モニカ転生   作:パッツンスキー枢機卿

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7.迂闊な人助け

「クルシェフスキー先輩。 お疲れ様です。 授業初日はどうでしたか」

 

「ええ、お疲れ様です。 ランペルージくん。 ミレイのおかげで恙無く、って感じでした。 少し目立ちすぎですけど」

 

「それはよかった」

 

 警戒されている。それも、猛烈に。笑顔で接してくるルルーシュに、私はそんな心象を覚えた。というか多分、心象ではなく事実としてそうだろう。

 

 実際問題、彼からすればいつブリタニアに見つかり連れ戻されるかわかったものでは無いのだから、警戒するのも当然の話だ。

 仮に私が少しでも彼の素性を気づいたような素振りをすれば、彼は妹を連れてこの学園から姿を消すことになるだろう。

 

「軍務の方は大丈夫なんですか? お忙しいのでは」

 

 意訳、俺たちの前から失せろ、シュナイゼルの手先め。

 

「ええ。 私も軍人なのだから軍務優先で良いと殿下に伝えたのだけれど、まだ学生だから出来る限りは学園での時間を尊重しなさい、と」

 

 意訳、ここにいるのは貴方のお兄ちゃんからの命令だからだよ。

 

「殿下……シュナイゼル第二皇子でしたっけ、クルシェフスキー先輩の主は」

 

「そうです。 よく知ってるんですね」

 

「エリア11でも連日ニュースになってましたからね。 まさか、生徒会役員として一緒に仕事をすることになるとは思いませんでしたが」

 

「騎士になれたのは本当に縁に恵まれただけですよ」

 

 自分からシュナイゼルの名を出してから即座に論点を逸らすあたり、警戒しつつもシュナイゼルの動向について探りたがっている。

 この時期の彼はマリアンヌ殺しの容疑者を皇族の誰かであると考えている。 だから、私に怪しまれる危険を犯してでも仇の尻尾を掴もうとしているのだろう。

 

 正体が悟られないよう真相を探るルルーシュと、正体を知っていることを悟られないようにその相手をする私。 果たしてどちらが労力を使うのだろうか。ミレイも余計なことをしてくれた。

 

「それにしても他の方々、遅いですね」

 

「そうですね。……おっとシャーリーからメールが。

どうも皆、クルシェフスキー先輩の歓迎パーティを用意してるみたいです」

 

「ミレイったら、そういうのは大丈夫って言っておいたのに」

 

「ははは、皆なにか理由を作って騒ぎたいだけですよ」

 

「本当に変わらないのね、ミレイって」

 

「……ミレイ会長とクルシェフスキー先輩って幼馴染なんですよね」

 

「ええ。 昔はよくミレイの屋敷で遊んだわ。 二人で悪戯して、それぞれの侍女に叱られたのを覚えてる」

 

「会長はともかく、クルシェフスキー先輩が? 信じられませんね」

 

「そうですか? そういうランペルージくんも、そんな風に見えないのに悪さばかりやってるらしいじゃないですか」

 

「誰からそんなことを……シャーリーですね?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 談笑めいたことをやって、腹の探り合いを一旦休戦する。

 幼馴染について興味を示したのは、たぶんまだ再会していない彼の幼馴染であり親友を思い出したのだろう。

 

「またシャーリーからメールが。

買い出しに行ってほしいみたいです。 ……クルシェフスキー先輩と一緒に」

 

 ルルーシュがやや眉を顰めてそういった。私も思わずそれに追従しそうになるが、さすがに不自然なので笑顔を保つ。

 

「首謀者はミレイね。 どうしましょうか」

 

 大方、私とルルーシュの堅苦しいやり取りを見て気を利かせたのだろう。頭を抱えたくなった。出来ればなにか理由をつけて断って欲しいが。

 

「指定した場所で証拠写真も送ってくるように、とのことなので……」

 

「それはつまり」

 

「一緒に行くしかないでしょうね。 これで反故にしたら後がめんどくさいパターンです」

 

「そうでしょうね…」

 

 二人で乾いた笑みを浮かべた。 変な親近感が生まれそうになったが、どうにか振り払う。 多分、ルルーシュの方も内心で似たような状況に陥っているだろう。

 

 

 面倒なことになった。 ルルーシュはモニカを連れて街中を歩きながら、内心で頭を抱えていた。

 

 関わりは最小限に、その最小限の関わりの中で母親殺しの手掛かりを得る。 そんな方針を設定した矢先、ミレイの手配により最小限を軽く超える関わりを持たざるを得なくなってしまったからだ。

 

 幸いなことにエリア11ではまだ彼女の顔と名は広まっていないようで、街中で不必要に目立つような事態にはなっていない。

 しかし、それでも外見的に見目麗しい彼女は少なからず人目を集める。もしその中にルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを知っている人物が居たら一巻の終わりだ。

 

「最初に行くのは……ここからだとこのパン屋ですね」

 

 肝心のモニカ・クルシェフスキーは呑気に買い出しリストとマップを交互に見ながら、ルートを模索している。 あまり勘は良くなさそうだから、自分の正体が直ちにバレる、というような心配は少なそうだ。逆に簡単にシュナイゼルの情報を得られるかもしれない。

 

「ランペルージくんは周辺の地理に明るいんですか?」

 

「ええ。 かなり前からここに住んでいるので」

 

