Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

10 / 65
4日目③

 

 

 アスファルトを駆け、電柱を蹴り、塀を越えてその敷地内へと飛び込んだ。空中で体を反転、バーサーカーの姿を視界に収めたまま墓石を足場に着地する。

 直後に、今まさに飛び越えた塀が吹き飛ぶ。まるで爆破されたように砕け散るコンクリート。

 

 ――くそっ、息つく間もない。

 こちらまで飛んでくる瓦礫のうち、拳大以上のものを空けた左手のガントレットで打ち払う。

 驚くべきは、視界に入る破片から危険そうなものを選別出来ていたこと、咄嗟にそれらに反応して叩き落せたことだ。

 

 黒い影が、空いた塀から侵入してくる。二五〇を越す長身と壁のように幅広の体躯はバーサーカーを措いて他にはいない。

 背の低くなったコンクリートの塀、鉄柵、墓石……バーサーカーの行進を阻むものは例外なく砕かれていく。

 

 

 上手くバーサーカーを目的地に誘い込むことが出来たようだ。坂の上にあった外人墓地にて進入してくるバーサーカーを睨み付ける。

 こんな土地で争うことになるのは気は引けるものの、それを理由に凛や士郎を危険に晒す訳にもいかない。天秤にかけて比べられるような重さのものじゃない。

 

 僅かに意識が外れた俺にバーサーカーは猛進してくる。秒と経たずに接近され、勢いはそのままに一撃は放たれる。

 死が迫っている、と体も頭も必死に訴えてくる。どちらも、一発でもまともに貰えば終わると告げている。

 思考する間もなく脚部に魔力を集中し、高く宙を舞って難を逃れた。大振りの得物によって切り殺されていく風の悲鳴を聞いて、体中には一斉に鳥肌が立っていた。

 

 その豪腕で振るわれる一撃は脅威だ。威力も然ることながら、問題はその速度。

 筋肉に覆われて鈍重に見えるバーサーカーだが、そんなことは決してない。流石にランサーと比べては劣るものの、猛獣のように動き回るその巨体は圧巻の一言に尽きる。

 だが、この土地――石の墓標が立ち並ぶ外人墓地では、その巨躯は制限される。その恩恵によって俺はこうして回避できている。正直なところ、ランサーとの一戦が先にあったのが助かった。なければ、体の反応速度に俺自身ついていくことが出来なかっただろう。

 ……それもこれも、この優れた身体能力と、剣の経験を用いてセイバーの動きをトレースしているという前提があってこその話になるけれど。

 

 

 えぐられていく地面。吹き飛ぶ、砕けた石材。それらを回避し、バーサーカーと距離を保ちながらセイバーを窺う。

 流れる水のように立ち回る彼女。唸り上げるバーサーカーの斧剣を、地を滑るようにくぐり剣を繰り出している。舞う石材をも足場に、どんな姿勢だろうと攻撃に対応する。魔力不足で思った機動が出来ない所為か表情は冴えないが、充分に過ぎるほどバーサーカーを相手に渡り合っている。

 

 俺もバーサーカーの攻撃を避けるだけならば可能だ。だけど一旦バーサーカーの標的がこちらに向かえば、かわすことに精一杯でそれ以上の余裕は捻出できそうにない。

 一対一では隙を見つけて一撃を与えるなんてことは、到底無理だ。剣の経験に補佐され、回避する自分の姿は傍目から見たとしても無駄などないだろうに、同じ動きをしている筈のセイバーは違う。

 

 

 回避に手一杯の俺と、避けながらも反撃に移ることの出来るセイバー。その差はとてつもなく大きいものだ。セイバーが外人墓地という場所で戦ったならきっと一人でも相手に出来るだろう。悔しいけれど、俺にその自信はない。

 体捌き、剣捌き、どちらもまだセイバーには及ばない。さらにその上に俺に足りない経験がセイバーにはある。俺がセイバーと同程度に闘えるようになるかは、まだわからない。だけど、強くならなければ俺は誰も守れない―――強くなれなければ俺の理想は嘘になる。それは、身に染みて知った筈。

 

 

 セイバーに向かって斧剣を振った後の硬直、その一瞬にバーサーカーに切りかかる。

 

