モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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47.駆除

 三ヶ月の謹慎が開始されて、ジルクスタンで愛しのフローレンスと対面してから一ヶ月。その間、多くの事態が動いた。

 まず、ヴィレッタがディートハルトに捕捉されて行方不明になった。

 無論、軍の視点での話であり、湖の貴人としてはその行先は既に把握している。

 ディートハルトらに殺されかけたヴィレッタだったがやはりというべきか、扇要に拾われていたのである。

 

 ……いや、正直シャーリーを巻き込まないのなら何でもいいのだが、これまでの人生の中で初めて修正力的なものを感じるのがこの件になるとは。

 

 一応、ヴィレッタはゼロの素顔を知っている数少ない人物ではあるし、注目すべきではあるのだが……。

 ……恋愛的なことというのもあって、自ら介入しようという気にはならない。マオに馬鹿にされそうだが、事実その手の話は苦手なのであった。

 ということでこの件はシュナイゼルに一任することとなった。と言ってもヴィレッタが記憶を取り戻すまでは成人男女のイチャイチャを記録するだけになるだろうが。

 

 次に挙げるべきは、ルルーシュが白兜(ランスロット)の中身を知ったことだろう。

 藤堂の処刑を巡った戦いにて、ランスロットのコックピットが露出、結果ルルーシュがスザクが宿敵であると知ることとなった。

 つまりは正史通りの経緯を辿ることとなった。

 

 そして最後に――――ユーフェミアが選任騎士にスザクを指名した。

 

 というわけで、今も目の前でルルーシュがスザクに時折意味深な視線を送っている。

 生徒会室の中で、ルルーシュの視線がスザクに向けられること自体はそこまで不自然ではない。

 スザクも特に気にしている様子もない。

 

 ただ、諸々の事情を知っている私だけが、ルルーシュの視線に含まれるものを察知できるだけだ。

 

「ルルーシュ」

 

 私が呼び掛けるとルルーシュ・ランページとして振り返り、応えた。

 

「どうしたんですか、モニカ先輩」

 

「いえ、学園祭のことで聞きたいことがあって……今、大丈夫ですか?」

 

「……ええ、大丈夫ですけど。今年は参加できるんですか?」

 

 例年、アッシュフォードの学園祭には業務都合の為参加できなかった。しかし、今年は違う。

 

「……まぁ」

 

 あからさまに目を逸らしてみると、ルルーシュは一瞬だけ目を細めた。

 

「……何かあったんですか? 思えば、最近は毎日登校できてますけど、もしかして長期休暇、とか」

 

 食いついてきた。私はモニカ先輩として、仮面の騎士に餌を与える。

 

「……これ、内緒よ? 実は仕事でやらかしてしまって、暫く謹慎に」

 

「それ本当!?」

 

 湖の貴人と仮面の騎士の駆け引きに乱入するは、我らがアッシュフォード学園生徒会長である。

 

「え、ええ。三ヶ月間くらいは……少なくとも長期間、何処かに行かなきゃいけないみたいなことはないと思う」

 

「良かった~! 今年が最後の学園祭じゃない!? 少なくともモニカにとっては!!」

 

「……ミレイも三年生だからそのはずだけど?」

 

「私は、まぁいいじゃない、うん、進路とか。……重要なのはモニカが学園祭に最初で最後の参戦をするってことよ!!」

 

 既に作為的な留年を企んでいるであろうミレイがどこか誤魔化し混じりに私の手を持ち上げた。

 

「今年の学園祭は私物化しちゃうわよ~!!」

 

「毎年のことじゃないっすかね……」

 

 リヴァルが呆れを隠さずに、苦笑いを浮かべた。

 ほかのメンバーも同じようにハイテンションなミレイに、引き気味だった。

 

「そんなに派手なの? ここの学園祭って」

 

「会長が湯水のように予算使うからねぇ」

 

「去年なんてほんとに酷かったんだから! ミレイ会長だけじゃなくて、ルルまで」

 

 やがて、話にイマイチ参加出来ていないスザクのために、これまでの学園祭での馬鹿騒ぎについての思い出話が始まった。

 

 唯一、ルルーシュだけが何かを考えるように、眉間に皺を寄せている。

 

 彼の耳に入っているであろう、式根島で皇族(ユーフェミア)が貴族――実際は皇族(シュナイゼル)だが――を迎え入れるという情報と、今開示した私の実質的な戦線離脱。

 

 つまりゼロにとっては、ランスロット(枢木スザク)を捕らえる絶好のチャンスだ。

 

 無論、私たちが垂らした釣り餌だ。しかし、陸地に釣り上げるつもりはない。

 安心して食いつけ。そう、考えていたところでミレイが私に耳打ちした。

 

「ちょっと、いい?」

 

「どうしたの? 流石にミスコンに参加するつもりは」

 

「文化祭の話じゃなくて……とにかく相談事があるの」

 

 私は首を傾げながら、ミレイに手を引かれて廊下に出た。

 相談事。なんだろう。やはり、先延ばしにしている進路のことだろうか。

 

 正史ではお天気お姉さんになった彼女だが、それでも貴族令嬢。人生の途上には常にレールが引かれている。

 留年してまで進路の確定を避けようとしているのも、ミレイが破天荒だからという以上に、思いのまま生きるにはそれ相応の覚悟が必要だからだ。

 

 そんな彼女の背中を押す機会が待ち受けているとするなら、私は喜んで押そう。

 親友として、ミレイには自分たちのように何かに縛られることなく、彼女らしく自由に生きてほしいのだ。

 

 少なくとも家の存続のために、好きでもない相手と結婚することになる彼女の姿など……うん? 待て、何かを忘れているような……?