「へぇ、そうなんですね。 私の方はまだほんの少ししか居ませんが、活気があっていいところです。 屋台もチラホラありますし。 クロヴィス殿下の施政の賜物ですね」

 

「……ええ、そうですね」

 

 その活気が、どこから搾取されたものかも理解せずに無神経に宣う隣の典型的ブリタニア人を、ルルーシュは内心軽蔑した。

 最年少の騎士とは言え、所詮はこの程度か。 やはり、ブリタニアは腐っている。 その認識を強めた刹那、視界の端にこちらへ手招きする老人の姿が映った。

 

「……すみません、クルシェフスキー先輩。 ちょっと、寄り道するので、ここで待っていてください」

 

「え? わ、わかりました」

 

 ルルーシュはその場を離れ、老人がいる古物屋の店内へと入っていった。 古物商の老人は賭けチェスの依頼者で、やはり手招きの理由をそれに纏わるものだった。自分で勝つ自信がないのであれば、貴族相手に試合を受けるのを辞めれば良いのに。 金蔓に助言してやる義理はないので、そんなことを言うつもりは毛頭ないが。

 

 ルルーシュは適当にそれを受諾したあと、店から出てモニカの元へ戻ろうとする。 が、先程モニカがいた場所には誰もおらず、辺りを見渡すと、人集りが出来ているのを見つけた。

 

「まさか」

 

ーーーーー誰かモニカ・クルシェフスキーを知っている者がいたのか? だとしたら面倒だな。

 

 ルルーシュは舌打ちをしながら、その人混みの中に割入っていく。

 人混みの最前列まで辿り着いたところで、罵声が轟いた。

 

「なんだガキ!! イレブンを庇い立てしようってのか!? 痛い目あいたくなきゃ、そこを退け!!!」

 

 罵声の主はブリタニアの若い男。服装からしてチンピラといった風情だ。 傍らにはその子分らしきやつらが二人。 そのどちらも懐に手を伸ばしている。

 

 対するは、金髪の少女。

 

「退くのは貴方たちの方です。

無抵抗の老人によってたかって……それでもブリタニア人ですか?」

 

 モニカ・クルシェフスキーは毅然と言い返した。 彼女の背後には老婆が蹲っていた。 服の汚れからして、暴行を加えられていたのだろう。

 

「てめぇこそ本当にブリタニア人かよ。 ナンバーズのババアを庇うなんて、本当はてめぇもイレブンなんじゃねぇの?」

 

「そーだよ、身分証出せよ。 この……ヒコクミン!」

 

 取り巻きの言葉にモニカは目付きをより鋭くし、懐から身分証を取り出そうと顔を伏せた。

 

「バカっ! 視線を外すな!」軽率な行動にルルーシュは思わず声を上げる。

 

 それを合図にしたかのように、取り巻きの一人が懐から取り出したナイフで勢い良くモニカに斬りかかった。がーーーーー

 

「んアッ!?」

 

 ナイフはあっさりと空を切り、代わりと言わんばかりに男の頭にモニカの鋭いハイキックが突き刺さった。男はそのまま勢い良く地面に叩きつけられる。

 

「騎士への凶器使用。 ブリタニア人ならこれが何を意味するかは知っていますよね?」

 

 モニカは騎士としての身分証を唖然とする男たちに向け、そう毅然と問うた。

 

「えっ、は、はっ? こ、こんなガキが騎士なわけ…」

 

「生憎、今は職務中では無いので制服は着ておりませんが。 貴方達が望むのであれば、連行した先で私の身分をより公的に証明しましょうか?」

 

「く、クソ!! 騎士がイレブンを庇うなんて有り得ねぇだろ!!」

 

 分が悪いことを悟ったチンピラたちは、伸び切った仲間を担いでその場を逃げるように後にした。 野次馬たちも騎士に関わることを嫌ったのか、蜘蛛の子を散らすようにその場から次々に去っていった。

 

「お婆さん、大丈夫ですか?」

 

「ありがとう、ありがとうございます…可愛らしい騎士さま…」

 

「いえ、ブリタニア軍人として当然のことをしたまでです。 怪我は、無いようですね。 しかし……あっ」

 

 モニカと、目が合う。野次馬が消えたおかげで、一連の流れを見て呆然と立ち竦んでいたルルーシュに気づいたのだ。

 

「る、ルルーシュ。 ど、ど、どこから見てました?」

 

「……えっと。 殆ど全部?」

 

「………そうですか」

 

 まるで悪戯がバレた少女のように、バツの悪そうな顔をしたモニカは、ルルーシュから目を逸らした。その様に、ルルーシュは思わず吹き出してしまう。

 

「大丈夫です、このことは誰にも言いませんから」

 

 多分、彼女はブリタニア軍人でありながらイレブン、いや日本人を庇ったことを同じくブリタニア人の知り合いに見られたことに焦りを感じているのだろう。

 

「い、いえ、そういうのでは……」

 

「それより、今はそこのご婦人です。 駅まで送っていきましょう。 立てますか?」

 

「ありがとう、ありがとうねぇ…」

 

「あー、うー……はぁ。 彼と二人で途中まで案内させてください。 大丈夫、不埒な輩には手を出させませんから」

 

 老婆に優しく微笑んだ彼女を見た時、ルルーシュはようやく新たな生徒会役員を歓迎しようという気持ちになった。

 

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