モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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17.命の価値

 ナオトとの別れから間もなく私は無事ブリタニア軍に回収され、軍お抱えの病院にて、いたれりつくせりな治療を受けた。

 

 右腕と左脚が折れてたらしく、なんでその状況で歩いたのかと医者から叱られてしまった。 流石に恩人のテロリストに会いにいくため、とは答えられなかったので、錯乱して味方と反対方向に歩いていたと言い訳した。

 

 病室には色んな人がお見舞いという名の、お説教をしに来た。 まず最初にやってきたのはジェレミアで、お高そうなフルーツ盛りを携えて病室に入ってきた。尚、オレンジは含まれていない。

 

「なぜ突出した。 功を焦る気持ちはわからんでもないが、それで死にかけていては話にならん。それにあのような劣悪なサザーランド擬きに殺られかけるとは。普段の鍛錬が足りんのではないか?

 

そもそもだな、シュナイゼル殿下がなぜ幼き卿を騎士に任じたのか、その意義をだな、今一度しっかりと自分で考えて……」

 

 最後の方は熱くなりすぎて三時間くらいお説教と激励の言葉を交互に述べ始め、看護師たちに力づくで追い出されてしまった。

 

 彼の次にやってきたのは、カノンだった。本国から私のためにわざわざ来てくれたらしい。いつもと同じように優しい微笑みを浮かべた彼は、私のベッドに腰かけて今回の働きについて労ってくれた。

 

「聞いたわよ。 敵の首魁を討ち取ったんでしょう? まぁ、ちょっと勇み足なところは騎士として改めるべきだけれど、それでも素晴らしい戦果。

敵であっても命を奪うというのは辛いこともあるでしょうけど、それでも今は戦い抜いて、しっかりと生還した自分を甘やかしてあげて。

 

それとシュナイゼル様、貴女とのチェスを楽しみにしてるみたいだから、くれぐれもお大事に」

 

 優しい言葉が続いたのに、最後の一言のせいでそれまでの温かい励ましが吹っ飛んで、憂鬱な気持ちだけが残った。 主とのチェスにこんなネガティブな感情を抱くのは不適切だろうが。

 

 そして、次に生徒会メンバー。 なぜか、一番会いたかった人物はそこには居なかった。

 

「モニカ先輩…よかった…無事で」

 

 病室に入ってくるなり、シャーリーが号泣しながら抱きついてきた。

 

「心配をかけてごめんなさい、シャーリー。 いえ、みんな」

 

「本当ですよ。 言ったそばから無理して」

 

 ルルーシュが困ったような顔で苦笑した。 軍関係者や貴族、いや下手したら皇族と出くわす可能性があるのに顔を出してくれた彼に、申し訳なさと同時に有り難さを感じる。

 

「ナナリーもお見舞いに同行したがってたんですが、さすがに」

 

「そうですよね……出来る限り迅速に退院しますので、ナナリーには代わりに謝罪を」

 

「いえ、ゆっくり療養してください。 本当に」

 

 ルルーシュが笑顔で圧をかけてきた。怖い。

 

「それにしても結構な無茶をしたんですね先輩。 バキバキに折れてる足で200メートルくらい歩いたそうじゃないですか」

 

 本気で感心したような口振りでリヴァルが言い、それを傍らのシャーリーが肘で突ついて注意する。

 

「あの、モニカ……さん」

 

 一人だけずっと黙っていたニーナが私に少し近づいて、口を開いた。

 

「なんでしょう、ニーナ」

 

「モニカさんにそんな怪我を負わせたのって、イレブンたちですか…?」

 

 怯えるように揺れる瞳を、私に向けた。私はしばし、なんと言うべきか迷った後に答える。

 

「……軍の守秘義務上、詳しいことは言えません。

ただ、この怪我に関しては私の不注意で生じたものです。

仮に、この怪我が日本…いえ、イレブンたちの攻撃によるものだとしても、私たちが先に彼らに攻撃を与えたのです。 その反撃は決して罪ではありません」

 

 これはオフレコでお願いします、クビになっちゃうので、とつけ加えてニーナに微笑む。ニーナは驚愕したような表情を浮かべたあと、何も言わずにそのまま後ろに引っ込んでしまった。敢えて日本人に寄りすぎないようイレブンと言い換えたが、どこまで効果的かはわからない。

