モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

6 / 45
6.邂逅

「挨拶の声が小さい! この場で腹筋100回ッ!」

 

「1時間前行動が遵守できていない! この場でスクワット100回ッ!」

 

「貴様の心意気のせいで雨が降った! この場で背筋100回ッ!」

 

「最近暑くなってきた!貴様のせいだ! この場で腕立て伏せ1000回ッ!」

 

 エリア11着任から一週間、私の全身はくまなく筋肉痛に苛まれていた。先輩騎士であり私の教導担当のジェレミア・ゴットバルト辺境伯のおかげである。

 

 最近純血派を結成したばかりの彼はどうも大変張りきってるようで、色んな面で悪目立ちしている私を利用して、己の権威の向上を図っているようだ。

 

 彼の本来の高潔さを知ってる私からすれば、出世欲に目が眩んでいる彼を苦々しく思う反面、ほんの少し微笑ましくも思える。 まぁそれ以上に、己へ課される扱きに対する嫌気が勝ってもいるのだが。

 

 彼の扱きのおかげで、私は隊の中で絶賛孤立中だった。

 シュナイゼル殿下直属という肩書きのおかげで、露骨ないじめのようなことは無かったものの、今のところ戦友候補の誰とも会話らしい会話はしていない。

 

 だがジェレミアの可愛がりがなかったとしても、孤立は避けられなかったと思う。 クロヴィス殿下の兵士たちからすれば、主違いの騎士にどう接すればいいか分かるはずもなく。 結局、今の状況と似たようなことに陥っていただろう。

 

 まぁ、これらは別に本国に居た時も似たような状況だったのでさしたる問題では無い。

 本当に問題なのは、エリア11に来てからKMFに一切触れられていないことである。

 

「KMFぅ? 残念ながら貴様が乗れる分は今無いな! 分かったら倉庫に運べ! 迅速にッ!」

 

 ……こんな風にジェレミアは私を雑用として使い潰すつもりのようで、KMFに触れるどころか、目にすらできていないのが現状だった。

 

 流石にシュナイゼル殿下に直訴して然るべきな案件な気がしてきたが、あまり大事にしても後の物語に響く可能性がある。

 

 そもそも、教導担当の扱きに耐えられずに主に泣きつきました、という風聞が広まりでもすればさらに居心地が悪くなること請け合いである。

 

 私の任務はテロリスト鎮圧。 それについてはジェレミアも理解しているはずなので、彼と言えども有事になればKMFに私を乗せざるを得ないだろうが、果たしてその有事はいつ来るのか。

 

 ため息とともに私はバスから降り、目の前の学び舎を見てまた嘆息する。

 

「父もシュナイゼル殿下も、いらぬ気を利かせてくれたものです」

 

──────聞いたよ、モニカ。 エリア11のアッシュフォード学園に親友がいるそうじゃないか。

 

 ミレイとの幼き日の約束を父から伝えられたシュナイゼル殿下は、エリア11派遣が決まってすぐにアッシュフォード学園への転籍を手配した。 サプライズプレゼントとして、だ。

 

 前世の薄らぼんやりとした知識とロイドらから課された雑用の数々のおかげで、高等部程度の学力を持っていることは公的に証明されているので、少なくとも中等部生の間は学校に必ずしも通う必要はない。

 

 しかし、学校に通わずに軍人として生きる14歳のブリタニア人というのは流石に対外的によろしくないらしく、半ば無理やりアッシュフォード学園に通うことを勧められた。

 

 バス停でしばらく立っていると、学校の玄関口から手を振りながら走ってくる少女の姿が見えた。

 

「モニカーーーー!!」

 

 私の知る彼女にどんどん近づいている親友は、満面の笑みで私の方まで駆け寄ってきたあと、勢いよく抱きついてきた。

 

「きゃっ……久しぶり、ミレイ」

 

「遅いわよ〜、もう!」

 

 ミレイ・アッシュフォードは、涙ぐみながらも私との再会を純粋に喜んでくれている。 対して、私は複雑な感情でぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

 ミレイの猛烈なアテンドのもと、私はアッシュフォード学園の校舎を見て回っていた。 それぞれの教室では通常どおり授業が行われており、中には見覚えのある生徒もチラホラ居た。

 

「どう? 綺麗でしょ」

 

「そうね。 ミレイが自慢するだけのことはあるわ」

 

「他にもクラブハウスとかあるの! まぁ、今はちょっとした事情で専有状態なんだけどね」

 

「……へぇ」

 

 あの兄妹が住んでいる場所。 私は物語に急接近していることを改めて実感した。

 

「それにしても、聞いたわよモニカ! 最年少で騎士になったんでしょ!? 凄い!」

 

「ええ。 縁に恵まれたおかげでね。 と言ってもいい事ばかりでも無いのだけれど…」

 

「最初にニュース見た時は嬉しくって皆に自慢して回ったんだから!」

 

「自分の事じゃないのにミレイったら……変わらないのね」

 

 少し照れを感じながらも彼女の言う皆に、というところが引っかかった。

 

「あっそうそう! うちの学園っておじいちゃんの方針で生徒はみんな何かしらのクラブに入らなきゃいけないの!」

 

「そうなのね。 なら、どこに入ろうかしら」

 

 どこにするにせよ、軍での活動があるため殆ど幽霊部員になるだろうから、大差は無さそうだ。あまり目立つのも良くないだろうし、運動部は避けた方がいいか。

 

「ああ、それならもう決まってるから安心して」

 

「へえ、それは安心……えっ?」

 