「――――何故っ!?」

 

 だが、刃は通らない。鈍い音を立てて、剣ごと弾き返された。魔力が充分に供給されている俺ならバーサーカーを倒すまでとはいかなくともダメージを与えることぐらいならば可能な筈だ。

 今となっては見ることは出来ないが、ステータスでのセイバーの筋力はランクでB。魔力が充分な俺ならばそれ以上の――恐らくAランクには該当しているだろう。ならばBランク以下の攻撃を無効化する十二の試練を越えて然るべき。

 

 だが、結果として俺の攻撃を受けたバーサーカーには傷ひとつついていない。そもそも、攻撃がダメージとしてバーサーカーに届いていない。

 ……通らないとならば、膨大な魔力に慣れていない為に攻撃に回す魔力の運用が上手く出来ていないと考えるのが妥当か。つまりは俺の意識の所為でこの優れた身体能力は発揮し切れていない、ということなのか。

 

「サーヴァント二騎で掛かって尚、決定打を与えられないとは――――!!」

 

 同じようにバーサーカーの鎧の前に弾かれるセイバーの剣。セイバーの場合は明らかに魔力不足によるランクダウンが枷になっている。

 魔力の補填が行われない限りは、例外を除いてセイバーの剣はバーサーカーに届くことはない。十二の試練とは、そういう概念を持っている。

 

 

 戦いは、俺たちが依然押す形になっている。だが、決して有利であるとはいえない状況でもある。

 バーサーカーの攻撃は俺にもセイバーにも当たっていない。一撃たりとも貰ってはいない。隙を狙って反撃を返す余裕もある。だが、相手にダメージを与える術がなければ有利とはいえない。逆に致命傷となりうる一撃を持つバーサーカー相手では、今は良くても長い目で見れば不利であるといっていい。

 事実、バーサーカーの一撃で周囲は薙ぎ倒され、バーサーカーの行動の阻害をしている墓石も数を減らしている。このままでは、魔力切れのセイバーか戦闘に慣れていない俺、どちらが先かわからないが倒れることになる。

 

 ……膠着は既に数分に渡り、その拮抗は破られようとしていた。

 

「――――つぁっ!」

 

 セイバーの動きから、精彩が欠け始める。回避し切れなくなり、バーサーカーと剣を打ち合わせるようになっていた。

 数回と繰り返すうちに、思わずといった様子で彼女は苦悶の表情を浮かべる。見ると、その胸部には丸く黒い染み。血の滲み。

 

 ゲイボルクの傷痕……! 不治の呪いか!

 

「セイバー!」

 

 思い至った瞬間、俺は追撃を加えようとしていたバーサーカーに切りかかっていた。

 隙を狙った訳ではない。特攻のような俺の攻撃は、バーサーカーにとって充分に対処の出来るものだった。アレは、受けに回ることなんて考えもしない。その剣は、確実に俺の頭を狙っていた。

 

 ――本能のままに放たれたバーサーカーの斧剣と、衝動に任せて放つエクスカリバーは衝突する。

 

「ぐ、うっ!」

 

 その反動に大きく跳ね飛ばされ、着地した後もたたらを踏む。衝撃の多くは相殺されたようだから俺が後退する程度で済んだが、手には恐ろしい振動が伝わってきている。

 揺るがず、怯まず、ただひたすらにバーサーカーが振るうのは圧倒的な破壊。どうやってもびくともしないような錯覚を覚えさせるこの手応え。

 無意識が後退を指示する。この暴力の具現と戦おうとする俺に、真正面からぶつかりあえると思っているのか、と疑問を投げかけてくる。

 

 バーサーカーは止まらない。こちらに向かって突き進みながら、また手に握る岩塊のようなそれを荒々しく振り下ろす。

 

 ――――ああ。これを避けるのは簡単だ。打ち合って易々と勝てるものでもない。なら、かわしてかわして、避けて回ればいい。

 精神をすり減らすような綱渡りではあるが、それならやってやれないことではない。

 しかし、それでは自然とセイバーにバーサーカーの攻撃が集中することになる。そうなってしまえば避けてばかりもいられず、またもセイバーとバーサーカーは打ち合うことになる。まだ、彼女はランサーとの戦いの傷が癒えてはいない。このまま打ち合っていれば傷の塞がり切っていない彼女は悪化し、いずれ倒れることになる。