 

 あの時に奪った命について、罪悪感は全く消えていない。

 眠っている時に何度も彼らの死に際の顔や断末魔が夢に出てきて、何度も飛び起きてしまう。きっと、これは生きているうちはずっと続くのだろう。こうしてルルーシュたちと話している間もずっと、フラッシュバックして叫びたくなる。

 

 私は彼らの顔を忘れてはならない。 きっと、これから奪っていく命全ての責任を私は背負って生きていかなければならないのだ。

 だからこそ思える。 そんな罪を目の前の彼女に背負わせたくは無いと。 ゼロレクイエムが果たされた世界で、罪を償うために人生を捧げる彼女を知っているから、尚更に。

 

 あの日から、明らかに私の行動指針は変わっていた。それが良いことなのか、悪いことなのか、たぶん今判断できるようなことではないのだろう。

 

「とにかく、完全に治療を終えてからじゃないと生徒会室には入れませんからね。これは会長命令でもあるん…」

 

「ちょっと、ルル!!」

 

 シャーリーの言葉に、珍しくルルーシュがしまったという顔を見せた。これを機にずっと気になっていることを聞いてみよう。

 

「えっと、ミレイはどこに…?」

 

 途端、それまで和気あいあいとしていた生徒会メンバーの顔色が曇った。いよいよ一抹の不安が胸に到来する。

 

「会長さんは、えっとぉ〜」

 

 リヴァルがいかにも言い訳を考えてます、というような仕草をする。

 他のメンツも同じような感じで、ニーナですらどこか気まずげに顔を伏せていた。

 

「あの、もしかして……

 

────ミレイ、すっごく私に怒ってます?」

 

 はい……という、消極的な同意が生徒会メンバー全員の口から発せられた。

 

 

 それから一ヶ月の療養期間を経て、私は漸くアッシュフォード学園の校門に立っていた。 初めてここに来た時のような歓待は一切なく、私は緊張とともに再びこの地へ足を踏み入れた。

 

 一ヶ月間、本当に色々とあった。

 リハビリも大変だったが、その間に課せられた軍事関連の勉強や政治学についての座学は、睡眠不足のおかげもあってかなり辛かった。

 

 ジェレミアら純血派首脳陣や生徒会メンバー(流石にルルーシュは初回以降は顔を出していない)のお見舞いも度々あった。ただ、その中で一度もミレイが病室に顔を出すことは無かった。

 

 これはよっぽど怒っているな。 開口一番、どんな謝罪の言葉を投げ掛けるべきかを悩みながら、校庭を歩く。

 と、珍しい人物を見つけた。

 

「ああ〜、ほっっっっんと病弱キャラなんかにするんじゃなかったぁ〜」

 

 誰もいない校庭のベンチで、そんなことをボヤいている紅月カレンだ。 他の生徒は授業中故に油断しきっているみたいだ。

 兄が失踪して既に一ヶ月以上経っている。 彼女はもう扇たちと共にレジスタンスとして活動しているのだろうか?

 

「あら、授業中なのになんで校庭に?」

 

 私はボヤきが聞こえてなさそうなくらいに距離を空けてから彼女へ声を掛ける。 彼女はすぐに居住まいを病弱な貴族令嬢のそれに戻して、答えた。

 

「え、えっと。 わたし、身体が弱くって…それで……今から病院に…」

 

「そうなんですね。 大丈夫ですか?」

 

 なんでベンチにいるかの説明にはなってないが、笑って流しておく。なんだか懐かしいやり取りだ。

 

「そういうあなたは…」

 

「私もついこの間まで入院してて。 明日からようやく復学なの」

 

「は、はぁ…」

 

「病院食って味気ないわよね。 それが一番辛かったわ」

 

「ええと……そうですねぇ〜」

 

 入院からいちばん程遠いところにいる彼女は、あからさまに適当な相槌を打った。 本当になんで病弱キャラなんかにしたのだろうか。 レジスタンス活動に身を入れるためとはいえ、ここまでボロを出すのなら本末転倒だろうに。 脳裏にナオトの呆れた顔が浮かんだ。

 