「モニカは生徒会に所属って最初から決まってるから! 理事長のおじいちゃんの承認付きで!」

 

 そう言って彼女は私をアッシュフォード学園生徒会の庶務に任命する旨が記載された書類を見せつけた。 私はこれに強いデジャブを感じた。

 

 私の人生はいつも押しの強い人物が掲げる書類に狂わされているような気がする。

 

 

 生徒会室で、他の生徒会役員との対面が行われていた。 当然、私に拒否権はなく、放課後にぞろぞろと集まってきた彼らと向き合わせられ、司会のミレイに促されるまま、互いに自己紹介を行っていく。

 

「この子はシャーリー! 水泳部と兼任してる美少女よ!」

 

「こんにちは、シャーリー」

 

「こ、こんにちは! モニカ……きょう?」

 

「別に呼び捨てでも構いませんよ、シャーリー」

 

「わ、わかりました! モニカ先輩!」

 

 まだ幼い顔立ちのシャーリーはそのまま勢いよく、深くお辞儀をした。

 

「こっちはリヴァル」

 

「なんか俺の紹介雑じゃないっすか!? ……えーっと、モニカ…先輩? よろしくお願いします」

 

「に、ニーナです。 よろしくお願いします…」

 

「ええ、よろしく。 リヴァル、ニーナ」

 

 リヴァルはどこか緊張した様子で、頭を搔いている。対してニーナはどこか警戒が混じった怯えを私に向けている。

 

 私は、四人しかいない生徒会に違和感を持ちつつも、彼が居ないことに安堵を覚えた。

 

「随分と少ないのね、生徒会って」

 

「まぁ、誰もやりたがらないしね〜。 一年生の頃から生徒会長やれたくらいだし」

 

「おかげで会長さんの私物化が酷いのなんの…」

 

「なに、リヴァル。 なんか文句あんの〜?」

 

「なんでもないですぅ!」

 

「も〜! 二人とも、モニカ先輩の前だよ!!」

 

「いいの。 騒がしいのは嫌いじゃないですから」

 

 思えば、物語の中でも生徒会はミレイの身内で固められていた。 中等部の頃からそうだったとしても大して不思議ではないか。

 

「それにあと一人いて…… も〜! 何してるんだろ!アイツ!」

 

「……え、それって」

 

 シャーリーの言葉に嫌な予感が過ぎる。刹那、生徒会室の扉が開いた。

 

「すみません、遅れました。 ……会長、その人は?」

 

 物語の主人公が、そこに立っていた。強い警戒の眼差しを、私という本来関わることのなかった端役に向けて。

 

 声変わりも未だ終えていないルルーシュ・ランペルージ少年との邂逅を、私は果たしてしまった。

 

 

 ミレイがサプライズめいた企みをする時、大抵の場合その先には酷い事態が待っていることをルルーシュは身に染みて理解していた。

 

 その日も、出来る限り早く生徒会室に来るように言われたルルーシュは、サプライズによる被害をいの一番に受けることを警戒して、敢えて遅れて生徒会室に向かうことにしたのだった。

 

 そして、ルルーシュが予測した通り生徒会室には望ましくないサプライズが立っていた。

 

「会長、その人は?」

 

「あっ、ルル! 遅いよぉ、もう!」

 

「ごめんシャーリー、ちょっと先生に質問があってね。……それで、その人って」

 

「モニカよ、モニカ! モニカ・クルシェフスキー! 私の大親友!」

 

「……なるほど」

 

 ミレイが誇らしげに抱きついて見せた金髪の少女について、ルルーシュもよく知っていた。 ミレイが散々自慢していたこともあるが、それ以上にブリタニアにて最年少で騎士侯の爵位を授与された少女は、ブリタニアの打倒を目論むルルーシュからしても注目の対象だった。

 

「えっと……ご紹介の通り、ミレイの親友のモニカ・クルシェフスキーです。 軍務の都合でアッシュフォード学園に転籍することになりました。ええと、あなたは…」

 

「ルルーシュ・ランペルージです。 クルシェフスキーさんは生徒会に?」

 

「よろしくお願いします、ランペルージくん。 入るつもりはなかったのだけれど、ミレイが…」

 

「ずっと前から決定事項だったもの! ……それに、いい子よ? モニカは」

 

「……そう、ですか」

 

 ミレイの注釈に思わず舌打ちしそうになるが、どうにか堪える。

 年齢的に、モニカ・クルシェフスキーは自分やナナリーと関わりはないはず。 少なくとも、幼い彼女と面識があったような記憶はルルーシュの中にはない。

 

 しかし、モニカ・クルシェフスキーはシュナイゼルの騎士。

 警戒する理由としてはこれ以上ない程の肩書き。 ミレイは仮にバレても親友なら黙っていてくれる、とでも考えているのだろうが、ルルーシュからすれば軽率という他ない。

 

「あまり顔は出せないだろうけど、雑用ならなんでもやるつもりですので、皆さん気軽に声を掛けてください」

 

「ちょっとモニカ! なんでそんな固いの!」

 

「ミレイが軟派すぎるだけよ」

 

「そうですよミレイ会長!」

 

 幸いなことに、まだモニカは自分に対してさして興味を抱いていないようだ。 しかしこれから身の振り方を考えないと、ナナリーの自由が奪われてしまうかもしれない。

 

 ルルーシュは彼らの朗らかな雰囲気に追従しながら、内心で自分たちの自由を奪い得る敵を見据えていた。




本日19:02頃、幕間投下予定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。