モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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48.混沌

 式根島が、揺れた。

 天から放たれた赤黒いエネルギーの濁流が小高い丘を削り尽くす。されど、丘に立っていた白いKMFは容易くその場を飛び退いて、空中にて照準を定める。

 

 空を叩くような音と共に、緑色の閃光が発射された──が、標的である昆虫のようなKMFは浮遊したまま、やはり昆虫のような機動でそれを容易く回避する。

 

 それをモニター越しに見ていた褐色の美女の眉間が歪む。

 

「KMFにもフロートシステムときたか」

 

 浮遊航空艦に加えて、眼前のKMF。

 前者は誰が作ったか大方の予想はつくが、後者は────

 

「湖の貴人ッ!」

 

 隣で、ディートハルトが興奮気味に身を乗り出した。

 

「一体なぜ……いや、しかし、この状況では有難い!」

 

 そのまま彼が信奉するゼロへ通信を試み出したところで、ラクシャータは内心で成程、と密かに納得した。

 

 ────最近、連絡が無いと思ったら……あんなものを作っちゃって、ミニプリンちゃん。

 

 不気味な機動で浮遊しながら、白いKMFにハドロンを何度も連射する昆虫のようなKMF──その趣向には既視感しかなかった。

 相変わらず可愛げがない設計だと心の中で毒づきながら、煙管を揺らす。

 

「浮遊航空艦に、お子様ランチみたいなKMF。まったく、師弟揃って節操がないねぇ」

 

 ラクシャータの呟きは、ディートハルトと彼に指示を飛ばすゼロの無線で掻き消され誰にも届くことはなかった。

 

 

「クソッ…! あと少しだったのに!」

 

 野営地にて、紅蓮弐式の掌から地面に降り立ったゼロが忌々しげにランスロットがいる方向へと仮面を向ける。

 ランスロットを無力化し、枢木スザクを眼前に引きずり出した。あとはどうとでも出来る……そんな状況でナイト・オブ・ファイブを名乗る邪魔者から横槍が入った。

 

 幸いにして離脱することは出来たが、それもやはり別の横槍によるものだった。

 

「湖の貴人……また貴様かッ」

 

 浮遊するKMF。その技術的革新に驚く暇などない。

 ナリタの一件で、湖の貴人への軽蔑や油断の類は完全に霧散した。

 

 軽薄な素振りを見せていた理由は凡そ予想がつく。湖の貴人は、ルルーシュをゼロとして表に出したかった。それ故に己を低く見積らせたのだ。

 

 そうなってくるとクロヴィスを殺した──或いは死を偽装した際にゼロの素顔を見たであろう実行犯を始末した、という証言も一切の信用が置けなくなってくる。

 

 下手をすればゼロの素顔を知っている上で、こちらの動きに介入している可能性すらあるのだ。

 

 仮定に仮定を重ねた推理に過ぎないが、ルルーシュは半ば直感でそれを確信していた。

 しかし、だとするなら湖の貴人とは一体誰で、狙いは何か。それが一切掴めなかった。

 

「ナイト・オブ・ファイブが単身でここへ来たとは考えにくい! 藤堂部隊はC地点を中心に分散して哨戒し、敵を発見次第殲滅しろ! 指示系統を立ち直らせる時間を与えるな!」

 

『ゼロ! 私は何をすれば!』

 

 紅蓮弐式──紅月カレンがゼロに指示を求める。

 ルルーシュは仮面の中で、彼女をどう動かすべきかを1秒以内に考え抜き、整然と指示を飛ばす。

 

「Q1、お前は枢木スザクは見つけ次第、捕縛しろ!!」

 

『了解ッ!』

 

 紅蓮弐式を見送ったのとほぼ同時に、専用の無線に通信が届く。

 それは、湖の貴人からだった。

 

『どうも、ゼロ』

 

「湖の貴人か! 貴様、なんのつもりで……」

 

『ナイト・オブ・ファイブに関しては私にとっても予想外でした』

 

「では何故、貴様がここに居る!?」

 

『貴方が何をするつもりなのか、気になったもので』

 

 最早、己が湖の貴人であることを隠そうともしない通信先のフィクサーはいけしゃあしゃあと述べた。

 こちらの出方を探りたかった。それは確かに道理ではある。しかし、そのためにわざわざオーパーツめいたKMFを持ってくるだろうか。

 

「……今回の情報をリークしたのはお前か?」

 

『いえ、今回のリークには私は特に関わっていません。おそらく、ユーフェミアが迎え入れた者による、ある種の罠だったのでしょう』

 