 

 なら退けない。せめてセイバーが立て直す間だけでも、ここから俺は下がらない。

 

「負け、るか――!」

 

 体全部を使って繰り出さなければ、バーサーカーの一撃には対抗できない。

 いや、それだけじゃ駄目だ。加えて魔力をも駆使し、文字通りの全力でなければコイツ相手に打ち勝つことは不可能だ。

 

 踏み込む。体の軸はずらさない。セイバーの振るう一撃を脳裏に、意識はひたすら『必殺』を描いて。

 魔力のブーストで体を加速させながら、脚部、腕部に魔力を回す。出し惜しみはしない。片っ端から使い潰すつもりで、この一撃を。

 

 負けない。負けてなるものか。絶対に、勝つ。

 歯を食いしばれ。意識を逸らすな。覚悟を決めろ衛宮士郎――――!

 

「おおおおおおおっっっ!!!」

 

 火花が散る。あまりの衝撃に揺れる視界。

 俺とバーサーカーの距離は、開いていた。打ち勝ったわけではない。打ち負けたわけでもない。ぶつかり合ったところを基点に互いが等距離退けられていた。

 

 バーサーカーは既に二撃目を放つ体勢を整えている。次だ。魔力を引き出せ。怯むな。体を前に前に前に――――!

 

「ぜあああああっ!!」

 

 気勢を上げる。見栄でも何でも、相手を威圧しなければいられなかった。

 少しでも退こうと思ったなら、そこで負けてしまう。ひたすら敵を打倒することだけを――!

 

 

「狂戦士! 私を忘れてもらっては困る!」

 

 セイバーの声に、思考が戻ってくる。目の前のバーサーカーの標的が、セイバーに移っていた。

 俺との打ち合いの隙を狙って、攻撃を仕掛けたようだ。もちろんバーサーカーは無傷ではあったが、横槍に意識はセイバーへと移ったらしい。

 そのセイバーも始めと変わらない動きが戻っている。どうやら持ち直したようだ。

 

「――っ、はあっ!」

 

 いつからか止まっていた呼吸を再開させる。両手がびりびりと震えている。背中は冷や汗でびしょびしょに濡れていた。

 七撃、その全てを全力で放った。結局一度も勝つことなく、一度も打ち負けることはなかったが、死の際と生とを打ち合うたびに往復させられた気分だった。

 たった七つの全力が、俺には永遠のように感じられた。だがそれでも休んでいられる暇はない。俺が動かなければセイバーに負担が集中してしまう。

 剣を、握り直した。

 

 

 

 何とかセイバーは体勢を立て直し、俺も彼女も回避主体の戦い方に戻ったが、このままでは埒が明かないどころかジリ貧だ。

 周囲の墓石もだいぶ削られてしまっている。伴い、バーサーカーの動きも良くなってきている。――何とか、好転させないと。

 

 そうなると、手札を切らなくてはならないだろう。選べるもので真っ先に思い当たるものは、宝具。

 問題は、使用に当たり該当する宝具のランクだ。ランクが高くなければ、バーサーカーの十二の試練を突破することはできない。

 …………マスターではない俺は、宝具のランクを確認出来なくなっている。

 衛宮士郎であった頃に目を通して、威力、射程、英霊の能力については把握しているが、宝具は特性や効果、威力ばかりに注視しがちで、ランクというところまでは覚えていない。

 ――なんて間抜け。だけれど、躊躇している余裕もない。駄目元でも、当たってみるしかないだろう。

 

 セイバーがバーサーカーの一撃を避け、大きく後退する。その横を駆け抜けるように、擦れ違った際にセイバーに話しかける。

 ただ、先の教会でのこともある。戦闘時には戻っているだろう言葉使いには気をつけないと。

 

「セイバー、私が宝具を使います。あのバーサーカーには生半可な攻撃は通用しないようです」

「……そのようですね。ならば私も使用しましょう。二人でならあの巨体とて、ひとたまりもない筈」

 

