モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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34.ブリタニアの休日(※邪魔者付き)

「見てください枢木くん、素敵なドレス! ユフィに似合いそうだと思いませんか?」

 

「えっと…」

 

「あっちはモニカさんに似合いそう! スザク、このお店入ってみます?」

 

「いや、ちょっと…」

 

「そうしましょう」

 

「あ、あの………はぁ。 わかった、わかったから引っ張らないでよ、二人とも」

 

 シンジュクゲットーのショッピングモールにて、枢木スザクは二人の少女に翻弄されていた。

 高貴な雰囲気を持つどこか似ている少女たちは、ただただ戸惑うスザクを傍目に、まるで仲良し姉妹のように街を楽しんでいた。

 

 つい先日まで無実の罪で拘束されていたというのに、なぜこんな事になったのか。スザクは数時間前の邂逅に思いを馳せた。

 

 

「私、実は悪い人に追われていて……だから助けて下さいませんか?」

 

 空から降ってきた少女が嘘をついていることは、スザクからしても一目瞭然だった。

 彼女が何かから逃げているというのは、きっと本当だろう。しかし追っている相手は、悪い人ではない。

 なぜなら彼女からは逃亡者が醸し出すような、鬼気迫るような気配が一切しなかったからだ。どちらかと言うなら、初めて家出をして浮かれている、可愛らしいお嬢様という印象の方が強かった。

 

 実際、少女が降ってきた方向、つまり上空を見上げればロープ状に束ねられたカーテンが垂らされた窓がある。

 監禁されて命からがら……というには少女の装いは平常そのもので、そもそも彼女が飛び降りてきた建物も豪邸と言っていいほどに立派なものだった。

 

 これらの材料から誘拐された可哀想な少女が、悪人から監禁されていたところをどうにか抜け出した、と解釈するのは難しい。

 自分が受け止めなければどうなっていたか。スザクはそれに冷りとしたものを感じつつ、目の前の少女の願いにどう応えるか逡巡する。

 

 どちらにせよ、迎えに来るはずのロイドたちが居なかったために途方に暮れていたところだ。それに明らかに世間知らずな少女をこのまま放置するのは気が引ける。

 スザクはそう思い、彼女の誘いを受けようとした。

 

「あら、ユフィ。何をしているの?」

 

 声がした方を見ると、そこには少し大きな縁の眼鏡を掛けた金髪の少女が立っていた。年頃は、空から降ってきた少女と同じくらい。

 友人か、と思ってユフィと呼ばれた少女の方を見ると、彼女は心底から驚愕した様子で目を見開いていた。

 

「あ、貴女は────」

 

 ユフィが何かを言う前に、金髪の少女が距離を詰める。気のせいか、こちらに近づいてくる一瞬だけ、兵士であるスザクの目でも動きを追えなかった。単に速い、というよりはこちらの視線が外れるほんの一瞬を見計らって動いている、そんな感じがした。

 

「今日は休日だったかしら? ……あぁ、なるほど」

 

 金髪の少女は上を見上げて苦笑した。スザクと同じように、窓から垂れたカーテンで全てを察したのだろう。

 

「えっと、あの…」

 

()()()()()()()()()()()。お姉さんにバレたらまた怒られるわよ?」

 

「………えっ?」

 

 クスクスと笑う少女に、どこか間の抜けた表情のユフィ。

 スザクは二人がそれなりに親しい間柄なのだろうと推測した。少なくとも、金髪の少女の態度からは、ユフィと呼ばれた少女に対する深い親愛のようなものを感じたからだ。

 

 金髪の少女はスザクに顔を向けた。

 

「それで、貴方は?」

 

「あっ、いえ自分は…」

 

 面倒事になる前に、立ち去ろう。そう思ったスザクが、何か言葉を絞り出そうとした刹那、

 

「こ、この方はスザク! わ、私の……友人ですっ!」

 

 ユフィという少女が、思いがけない横槍を放った。

 

「えっ!?」

 

 自分の名前を知っているのは、諸々の事情からして不自然とは言えない。しかし、だとするのなら諸々の事情を知っているであろう自分を友人と称したのが不自然だ。困惑するスザクを待たずに、状況は転がっていく。

 

「あら、そうなんですか。ということは、彼女の無茶を受け止めてくれたのも貴方? ありがとうございます」

 

 金髪の少女は警戒を解くように、柔らかく微笑んだ。ユフィもその少女の言葉に、どこか安心したように胸を撫で下ろしている。

 スザクとしては否定の言葉を吐きたかったが、だとするならお前は何なのだ、とまたややこしい話になりかねない。これまたどうするかスザクは悩んでいると、金髪の少女が手を伸ばしてきた。

 

「スザク…いえ枢木くん。

私はモニカ・クルシェフスキー。お転婆なユフィを助けてくれてありがとう」

 

 金髪の少女、モニカもやはりスザクのことを知っているようだった。

 だというのに、悪意も軽蔑も見せずに彼女はスザクに握手を求めてきた。

 

「……いえ、僕はたまたま通りがかっただけですよ」

 

「あら、そうなの?

