつもりか?」

 

 どこか諭すような優しい声色で、ナオトは笑った。

 

「で、でも、貴方は私を助けてくれて…」

 

「借りを返しただけだよ。 君が俺に言ったように、礼を言う必要なんかないさ」

 

「……私は人を殺しました。貴方が命を懸けて助ける価値なんか」

 

「俺だって人殺しだよ。お互い戦場にいる以上、そこを言っても仕方ない」

 

 違う、違うのだ。 私と彼は明確に違う。

 

「私は、子供を殺しました」

 

「……なるほど、だからあんな顔をしてたんだな、君は。

俺だって罪がない人間を沢山死に追いやってる。 今日だって何人俺のせいで死ぬことになるか」

 

 鉄柱の下敷きになってるヤツらを待ってる子供だっていただろうな、とナオトは自嘲混じりに吐き捨てた。

 

「でも、私はこの手で直接撃って…!」

 

「……子供が子供を殺す。 そんな世界の方が間違ってるのさ。 なんて言っても、なんの慰めにもならないか」

 

 言って、ナオトは激しく咳き込んだ。 明らかに血が混じっている音だ。

 

「その怪我で、なぜ無茶を…!」

 

「別に、大した怪我じゃない。 それより早くゲットーの方へ戻れ。

ここだとお仲間も君を見つけ難いだろう」

 

「……貴方も一緒に。 投降すればきっと治療を…」

 

「の前に射殺だよ」

 

「私が事情を説明します!!」

 

 騎士を身を呈して庇ったと説明すれば、きっと温情を与えられるはず。最悪の場合、シュナイゼルに助命を願えば…

 

「どっちにしろ俺がブリタニアに捕まれば割を食うやつらがいる。

君だって知っているだろう?」

 

「…え?」

 

「カレンだよ、カレン。 カレン・シュタットフェルト。 同じアッシュフォード学園に通ってるんだ。不登校気味だけど、顔くらいは見た事あるんだろ? 流石にもう惚けなくていい」

 

 どうやら、あの件のことを彼はそう解釈してくれたらしい。

 

「俺がブリタニアに捕まって身辺を調べられると、あいつの身が危うくなる。 それだけは避けたい」

 

「ですが……」

 

「別にこのまま人知れず死のうなんてことは思ってないさ。 本当に、怪我はそこまで酷くないんだ」

 

 彼はそう言って立ち上がった。 それが強がりなのか、本当なのかは、今の私には読み取れない。

 

「これでも伝手はある。 腕のいい闇医者を何人か知ってるんだ」

 

「……」

 

「それに、人を海外へ運んでくれる密輸業者も」

 

「────え?」

 

 予想外の言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。どういう意図で、彼は密輸業者を話題に出したのだろう。

 

「ある程度落ち着いたら、姿を晦ませるつもりなんだよ。 流石に色々とバレすぎた。 顔もだけど、名前と妹まで」

 

「わ、私は喋ったりなんか」

 

「そう信じてる。 でもまぁ、万が一がある。 それに出国自体は実は前から考えてはいたんだ。ブリタニアの支配を崩すのに内からだけじゃ限界がある。

信頼出来るやつにだけそれを伝えて、さっさと消えるよ。 幸い一番大事な作戦の引き継ぎは終わってるしな」

 

 おっとこれは内緒、とナオトはおどけてみせた。大事な作戦、それはきっと魔神の誕生に繋がるピースの一つ。

 

「君もこの件がすんだら軍人を辞めろ。 どう考えても向いてない」

 

「……そういう訳にはいきません」

 

「まぁそうだよな。 俺だって妹やお袋から危険なことは止めろって言われても、止めないだろうしな。 ……まぁ、暫く休むことはお勧めしておく。 いや、その怪我じゃどっちみち病院に監禁か」

 

 ナオトは笑うが、咳まじりのそれは痛ましいだけで場を和ます効果など一切有していない。

 

「……」

 

「きっと休んでる間に、本当は自分が何をしたいのかよくわかるだろうさ。 少なくともそんな面で戦うのはこれで最後にしておけ」

 

 十字架を背負った救世主じゃあるまいし、とやはり笑えないジョークで締め括る。

 

「そういうわけで、多分これで最後だ。 食料のあれこれはもうバレる心配がない。 よかったな」

 

「……」

 

「おっと、拗ねたか? カレンも怒ったらすぐに黙って怖い顔するんだよな。

あっそうだ。 カレンをよろしく頼むよ。同じ学校なんだろ? あいつ友達居ないみたいなんだ。 色々と大雑把なやつだけど似た者同士多分仲良くやれるさ」

 

「人のことを大雑把だの、生意気だのと…」

 

「はは、やっぱり思った通りだ。 ……それじゃあな」

 

 ナオトは振り返らず手を振り、その場を去ろうとする。

 

「───待ってください」

 

 私はそれを思わず制止する。 ナオトは足を止めた。

 

「どうした?」

 

「───最後にひとつ、聞きたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「もし、明日のことがわかるとして、その明日が自分や、自分の大切な人、無数の罪なき人の犠牲の上で成り立っているとして、

 

───その明日が今日よりよっぽど良いものだったら、貴方は受け入れますか?」

 

 私の質問に、ナオトは暫し沈黙したあと、軽い調子で答えた。

 

「俺ならもっといい明日を目指すよ。 自分や大切な人たちを生かした上で、その良い明日ってやつを再現するために頑張るだろうな」

 

「───────」

 

 ナオトの答えに、私は虚をつかれたような気がした。

 

「それをした結果、本来の結末より酷いことになるかもしれないのに?」

 

「人生なんてそんなもんだ。 良かれと思ってやったことが裏目に出ることもある。 でもその逆だって当然あるだろ?

人生は筋道が決まりきった物語じゃないんだ。 足掻いてみる価値はある。 その上手くいった明日だって、誰かが失敗しながら足掻き続けた末に掴み取った明日かもしれんしな」

 

 そう言って、彼は初めてこちらに振り向き笑った。

 

「ま、お互い頑張ろうぜ」

 

 今度こそ彼は一度も振り返らずに、その場を後にした。 私は、どうすればいいか分からず、陽光が森を照らすまでその場に座り込み、呆然とした。その間、ずっとナオトの言葉を頭の中で反芻していた。

 

 私は、私の人生を生きていいのだろうか。 どれだけ考えてもその答えは出なかった。

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