深山町に向かって歩く四人。しかしその間、誰一人言葉を発することなく無言だった。
セイバーは黄色い雨合羽を上から羽織りなおし、一歩引いた位置からただ黙々とついてくる。
士郎は大方、先ほどの戦闘をみて聖杯戦争の過酷さを改めて感じているのだろう。眉根を寄せて、酷く真剣な表情で集中しているようだ。
凛は凛で何事か考え事をしていて、他の三人を気にした様子もない。
その中で俺がしゃべる気になるわけも無く、セイバーの横で黙りこくったままただ足を進めていた。
橋を渡り、交差点に差し掛かる。ここが凛と士郎の家の分かれ道。
「遠坂。明日から敵って話なんだけど――――」
「そのことについて話があるの。衛宮くん」
そこに来て立ち止まり声を上げた士郎を、被せる形で凛が遮った。俺とセイバーも己のマスターに倣う形で立ち止まる。
「な、なんだ?」
「よければバーサーカーを倒すまで同盟を結ばない?」
「それは俺としても願ったりだけど、どうして」
士郎の疑問ももっともだろう。つい一、二時間前までは「明日からは敵同士。覚悟しなさいよ」なんて言っていたんだから。
「バーサーカーを見たでしょう? あれは正直、想像以上の化け物だったわ。私もアーチャーがいればこの聖杯戦争は負けはないと思っていたけど、あんなダークホースがいるとは思わなかったのよ。やり様によっては一対一でも何とかなるかもしれない。でも、私にもアーチャーにも負担が掛かりすぎる」
「ああ、なるほど。そこでセイバーか」
バーサーカーの化け物振りを思い返したのか、話している凛は渋面を浮かべている。対して、すっかり講義を受けているように頷きで返しているのは士郎だ。
「そう。魔力こそ足りてないみたいだけど、セイバーは白兵戦ではバーサーカーを圧倒していたわ。セイバーが足止めして、アーチャーが攻撃する。役割は逆でも構わないけど、他に取れる手段も出てくる。戦略は大幅に広がるわ」
「そうだな。俺も今日の戦いを見ていて感じた。アレと真っ向から一対一で戦うなんて、無謀だ」
「ま、もちろんバーサーカーを倒した後は元の敵同士に戻るけどね。それでも、貴方たちにかかる負担だって軽くなる。どう? 悪い話じゃないと思うのだけれど」
その言葉を聞いて士郎は若干顔を顰めながらも、笑みを作った。
「その敵同士ってところは同意しかねるけど――――バーサーカーについては構わない。あ、セイバーもそれでいいか?」
「……構いません。私はマスターに従います」
問いかけから返答に若干の間があったようだけれど、セイバーも同盟を承諾した。
戦闘が終わった後の凛の言葉と、今の話の流れ――己だけでは護り切れないと士郎に判断されたことで、心中は複雑だったのではないだろうか。
「そ。それじゃ、成立ってことでいいのね」
言うなり手を差し出す凛。その差し出された手と、そっぽを向いて視線を合わせない凛の顔を交互に眺めた後、士郎はぼんやりと口を開く。
「えーと、どうしたんだ? 遠坂」
「ど、どうしたって、協力する人には、これからよろしくって握手するんじゃなかったの?」
凛は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに顔を背けたままだ。だけど、差し出した手を引っ込める様子はない。
「あ、ああ。そうだな。よろしくな、遠坂」
戸惑いながらも握手に応じる士郎。握手が終わるや、凛は『ふんっ』とそっぽを向いてしまう。恥ずかしかったならやらなきゃいいのに、と思う。
「あ」
辺りを見回して、何かに気づいたように士郎がこっちに駆け寄ってくる。なんだろう? 訝しげに士郎を見るのは俺だけじゃない。
俺の前に立つと、士郎はにっこり微笑んだ。
「アーチャーも、これからよろしくな」
そう言って、右手が差し出される。
「へ? ――あ、うん。よろしく」
慌てて、差し出された右手をこちらの手で握る。それに、士郎の行動があんまり予想外だったものだから口調が素に戻ってた。握った手を離した後、士郎は元の位置――凛の真正面へと戻っていく。
俺は、握手した右手を胸の前で確かめるように握りながら、戻っていく士郎を見送っていた。
――士郎の手って、こんなに大きかったのか、なんてことを考えながら。いや、俺の手が小さくなったとは理解しているけど、俺よりも手が大きい俺(士郎)がいる、というのも何か変な感じだ。
そんな時視線を感じて振り向くと、呆然と士郎を眺めていた俺を、セイバーが怪訝な顔で見ていた。たぶん、急に口調が変わったからだろう。でも、今回は仕方ないじゃないか。完全な不意打ちだ。
―――ええと、凛はなんで、俺と士郎をじとっとした目で睨んでいるんだ?
