モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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31.砂上の楼閣

 ジルクスタンの宮殿。玉座に向かって歩く男が一人。

 男、と断言するには女性的なブリタニアからの代表者は、話によればシュナイゼルの側近らしかった。預言で捉えた金髪の女騎士ではないことを、不審に思いながらもシャムナは玉座から形だけの歓迎の言葉を述べる。

 

「何も無い地によく来てくれましたね、カノン・マルディーニ」

 

 カノンは跪いて、応える。

 

「この度は和議に応じて下さり、感謝いたします。シャムナ聖神官」

 

 カノンから合意文書を受け取った侍女は、目を伏せながらシャムナにそれを渡す。目を通すと、そこには眉を顰めてしまうような内容が羅列していた。

 

「……これが貴方たちの答えということかしら?」

 

「無論、あくまで暫定的な提案です」

 

 格安でのブリタニアへ兵力提供、ブリタニア側優位なサクラダイトの貿易協定、KMF開発の規制……そのどれもがブリタニア側にとって有利なものだった。シャムナはその書類を侍女に返して、笑う。

 

「この場は和平と同盟について協議する物だと認識していたのだけれど、私の勘違いだったかしら?」

 

 カノンは少し間を置いて、答える。

 

「その認識で相違ありません」

 

「あらそう。てっきり、そちらは戦に勝ったつもりでこの場に臨んでいるのかと」

 

 合意書に記載されている内容は、そのどれもが戦勝国が敗戦国に押し付ける類の不平等な物。屈服させた相手に呑ませる類の条件をもって、対等な関係を築こうなどと宣われて、戦士の国の姫がそれを快く思うはずもない。

 

「話にならないわね。そも、シャルル・ジ・ブリタニアやシュナイゼル・エル・ブリタニアではなく、一介の側近風情が私の前に立つということがブリタニアの傲慢の顕れではなくて?」

 

「返す言葉もございません」

 

 顔を伏せたまま答えるカノンからは、一切の動揺も恐怖も読み取れなかった。こちらに目を合わせようとしないあたり、ジルクスタンの儀礼を多少は調べてきたのだろう。

 

「まぁ、ただの代理人をあんまり詰めても可哀想ね。 ……そういえば、ここには貴方一人で?」

 

「……何人かの部下は同行させておりますが、それがなにか」

 

「いえ、ナイト・オブ・ラウンズを同行させるほどに怯えられているのは、少し心外だっただけよ?」

 

 その時初めて、カノンが顔を上げた。そこから動揺を読み取ったシャムナは、預言に対する確信を高めた。数時間後に自分の前に現れるあの金髪碧眼の騎士は、ナイト・オブ・トゥエルブで間違いない。ならば、これから起きる鉄火場の主犯も……

 

──────刹那、爆発音と振動が宮殿を襲った。

 

 配下の何人かが、すぐさまシャムナを庇うように飛んできて、他の者たちは携えていた槍をカノンに向けた。宮殿の大窓から広がる城下町の所々で、黒煙が上がっていた。その全てが事前に把握していたブリタニア側の伏兵の隠し場所である。

 

「さて、ブリタニア。この無礼に対する代償は高くつくわよ?」

 

 全ては計画通りに進んでいる。それを確信したシャムナは配下たちに金髪の女騎士を捕らえて自分の前に連れてくるように命じ、そしてカノンを拘束させた。

 

………まさか、本当に

 

 侍女たちにより拘束されたカノンはどこか忌々し気に、砂漠の方を見ていた。シャムナはその態度に違和感を抱きながらも、ギアスの発動によって視える景色に変わりが無いことを確認してから、ナイト・オブ・トゥエルブが目の前にやってくるその時を待つことにした。

 

 

 街に黒煙を齎したブリタニア製KMF。その殆どは、蜂起から三十分経たずに物言わぬ鉄塊へと変貌していた。そして戦場には幼き王が搭乗する四脚の異形、ゲド・バッカの姿もあった。