「ユーフェミアが迎え入れるのは貴族という話だが?」

 

『まさか。皇族ですよ』

 

「なに? ……待て、まさか」

 

 そこで、頭上でこちらを不気味に見下ろし続けるアヴァロンの意味を理解した。

 

『シュナイゼルが、空にいます』

 

「そういう事か…!」

 

 唐突なナイト・オブ・ファイブの参戦によるゲフィオンディスターバーの破壊。

 それがシュナイゼルによって張り巡らされた罠の結果だとするなら、何も不思議なことはない。ただ、読み負けただけのこと。

 

「……いいだろう。ならば、貴方の策を越えて目的を達成するまで……!」

 

 幼少の自分に敗北の味を教えた唯一の相手。そんな相手の、ほんの小手調べ程度の策略を打ち破れなければ、母の死の真相を暴くことも、ブリタニアを倒すこともできない。

 

『横入りさせて頂いた手前、観客に甘んじるというのはあまりに身勝手。私も協力させていただきます』

 

「ふん、貴様はそのままナイト・オブ・ファイブを……」

 

『ナイト・オブ・ファイブだけでなく、ランスロット──枢木スザクも討ち取ってあげましょう。貴方の邪魔者はここで尽くが散ることとなる』

 

「────は?」

 

『では、私は失礼させていただきます。話している余裕も無くなりつつあるので』

 

「なっ、待て!!」

 

 通信が切れると共に、上空を飛び回っていたKMFが地面へと急降下し、木々が薙ぎ倒される音が鳴り響いた。

 ルルーシュは、焦燥を胸に己の無頼に乗り込む。

 湖の貴人もまた、邪魔者のひとりだということを確認したのだ。

 

 スザクを仲間に引き入れるのに、残された時間は少ない。

 

 

 ハドロンブラスターによるエネルギーの消耗が思っていたより早い。

 それほどまでに燃費が悪いのか──いや、私が消耗を度外視して撃ちすぎただけか。

 

 地面に急降下して即座にインセクト・モードに変形し、ノーランドが駆るKMF──推定ファウルバウトを追跡する。

 

 林立する木々を巨体で薙ぎ倒し、鎌状MVSで切り裂きながら、ノーランドが何故ここにいるかを思索する。

 決して、監視していなかった訳ではない。あちらがそうしていたように、私もノーランドから注意を外したことなど一度たりとも無いのだから。

 

 直近の報告では、彼の父(無論、表向きの)が治めるリューネベルクの屋敷に滞在していた筈。

 その屋敷から物理的に消えここに現れたこと自体は正直、いくらでもやりようがあるので今考慮する必要はない。

 

 問題にすべきなのは、どういう大義名分でこの戦場に介入したかだ。

 ノーランドは先程、皇帝陛下の勅令というワードを披露した。つまり、この件にシャルルの意思が介在しているということなのだが……それが不自然だ。

 

 必要性が薄くなっていると言えども、あの男はシャルルのスペアボディである。

 それ故にラウンズとしての運用も私を含めた他の騎士と違い、かなり特異なものとなっていた。

 

 シャルルにしてみれば、この戦場もまた些事に過ぎないはず。態々、ノーランドを使う必要性はあるだろうか。

 

 いや、或いはアーニャの代わりにシュナイゼルの護衛として派遣してきたか────そんな思索は、右方向から飛来した緑色の閃光によって中断される。

 

 咄嗟の判断で変形することにより、紙一重で回避する──が、それを見計らうようにファウルバウトがMVSソードを振り上げて急接近してきた。

 

 高周波の衝突。それは怪奇的な絶叫音を島に轟かせた。

 

 振動がぶつかり合い、コックピットを激しく揺らす。

 やがて──フローレンスが押し勝ち、ファウルバウトのMVSが上方へ弾き出される。

 獲った──そう判断して手首に仕込んでいたウルナエッジを、コックピット部に突き刺そうとした刹那、ファウルバウトからスラッシュハーケンが射出される。

 

 私はそれを弾きながら、瞬時に後退した。スペックでは明確にこちらの方が勝っている。焦る必要は無い。

 

 互いに十分に間合いを空けた状態で、睨み合う。

 推定ファウルバウトは見た目こそ私の知るファウルバウトに酷似しているが、比べて兵装は明らかに貧相だ。いや、そもそも今から十年以上先に完成されるファウルバウトの装備の豊富さが異常なだけか。

 