「ちなみに、どこを悪くされたのでしょうか…?」

 

「ええと、まず右腕と左脚を複雑骨折。 額は六針くらい縫って、あと左腕の火傷もあったわね。 それと……」

 

「え、は!? あんた一体何しでかしたの!? ………あ」

 

 思わず素が出たカレンは、己で口を塞いだ。 全く、取り繕うのが下手くそだ。

 

「これは、あの、違くて…」

 

「いいの、いいの。 誰だってサボりたくなる時ってあるものね。 私も今度から病弱キャラで行こうかしら」

 

「いや、その………う〜〜〜~」

 

 カレンは頭を抱えた。 打てば打つほど響く。話していて面白いな。良い友達になれそうだ。

 

 彼女へ向けて手を差し出す。 ブリタニアの再生治療によって傷跡はほとんど残っていない。

 

「えっと…?」

 

「モニカ・クルシェフスキー。 中等部2年生よ」

 

 カレンは暫し困惑したあと、渋々といった様子で手を取った。

 

「カレン・シュタットフェルト…………です。 1年生……」

 

「素でいいのに」

 

「……これが素ですケド?」

 

「ふふっ。 当面の間はそういう事にしといてあげるわね」

 

 こうして友達が増えた。きっと、前までの私ならこの出会いを良しとしなかっただろう。 でも今のモニカ・クルシェフスキーならば、この邂逅を素直に喜ぶことが出来た。

 

 

 さて、素直に喜ぶことができるようになったのはいいのだが。

 問題はこの扉の奥で待っているであろう幼馴染兼親友である。 なんて謝るべきか。

 

 答えは出ないまま、ドアをノックする。返事は無い。だけど、確かに扉の向こうに彼女の気配を感じた。

 

 私は意を決して、扉を開けた。そこには、ミレイが怒り心頭という顔で立っていた。

 

 私はほんの少し、何を言うべきか迷ったあとに、口を開く。

 

「久しぶり、ミレイ」

 

 ミレイはサザーランドもかくやというような勢いで、私の元へやってきて、そして─────

 

「この、大嘘つき!!!!」

 

 私の頬を思いっきり、ひっぱたいた。 これまで味わったことの無いような、鋭い痛みが右頬に走る。 なるほど、これがプリン伯爵が何度も味わっている痛みか。なんて言ってる場合では無い。

 

「いえ、これには深いわけが────」

 

 言い訳を述べようと口を開いた瞬間、やはりこれまでに無いくらいに強く、彼女に抱擁された。それは、再会した時よりも力強いものだった。

 

「ずっと、待ってたんだから…」

 

「……うん、待たせてごめんなさい。 ミレイ」

 

 それから1時間くらいはハグしたまま泣きじゃくるミレイの背中を撫で続けた。 ようやく、私はここに帰ってこれたのだ。

 私の心はそこではじめて、戦場から完全に戻ってきた。

 

「もう、約束破らない?」

 

「ええ」

 

「際どい服も着る…?」

 

「…………ええ」

 

「本当に…?」

 

「……善処するわ」

 

「もう、どこにも行かない?」

 

 ミレイのその質問に、私は出来る限りの満面の笑みで答えたり

 

「ごめんなさい、それなんだけど実は一週間後からちょっと軍の用事でしばらく学校に来れないことが決まってて、それについての処理をミレイに質問しようと…」

 

 刹那、左頬に鋭い痛みが走った。

 知ってた。 だけどもう二度と約束を破らないと言っちゃったので、これは必要経費だろう。

 

 なんにせよ、私と彼女はまた親友に戻ることが出来たのだ。 それはなによりも喜ばしい事だった。

 

 

 時は遡って、退院当日。

 病院から出るなり、高級車が私の前に止まった。後部座席の窓が下りると、そこには知った顔が乗っていた。

 

「退院おめでとう、クルシェフスキー卿。 身体の方はもう大丈夫かしら?」

 

「ええ。 おかげさまで絶好調です、マルディーニ卿」

 

 それは良かった、と車のドアが開く。 乗れ、ということなのだろう。

 奥に詰めたカノンの隣に座るとすぐに窓が上がり、同じ道を何度か回るのを所々で繰り返してから、ようやく目的地へと向かい始めた。 尾行を警戒しているこの動きからして、行き先がどこであるかは明白だ。