 

「弱すぎる」

 

 数多のサザーランドの死骸の上で、幼き王シャリオはそう吐き捨てた。真に忌々しいのは、サザーランドの中身の全てがジルクスタンの者であることだった。国への、姉への裏切りが万死に値するのは当然として、何よりも許せないのはその惰弱ぶりだった。

 叛徒である以前にジルクスタンの戦士である彼らは、ほぼ初陣のシャリオが駆るゲド・バッカに為す術もなく討ち滅ぼされた。シャリオが才に溢れていた、という点を鑑みてもブリタニアのKMFを宛てがわれた彼らは明らかに弱かった。

 

 ブリタニアは恐らく、落伍者を狙って誑かしたのだろうとシャリオは推察する。ジルクスタンは戦士の国。故に弱さは罪ですらある。五体満足だろうが弱ければ蔑まれ、不具であるシャリオはその強さから崇め称えられる。ブリタニアの掲げる強者至上主義よりも、より原始的な渇きを含んだジルクスタンの弱肉強食の掟は、弱者を残酷に追い詰める。

 

 無論、その状況は決して国の在り方として望ましいものではない。それは持つ側の頂点であるシャリオも強く感じていた。しかしジルクスタンには戦士を除いて、あまりにも何も無い。いくら理想を唱えようが、砂漠の上に水が湧き出てくるわけではないのだ。

 

「でも、姉さんなら……」

 

 ブリタニアの下劣な策。それをギアス、いや預言を以て看破し逆に利用する姉シャムナであれば、この不毛の大地に恵をもたらしてくれる。それを信じているからこそ、シャリオは半ば独断で戦場に身を投じたのだ。ジルクスタンの行く末を決めるこの日に、姉だけにその重圧を負わせるわけにはいかなかったから。

 

 宮殿に直結する場所で暴れていたKMFは全て潰し終えた。あとはシャムナが言っていた金髪の女騎士を捕らえてしまえば預言は実現される。他の蜂起を鎮圧している大将軍フォーグナーに、対象を捕らえたか聞こうと無線機に指をかけた瞬間。

 

『ほ、報告します!!! 嘆きの大監獄が、ブリタニアの正規部隊だと思われるKMF10機あまりによって襲撃されたと!!』

 

「────な、に?」

 

 刹那の呆然。だが、半ば反射的にシャリオはゲド・バッカを嘆きの大監獄の方向へ向かせ、ランドスピナーを駆動させる。距離的には離れているが、それでも今から向かえば数時間で到着出来る。シャリオは他の兵の参集を待たずに、単身でアラムの門がある嘆きの大監獄へと向かった。

 

 

「─────嘆きの大監獄が、襲撃された…ですって?」

 

 時を同じくして、宮殿にて報告を受けたシャムナは予想外の報告に対して、唖然としていた。そして直ぐにギアスを発動させる。そこにはやはり……というより不可解なことに以前と変わらずに、こちらに優位の合意書と忌々しげに顔を歪める金髪の女騎士が映っていた。

 

 預言が覆されたわけではない。だが、ブリタニア側の動きはあまりに不自然すぎる。

 ギアス嚮団は確かにブリタニアに強く根付いている。しかし、それはあくまで極一部の皇族に、だ。その方針は現代であっても変わっていないはず。ギアスの存在を知るのは皇帝シャルルと、やはり極一部の周辺の人間。そのことをシャムナは知っていた。

 

 そして、現実主義のシュナイゼル・エル・ブリタニアは恐らくその一部には含まれていないはず。そう踏んでいたが故に、シャムナは今回の預言で半ば勝ちを確信していたのだ。

 

 だが、それも今の報告で前提が覆った。

 嘆きの大監獄は、その名の通り罪人の収容場所である。戦略的にそれ以上の意味は持たない。盗賊たちが管理しているため、一定以上の武力は有しているが、それでも和平の裏で襲撃を行う場所としてはあまりに無意味な場所だ。その兵力でこの宮殿を襲う方が余程、合理的。そう、ギアスについて知らなければ。

