モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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33.人の恋路を邪魔する者はヴェルキンゲトリクスに蹴られて死んでしまえ!

 風が死を運ぶ砂漠の街に、煌びやかな花火が昇った。

 ジルクスタンでの、ブリタニアとの合同軍事パレード。それを国民たちは、満面の笑みで歓迎した。そこに後暗い感情など皆無であり、誰もが数年前まで不倶戴天の敵であったブリタニアの威光に平伏していた。

 シュナイゼルの策略によって肥太った彼らにとってブリタニアは、最早敵の名前ではなく自分たちに富を分けてくれるモノの名前へと変わっていた。それを、アヴァロンから群衆を見下ろしながら私は感じ取っていた。

 

 ジルクスタンとブリタニアの間に結ばれていた数々の条約の殆どは、軍事的にはブリタニア優位、経済的にジルクスタン優位という形を以て結ばれていた。

 ジルクスタンはブリタニアの交戦国に兵力派遣を出来ない代わりに、ブリタニア側から資源面、技術面の様々な分野で多くの利益を得ており、その結果として同盟が結ばれてから僅か三年ほどでジルクスタンの富はかつてないほどに膨れ上がっていた。当然、それを憎く思う国民などいるはずもない。

 

 だが、国を俯瞰する立場に居る者は必ずしもそうでは無い。

 

「モニカ・クルシェフスキー様、お待ちしておりました」

 

 式典でのアヴァロンお披露目を終えた後に、着陸した私を出迎えたボルボナ・フォーグナーを筆頭としたジルクスタンの重臣たち。彼らはジルクスタンの流儀を見せず、ブリタニアの礼儀にも倣わずに、真正面を見据えたまま私を出迎えた。王の姿も聖神官の姿もない。王は式典に参加し、近年表舞台に出てこなくなった聖神官は地下でギアスの研究を行っているのだから。

 

「忙しい中の歓待、痛み入ります」

 

 彼らは何も言わずに、高級車への乗車を促した。私もやはり無言でそれに乗り込む。

 車は私を砂の大海へと運ぶ。その間に通った城下町で、私が乗った車両に注目する者など誰一人として存在しなかった。当然、今回のパレードに主催のシュナイゼル傘下の騎士侯以外に出席する者など居ないのだから、隠れるように脇道を通る高級車など誰が気にするわけもない。

 

 祭の騒乱から脱し、乾いた静謐が辺りを包んだところで私はため息をついた。

 予定していなかったジルクスタン訪問ではあったが、後の計画への影響は及ばない。だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。スザクの釈放まではまだ余裕がある。

 砂漠での走行を想定して設計された車両は、それでも激しい揺れを私に齎した。

 KMFを駆る者として、それ相応の耐性を持っているので特に苦しいわけでもないが、不快な事に変わりない。

 一面の砂漠と、砂埃が舞うだけの外の景色に変わり映えなど存在せず、退屈に耐えるために私はクロヴィスへの接し方について思案していた。が、私自身がクロヴィスがどのような人物かイマイチ知らなかったために、それも早期に終わりを迎えて、ただ無心に砂漠を見つめることに徹することにする。

 

 ブリタニアの干渉により、都市部はかなりの発展を見せていたがそれでも国土の大部分は依然として砂漠である。

 都市部の発展も結局はブリタニアの支援ありきであり、ジルクスタンの土地の渇きに満ちた性質は何一つとして好転していない。故にこそ、ブリタニアに飼い慣らされつつある現状に危惧を持つ者は一定数いる。尤も、その一定数の殆どは国の中枢にいる人物であり、彼らは彼らでシャムナとシャリオを人質にされている今、動くことは出来ない。

 

 厭なやり口だ。

 だが、これは私の意思で行ったことなのだ。シュナイゼルの手が入っている部分こそあれ、今の歪なジルクスタンの原型は私が考案したものであり、ジルクスタンに首輪を掛けたのもやはり私なのだ。