 それだけ言葉を交わすと、俺が左へ、セイバーが右へと弧を描きながら疾走する。

 叶うならば俺一人で試し撃ちをすべきだったが、セイバーの提案を止められる理由もなかった。

 

 得物を追い込む猟犬のように、距離を詰めながら挟み込むように立ち回る。

 バーサーカーは一つの場所にいた標的を叩き潰そうとこちらへ走り出そうとしていたが、一斉に左右に分かれたために攻めあぐね、僅かに脚を止めた。その隙を逃す手はない。

 

 大きく息を吸い込むと、魔力が体に満ち溢れていく。高速で移動しながらそれを繰り返し、魔力を補填していく。

 駆けながら、精神集中に努める。意識を延長させて、腕に、その先の両手に、そして握られているエクスカリバーに――――見えた。

 『風王結界(インビジブルエア)』という鞘に意識を当て、本来の刀身を縛っている魔力を紐解いていく。

 

 途端に、手元から風と魔力が溢れ出し始めた。髪の毛が後ろに流され、衣服がはためき始める。

 俺、バーサーカー、セイバーが直線に並んだところで風のうねりは最大になる。剣が、風と魔力を開放したために暴れていた。それを魔力を通した腕で無理矢理押さえつける。

 風の隙間から、黄金の輝きが見える。あとは、これを目の前の巨人に放つだけ――――!

 

「■■■■■ーーーーー!!!」

 

 中心にいるバーサーカーは暴風にさらされているというのに微動だにせず、咆哮を上げた。

 駆けていく。空気の流れで、セイバーもまた同時に駆け出したことを知った。

 

「――あああぁぁぁぁぁぁっ」

 

 風を剣に巻きつけ、セイバーと同時にバーサーカーの左右から切りかかる。

 剣の周囲は真空状態になり、重なり合った風の塊とエネルギーは全てバーサーカーを倒す為に注がれていく。

 

 

 

「な――?」

 

 そのエネルギーはバーサーカーに直撃する直前に弾け失せた。呆けた俺の声が空しく響く。

 風も魔力も剥がされ、裸になったエクスカリバーは当然のようにバーサーカーの肉体の前に弾かれた。勢い余った俺とセイバーは反動で飛ばされ、大きく後退していく。

 

「――無効化!?」

 

 同じくバーサーカーの向こう、遠くまで後退を余儀なくされたセイバーが叫ぶ。声からは戦慄が読み取れた。

 

 宝具に使われる予定だった魔力は、バーサーカーの周囲で霧散していく。

 そして、バーサーカーに叩きつけられようとしていた風の塊は『無くなった』。不可思議な程に唐突に消え去った。

 ――十二の試練。危惧していた規定ランク以下の無効化。風王結界のランクは、届いていなかった。

 

「――――?」

 

 ――だが、様子がおかしい。周囲の空気が、そして吹き飛んでいた魔力がものすごい勢いでバーサーカーに向かって流れていく。

 意味もわからないまま、姿勢を低くして墓地内に起こりつつある異常に備える。

 

「これは――!」

 

 バーサーカーを中心に、空気が急速に巻き取られていく。左右からベクトルの違うエネルギーが合わさり、空気の塊が消された空間――大きな『真空』に大気が流れ込み巨大な渦を作り出していく。

 しかも、ただの風によるものではない。風王結界の魔力に加えて大気中のマナをも巻き込んだ魔力の渦。

 急速に形を成していくそれは、人々に神の怒りと恐れられきた竜巻。

 

 雲へと届くまで成長した竜巻は、周りの墓石や地面を吹き飛ばし、風の隙間に巻き込んで磨り潰し砕いていく。

 こうなってしまえば、手を出すことは出来ない。高速回転する空気の渦は、最早災害だ。人が手を出せるものではない。

 大きく後方に飛び退きながら、風の鞘から解き放たれて姿を現したエクスカリバーを還す。バーサーカーは巨大な竜巻にのまれ、その姿は砂塵の中に隠れていった。

 

 

 

 竜巻が消えていく。視界が戻ってまず最初にしたことは、みんなの無事を確認することだ。

 士郎と凛は離れたところで体を屈めていた。内、凛は勝利を確信しているのか笑みを浮かべている。

 