 

「……チェスですね?」

 

「その通り、チェスなの」

 

 思わずため息を吐きそうになるのを堪える。さすがに側近の前でそれをするのは不敬すぎるからだ。

 

「あら、ため息くらい吐いていいのよ?」

 

「……何のことでしょう」

 

「とぼけちゃって、ミニプリンちゃん」

 

「その不名誉なあだ名を誰から聞いたかは非常に気になるところですが……」

 

 なぜ彼があの研究室で一名しか常用していなかったあだ名を知っているのか、本当に謎だ。 ラクシャータがわざわざ他の人に言い触らすとも思えないし。

 

「シュナイゼル様もミニプリンちゃんと会いたがってたわよ?」

 

「なぜ私とミニプリンちゃんが別人物として扱われているのかは謎ですが……それで、殿下はなぜエリア11にいらっしゃってるのでしょうか」

 

「まぁ、それについてもお話があるだろうから。 お楽しみってことで、ね?」

 

 一切の楽しみが持てないまま、車は無事に政庁に着いた。

 シュナイゼルは今、執務室のひとつを間借りして公務を行っているらしい。

 

 カノンに見守られる中、私は絢爛な装飾が施された執務室の扉をノックする。 「入りたまえ」と中から声がしたので、言われた通り入ると、チェス盤の傍らに座したシュナイゼルが空虚な笑顔で私の方を見た。

 

「やぁ、モニカ。 直接対面するのは久しぶりだね」

 

「シュナイゼル殿下、中々顔をお見せすることが出来ず、誠に申し訳ございません」

 

「いいんだよ。 己の騎士が忙しいというのは喜ばしいことだ。成果が伴っているのならば尚更ね」

 

 そう言ってシュナイゼルは対面に座るように無言で促した。 私は内心憂鬱となりながら、促されるまま座した。

 

「チェスは?」

 

「父に付き合わされて何度か。 基本的なルールはわかりますが、定石などは全く…」

 

「なるほどね」

 

 シュナイゼルはナイトの駒を自陣から除いた。 ハンデということなのだろう。

 

「あの、そのようなお気遣いは」

 

「いいのさ。 これは自分が楽しむための処置でもあるからね。

勝ちすぎて大切な騎士を泣かしてもつまらない」

 

 シュナイゼルはそう言って微笑んだ。 その笑みは、なぜだかいつもよりも空虚じゃないような気がした。

 

 しばらく、静かな執務室で駒を進める音のみが響き渡った。

 チェスに関しては本当にルールを軽く知っている程度なので、今が勝っているのか負けているのかも、薄らとしか理解できていない。

 

「ふむ」

 

 ただ、たまにこちらが駒を進めた時、シュナイゼルがそんなふうに興味深そうに盤面を眺める時があった。 何か変な事でもしてしまったのだろうか、とやや心配していると

 

「前の君ならきっとこんな駒の動かし方はしなかった。 なにか心境に変化が起きたのかな?」

 

 なんてこちらを刺すような一言を放ってきた。

 物語の中でもチェスを通して相手の人柄を読み取るシーンがあったが、自分でそれをされると肝が冷える。

 

「一応、死にかけましたので。 ……なにか気になる点でも?」

 

「うん、そうだね。 実を言うと、私の想定だともっと向こう見ずな打ち方をしてくると踏んでいたんだ。

勝ちよりも盤面の構築を優先するような、そんな一見不合理である意味では合理的な打ち方を、ね」

 

 思わず動揺しそうになる。 もしかしたら、全て見透かされているのでは、そんな錯覚に陥りそうになるが、冷静を保つよう自分に言い聞かせる。

 あの戦場を経験する前の私なら、今の一言で容易く崩れ去っていたかもしれない。

 

「でも、今の君はなんというか……ある種の老獪さを感じさせる」

 

「シュナイゼル様、14歳の少女相手ですよ」 黙って観戦していたカノンが咳払い混じりにそれを諌める。 シュナイゼルはそれに苦笑して、弁解した。

 

「すまない、表現が悪かったね。 言いたかったのはつまり、自分の身を守ることを覚えながらも、巧妙な攻め手を打てるようになった、ということさ」

 