 これが彼らの幸せに繋がると確信できるほど、私は傲慢になりきれない。かと言って、動き出した歯車を止めることも出来ない。

 綺麗事で世界は変えられないのだから、私は己の手を汚す覚悟を決めなければならない。問題は、覚悟よりも先に行動を重ねることを迫られている現状なのだが。

 

 なんて後ろ向きなことを考えているうちに車が砂埃を巻き上げながら停車する。

 降りて見上げれば、そこには巨大な監獄砦。公には予定されていなかった来客に対して、大監獄はあっさりと吊り橋を降ろして内部へと招き入れた。

 

「では、参りましょう。湖の貴人」

 

 運転手のクジャパットはどうやら案内人も兼ねていたらしい。

 いつものジルクスタンの戦士装束とは違い、黒スーツを身にまとった彼は、大仰にお辞儀をした後に先導を始めた。

 監房に囲まれた通路を行くが、囚人はどこにもいない。

 というのも、ファルラフ機関が設立されてからというもの、特定のフロアは常に無人となっているのだ。無論、書類上は使用されていることになっている。

 

 特定のフロアとは何かだが簡単な話、地下にあるアラムの門に繋がる通路のことである。何も無い壁の前で止まったクジャパットが、懐からキーカードを取り出して、壁面に翳す。

 静かに石壁がスライドし、無機質な白い壁が現れて両方向に開かれる。最新式のエレベーターだ。

 

 二人でそれに乗り込み、やや気まずい沈黙の時間が流れる。

 世間話をするような関係性でもないので、何度か堪えきれずに無駄口を叩きそうになるのを我慢しつつ、エレベーターが最下層に辿り着くのを待った。

 

 エレベーターは無音で目的階に到着した。扉が開くと、白い廊下に白衣を着た研究者たちが道を象る様に整然と並んでいた。その人種は混沌としており、ブリタニア人とジルクスタン人は当然として、それ以外にもアジア系やアフリカ系にルーツを持つ者達が同じ程度の割合で存在していた。

 彼らの殆どはシュナイゼルが世界各地から拾ってきた選りすぐりの研究者たちである。どういう基準で集めればこうなるのか、という程に彼らは例外なくギアス研究に比類なき適性を見せている。

 彼らの何人かは、ひょっとすれば本来の歴史においてはギアス嚮団に拾われていたのかもしれない。

 

 彼らが象る道を、歩く者が一人。やはり彼女も白衣を身にまとっていた。それは本来の歴史では、決して見ることのなかった姿だ。

 

「御機嫌よう、湖の貴人」

 

「お久しぶりです、シャムナさん」

 

 ファルラフ機関主任シャムナ。それがこの施設における彼女である。

 白衣の下は青いワイシャツに、ジーンズという数年前からすれば想像もできないくらいにラフな格好をしているが、それに何かを言う者はこの場には一人もいない。

 

「……前にも言いましたが、私の訪問に合わせてこのような歓待をするのはやめてください。貴重な時間を奪っているようで落ち着きません」

 

 シャムナは小さく笑う。

 

「そうは言うけれど、彼らにとってこういう時間も必要なの。

自分たちの上に何が居るのか、それが不明瞭な状態で監獄の地下で働くというのは貴女が想像しているよりも辛いことなのですよ?」

 

 耳元で囁くシャムナに、私は何も返せない。

 

「どのような組織であっても健全に機能させるにはイデオロギーというものは必要不可欠。その確認作業がこの時間」

 

「……確かに、そうですね」

 

 イデオロギーの確認。それは昨日、エリア11でシュナイゼルから求められたものと同じだった。

 私というイデオロギーの元で彼らはギアスというある種、胡乱な存在について研究している。

 ジルクスタンにおけるシャムナ。ギアス嚮団におけるC.C.やV.V.。黒の騎士団におけるゼロ。神聖ブリタニア帝国におけるシャルル。そして、ファルラフ機関における私。

 道標となる者は、それ相応の振る舞いで下に傅く者たちを導かなければならないのだ。

 