 

「それで、相談なんだけどね……」

 

「え、あ、うん」

 

 思考に気持ちの悪い引っ掛かりを感じながらも、妙にもじもじしているミレイに集中している。

 

「その、さっき、進路の話をしてたじゃない?」

 

「ええ、まぁ」

 

 やっぱり進路の話か。雰囲気から恋愛的なアレかと少し肝が冷えたが、違うようでよかった。

 恋愛相談となると私としては何も言えなくなる。特にミレイの場合は、ルルーシュ絡みになってしまうので尚更だ。

 

「……あの、やっぱりバレてる?」

 

 お天気お姉さんのことを言っているのだろうか。

 

「当たり前じゃない。私たち親友でしょう?」

 

 実を言うと、瞼裏の物語関係なしに私の知るミレイが何を目指しているかは察していた。本人は巧妙に隠しているつもりなのだろうが、親友からすれば一目瞭然。

 

 ミレイが何に悩んでいるかなど、このようにマオの如く読み取ることが出来る。

 

「……そう、よね。だって、どっちともと古い付き合いだし」

 

「……?」

 

 古い付き合い。確かに私とミレイは喃語が抜け切れてないほどに幼い頃からの付き合いではある。

 しかし、なんで今更そんな分かりきったことを?

 

「ミレイ……? あの、話が見えなくなってきたんだけど……」

 

 これは本当に私が想定する進路の話か、そう不安になった私を余所にミレイは意を決したような表情を見せた。

 

「私、ロイド伯爵と婚姻しようと思ってるのっ!!」

 

「………………は?」

 

 それは、理解の出来ない言語だった。

 いや、単語一つ一つは理解出来る。しかし、組み合わせが理解できない。

 

 私……ミレイのこと。

 ロイド伯爵……どうしようもない、人でなしのこと。

 婚姻……男女の合意に基づいて夫婦になる行為のこと。

 

 ……うん、おかしい。単語は理解できるのに、ミレイの言ってることが一片たりとも理解できない。

 というか、なんだってロイドの名前がミレイの口から。本来絡みなど……あっ。

 

「ミレイのおじいさまがセッティングしたお見合い……」

 

「ほら、やっぱり知ってるじゃない!」

 

 なんで私はこんな重要なことを忘れていた?

 瞼裏の物語でもそれなりに尺を割かれて描かれてたエピソードだったはずだ。

 

 いやしかし、あれは最終的には破談して終わったはず。

 だが、ミレイは婚姻と言った。いや、というか……

 

「もしかして、もう顔合わせは済んでたり……」

 

「え、顔合わせどころか、もう何回も食事に行ってるけど……」

 

「……」

 

 どうやら私が知らない所で事態は進んでいたようだ。

 いや、だとするならおかしい。あのプリンのことだ。どうせKMFの話ばかりして、ミレイを困惑させたに決まっている。

 婚姻を決める要素などあの男にあるはずもない。あいつはミレイではなく、ガニメデ目当ての糞野郎。振られて然るべきである。

 

「……ミレイ。嫌なら、婚姻なんてする必要ないと思うわよ?」

 

 そうだ。家のことを重んじるにしても相手はまだいる。

 没落したとはいえ、アッシュフォード家だ。引く手あまただろう。だから、ロイドを選ぶ理由なんか――――

 

「その、実は何回か話してみたら、意外といいかなぁ……なんて思っちゃって」

 

「――――ん!?」

 

 意外といい!? 何が!?

 

「あの人のどこにそう感じたの!?」

 

「最初はね、KMFの話ばかりして私には興味なんてないんだろうなーって思ってたんだけど……」

 

「それはそうでしょうね」

 

「でもね……話の途中で――――モニカの名前が出たの」

 

「――――え」

 

 瞬間、全てのピースが繋がる。それは絶望的なパズルの完成だった。

 

「お互いが持ってたモニカとの思い出を話してるうちに、なんだか盛り上がっちゃって……モニカがロイドさ……伯爵のところにいた頃の話を聞いて、KMFにも段々と興味が湧いてきちゃって……」

 

 要するに、本来共通の話題なんて存在しないはずの二人に、私という絶好の話題が発生してしまった。

 恐るべしバタフライエフェクト。私は今更になって、ロイドの誘いに乗った幼い自分の軽率を恨んだ。

 

「やっぱり、子供の頃から大好きなお兄さんを取られるのは……嫌?」

 