『やはり、貴様が出てくるか』

 

「初めましてで失礼ですが……貴方はお呼びではない」

 

『であれば、貴様がここから消えるがいい』

 

 ヴァリスが私に向けられる。……接続先には見慣れない形状の、機構がひとつ。成程。

 私はエナジーフィラーの残量を確認した上で、両手を構える。火力ではこちらが圧倒的に優位だ。

 

「正直、驚いています。貴方が表舞台に出てくるとは」

 

『ふん。ここで貴様の死体を引き摺りだせば下らない暗闘も終わりに出来る』

 

 もし、私がノーランドに敗北して正体を暴かれた場合、彼は安心して人類絶滅の計画を推し進めることができる。私が用意している、ノーランドの正体を世界中にリークするというデッドマン装置も、発信元が帝国の裏切り者という根拠の前では無力化されるから。

 

 そういう意味では、湖の貴人として動く私を叩きに来るのは決して間違いではないだろう。だが────

 

 それは私にとっても同じことだ。ここでなら、何の憂いもなくお前を消し去ることができる。

 

 マリアンヌと違い、眼前の男は純然たる敵だ。

 私にとっての、ではない。人類そのものへの敵。

 

「──人類の明日のため、塵となりなさい」

 

『──そうまでして害虫を愛でるか、気色の悪い』

 

 互いを否定するために、MVSが振るわれる。

 式根島に、再び高周波がぶつかり合う音が鳴り響いた。

 

 

「何が起きているんだ……!?」

 

 黒の騎士団に囲まれ奮戦するランスロットの中で、枢木スザクは汗を拭った。

 理解が追いつかない。黒の騎士団の策略に嵌められ、ゼロから勧誘されたこと、ナイト・オブ・ファイブの介入。そして、ナリタの時に現れた湖の貴人と思しきKMF。

 

 混乱の最中、半ば反射神経のみで敵を屠っていく枢木スザク。しかし、それを一対の飛燕爪牙(スラッシュハーケン)が妨害する。スザクはやはり驚異的な反射でもって、MVSで弾いた。

 

『枢木スザクッ!』

 

 間をあけず、赤いKMFが大きな腕を構えて間合いを詰めてきた。

 

「赤いやつ……!!」

 

 あの大腕はまともに受ければ危険だ。

 そう判断したスザクは敢えて前進して、紙一重のところでランスロットの機動性でもって避ける。

 

『ちょこまかと……!』

 

「お前の相手をしている暇はない!」

 

 今優先すべきはユーフェミアの護衛――――それが混乱の中で導き出した、選任騎士としての答えだった。

 

『こっちはアンタをひっ捕らえなきゃいけないんだよ!』

 

「知ったことかッ!」

 

 MVSを構える。……ユグドラシル・ドライブを全開にするも、明らかに出力が落ちている。

 先程の罠のせいであることは明白だ。

 

「――――押し通れさえすれば……!」

 

 性能が大幅に落ちてる現状、ほぼ損壊のない同格のスペックを相手にするのは枢木スザクをもってしても厳しい。

 森の奥から聞こえてくる高周波同士のぶつかり合う轟音が徐々に近づいてきているのを感じながら、赤いKMF(紅蓮弐式)の猛攻をギリギリで凌ぐ。

 

 殺害でなく、無力化を目的とした攻撃であるが故に致命的な被弾は避けられている。

 そう、あくまで致命的なものは、だ。小さな損壊が積み重なり、動きがどんどん鈍くなる。

 

『怪我しないうちに大人しくしたら!?』

 

「くそ……っ!」

 

 紅蓮弐式が大腕に赤黒いエネルギーを迸らせながら、一気に間合いを詰めてくる。

 被弾は避けられない。ならば、部位を犠牲にして凌ぐしかない――――しかし、それでは遅かれ早かれ、無力化に追い込まれてしまう。

 

 スザクは苦虫を嚙み潰したような表情で、ランスロットの右腕を盾にした。

 

『おやおやぁ……それじゃあ負けだろうに、イレブン』

 

 ――――気だるげな声とともに乱入してきたグロースターが、鋏のように構えたブレードを紅蓮弐式に振るった。

 

『なにっ!?』

 

 ギリギリのところで回避する紅蓮弐式。白い騎士と紅い夜叉の間に乱入するは、迷彩に近い地味なカラーリングの、暗殺者。

 

『まったく……誰も彼も派手に動く。巻き込まれる側にも立って欲しいもんだ。ディボック坊やあたりに任せればいいものを……』

 