 ……俺は警戒を緩めず、即座に対応できるようにバーサーカーがいた辺りを睨み付け、構えたままだ。セイバーも感じ取ったのか、構えを解かない。

 そう、バーサーカーの気配は消えていない。膝をついて、だが確実にそこにいた。

 しかし当然無事とはいえず、右腕が千切れ、左脇腹はえぐれ、体中に裂傷が走っている。本来ならば、退場を余儀なくされるほどの致命傷。

 

「驚いた。バーサーカーを一回殺すなんて」

 

 イリヤは目に映るものが信じられないらしい。ぱちぱちと瞬きをしてバーサーカーの姿を確かめていた。だがまだ余裕があるらしく、微笑を浮かべているところは変わらない。

 

「えっ?」

「――――な、何だ、あれ」

 

 凛と士郎の声が聞こえてくる。

 目の前で瀕死――いや、殺された筈のバーサーカーがゆっくり立ち上がっていた。体に走っていた裂傷は塞がり始め、えぐれていた脇腹が目に見える速度で修復されていく。

 バーサーカーは足元に転がった右腕を無造作に拾い上げると、腕の切断面に押し付け――数秒もしないうちに、その腕は繋がっていた。

 

「どういうこと? あの中にいて、まだ生きていられるっていうの!?」

 

 流石の凛も平静ではいられないらしく、取り乱す。士郎は目の前で起こったことに言葉をなくし、立ち尽くしている。

 

「いいえ、確かに死んだわ。でも、一回」

「一回?」

 

 ふふ、と笑みをこぼすイリヤに、眉を寄せる凛。

 俺とセイバーはバーサーカーから視線を外さない。バーサーカーの体は右腕とわき腹の、本来治癒不能といってよかった傷を残して完治している。もう行動自体には何の支障もないらしく、地面に突き刺さる斧剣を無事な左手で引き抜いている。

 

「リン、いいこと教えてあげる。バーサーカーの真名はヘラクレス。十二の試練を成し遂げた英雄。十二の命を持つサーヴァント。つまり――十二回殺さなければ倒せないわよ?」

「そんな化け物をバーサーカーに!? バーサーカーって本来、力の弱い英霊がなるクラスでしょう!」

「しかも同じ手段でバーサーカーは殺すことはできない。さて、二騎で宝具を使ったとしても、一回殺すことが出来たのは褒めてあげる。で、貴方たちはこのバーサーカー相手にこれからどう抵抗するのかしら?」

「――――!」

 

 凛と士郎が黙りこくってしまう。

 目の前の化け物に敵う手段が見つからないのだろう。

 セイバーも魔力の供給がないので無理はさせられない。

 

 なら俺が、アレを止める。――そうしなければ、ならない。

 

 脳裏に、剣を支えに立ち上がるセイバーの姿が回顧される。あんなのはもう見たくない。

 それに、他ならぬ士郎のことだ。セイバーが危なくなれば、盾になって殺されてしまうだろう。凛だって、いくら魔術師といってもあの化け物相手では一撃も持たない。

 

 俺はみんなを守るって決めた。それなら力を惜しむ理由はない。

 

〈凛、聞こえるか?〉

 

 凛に念話を繋げる。既に何回か念話で会話していたため、手間取ることなく呼びかけられた。

 

〈――どうしたの、アーチャー〉

〈魔力の使用量に構わなければ、まだ闘うことは出来る。宝具の使用許可が欲しい〉

〈――あなた、まだ余力があるの!?〉

〈ああ。だけど、真名が相手に悟られてしまう可能性が高い。それに、相当の魔力を消費すると思う〉

〈――……背に腹は変えられない、か。思いっきりやっちゃっていいわ。アーチャー〉

〈わかった。危ないから、ちょっと離れていてくれ〉

 

 そうして、繋がりを絶つ。許可は下りた。気合を入れるように、両手を握る。

 

「……黙っちゃって。ふふ、絶望しちゃったのかしら。いいわ。バーサーカー、殺しなさい」

「させない」

 