受け止めてくれる素敵な騎士が下にいてよかったですね、お姫様?」

 

「……もうっ! モ、モニカったら!」

 

 ユフィは少し顔を赤らめながら、わざとらしく怒ってみせた。

 スザクはそれに微笑ましいものを感じながら、握手を交わしたモニカを、どこかで見掛けたような気がしていた。

 

 

 それからどういう流れでそうなったかは最早定かではないがスザクは、ユフィとモニカの散策に付き合うことになった。二人ともつい最近、ブリタニアからエリア11にやって来た学生らしかった。

 ブリタニア人の少女二人と街をぶらつく、つい先日まで皇族暗殺の容疑者だったイレブン。そんな、絵に描いたような悪目立ちの典型を避けるために、スザクはサングラスを掛ける。しかし、

 

「なんです、その変なサングラス。

どういう気持ちで買ったんですか?」

 

 とモニカが揶揄い、ユフィは「な、なんですかその変な服装。ぷっ…ふふっ…」と笑った。

 ……思わず外したくなったが、スザクはどうにか羞恥心を堪える。同年代の女子二人に格好を馬鹿にされることがこうも辛いのかとスザクは内心で頭を抱えた。

 

 どうにか、自分の中でお気に入りだったカッコいいサングラスの不評へ折り合いをつけていると、それに一切構わない女性陣たちは新たな興味の対象を見つけていた。

 

「ニャーニャー! 見てください、モニカさん。この子、怪我をしてます!」

 

「あら、本当。凄く威嚇してますね。……わ、すごいユフィ。すぐに仲良しになるなんて」

 

「ふふふ、この猫ちゃんがいい子なだけです」

 

 黒い猫は、ユフィの手に頬を擦り付けている。

 猫……というより動物から基本的に懐かれないスザクからすると、少しそれが羨ましく思えた。そんなことを考えながらぼんやりと、猫と戯れるユフィを見守るスザク。

 

「私もあんまり好かれないんですよ、動物に」

 

 いつの間にか隣に来ていたモニカが、悪戯っぽくそう言った。

 音もなく隣に立たれていたことに一軍人として少しだけ、ギョッとするスザクだったが、さっきまで拘束されて疲れているせいと結論づけて、平静を保つ。

 

「そ、そうなんですか。

モニカさんは動物にも、人にも好かれそうなのに」

 

「あらお上手。

……私もそう在りたいんですけどね。でも、片想いばかりです」

 

「ははっ…わかります、それ」

 

 モニカは、ユフィをどこか羨んでいる。それがスザクは何となく理解できた。

 

「……学生って話、嘘ですよね」

 

 スザクの言葉に、モニカは特に狼狽えた様子もなく返す。

 

「ええ、嘘ですよ」

 

「………二人とも、貴族なんでしょう?」

 

「私はそうですが、ユフィは違います」

 

 モニカはなんてことも無いように、そう言った。スザクはそれに眉を顰める。ある程度一般人に溶け込んでいる様子のモニカと違い、ユフィはどこからどう見ても箱入りお嬢様で、貴族と見てほぼ間違いないだろうと踏んでいたからだ。

 

「じゃあ、ユフィは一体………」

 

 ユフィから目を離し、隣に視線をやるとまるで最初からいなかったかのように、モニカの姿が消えていた。

 スザクは呆然としたが、猫から去られたユフィが駆け寄って意を決したようにシンジュクゲットーを見てみたいと打ち明けたことで、一旦モニカのことは頭の片隅に置かれることとなった。

 

 

「やめてください、同じブリタニア軍同士で!」

 

 二人の少女との和やかな時間から一転、スザクは修羅場に身を投じていた。純血派の粛清騒動、それを止めるためにスザクはランスロットに騎乗して、貴族たちが繰り広げる高貴なる内ゲバに乱入したのである。

 

『特派の嚮導兵器…ということはナイト・オブ・トゥエルブの介入ではないな!? ならば、排除するまでッ!』

 

 ジェレミアが騎乗するサザーランドを囲んでいた、十機のサザーランドは一斉にランスロットへ槍を向ける。

 

 ランスロットは実用化されたばかりのMVSを両手に、襲い掛かるサザーランドを次々に無力化していく。何か時間制限でもあるのか、どれも焦っており、動きが単調だったが故に、スザクは容易くそれらの四肢を切断していく。

 

