Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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5日目③

 

 朝のHR、うちのクラスの教壇には荒れたトラがいた。

 暗い顔でぼそぼそと出席を取り、かと思えばいきなり叫び出したりといつもより奇行が目立つ。普段からして理解が及ばないけど、今日は輪をかけてひどい。

 ただ、クラスのみんなも慣れっこなのかそれほど気に止めていないようだった。日ごろの行動がこういう時に反映されていることを知る。俺も気をつけようと思う。

 

 

 一、二時限目の授業をそつなくこなし、何とか三時限目の授業も終えることができた。

 午前最後の授業までの休み時間、俺は自然と机でうつ伏せになって体を休めていた。

 今日は朝から色々あってなんだか疲れた。仕掛けられようとしているという結界の件もあることだし、少し休憩しておかないと午後満足に動けなくなりそうだ。

 

「なぁ、彼女もしかして……!」

「本当だ!」

 

 そんな俺の耳に、クラスの男子たちの嬉しそうな声が聞こえてくる。うつぶせになっているので見えないが、その声の様子からなにやら色めきだち、興奮しているようだ。

 

「おいおい、あれ、遠坂さんじゃないのか?」

「なんだってこのクラスの前をうろうろしてるんだ?」

「拙者が数えたところ、既に三回このクラスを行ったり来たりしてるでござる」

 

 比較的近くの声を拾ってみたのだけど――なるほど。遠坂が廊下にいるのか。

 相変わらずの人気者だな。かくいう俺も、一週間前だったらきっと意識してしまっていただろうけどさ。

 

「なんだか、遠坂さん、こっちを睨んでないか?」

「そうでござるな。あれは『そっちがそういうつもりならこっちにだって考えがあるんだから』って顔でござる」

「あ~あ、遠坂さん、行っちゃったよ」

 

 それにしても何をしているのだか。何かこのクラスに用でもあるのだろうか?

 遠坂も不思議な奴だな。……なんにしても俺には関係のないことだろう。これでうちのクラスの男子連中もおとなしくなったし、残り五分を休息に充てられそうだ。

 

「お、やった! 遠坂さんが戻ってきたぞ」

「幻覚かな? 遠坂さんの周りが赤くぼやけて見えるんだけど」

「はて。なにやら衛宮の席を凝視しているのは拙者の見間違いでござろうか」

 

「……ん?」

 

 何やら周囲から視線を感じ、渋々と顔を上げる。遠坂を覗いていたと思しき連中が俺を見ている。と、視界に影。

 

 ――その男子連中の間をすり抜ける、親指の爪ほどの大きさの白い塊。

 反応する間もなしに俺の額に命中するや、どむん、とその質量からはありえない衝撃が脳を貫いた。

 

「でぇぇぇぇぇ!?」

 

 そして俺は見事な一回転。椅子に座っているというのに体が宙に投げ出され、落ちた。

 しかもそれだけで衝撃を殺しきれなかったのか、体は床に当たって跳ね、机や椅子を巻き込みながら壁に激突する。

 

「ぁっ――――くぅ!?」

 

 視界一杯が白く消え、また戻る。チカチカと明暗する。半端じゃなく、痛い。コレ、急所にもらったら、これで、死ねる。

 

「おおっ! 衛宮! それはなんという忍術でござるか!? もしや伝説の『忍法・地獄車』!?」

 

 後藤くんがもんどりうって倒れた俺に手を貸してくれた。……貸してくれたのはいいのだけど、いったいどこからそんな感想が出てくるのか。

 そもそもそんな忍法が本当にあるのか? ――あったとしても間違いなく自爆技だ。間違いない。

 

 見ると床には消しゴムの切れ端が落ちていた。こんな小さな欠片でこの威力……衝撃はまるで弾丸どころか砲弾。

 このまま改良していけばそのうち消しゴムで人の頭を撃ち抜けるようになるかもしれない。そんなので殺される方がやりきれないだろうが。

 下手人を見ると、流石の遠坂もやりすぎたと思ったのか、あんぐりと口が開きっぱなしだ。

 