 こちらへ襲い掛かろうとするバーサーカーの前に、躍り出る。手には再び、風の鞘から開放されたエクスカリバー。

 じわ、と体に熱が篭っていく。生成される魔力を一切漏らさず体中に留め、宝具使用の為の充填を開始する。

 

「……!」

 

 イリヤはこの異常な魔力の猛りをその身に受けて、後ずさりする。

 セイバーと違って体に残る魔力は充分。凛からの供給もあるから倒れるなんてこともないだろう。体で高圧縮されていく魔力。目に見える程の魔力の輝きが、周りに瞬き始めた。

 

「――――殺させて、たまるか」

 

 力がみなぎっている。不可能なことなど無いと錯覚するほどに。

 高揚感で、心がはちきれてしまいそうだ。これがセイバーの力。これがセイバーの、宝具。

 

 だが、この膨大な魔力を消費する『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を以ってしても、バーサーカーを十一回も殺し切ることは出来ないだろう。

 しかし、回復しきっていないバーサーカーが相手であるなら、数回の死であればそれも可能。

 

「■■■■■■ーーー!!」

 

 危険を感じたのであろうか、あのバーサーカーが向き直り、俺を明確な敵と認識した。地面を蹴り、土を巻き上げながら突進を開始する。

 だが、遅い。こちらの魔力充填はほぼ終わっている。バーサーカーが俺に切りかかる前に準備は終わる。

 手にあるエクスカリバーが、瞬いている。まるで昼になったように墓地を明るく染め上げる。

 

「――駄目っ! バーサーカー、退きなさい!」

 

 イリヤが体をかたかたと震わせながら叫ぶ。見るとその顔から笑みは消えていた。俺を見る目には敵意と、ほんの僅かな怯え。

 駆け出していたバーサーカーはイリヤの言葉を聞くと、急制動をかけ躊躇もせずに跳び退いた。そして震えるイリヤの傍に寄り、その体を腕に抱く。

 抱えられて気を緩めたのか、イリヤに先ほどまでの体の震えはもう見えない。

 

「……今回は分が悪かったわ。今日は退いてあげる」

 

 イリヤを抱えたまま大きく跳ぶバーサーカー。数十メートル離れた辺りで、イリヤだけが振り返った。

 

「また改めて遊びに行くね、お兄ちゃん!」

 

 イリヤが無邪気な笑みを浮かべてそれだけを言うと、バーサーカーはその巨体に合わないスピードで跳び去っていった。

 

 

 

 その気配が感知できる範囲から消えたのを確認し、魔力を開放する。戦意を解くと、両手からエクスカリバーの質量が消えた。

 

〈凛、追った方がいいか?〉

〈――……追わなくていいわ。今は、凌げただけでも良しとしとく〉

〈そう、だな。……いや、でも助かった。宝具使ってたら相当魔力消費するから、後の戦いに支障が出ただろうしな。たぶん〉

〈――は? ……あんたねぇ、そういうことは先に言っておきなさいよ!〉

 

「た、助かったのか……?」

 

 士郎が呆然と言った様子で呟く。凛は念話で交わしていた会話を打ち切り、視線を士郎へと向けた。

 

「そのようね……。アーチャーがいなければ危なかったわね」

「……!」

 

 凛の言葉に、セイバーが悔しそうに表情を歪める。マスターを守ると言っておいて、結果的に他のマスターのサーヴァントに助けてもらってしまったからだろう。

 例え原因がセイバーではなく、魔力供給も侭ならない士郎にあったとしても彼女は自分を責めてしまう。

 

「とりあえずここから出ましょう。こんな気味の悪いところに居続けたくないわ」

「ああ、そうだな」

 

 魔力を消費し、幾分重くなった体を引きずって外人墓地から出て行く。

 振り返って墓地を改めて見渡すと、墓石のその半分近くが叩き割られて吹き飛んでしまっていた。半分はバーサーカーに、もう半分は予想もしてなかった竜巻の威力によるもの。

 だが、それで削ることが出来たバーサーカーの命はたったのひとつ。そしてもちろん、同じ手段はもう通用しない。

 

 喉が鳴る。その光景から、狂戦士の恐ろしさを改めて感じ取っていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。