『くっ……ならばオレンジだけでも……! 総員、ジェレミアに突撃しろ!!』

 

 キューエルが乗ったサザーランドを除く、無力化されていない5騎のサザーランドが、ランスロットから翻ってジェレミアのサザーランドへと槍先を向けてランドスピナーを急速に回転させる。

 その内の1騎は新たに乱入してきたサザーランドに止められたが、残る4騎はそのままジェレミアを殺すべく無慈悲にランスを、彼の胸元に向けて突撃させる。

 

 流石のランスロットであっても、四方それぞれから迫るサザーランドを瞬時に撃破するなど不可能だ。1騎、2騎までは撃破出来たものの、残り2騎はそのままジェレミアを殺すべく前進を続け、今や突き殺さんと穂先がサザーランドの胸部に接触しようとした。

 

「クソっ、間に合わないか……────ッ!?」

 

 その刹那、ランスがジェレミアのサザーランドに突き刺されるのを待たずに、2騎にどこからか放たれたスラッシュハーケンが突き刺さった。

 それぞれ脚部を破壊されたサザーランド2騎は、前進そのままにバランスを崩して地面に滑り込むように転がった。

 

「あれは……」

 

 スラッシュハーケンが戻った先、そこには黄緑色の、ランスロットに似たKMFが廃スタジアムの外壁の上に立っていた。

 

『ナイト・オブ・トゥエルブ……! やはり介入してきたか!!!』

 

 キューエルが吼える。それに応えるように黄緑色のKMFがジェレミアの前に、まるで庇うように降り立つ。その手にはヴァリスが携えられていた。

 

『これは我ら純血派の名誉の問題だッ! この粛清に、ナイト・オブ・ラウンズが干渉する道理などどこにも無いッ!』

 

 ナイト・オブ・ラウンズ。それは一兵卒のスザクでも知っている名前であり、ブリタニアを内側から変えようと志すスザクが目指している場所でもあった。

 

「あれが、騎士の頂点……」

 

 威風堂々たる立ち姿に、スザクは思わず息をするのも忘れてしまう。

 

()()()()()()()()…すまない、みっともない姿を晒した』

 

 戸惑うばかりだったジェレミアが、先程とは打って変わって恥じるように黄緑色のKMFにそう告げた。

 

「……クルシェフスキー?」

 

 思いがけない名前に、一瞬だけスザクの思考が停止する。それを見計らったかのように、新たなKMFが空から降ってきた。

 

『ジェリー、死んでなくて良かった』

 

『その名で呼ぶなと言ったろう、アールストレイム卿!……だが、助太刀感謝するッ! 』

 

 新たな乱入者たる戦場に似つかわしくない程にピンク色に塗装されたグロースターは、黄緑色のKMFと並んでジェレミアの盾となった。どちらも、ジェレミアとそれなりの関係にあることがスザクからしても見て取れる。

 

 クルシェフスキー、それは先程まで街を散策した少女の姓では無かったか。スザクはそれが偶然であるかを考えようとした。しかし、キューエルが不審な動きを見せたために、思考を中断する。

 

「まだやるつもりですか!?」

 

『……クソッ! ケイオス爆雷を使う! 命が惜しければそこから退けッ!!!』

 

「なっ!?」

 

 サザーランドから脱出したばかりの生身の味方が付近にいるにも拘らず、キューエルの選択肢はスザクにとって予想外すぎるものだった。だが、それよりも予想外だったのは───

 

「おやめなさい!!」

 

 ケイオス爆雷が宙に放たれたその瞬間に、ユフィが乱入してきたことである。

 その場に居た者の殆どが呆気にとられる。スザクも例外ではなかったが、考えるよりも先に身体が動き、ブレイズルミナスを展開しようとする。

 果たして、ケイオス爆雷の銃撃に耐えられるか。スザクは一瞬の判断でユグドラシル・ドライブを全開にしようとした。それとほぼ同時にケイオス爆雷は展開し、無数の銃撃を放とうとする。

 

─────だが、それよりも早くケイオス爆雷を緑色の閃光が無慈悲に貫いた。

 

 ヴァリスから放たれた一撃は、正確無比にケイオス爆雷の中心を捉え、本格的な起動を許さずにその殆どを消滅させてしまった。

 スザクをして、息を呑むような精度。それを混沌とした状況の中であっさりと実現させた黄緑色のKMFに、畏敬の念すら抱きそうになる。

 

 ある種の神業を前にした一同は、沈黙せざるを得ない。それは乱入してきたはずのユフィも呆然としていた。

 そんな、異様な空気を動かしたのもまた黄緑色のKMFだった。黄緑色のKMFはユフィに向き直り、跪いた。

 

『───ユーフェミア殿下、お怪我はありませんか』

 