「ううん、その勘違いが一番嫌」

 

 あのプリン野郎が私への仕打ちをどんな風にミレイに語っているか、今から怒りが湧いて仕方なかった。

 

 

「……ミレイ、なんであんな気の迷いを」

 

 海底で、私は親友の愚行を嘆く。あれから何度説得しても、彼女は私をやきもちを焼く可愛らしい幼馴染としか思えないようだった。

 

 ――――最悪、ルルーシュにギアスを使わせようか。

 

『湖の貴人、そちらの準備は出来ているかい?』

 

 コックピット内に、シュナイゼルの無線が響く。

 

「……ええ。いつでも大丈夫です。……逆に、そちらは大丈夫なんでしょうね。今回の要はお兄様の砲撃なのですが」

 

『妹の失望を買わないように、心を尽くすつもりだ』

 

「お願いしますね」

 

 いい感じに砲撃して、いい感じにルルーシュに【生きろ】とスザクに命じさせる。

 ……正直、かなり雑なお願いだ。シュナイゼルのことだから、私が指定したシチュエーション以外でも、ルルーシュの命令を誘導する策を用意してすらいるのだろうから、そう心配する必要はないとは思うが。

 

 今、私は式根島近海の海底にいる。

 

 と言ってもフローレンスと海の間は壁で隔たれているために、海中風景を楽しめたりはしない。

 ユーフェミアの式根島来訪。黒の騎士団はそれに食いついた。

 

 現在、私は謹慎処分にて戦線離脱。アーニャは機体大破により、専用機(モルドレッド)が完成するまでは待機。つまり、この日本でナイト・オブ・ラウンズが介入してくる可能性は限りなく低い。軍事拠点ではないため警備も薄く、コーネリアも不在。

 

 つまり黒の騎士団――ゼロとしてはこれを利用しない手はない。

 

 私は手元の端末に目を落とす。そこでは既に戦闘が開始された式根島が映し出されていた。

 ドローンのカメラには交戦開始した戦場だけでなく、巧妙に隠されたゲフィオンディスターバーも捉えられていた。

 

 ブリタニア側はまだそれに気付いていない。

 つまり、今のところ私の知る経緯を辿っているわけだ。

 

 正直なことを言えば、不安材料はなかった。

 

 正史において引き金となるシュナイゼルについては言わずもがな、ナリタの時のようにルルーシュの戦略を制限する必要もない。

 

 アーニャ(マリアンヌ)も今回の件には関わって来ない。私の知る、片方の正史(劇場版)では試作段階のモルドレッドとともにアヴァロンに運び込まれていたが、流石に今の私たちにそれをする意味はない。

 

 シャルルからアーニャを帯同させるよう求められもしなかったので、彼女にはお留守番をしてもらっている。無論、監視付きで。

 カノン曰く、マリアンヌが表に出たような様子は病院の一件以降皆無とのことだが……それが却って不気味でもある。いや、ここに無い不安材料について考えても仕方ないか。

 

 要するに、式根島において予想外の方向へ戦局が転ぶ要素が極めて少ないのだ。

 

 そして今、ゲフィオンディスターバーにランスロットが嵌った。ゼロがこれ幸いと、ランスロットに接近し、スザクも降りる。

 条件は全てクリアされた。後は、頃合いを見計らって――――

 

『湖の貴人、望まぬ客(イレギュラー)だ』

 

 シュナイゼルの声が、海底に届けられる。

 その瞬間、画面が激しく揺れた。何が起きて――――

 

 映像の向こうでは、ゲフィオンディスターバーが破壊され自由になったランスロットと、ゼロが紅蓮弐式に保護されて、その場を後にする光景が映し出されている。言うなればそれはゼロの計画が根底から覆されていることを示していた。

 

「一体、誰が……!」

 

 私はゲフィオンディスターバーを破壊した主犯を視認する。

 丘の頂上でヴァリスを構える、通常より大型の白いKMF――――両肩には大きな盾が装着しており、意匠としてはブリタニア製であることが察せられるが、見たことのないKMFだった。……いや、あれは――――

 

『全軍に告げる』

 

 それは、オープン回線に乗せられた、心底から不快さを抱いているような、無機質な苛立ちに満ちた声だった。

 

『皇帝陛下の勅令により、これよりこの戦闘の指揮権は例外なくこの私に帰属することとなった』

 

 そこには昂ぶりも、喜色もなかった。

 まるでこの世の全てを不快に感じているように、淡々と男は必要な事実を告げる。

 

『ナイト・オブ・ファイブ――――ノーランド・フォン・リューネベルク』

 

 私はその名を言い終わるよりも先に、箱を突き破って海底から空へと飛翔する。

 白いKMFは、空に飛び上がったフローレンスの方に銃口を向けた。

 

『――――これより、敵の駆除を開始する』

 

「望むところよ、イレギュラー……!!」

 

 ここで、お前を否定して、消し去ってやる。

 私は口端が吊り上がるのを感じながら、ハドロン砲を世界の敵へと放った。

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