「……ところで衛宮くん、あなたの家に部屋って空いてる?」
「え? ああ、無駄に広い家だからな。部屋なら余ってるけど、何かあるのか?」
「何って、私たちが士郎の家に泊まり込むのよ。どうやら部屋はあるみたいだし、ちょっと間借りさせてもらうわね」
「な? なななな、何言ってるのかわかってるのか遠坂っ!!」
士郎が真っ赤になって後ずさっていく。我が事ながら、大声を上げて後ろに下がっていく様はあまりに間が抜けている。
「ええ、充分にわかってるつもりだけれど。一箇所にまとまってないとバーサーカーに襲われたときに対応できないでしょう。とりあえず、これから一度家に帰るわ。今からだと……昼ぐらいにあなたの家に行くからそのつもりでお願いね」
「いや、まずいって! 俺の家、よく、藤ねえ――藤村先生と桜が来るんだから!」
「それじゃそっち用に何か適当な理由を考えとくわ。言いくるめれば問題はないわよね?」
「まぁ、それなら確かに問題は……って女の子が男の家に泊まること自体が問題だろ!?」
うむ。まぁ正論だ。だが、相手は遠坂さん。一筋縄ではいかないぞ、士郎。なんて、妙に達観した気持ちで経験者は語ってみる。
「あら? それじゃ士郎は私に何かする気なのかしら?」
凛がニヤニヤと笑っている。ああ、あの日の悪夢再び。俺が言われた時と全く同じ笑みだ。
――――これが、あくまである。仮にも健全な男子になんてタチの悪い。絶対に敵に回したくない。
「そ、そんなことするわけないだろ!」
「そうね。士郎はそんなことしないってわかってるわよ。ということで、お昼に行くからよろしくね」
「ぐっ! ――――そういえば遠坂、今俺のこと、士郎って呼んでなかったか?」
「協力するんだから名前で呼びたいんだけど、駄目だった?」
「い、いや。それは全然構わないんだけど……」
「よし。それじゃ、お昼にまた」
「あ、ああ」
なし崩し的に論破され、呆然としたままの士郎を置いて凛は歩き出す。凛は鼻歌などを歌いながら足取りも軽く、何か上機嫌に見える。
何故上機嫌なのか、俺にはさっぱりだったけど。
昼、凛と共に、赤いボストンバックを両肩に掛けて衛宮家を訪れる。
凛は車輪つきのトランクをごろごろと転がしてきた。トランク、ボストンバック二個。これ全部が凛の私物である。
ああ、いや。着替えと、遠坂家にあった料理のレシピだけは俺が持ってきている物だ。まだ全部に目を通していなかったから借りてきた。
ちなみに、トランクの中にはセイバー用に今俺が着ている物と同じものが数着分詰め込まれている。何故数着も予備があるのだろうか。この服、凛は着ていないって言ってたのに。
凛が玄関先に設えられているインターホンを押す。きんこーん、と耳慣れた音が屋敷の中から聞こえてくる。
「あ、遠坂」
てっきり玄関から出てくるかと思いきや、庭の方から士郎とセイバーがやって来た。どうやら、庭にある道場の方にいたようだ。
「あんたね、お昼に来るって言ってあったんだからちゃんと家にいなさいよね」
「悪い悪い。起きたらセイバーがいなかったもんでさ。道場にいたからそのまま道場で話し込んじまった」
士郎は恐らく無意識に、人差し指で頬を掻く。――へぇ、自分じゃ気がつかなかったけどこんな癖があったのか。
「まぁ、いいわ。で、私が使っていい部屋は何処?」
「あ、こっちの離れを使ってくれないか? そこそこ広いし、アーチャーも同じ部屋でいいよな?」
「ええ、構わないわ。ありがとう」
…………。おな、じ部屋? それはもしかして凛と同室という意味でよろしいのでしょうか?