「でも、時間を無駄に出来ないのもまた事実。……皆、気が済んだでしょう? 退屈なお仕事に戻りましょうか」

 

 シャムナがそう告げると、挨拶もそこそこに、がやがやと各々の研究室に戻って行った。これがここの日常風景なのだろう。

 

「貴女のお兄様は奥の客室にいるわ。首を長くして待ってる」

 

 そういうシャムナは、どこか疲れたような表情を浮かべていた。その原因に思いを馳せると、私も疲れたような気がしてくるのは何故だろうか。

 

 

「おお、モニカ・クルシェフスキー!! 命の恩人にして、運命の妹よ!!! こうして会えることを私は嬉しく思うぞ!!!!」

 

「……お久しぶりです、クロヴィス殿下」

 

 扉を開け入室するなり、金髪の皇子は吟遊詩人のような振る舞いで私への感謝を謳った。顔を顰めそうになるのをどうにか耐えながら、笑顔を保つ。やはり、と言うべきかかつては一組のソファとテーブルがあっただけの簡素な部屋はクロヴィス好みに改造されており、様々な美術品が壁を彩っていた。

 

「暇だからとあまりに騒ぐから、要求された道具とキャンバスを渡したらあっという間にこうなってしまったわ」

 

 シャムナが疲れを隠せずに目をやった先にあるのは、彼女の肖像画。美術館に並べられていても違和感がないクオリティのものを僅か数日で仕上げているクロヴィスは、やはり職選びを間違えたという他ないだろう。

 

「今はお前をモデルとして筆を執っている! なに、気にしなくとも良い! あの女神像のお礼だとも!!」

 

 女神像。ああ、スタングレネードを仕込むために贈った物のことか。

 

「しかし、あれは中々に良い趣きだった。あのようなアイロニーを解する者が、私の妹であったことを嬉しく思うよ」

 

「アイロニー、ですか?」

 

「そうとも。私という悪しき支配者が、ルルーシュという復讐者に討たれるのを俯瞰し、裁定を下すのが復讐の女神ネメシスであるということが、皮肉でなくてなんとするか」

 

「………」

 

 あれ、女神ネメシスの像だったんだ……。

 求める水準の威力を発揮するスタングレネードと遠隔発動装置を潜ませるためにちょうど良さそうな美術品を、適当に注文しただけだったので、クロヴィスの言うような文脈は全く意識していなかった。

 

 一応、史跡めぐりが趣味ではあるので神話に対してもそれなりの知識はあるが、美術のような文化史方面になってくると門外漢と言っていいレベルの知見しか持ち合わせていない。

 かなり面倒な同類意識を持たせてしまったかもしれないということを考えつつ、話を逸らすべくクロヴィスに問い掛ける。

 

「楽しんでくださり何よりですが……殿下、その寸評を告げる為だけに私をお呼びになったのですか?」

 

「ふむ」

 

 クロヴィスはやはり大仰な動作ともに、私に近寄ってきた。

 

「まずひとつ。 ナイト・オブ・ラウンズとしての振る舞いを私に向けるのをやめて欲しい。

お前は私の妹なのだ。それを知ってしまった私からすれば、そのような騎士然とした態度は、実に淋しく思えてしまう」

 

「……それは失礼しました、お兄様」

 

 クロヴィスは満足気に頷く。シュナイゼルの「皇族は身内に甘い」という言は、物語を俯瞰する立場の私からしても一定の信を置ける言葉なのだ。

 

「それで良い!