 

「カノン・マルディーニ、貴方たちまさかギアス嚮団の…」

 

 取り押さえたカノンに視線を移す。だが、そこにはしたり顔の策略家は存在せずに、シャムナ以上に驚愕に慄いている側近が居た。

 

「ギアス……あの子が、モニカが言っていたことが真実だった…」

 

 カノンはまるでうわ言のように呟いた。それによりシャムナはさらに混乱を深める。

 

「モニカ…モニカ・クルシェフスキーのことかしら? まさか、これも……」

 

 シャムナの追及。それは新たな報告によって打ち切られることになる。

 

「シャムナ様!! シャリオ王が嘆きの大監獄へと単身で…!」

 

「………なぜ、なぜシャリオが」

 

 そこに至っても、預言の映す未来に変化はなかった。

 

 

 シャリオが嘆きの大監獄に辿り着いた時、すでに戦いは終了していた。監獄の前にはブリタニアの最新機であるグロースター数機と、盗賊たちによって製造された出来の悪い兵器の残骸が転がっており、監獄は所々で黒煙を上げている。内部の制圧も終わったと見るのが自然だろう。

 先程までの有象無象とは違う、明らかに統率の取れた動き。だとするのなら、これをやったのは─────

 

「なぜ、貴様らはここを狙った…! ブリタニア!!」

 

 シャリオは砂海を泳ぐように疾駆し、こちらにグロースター二機を気付かせる隙も与えずに、キャノン砲で撃破する。二機が炎とともに砂漠に崩れるのを待たずに、シャリオは他のグロースターも狙おうとする。

 

「────ッ!」

 

 だが、それを許さない者がいた。

 既に陥落した大監獄の方向からの狙撃はシャリオの目前に着弾した。ゲド・バッカは回転するようにグロースターの一団から距離を空け、狙撃手の方を見る。砂漠から大監獄へと繋がる吊り橋の上に、それは居た。

 

「ゲド・バッカ……いや、なんだあれは」

 

 ブリタニア特有の騎士を模したKMF。それからは明確に外れる六脚の異形。正確には、前腕が鎌のようになっていたため、四脚という方が正しい。前腕の両肩には戦車砲のようなものが載っている。先程の狙撃はそこから放たれたのだろう。設計思想はゲド・バッカのそれに似ているようにシャリオは感じた。

 

 なんにせよ、それは決してブリタニアの意匠からは逸脱している。だが、ブリタニアの襲撃部隊を守ったということは、ブリタニア側なのは間違いない。ならばこそ、その異物感はより強まる。

 監獄を根城にする盗賊たちが秘密裏に開発したKMFを鹵獲された、というには明らかに高度な技術で構成されている。首魁のビトゥルはその粗暴さに反して、高い技術力を有しているがそれでもあのレベルのKMFを秘密裏に造れる程ではない。

 

「気味が悪い。蟲は嫌いなんだ…!」

 

 シャリオは優先事項を更新させた刹那、グロースターの間を縫うように通り抜け、白い蟲のようなKMFが距離を詰める。その間、数発ほど砲撃を行うが、あちらも高い機動性を有しているようで、その全てを回避された。シャリオは接近戦を嫌い、後退する。砂上での戦いであれば、ジルクスタンの方に軍配が上がるはず。だが。

 

「───ッ!」

 

 速すぎる。砂漠に特化したはずのゲド・バッカよりも、明らかに機動性が高いその異形は、瞬く間に距離を詰め獲物を狩らんと鎌を振り上げた。シャリオは殆ど反射で、右腕部のキャノン砲塔でそれを受け止める。だが鍔迫り合いにはならず、まるで紙束を切るような容易さで砲身が半分に切断された。

 

MVS(電磁波振動剣)……!? 馬鹿な、あれはブリタニアでもまだ実用化されていない筈…!!」

 