いや、待ってくれ。それはまずい。精神が男の俺がっていうのもあるし、なにより妙に凛が怖い。
「し、士郎。出来れば凛の部屋とは別に、近くに私の部屋を貸して頂けると助かるのですが」
「……何を言い出すの? アーチャー。迷惑が掛かるでしょう」
突拍子もないだろう俺の発言に、もちろん凛も訝しげに俺を見る。
「――――」
言葉に詰まってしまう。確かに、部屋をもう一つ用意するんじゃ手間も掛かってしまうだろうけど。でも、同室はなんとかして避けたい。
「あれ? えーと、サーヴァントはマスターを危険から守るために近くで待機しているべきってセイバーに聞いたんだけど。現に、セイバーも俺と同じ部屋で寝ようとしたし」
士郎がここにいる全員に確かめるように言う。それに「当然です」と言わんばかりに首肯するのはセイバー。
「それで、衛宮君。貴方セイバーと一緒に寝たの?」
「ね、寝るわけないだろ! 隣の部屋で寝てもらったんだよ」
「ま、あなたならそうでしょうね」
ああ、そうだろうな。何てったって俺なんだろうし。現に今、未来の衛宮士郎も凛と同室になるのを必死で回避しようとしているところだ。
「というわけで同じ部屋でいいかと思ったんだけど。俺とセイバーとは違って同性なんだから」
「そうですアーチャー。それはサーヴァントとしてあるまじき提案です」
確かに士郎の言うことももっともだ。俺だって同じ状況なら、同室でいいんじゃないか、とか思っていただろう。
セイバーの言うことだって間違っちゃいない。サーヴァントとして、マスターをすぐに守れる位置で控えるというのは当然のことなんだろう。力量に劣る俺なら尚更だ。
でも、それでも――! あの夜の一言が、あの手の動きが頭から離れてくれないんだ。
「しかし……凛と同室で寝るとなると問題が……」
俯いて喋る。これから俺がする発言に、どれだけの危機感が込められているのを読み取ってくれるだろうか。それによって、上手くいってくれるかどうかが決まる。士郎とセイバーが味方についてくれれば、あるいは。
『同室で寝るのに、問題?』
士郎と凛が揃って不思議そうに声を上げる。意を決して、俺は顔を上げた。
「凛は、何故か私の体に過度の興味を抱いているようなのです」
「――――過度の興味って、遠坂。まさか、お前」
誰も動かず、言葉も発せない中。数秒程経って、気づいたように士郎が凛から一歩分距離を取る。顔はヒクヒクと引きつり、その後もじりじりと後退している。
「ち、違うわよ! ア、アーチャー! 変なこと言わないで!!」
「セイバー、遠坂には極力近寄っちゃ駄目だぞ。何をされるかわかったものじゃない」
士郎はセイバーを腕で後ろに下がらせる。だが、それに素直に従うようなセイバーではなかった。
「ええ、わかりましたシロウ。――リン、先に言っておきますが、私はそちらの趣味は持ち合わせていません。少なくとも自ら進んで行おうとは思っておりません。どうか他を当たるよう、お願いします」
セイバーは進み出て、手を『STOP!』というように凛の前にかざす。
なるほど。サーヴァントはマスターを護るモノであって、マスターに護られるモノではないということなのだろうか。
「セ、セイバーまで……」
流石にセイバーの一言は効いたのか、凛は力尽きたように膝をついてうな垂れた。
「アーチャー、今まで大変だったろ。近くに部屋を用意するからさ、そこで寝泊りしてくれ」
「助かります、士郎。あなたの寛大な措置に感謝を――――」
俺の肩に手を置いて心なし涙目の士郎に、俺は最上級の礼を贈っていた。
ちなみにセイバーは俺を守るように立ち塞がってくれている。流石に、自分と同じ存在に貞操の危機(?)が迫っているのを良しとしなかったのだろうか。
「――――いいから、私の話を、聞けぇぇーーーー!!」
時間は流れ、午後7時過ぎ。
凛は士郎とセイバー、そして誤った認識を植えつけられていた俺の誤解を解いた。なんでも、女性として他の女の人のプロポーションは気になるものらしい。中身男の俺と、男として振る舞っていたセイバーにはよくわからない心理だったが。