さて、本題だが。シュナイゼル兄上から聞いたところ、お前はルルーシュたちを、ひいてはブリタニアを貶めようとする輩を炙り出すためにこのような働きをしているらしいな」

 

「……ええ、その通りです」

 

「まさか長年煩わされた湖の貴人の正体が、ナイト・オブ・ラウンズのひとりだとは夢にも想わなかったぞ」

 

「その節は多大なご迷惑をおかけしました」

 

「良い、良い。

それもルルーシュたちを救い、ブリタニアを不埒な輩の魔の手から解放するという大義の元であるとわかれば、怒りなど霧散するというもの」

 

 不埒な輩から解放。

 シュナイゼルを信じるなら、クロヴィスにはV.V.やギアス嚮団については教えていないはず。

 ファルラフ機関で過ごした結果、ギアス嚮団の存在について知った可能性はあるが、ギアス嚮団周りについてはファルラフ機関においても最高機密扱いだ。旧ファルラフ派メンバーとシュナイゼルの肝煎り数名くらいしか、ブリタニアの深部については知らない。

 未だ研究に参画していない筈のクロヴィスがこれについて知らされている可能性は低い。

 

 つまり、クロヴィスは自身が獲得した情報から不埒な輩がブリタニアの中枢に潜んでいることを半ば察している。成程、シュナイゼルが言っていたことも的外れではなかったらしい。

 

 ブリタニアの侵略がギアス関連の遺跡を道標として行われていることも察していたのだから、裏に潜むのが皇帝であることも無意識ながらに気づいていそうだ。

 

「さて、話を戻すとだな。

この地において、研究に身を捧げることは望むところだ。

だがしかしバトレーが既に参加しているような、技術的なことには恥ずかしながら適性が無いだろう」

 

「そうでしょうか?」

 

「これは謙遜ではない。魔女を研究していた時もそうだが、あれの主導はあくまでバトレーとその部下たちだ。

私はあくまで適材適所の原則に従ったに過ぎない」

 

 謙遜ではないという彼からは実際、人材の運用についての自信を感じさせる。技術者として自分を扱うな、と述べているのだろう。

 正直なところ、私もそれについては特に期待を抱いていないのだから言われるまでもない。彼に望むのはバトレーのモチベーション維持であり、身も蓋もないことをいえばこの地に居てくれさえいれば、後は遊んでいるだけでもいいのだから。

 

「……では、お兄様はこの組織の人事に携わりたいと?」

 

「まさか。既にシャムナ氏という実質的指導者が存在している中で、私が割り込んで船頭を気取っても何の意味もないだろう。

私とて流石にそれすら解せぬ程に無能ではない」

 

 クロヴィスはどこか疲れを感じさせる、自虐的な笑みを零した。私はこの話がどう着地するのか、怪訝に思いながら問い掛ける。

 

「失礼ながら、お兄様。

貴方はこの機関において何を望むのです?」

 

「ギアスではなく、歴史そのものを紐解く作業をさせて欲しいのだ、妹よ」

 

「…………そういう事ですか」

 

 面倒くさいな。

 それがクロヴィスの要望に対する私の本音だった。

 クロヴィスが人文学にある程度の才覚を有していることは知っている。だが、それは私にとって無用のものだ。

 

 ギアスそのものについては知らないことの方が多い。だが、ギアスに纏わる歴史に関しては、必要なことは大体知っている。

 故にこそこのジルクスタンを掌握し、歴史の黒幕たるギアス嚮団の死角で暗躍を続けられているのだから。

 クロヴィスに隠れた歴史を探らせたところで、私に得がないどころか知らなくてもいいことをクロヴィスが知ってしまい、彼に情報を隠蔽している私たちに不信感を抱くという損害を招く可能性がある。

 

 何しろ、考古学者としての彼は皇帝の願いすら看破しかけていたのだ。

 

 かといって、こちらから持っている情報をあけっぴろげにすれば彼が皇帝に着く恐れがある。ブリタニアに潜む悪が敵であることと、ブリタニアそのものが敵であることは全く性質が異なる。

 国家という民の集合体をどこまでも優先するシュナイゼルと違い、あくまで皇族としてのメンタリティしか持ち合わせないクロヴィス。全てを明かして、味方になる保証はどこにもないのだ。

 

 ともすれば、このまま要求を突っぱねて、皇族待遇で飼い殺しにするのが一見すると安牌ではある。しかし、それもやはり彼に不信感を抱かせる危険性がある。仮に彼が非協力的な態度を見せ始めれば、バトレーもそれに追従してしまうだろう。

 