 キャノン砲をほぼ零距離で放ち、その反動を利用してどうにか距離を空ける。硝煙は異形のKMFを包み隠した。直撃していれば、決して無事では済まない。だが、その予測は飛び退いたシャリオのゲド・バッカが、砂に着地する前に覆された。

 

「無傷…! いや、避けたのか!? あの至近距離射撃を…!!」

 

 直撃せずとも、どこかには当たっていると確信していたシャリオは驚愕に顔を歪めた。仮に回避したのだとすれば、運動性能も桁外れだ。

 だが目の前のKMFはシャリオにそれ以上の思考を許さず、改めて距離を詰めてゲド・バッカが着地するまでの僅かな滞空時間、その間に四脚のうちの三脚を切断してみせた。天才であるシャリオからしても、それは神業という他なかった。

 

「まさかこいつが、『閃光』………ぐわあぁあっ!?」

 

 脚を失ったゲド・バッカは、地面に転がる。当然、内部のシャリオにもそれ相応の衝撃が襲いかかる。身体が決して強くないシャリオにとってそれは酷い痛みを伴うものだった。

 揺れと衝撃により、曖昧になった視界。しばらくして、コックピットの扉に鎌が突き刺さり、無理やり外に露出された。やはり、蟲のような歪な容貌のKMFがコックピットを覗き込む。

 

『ジルクスタンの若き王、シャリオ。非常に不敬ではありますが、貴方には交渉材料として役に立ってもらいます』

 

 不遜なのか、丁寧なのかわからない柔らかい女の声。シャリオはそれに忌々しいものを感じながら、苦痛と共に意識を手放した。

 

 

 打てる手は全て打った。その上で、シャムナは強い焦燥に駆られていた。何度も、何度もギアスを発動させ未来を観測する。映された時に至るまで、残り10分。だというのに、状況は混迷の一途を辿っていた。

 シャムナにとってそれは初めての経験だった。決してシャムナは己のギアスを過信していない。その証拠に、これまでの勝利はあくまでシャムナ自身の知略や、臣下たちの働きによるものであり、ギアスによる預言はあくまで補助的要因でしかなかった。

 

 だがそれでも、シャムナのギアスが間違った未来を映す事例など今までの一度も、存在しなかった。だとするのなら、あと10分程度で事態は収束し、和議はシャムナの望ましい方向に舵がきられるということになる。

 その希望的観測を、策略家であるシャムナは否定した。

 相手がどのような意図かはわからない。だが、確実にこの状況の主導権はあちらに渡っている。敗ける、とは思わないがこの短時間で勝てるというほど、自分たちは状況について把握も対応もできてない。

 

 いや、或いは戦場に身を投じた最愛の弟が全てを覆すのかもしれない。そんな、新たな希望的観測が湧いたところで、宮殿の大きな扉が開かれた。

 

─────そこには、既に何度も観測した金髪の女騎士が立っていた。

 

「ナイト・オブ・トゥエルブ……! ………何をしているの、捕らえなさい!!!」

 

 すぐさま武装したクジャパットらに拘束を命じる。だが、その尽くを目の前の騎士は、容易く徒手空拳でねじ伏せた。クジャパットのギアスが最も機能しない局面。それは錯乱の意味が無いほどに敵の数が少ない時である。

 そして、やや遅れてその背後から、銃を持った兵士たちが侵入し、カノンの拘束を解き、部屋にいた者たちを制圧する。

 

──────ただ一人、シャムナを除いて。

 

 制圧を確認したナイト・オブ・トゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは貴族然とした態度で玉座の前に跪いた。

 

「お初にお目に掛かります、聖神官シャムナ。しばしの蛮行をお許しください」

 

 モニカは、シャムナの目を真っ直ぐ見据えている。それはジルクスタンにおいては無礼であり、ファルラフというギアスを主体にした組織においては身の程知らずな行為だった。

 

「貴女…何者なの?」

 