一時間に及ぶ説得の末、セイバーと俺から得たあんまりない手応えと引き換えに自分の汚名を返上した凛は己が寝泊りする離れの客間を『改造』しに行った。
俺はその後やることがなかったので縁側に座って、凛がばたばた走り回る様を呆っと眺めたり、凛の家から持ち出したレシピを読んだりしていた。ちなみにセイバーは道場でずっと正座していたらしい。
先ほど食事当番は順番でやることが決まった。士郎、俺、凛がローテーションで。俺が夜作ったら、次の日は昼作る、といった具合だ。
イレギュラーである俺が料理が出来て、セイバーは料理が出来ないことを凛は不思議に思っていたようだが「色が違うくらいだから同一人物でも得手不得手の差異があるのかも」と都合よく解釈してくれたようだ。
加えて、俺とセイバーは同一人物ってことになっているが、料理の件をきっかけに色の違いや性格の微妙な違い、出来ること出来ないことがあることから、伝わる伝承の違いが人物の分化を起こしたのではないか、と推論している。
結果として士郎も凛も、俺とセイバーは大本は同じ人物ではあるが多少の誤差があっても気にしない、という方向で扱ってくれている。
凛のお陰で俺の正体がどんどん一人歩きしてしまっているが、自分らしく振舞えるようになったので万々歳だ。
ま、そんなわけで料理当番のローテーションで、今回は俺の番ってことになった。
「それで、これからどうするか決まっているのですか? リン」
セイバーの声が居間から聞こえてくる。俺はキッチンで居間で話している三人の話を聞きながら、玉葱を剥いていた。
「それなんだけど……まずはマスターを探すのが先ね」
「そうだな。今のところ分かってるのは俺と遠坂だけ。まずはそこからだ」
「何言ってるの、イリヤスフィールもでしょうが!」
どうでもいいけど、なんだかここで一人だけ料理していると除け者にされたみたいで寂しい。
常温に戻した牛肉を玉ねぎの微塵切りとりんごの薄切りに赤ワインを加えたもので煮詰めるまで煮込む。ワインのアルコールが飛んだところで取り出し別にして塩コショウを振り、さらに軽くソテー。
残った肉汁には、大根おろしと隠し味に醤油を加えてさっぱり和風テイストのソースに。好みでかけられる様に器を別にしておく。
――なんてメニューから分かる様に、洋食に寄せてみた。残念ながらイギリス料理というよりフランス料理っぽくなってしまってるけど日本食を作るよりはまだ不自然じゃないと思いたい。何か言われたら昼に料理の書物を読んでいたって言い張るつもりだ。
実際に凛の家にあったレシピを漁ったのは確かなのだけど、俺の調理技能は確かにレベルアップしていた。以前は肉がメインの料理がどうにも不得手だった俺だけど、いくつか調理法が浮かぶようになったのだから大幅なレベルアップだろう。洋食の手法や、調理法を取り入れたから色々と対応できるようになったと思う。
付け合せにはコンソメベースのトマトとオニオンのスープ。
レタスをちぎって深皿に盛る。トマトを切って飾りつけ。すりおろしたたまねぎに醤油にみりん、ゴマ、それにごま油を加えて撹拌させた簡易ドレッシングも添えておく。
パンの方がより洋食っぽいだろうけど、生憎衛宮家には食パンしかない。それだとちょっと雰囲気が違う気がしたのであきらめて白米を炊いた。せめてもの抵抗に茶碗ではなく平皿に盛ってみる。
「アーチャー、手伝おうか? 一人じゃ大変だろ」
「あ、助かります」
話が一段落付いたのか、士郎が声を掛けてきた。俺ってこんなに気が効くやつだっただろうか? 自分じゃわからないものだ。
ま、前回は俺が手伝ったから、おあいこってことで手伝いに来てくれたのだろう。
「くっ!」
「これは」
『美味しい―――!』
ちなみに前者が凛、後者がセイバーだが、その後の二人の台詞は意味合いが違う。
凛は「あんた、こんなの作れたの?」っていう意味で、セイバーはただ単に美味しいものに感心しているだけだろう。