 私は暫くそれぞれの利得と損失を吟味した末、答えを出す。

 

「確かにそちらの方が良いかもしれませんね。シャムナさん、お兄様に()()()()()()史料を提供することは可能でしょうか?」

 

「ええ、勿論。喜んで()()()()()()史料を提供しましょう」

 

 シャムナは首肯した。言外に込めた意味は汲み取ってくれていそうだ。多分これも、シュナイゼルから課されたレッスンなのだろう。クロヴィスを操縦して損失なく利用しろ、という。

 

 別にシュナイゼルの意図に沿うつもりではないが、研究が難航しつつあることも確かだ。何かしらのカンフル剤を必要としている。

 その意味では、クロヴィスの優れた考古学的見地は役に立つかもしれない。ギアスキャンセラー、その早期完成のために利用出来るものは何であっても利用すべきだ。そういう意味では非属人的なギアスキャンセラーを半ば完成させることになるクリストフ・シザーマンを確保することが出来なかったのはかなり惜しい。

 

「おお、感謝するぞ妹よ!

……それと、もうひとつ頼みたいことが」

 

「ガブリエラ妃とライラ様のことでしたら、既にシュナイゼルお兄様が保護していますのでご安心を」

 

 私は彼に二人が映った写真を手渡した。

 感情を失ったように無気力に包まれたガブリエラの車椅子を、不安げに押すライラの姿。それをクロヴィスは少し辛そうに見た後に、笑顔を取り繕って私に大袈裟な謝意を示す。

 

「改めて、お前と兄上には感謝しかない。私と臣下のみならず、母と妹の身まで保護してくれた」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

 正直、この件に関してはかなりリスクが高い采配だった。下手をすればクロヴィスを保護したこと以上に。

 ライラの進退についてはV.V.が絡んでいる。そして優れたギアス適性を持つライラに、V.V.は既に目を付けていた筈だ。V.V.にこちらの存在を気取らせるきっかけになる恐れがある。

 

 火中の栗を拾うような真似をしたのはクロヴィスへ恩を売ることに加えて、計画の妨害、もしもの時の人質でもある。

 ガブリエラ妃とライラの保護は、シュナイゼルが暗殺者を警戒してという建前の元、表立って行われている。つまりあくまで暗躍に徹するV.V.が強引に介入する可能性は低い。

 

 ギアス関連の遺跡を活性化させるという彼女のギアスは、シャルルたちの計画を推し進めるものだが、未覚醒の現段階では高いギアス適性があるとしか認識されていないはず。ならば、あのV.V.であってもシュナイゼルの懐に飛び込むような真似はしないだろう。シュナイゼルへの警戒は強まっただろうが。

 

「用件は以上でしょうか?」

 

「ああ! 無能な皇子の我儘は以上だ」

 

 クロヴィスはそう言って笑った。そういう自虐的なジョークを立場ある人間がやっても下の者は困るだけだぞ、と言いたくなる気持ちを抑えて私は無言で微笑んだ。

 

 満足したクロヴィスがシャムナと会話を始めたところを見計らって、懐中時計を見る。今から速やかに帰国すれば、ギリギリ間に合うか。

 

「む? どうした、モニカ。

何か急ぎの用でも?」

 

 目敏いクロヴィスが、私の次の予定を訪ねた。

 ……別に教えてもいいが、ここは彼好みの婉曲的な言い回しをしてみようか。

 

「そうですね。

姫と騎士の出会いの場面に、少し横入りしてみようかと」

 

 クロヴィスはやはり、嬉しそうに応える。

 

「成程。であるのならば馬に蹴飛ばされぬように、努努気をつけておくことだ」

 

「あら、日本の古典的な言い回しにも精通していらっしゃるとは驚きです。クロヴィスお兄様」

 

「イレブン…いや、日本好きの妹に好かれようと思ってな」

 

 クロヴィスは愉快そうに笑った。シュナイゼルとはまた違った厄介さを持つ兄の忠言に、私は困ったような笑いを返した。

 

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