「失礼ながら、殿下と打たせて頂いたのは今回が初めてでは?」

 

「奇癖ではあるんだが私は人と接する時、その人がどのようなチェスを打つかを想像してしまうんだよ」

 

 話せば話すほどに、彼が一体何なのかが分からなくなっていく。

 彼が本質的に空虚であることは理解しているはずなのに、前世の知識だけでは及ばない何かがシュナイゼルにはあった。

 

「チェスを打つ相手としては、今の方がよっぽど手強い。 ……さて」

 

 ようやく本題か。 シュナイゼルは盤面を楽しげに眺めながら続ける。

 

「実を言うと、君にふたつほど打診があってね」

 

「……はい」

 

「どちらを選ぶかは自由だ。 別にどちらを選んだ、選ばなかったからと言って君がなんらかの不興を買うことは一切ない。 無論、私たちにもね」

 

 そう前置きすると、彼は盤面から目を離し、私の双眸を真っ直ぐ見定めた。

 

 

「これは軍事機密だが実を言うと今、私主導でひとつの研究部門を作ろうとしていてね。 最新型のKMFを開発してもらう特別な組織だ」

 

「……」

 

 私は内心でこれから続く言葉を予想する。

 

「研究員はみな選りすぐり。 だが、その主任研究員については君もよく知っている。

 

────ロイドだ。 彼には私の直轄として、最新型のKMFについて開発を進めてもらう」

 

 シュナイゼルは駒を進めた。

 

「さて、そんな状況なのだが豊富な研究員に対してテストパイロットが足りていないんだ。 これが実に困りものでね。

ロイドが要求する水準が高すぎて、本国でも適任者がほとんど見つからないんだ」

 

 見つかったとしても既に他の皇族に抱え込まれていてね、と微笑んだ。

 

「そんなわけで、君に頼みたいことがある。

 

────新設される()()()()()()()()()にて開発中のKMF専属のテストパイロットになってみる気は無いかい?

ロイドはこの地での検証を所望している。 なんせ、グラスゴーの派生とはいえ、E.U.や中華連邦とは違い擬きではないKMFとの実戦が検証できるからね。

アッシュフォード学園に友人がいる君からしても、こちらの方が都合がいいだろう」

 

 やはり、そう来たか。 この展開は彼の騎士になった瞬間から予想していた。 それは彼も同じで、きっとこの光景から逆算して、あの時期の私を騎士に掬いあげたのだろう。

 

 私は駒を進める前に、シュナイゼルにひとつ尋ねる。

 

「お誘い頂き光栄です、殿下。 それで、もうひとつの打診とは?」

 

 シュナイゼルは少しわざとらしく肩を竦めてみせて、口を開いた。

 

「もうひとつは対E.U.戦線への派遣さ。 これは私からの頼みというよりは、ナイト・オブ・ワン……つまりビスマルク卿からの要請でね。 広すぎる戦線に対して優秀な騎士が足りていないらしい」

 

 これは、正直予想外だった。

 

「ナイト・オブ・ワン……ですか?」

 

 ギンツブルグ家討伐の立役者。 母の仇。

 

「先の白馬衆の件は勿論のこと、グンマで奇跡のトウドウや四聖剣と渡り合ったことがナイト・オブ・ラウンズでも評価されているらしくてね。 是非とも前線に、ということらしい」

 

 シュナイゼルはこちらを試すような眼差しで、経緯を述べた。

 これは実質的に、皇帝の剣になることを望むか、それともシュナイゼルへの忠誠を貫くかを選べと言われているのだろう。

 

「さて、君はどちらを選ぶ?」

 

「無論、前線で騎士として剣を振るうことを」

 

 私は一切の迷いなく、駒を進めた。 シュナイゼルがやや驚いたように、目を見開いた。

 

「おや、(キング)にチェックをされてしまった」

 

 少し寂しそうにシュナイゼルは呟き、そこでチェスは一旦お開きとなった。続きを打てる日を愉しみにしているよ、という不敵な別れの言葉とともに、私は自分の往くべき道を定めた。

 

 より良い明日のために、私は剣を振るう。例えその道が罪に溢れていたとしても─────

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