「アーチャー、料理上手いんだな。――ん、メインの牛肉も柔らかいし、下ごしらえをしっかりしてるのか臭みもない。味付けも日本人好みになってる。これはうかうかしていられないな」
「そうですか。ありがとうございます。頑張ってみた甲斐がありました」
士郎が感心したように言ってくれる。自分だとわかっていても誉められれば嬉しいものは嬉しい。言いながらも、つい口元が吊り上ってしまう。
「洗い物も同時にこなしてたみたいだし、手際もよかった。この分なら生前も奥さんにって引く手あまただったんじゃないか……って何を言ってるんだろうな、俺は」
そんな俺を見て、士郎は頬を掻き、顔を赤くしながらそんなことをのたまってくれた。生前、私はあなただったのですよ、士郎。
「…………」
盛り上がっていたテンションは急降下した。そしてべちゃり、と底にひっついた。料理を誉めてもらえて嬉しかったってのに、余計な一言で今や完全にマイナスである。
食事が終わる。正直、ある程度手順をしっかり踏んだ洋食技法は初挑戦だったからいくらか不安だったんだけど、案外受けがよくてみんな残さず食べてくれた。
ただ自分で作った所為か、不思議と食べてみても士郎や凛の料理ほどの感動はなかった。少なくとも、目が潤んでくることはなかった。
その後は士郎の魔術について、今後の指針、学校はどうするかを話し合う。
しかし、大抵は士郎と凛で話を決めてしまうので俺やセイバーが口を出す機会はなかった。
まず、士郎の魔術についてだが、戦力増強のために凛が基礎から教えることになった。
戦力はあって困るものじゃない。少しでも時間があるうちに出来る事はやっておこうということだ。
次は今後の指針。これはしばらく、他のマスターを探して回ることが決まった。
けれど、こちらから動き回ると相手側の網にかかってしまうだろう、と受け手に回ることにしたようだ。ここまでは前回とだいたい同じ。大きな違いは無かった。
第一の問題として、学校が挙がる。ランサーに襲撃される前、学校の敷地には魔術式――マナを集め、何かの結界を作る準備がされていたことを思い出す。近いうちに結界は完成してしまうだろう。
そして、その学校にはマスターがいる。――――間桐慎二、ライダーのマスター。あいつは前回、ビルでの戦闘でセイバーに撃退され、その後逃げ出したところをイリヤに殺されたと聞く。
俺は、慎二を信じたい。確かに回りに迷惑をかけて問題を起こすやつだったけど、昔は全然そんなやつじゃなかったんだ。今は無理かもしれないけど、いつかあいつもわかってくれると思ってる。
そのいつかを得るには、あいつをイリヤに殺させちゃいけない。きっと、助けてみせる。
それにはまず、結界を作るのを阻止しなければならない。幸い、完成には時間がかかる。慎二もその間は特に動きを見せることは無かった筈だ。凛に知恵を借りて手を打っておけば対処できるかもしれない。
ただ、学校に行くとしたら必然的にマスターの守りが手薄になってしまうことが問題か。
というのも、俺もセイバーも霊体化が出来ないために人目がつくところでは護衛することが出来ないからだ。俺たちサーヴァントを家において各々が令呪で呼び出せば、という意見もあったが二人分の令呪を使うのはもったいない、と凛に却下されてしまった。
代案として、危なくなったら俺かセイバー、一人を呼び出す。呼び出された一人が足止めしている間に、マスターの元に送られなかったもう一人が合流する方法を採ることになった。
それには基本的に士郎と凛が出来るだけ一緒にいなければならない。色々と不都合が出てくると思うが、命と天秤にかけられるものじゃない。
一通り話し合いが終わる。気がつけばもう日付が変わろうとしていた。
士郎が大きなあくびをする。凛も眠気で少しぼんやりしているようだ。ただでさえ昨日は朝方まで起きていて、その後昼前には起きていたんだから眠くなるのは当たり前だろう。
ある程度の方針は決まったので今日のところは解散となった。「おやすみ」と言葉を交わして、それぞれ部屋で眠りに就いた。