「貴方は……」

 

『ナイト・オブ・ファイブの親衛隊……だ、一応なぁ。識別信号で味方なのは明白なのだ。名前は不要だろう?』

 

『なんだか知らないけど……邪魔するならアンタから弾けてもらうッ!』

 

『この紅いのをあっちに回すと後が面倒だ。ここで殺すぞぉ、イレブン。同族殺しには慣れておるんだろぉ?』

 

「……わかりました、助太刀感謝します」

 

 助っ人のあからさまな侮辱を飲み込んで、スザクは一対のMVSを構える。

 二対一……少なくとも先程のように防戦一方になることはない――――そう思考した刹那、赤黒いエネルギー波が両者の間の地面を抉った。

 

 それとほぼ同時に、エネルギー波が放たれた森の方から白いKMFが飛んで着地した。先程、ランスロットを窮地から救ったナイト・オブ・ファイブだと、スザクはやや遅れて気付く。

 

『――――死にたくなければ散開しろ』

 

 一切の慮りもない通信が、届く。

 

『クソ……! 化け物を連れてきおって……!』

 

 グロースターが即座に抉れた大地から距離を空ける。

 スザクも半ば反射でその場を退くと、今度は上空から赤黒い濁流がランスロットとグロースターが居た位置に叩きつけられた。

 

『……外しましたか』

 

 化け物――――そう呼ばれた乱入者は空に浮かんでいた。

 両肩にキャノン、両腕に鎌状のMVSが備え付けられている、白い虫のようなKMF。やはりナリタの時に乱入してきた、湖の貴人――――、そうスザクが判断しきるよりも先に乱入者はランスロットに殺意を向けた。

 

『まず、貴方から死になさい。枢木スザク』

 

「――――ッ!」

 

 瞬間、湖の貴人は鎌を振り上げてランスロットの正面に現れる。

 今の出力では反応しきれない。コックピットに迫りくる凶刃に、スザクは死を覚悟した。

 

『邪魔立てするな、湖の貴人ッ!』

 

 しかし、数発の榴弾が白いKMFに直撃し、攻撃が中断される。スザクは即座にその場から退避して、銃撃の主を視認し目を見張った。

 

「お前は!?」

 

『――――何の真似ですか、ゼロ』

 

 被弾したにもかかわらず、損壊が見られない湖の貴人は再び空に舞い上がって兜付の無頼を問いただした。

 

『お前は私の計画の邪魔でしかないッ! 消え失せろ!!』

 

 無頼のマシンガンが再び放たれる。湖の貴人はそれを容易く回避して、地に降り立つ。

 

『……なるほど。枢木スザクを仲間にでも引き入れる腹積もりでしたか。日本解放という一点では、同志ではある。合理的でしょう。――――しかし』

 

 湖の貴人は、ランスロットにMVSを向けて、こう吐き捨てた。

 

『――――所詮は父親殺しの裏切り者。この敗北主義者に、日本解放のために人生を捧げる覚悟などありません』

 

「……な」

 

 なんで。

 湖の貴人から発せられた決定的な一言。それはスザクを驚愕と困惑――――そして絶望に叩きこんだ。

 

『父親殺し……? お前は何を――――』

 

『下らん話を滔々と。死ね』

 

 硬直するスザクと困惑するゼロをよそに、ノーランドが空中にいる湖の貴人にヴァリスを放つ。

 湖の貴人はブレイズルミナスを展開して受ける。

 

『無意味です。枢木スザクの次は貴方の番ですので、そこで精々見ていなさい』

 

 湖の貴人は嘲るように吐き捨て、ノーランドを無視しランスロットの正面に降り立った。

 キャノンを向け、ランスロットに最後の言葉を手向けのように放った。

 

『良かったですね、死にたがりの枢木スザク。これで漸く死ねるのですから』

 

「――――」

 

 回避するために操縦桿を握ったスザクにとって、それは決定的な一言だった。

 そうだ、死ねるのだ。これで自分の罪は――――いや、ダメだ、こんな死は何の意味もない。そう思考に決着を付けられた頃には、全てが遅すぎた。

 湖の貴人のキャノンは既に充填を終えて、今すぐにでも放たれようとしていたのだから。

 

『――――言ったぞ、ここから消えるがいい』

 

 しかし、放たれたのは湖の貴人の赤黒いハドロン砲ではなく――――その背後にいるノーランドのヴァリスだった。

 緑色のヴァリス――――否、悍ましさを帯びた紫色の光線が湖の貴人を捉えた。直前にヴァリスを防いでいる湖の貴人はやはり振り向きざまにブレイズルミナスを展開――――しなかった。