「公式の場ではナイト・オブ・トゥエルブとお呼び頂けると幸いです。しかし本日は騎士としてこの場に赴いた訳ではありませんので、そうですね。─────湖の貴人、とお呼びください。ファルラフの長よ」

 

「そう、そういうことだったの。ギアスを知っているのは貴女だったのね、湖の貴人」

 

 愕然と、シャムナとモニカのやり取りを眺めているカノンを見て、確信を抱く。この件の主導者は目の前の不気味な小娘であることを。

 

「皇帝シャルル……いえ、嚮主様からの遣いかしら?」

 

「皇帝陛下でも、C.C.でもありませんよ。彼らは湖の貴人である私を認知していません。よってここにいるのも私の独断です」

 

 ちなみに今の嚮主はC.C.ではなくV.V.という男です、とモニカは薄く笑った。ギアス嚮団と関係ないならば、なぜ目の前の騎士はギアスの深部を知っているのか。嚮団からの脱走者だとするのなら、ブリタニア軍に所属するだけでなく、ナイト・オブ・ラウンズにまで上り詰めるのは不可能である。シャムナには、彼女を構成する何もかもが不気味に見えた。

 

「──────独断とは心外だね、モニカ」

 

 扉の向こうから、声がする。モニカに釣られ、そちらの方へ視線をやると、微笑みを携えた金髪の男が立っていた。

 

「シュナイゼル様! 何故ここに!?」

 

 カノンはすぐにシュナイゼルの元へと駆け付けて、庇うように立って周囲を警戒した。その警戒のほとんどは、自分とモニカの方へと向けられている。

 

「大丈夫だよ、カノン。それよりすまないね。最も危険な役割を押し付けてしまった」

 

「私の役目です。しかし、この場に自ら赴くのはいくらなんでも…」

 

「なに。モニカの預言が真実であると証明された今、もはや高みの見物を気取る必要も無い。なにより、こういう場で臆するのは彼女の()()()として不適格だからね」

 

「私としては殿下には引っ込んでいて欲しかったのですが……」

 

「おや、傷つくことを言う」

 

 騎士でありながら皇子に嫌気が差したような顔をするモニカと、それにわざとらしく肩を落として見せるシュナイゼル。

 シャムナにとってそれは最早、理解不能と言ってもいい光景だった。

 

「貴方たち、一体なんのつもりでジルクスタンの国土を踏み荒らし、ファルラフの聖地を奪略したと言うの?」

 

「なに、そう大した話ではない。反抗期ですよ、ジルクスタンの姫よ」

 

 そう答えるシュナイゼルは、まるで冗句でも言っているかのように柔和な笑みを浮かべていた。だが不思議と、シャムナはそこに虚無めいたものを感じる。

 

「反抗期…?」

 

「ええ。思えば私たち皇子は父シャルルに対して聞き分けが良すぎたのかもしれません。無意味な侵略に、意図が見えない天領の拡大。

見せかけの国是に惑わされ、その裏で潜む真実を読み取ることができなかった」

 

 シュナイゼルは跪くモニカの隣まで歩いた後に、玉座を見上げながら、懐から書類を取り出す。

 

「……私のギアスのことを知っていたというの?」

 

「知っていた、と言うと語弊がありますね。モニカから教えられたのは未来の貴女のギアスであり、今のギアスについては情報が乏しかったので」

 

「……未来の私、ね」

 

 先程、シュナイゼルはモニカに対して預言という表現を用いた。そして今のシュナイゼルの言を真に受けるなら、モニカ・クルシェフスキーは何らかのギアスを持っている。それも、自分と同じ未来を予知する類の。

 

「なるほどね、湖の貴人。貴女、私と同じだったの」

 

「さて、どうでしょうか」

 

 モニカは曖昧な笑みを浮かべた。本当であれば、未来の変質した自分とやらについて質問してみたかったが、残念なことに今はそんな和やかな時間ではない。

 シュナイゼルは、傍らのモニカに書類を渡した。内容を一読した彼女は、酷く忌々しそうな顔をシュナイゼルに向ける。

 