 それは、確かにモニカという少女の声だった。それに、ユーフェミア殿下とは────

 スザクは目を見開いて、彼女たちを混乱のままに見ることしか出来ない。

 

「貴女は一体……い、いえ、違う。今はそうじゃない……

────ブリタニア第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの名において、命令しますっ!双方、剣を収めなさいっ!」

 

『も、申し訳ございませんでした皇女殿下ッ!!』

 

 先程までの威勢が嘘だったかのように戦々恐々と跪くキューエルを傍目に、スザクはさっきまでの無礼を詫びるために、KMFから降りる。だが、ユーフェミアはスザクの無礼を咎めることなく、こう告げた。

 

「────これ以上、みんなが大切な人を失わなくてもいいように力を貸してくれますか?」

 

「…ハッ! 勿体なきお言葉…!」

 

 スザクはある種の感銘を胸に、第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアへ跪き忠義を示す。それに、ユーフェミアは少し寂しそうな顔をした後に、黄緑色のKMFを見上げた。そこには、ちょうどコックピットから出てきたばかりの女騎士が居た。

 

「貴女も、どうか未熟な私に力を貸してください。

─────ナイト・オブ・トゥエルブ……いえ、モニカ・クルシェフスキー」

 

「Yes, Your Highness.

なんなりとお使いください、ユーフェミア皇女殿下」

 

 モニカ・クルシェフスキーは恭しく跪いたあとに、スザクの方を見て微笑んだ。

 しかし、それは街の中で見せた穏やかな笑顔とは全く異質の、何か得体の知れない物のように、スザクの目に映っていた。

 

 

「キミ、今回の粛清騒動がここで起きるって前々から知ってたでしょお?」

 

「さて」

 

「まぁた殿下となにか悪巧みしてるらしいじゃない、ナイト・オブ・トゥエルブ様〜?」

 

「なんの事でしょうか、ロイド博士?」

 

 事後処理のために、現場に残った特派主任とナイト・オブ・トゥエルブは暗闇に包まれた廃スタジアムの観客席で、珈琲を飲んでいた。

 特派とモニカ専属の工房のスタッフたちがそれぞれ、戦闘の痕跡を消そうと奔走しているのをお茶請けにしながら、である。

 

「ざぁんねんでしたぁ。 まぁ、ボク以外は気付いてもないだろうけどねぇ? キミと殿下が組むと無敵って感じぃ? あはぁ」

 

「無敵と呼べるほど世の中は容易く出来ていませんよ、ロイドさん」

 

「ま、それもそうだね。

かつて無敵と呼ばれていたブリタニアのKMFも、最近じゃ危うい場面が多くなってきてるし?

知ってる? EU戦線で噂になってるお化けのお話。虫みたいな小さなKMFの部隊が、敵が居ない筈の後方から奇襲してくるっていうやつ」

 

「…怖い話は嫌いなので、また今度」

 

「それはざぁんねん。

今は無敵なランスロットとスザクくんも、その内危ない場面が出てくるのかなぁ?」

 

「ロイドさんにしては随分と弱気な発言ですね」

 

「弱気というか、技術者として客観的意見ってやつだね。

技術は日頃から進歩するものだ。ラクシャータも今どこで何してるかわからないしねぇ〜?」

 

「なんですかその目は。ラクシャータさんがどこで何をしてるか、私が知るわけないでしょう」

 

 誤魔化すように珈琲を呷るモニカに、ロイドは目を細めて笑う。

 

「ま、別にいいけどねぇ〜。

何が来ても、それに応じてボクらも進歩すればいいだけだしぃ?」

 

「その前にランスロットに脱出機能を実装すべきでは? あれ、怠慢で付けてないだけでしょう」

 

「……それはキミんとこの()()()()くんにも言えることでしょ?」

 

「……近日中に、実装予定ですが? そもそも、怠慢などではなく予算的かつ時間的都合というやむを得ない背景があっての未実装です、うちの子は」

 

「キミのそういうところは相変わらずで、好きだねぇ」

 

 その後も、師弟の不毛なやり取りは続いた。

 二人の胡乱な応酬に呼応するように、夜の帳はゆっくりとシンジュクゲットーの廃墟群を暗闇に包み込んだ。




オリジナルKMF解説

■エクター
ナイト・オブ・トゥエルブの工房にて設計、製造されたランスロットの兄弟機。全体的なシルエットはランスロットに酷似しているが、黄緑色の塗装と、頭部が複眼であることで差別化が図られている。
また、性能的にも運動性能に重きを置いたランスロットと異なり、機能性偏重となっている。ランスロットのような三次元的な機動も出来なくはないが、従来のKMF戦術に則った運用の方に向いている。
名前の由来はランスロットの異母弟であるエクター・ド・マリスから。
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