 

『……やはり、そう来ましたか』

 

 なぜか湖の貴人は、回避を選んだ。

 そして紫色の光線は、射線の先にいたランスロットに直撃する。

 

「なっ………! ――――え?」

 

 衝撃は、ない。無傷、いや――――スザクは操縦桿を動かして即座に、理解した。

 ランスロットが沈黙している。先程の黒の騎士団の罠に嵌った時のように、一切の操作を受け付けない。

 

『オイオイ……うちの肝煎りが無駄撃ちとは……』

 

『貴様……』

 

 なぜかヴァリスをパージするノーランドに、湖の貴人が両鎌を向けた。

 

『気が変わりました。やはり貴方たちから退場させましょう、ナイト・オブ・ファイブ。枢木スザクはもはや、いつでも殺せる』

 

 湖の貴人は沈黙したランスロットを捨て置き、ノーランドとその親衛隊を名乗る男との戦闘を開始した。

 スザクは沈黙したランスロットの中で、思考する。ランスロットを放棄すべきか、しかしそれでは――――。

 

『枢木スザク!!』

 

 ゼロの怒鳴り声。気付けば、ゼロの無頼がランスロットの付近に居た。

 

『それがゲフィオンディスターバーと同様のものなら、内部駆動系は無事だろう!! 外に出ろ!!!』

 

 確かに、内部駆動系は無事だった。無線も繋がったままだ。

 

『何をしている!! 死にたいのか!?』

 

「違う……俺は死にたくなんか……」

 

『……わかった!! 再び生身で話をしよう!!! ……Q1!!』

 

『はい!』

 

『湖の貴人とナイト・オブ・ファイブから私たちを守れ!!』

 

『わかりましたゼロ……ってええ!?』

 

 轟音が響く戦場で、ゼロが無頼から降り立った。

 スザクは信じ難いものを見るような瞳で、死地にて生身を晒す仮面の騎士を視界に映した。

 

「なっ……」

 

『どうした、枢木スザク! 私を捕らえるのなら今だぞ!!』

 

「お前は一体……」

 

 困惑の極みにいるスザク、そんな彼を諭すように無線から新たな声が届いた。

 

『こちらアヴァロン。枢木スザク少佐、そちらの状況は把握している。

 ゼロに応じなさい』

 

「……え? 貴方は一体……」

 

『君を囮に、ゼロと黒の騎士団のエースを消し去る』

 

「――――」

 

『非常に心苦しいが、平和の糧となって欲しい。君の死を無駄にするつもりはない。枢木スザクの殉死をもって、エリア11を途上エリアから衛星エリアへ昇格させる』

 

「……どうやって」

 

『この第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアが誓おう。死んでくれるね?』

 

「――――Yes,Your Highness.」

 

 枢木スザクは、一切の迷いを捨ててランスロットから降りて、ゼロへと向き合う。

 そして――――

 

「お前と手を取り合うつもりはない、ゼロ」

 

 ゼロがスザクの拒絶に、憤りを隠さずに怒鳴りつける。

 

「だったらどうする!! 死んで償うつもりか、己の父に!!」

 

「お前を道連れに、日本に平和を齎す」

 

 スザクは天を見上げた。そこには、砲塔をこちらに向けるアヴァロン――――ゼロは全てを察した。

 

「まさか、お前……」

 

「ごめん、ユフィ。ゼロ、ここでお前は僕と死ぬんだ」

 

 アヴァロンと――――ナイト・オブ・ファイブらを退けた湖の貴人が二人へと銃口を向けた。

 

『枢木スザク、君の忠義に敬意を』

『即時、退避を。さもなければ、貴方諸共、消し去ることになってしまいます』

 

 紅蓮弐式が湖の貴人からゼロを庇うように立ちふさがるが、上空からの砲撃には意味を為さない。

 

「お前……そこまで……クソ!」

 

 死に場所を見出したスザクを前に、ゼロは啞然とし――――左目を仮面から覗かせて、命じた。

 

「ダメだ……! お前は【生きろ】!!」

 

「な――――!?」

 

 スザクの意思が、書き換えられていく。しかし、それを待たずに湖の貴人とシュナイゼルによる砲撃が行われ――――

 

 気が付けば、スザクは見知らぬ海辺に立っていた。

 

 