「こちらの情報不足ゆえに、国内の不安を煽る結果になったことに心からの謝罪を。しかし、複数のデータからギアスの条件と制約をある程度把握し、こうして貴女との直接の会談を実現できたことを嬉しく思います」

 

 連日の不穏分子の動き。それらは全て、シャムナにギアスを使わせて、そのデータを集めるためのものだった。シャムナはそれに気づき、あまりの理不尽さに歯噛みをする。

 

「ということは今私が預言したこの光景も、貴方が用意したまやかしということね」

 

 敢えて、ギアスを発動させながらシュナイゼルに問掛ける。シャムナの右目に浮かび上がった鳥の紋章を、シュナイゼルは目を細めるようにして見つめている。

 

 モニカが書類を手に、玉座へと上がってきた。その顔は心底から忌々しいという表情だ。当然、彼女が渡す書類の内容も、事前に知っていた通りの、ジルクスタン優位な内容だった。

 

「これは? 私へのプレゼントかしら?」

 

「いいえ、対価ですよ。ジルクスタンの富と貴女たち姉弟の身の安全を保障することで、ファルラフが積み上げてきたギアス関連の研究成果を譲って欲しいのです。無論、父はこの条件での和平と同盟を認めています。あの方にとってはこれすらも些事なようだ」

 

「………シャリオはどこに」

 

「申し上げにくいのですが、捕縛中です。怪我は……無いとは言えませんが、軽傷です」

 

 モニカが、本当に言いにくそうに答えた。

 

「卑劣な真似が好きなのね、湖の貴人。これ以降も弟を人質にとるのでしょう? 首輪でもさせて」

 

「私としても不本意なやり口なのです。ご批判はどうぞ、シュナイゼル殿下に」

 

「それはどうかしら。貴女とそこの空っぽの皇子様、それなりに似てるもの」

 

 確かに、と言うようにシュナイゼルの後ろに控えていたカノンが咳払いをした。モニカの顔がよりいっそう忌々しげに歪む。これが、自分が視た景色か。シャムナは、自身の完全敗北を認めた。

 

「………それで? 私たちから世界を変える権利を奪って、貴女達は何をするつもりなのかしら」

 

 モニカはしばしの沈黙のあとに、澄み切った顔で答えた。

 

「───────貴女たちが大嫌いな世界平和の実現ですよ」

 

 どうやら自分は本当の意味で、負けてはいけない戦いに早期に負けてしまったらしい。シャムナは決定権を奪われたことに少なくない絶望を抱きながらも、モニカの言葉の真意を探る。しかし、その答えを知るのはまだ先、シャムナのギアスですら捉えきれない未来の話だった。

 

 斯くして、戦士の国は湖の貴人とその共犯者の傀儡と化したのだった。




コードギアス二次創作を書く上で一度はやってみたかったオリジナルKMF解説。

■フローレンス・ラルヴァ

この世界においてはナイト・オブ・トゥエルブではなく、湖の貴人の搭乗機。
アレクサンダを元としていない、可変機関連の技術がまだ進んでいないなどの技術的な事情から可変機機能を持たないため、インセクト・モードに該当する六脚が通常形態となる。またハドロンブラスターの代わりに、戦車砲を載せている。
性能としては機動性偏重だが、運動性能もそれなりに高い。MVSはまだ試作段階なため、今回の実戦投入は実はそれなりに賭けだった。開発・製造の財源はモニカの財布(収入元は非公式)。ちなみに脱出機構の実装は諸般の事情で見送られている。

■フローレンスの由来について

実は他のラウンズ専用機と同様、円卓の騎士(とその関係者)を由来として命名されています。フロレンスとも呼ばれる騎士はかのガウェイン卿の息子の一人で、不貞追及の際にランスロットの手によって殺害されるという最期を辿っています。原作におけるモニカの最期も……
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