 ギリギリのタイミングでアヴァロンの砲撃にハドロン砲を放ち、爆撃を防ぐ。

 ガウェインのハドロン咆ではなく、アヴァロンでの砲撃を選んでくれたシュナイゼルの判断は余りにも有難かった。

 

 視線を落とし、スザクたちの方を伺うと──そこには誰も立っていなかった。紅蓮弐式も無傷にも拘わらず、沈黙している。

 そう間をおかず、紅蓮弐式は黒の騎士団によって回収されていく。撤退を藤堂が決めたのだろう。

 

 私は、胸をなで下ろした。

 

 傍受している通信では、ゼロと黒の騎士団のエース、スザク、そして――――ユーフェミアの失踪で混乱の極みにあった。V.V.が動いたようだ。

 つまり、帳尻は合わされた。神根島への転送誘発は必須事項ではなかったため嬉しい誤算だ。

 

 ……しかし、ノーランドとかいうやつのせいでだいぶグダグダになった。中破して、こちらを見上げるノーランドに内心で唾を吐く。

 

 エナジーフィラーの残量的に、殺しきれない。

 

「次は、殺します」

 

 私はそう吐き捨てて、その場から飛び去る。追っ手はいない。

 それどころでないのだろう。

 

 エリア11本土から十分離れた場所で待機させていた偽装商船に着陸する。

 コックピットから降りるなり、ファルラフ機関のメンバーが高速潜水艇まで誘導する。

 

 スザクに放った言葉が、私の心を蝕む。

 しかし、彼はルルーシュのあの命令なしではいつ死んでもおかしくない。必要なことだった。

 しかし、それでも……罪悪感の迷宮は、海中にいる間ずっと続いた。

 

 式根島からトウキョウ租界の屋敷まで約二時間。極秘で設置した、地下のドックに浮き上がった。そこからの通路はそのまま自室に繋がっているため、対外的には私はずっと自室に居たことになる。中華連邦からアッシュフォード学園に戻ったルルーシュと似た手口だ。

 

 自室に戻るなり、私は机から使い捨て携帯を取り出した。宛先は当然――――

 

『何とか上手く事を運ぶことができた。ご苦労だったね、モニカ』

 

「いえ、そちらも上手く焚き付けてくださり、ありがとうございました」

 

『おや、お礼を言われるとは。ナイト・オブ・ファイブ相手に感情的になるところといい、今日は妹の珍しい所を見られる日なのかな?』

 

 私はため息を吐きながら、汗に濡れた顔を拭う。

 

「彼ですが……」

 

『既に調べはついている――――伯父上(V.V.)の差し金だったよ。父からアーニャに命じられるはずだった私の護衛命令を、意図的にノーランドへ流したようだ』

 

「……」

 

 私は、静かにその事実を飲み込む。ということは――――

 

『近々、接触を持ってくる可能性が高い』

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『――――ほう』

 

 聞き慣れないふたつの足音、それから間を空かずにいつの間にか開いていたドアの前に、それはいた。

 

「やぁはじめまして、モニカ・クルシェフスキー」

 

 眼前に、純白の童子が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

 

「……ピザのデリバリー、だと思ったのだけれど」

 

 私は即座に机の裏から拳銃を取り出して、少年に向ける。一片の恐怖も浮かばない。

 私の背中に、何か尖ったものが押し付けられる。ナイフ。背後になにか――――いや、恐らく彼がいるのだろう。

 

「……迷子、ではないようね」

 

「いきなりで悪いけど、携帯電話を渡してもらえるかな?」

 

 私が応じる間もなく、いつの間にかV.V.の手に私の携帯電話が届けられていた。()()()()()()()()()()()。……どうやら酷使されているようだ。

 V.V.は心底楽しそうに通話画面に目を落として――――通話相手を確認するなり、つまらなそうに言った。

 

「……ふぅん、情報通りピザが好きみたいだ。てっきりアッシュフォードの令嬢か……シュナイゼルと会話してるのかと思っていたけど」

 

『お客様? お電話が遠いようですが……』

 

 間の抜けた、ピザ屋の従業員の声。

 V.V.はそのまま通話を切断し無造作に投げ捨て、再び笑った。

 

「君とはずっと話してみたかったんだ――――ギンツブルクの忘れ形見」

 

「……貴方は一体」

 

 果たして、私をどこまで知っているのか。

 背後に取り憑く死を意識しながら、眼前の悪鬼の腹の底を探る。

 

 最大の、それでいてわかりきったイレギュラーとの対峙に、私は覚悟を滾らせた。




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