「っつあー! ……おい遠坂! 言いたい事があるなら口で言えばいいだろ!」

 

 起き上がり、額をさすりながら遠坂に呼びかけ、いや、怒鳴りつけた。何かしら俺に伝えたいことがあったのだろうけれど、だからといってそれで致死の攻撃を受けてはたまったものじゃない。

 

「何を言ってるでござ

「し、士郎が気づかないのが悪いんじゃない!!」

 

 『頭がどうかしてしまったのか』とばかりに可哀相な目で俺を見てくる後藤くんの言葉は、遠坂の怒声によって遮られた。

 顔を真っ赤にした遠坂が教室に入ってきて、まだふらついている俺の前に肩を怒らせながら立ち塞がる。

 

「そんなこといっても気づくわけがないだろ! 大体、何の用なんだよ?」

「貴方、私に『出来る限り一緒にいよう』って言ってたでしょう! 今まで教室で待ってたのに全然来ないし!」

 

 どよ、とクラス中が揺れた、気がした。

 

「……え……? ……あ、そう、だった」

 

 確かに昨日の夜、遠坂との間にそういった取り決めをしていた。件の様に言った覚えも、ある。朝のことに気を取られてすっかり失念していた。

 

「しっかりしてよね。ここまできたら士郎と私は一連托生、運命共同体なんだからね」

「いや、すまん。すっかり忘れてた」

「もう終わっちゃうからこの時間はいいけど、昼休みからは士郎が迎えに来てよね」

「わかったよ。俺が悪かった。ただ、今度からは普通に声をかけてくれると助かる」

 

 返事も返さず、ふんっ、と鼻を鳴らして遠坂は立ち去っていく。いくらかの勢いを失ったままに教室から出ていった。

 

「……たんこぶには……なってないか」

 

 当たった辺りを撫で擦る。あれだけの衝撃を受けておいて無傷とは、我が体ながら無駄に丈夫だ。視界はまだ定まってはいないし、身体は痛むものの大事はない。

 ぶれる視界で見回すと、なんだか知らないけどクラス中の人間が固まっている。

 

 ――む。さては遠坂の脱げかけたネコの中身を見てしまったか。

 確かに遠坂の違った一面を見たら不思議に思って当然。まず見間違えかと、己の両目が正常に動作しているかを疑うだろう。

 俺だって、最初はかなり驚いたからな。クラス連中にだって衝撃だったに違いない。

 

 いや、それとも椅子に座っていた俺が何の前触れも無く宙を舞い、床を跳ねながら壁に激突したことかもしれない。

 凄まじい速度で飛行した消しゴムは周りの人間には視えなかったろう。俺が勝手に吹き飛んだようにクラスのみんなの目には映った筈だ。だとするなら、あっけに取られるのも無理は無い、か?

 

 

 教室の大多数は固まったまま動かない。仕方が無いので、地獄車の巻き添えをくった机たちを元の位置に直そうと足を伸ばしたところで、一人の男子生徒が俺の前へとやってきた。

 ――能面のような表情だ。クラスでもお調子者として扱われている彼のこんな表情は、いまだかつて見たことがない。ただならぬ様子を不審に思い、俺が丁度身構えた時、彼は口を開いた。

 

「なぁ衛宮。お前、もしかして遠坂さんと付き合ってるのか?」

 

 決して大きくない声量であるのに、その声は何故かクラスに響き渡っていた。

 

「…………はぁ!?」

 

 若干の間の後、俺は思わず聞き返していた。なにせ、意味がわからない。いったいなんだってこの状況でそんな質問が出てくるのか。

 

「だってお前、『出来る限り一緒にいよう』って言ったんだろ? 遠坂さんに」

「あ、いや。それは確かに言ったけど、でも――」

 

 いつの間にか動き出していたのか、クラス中からヒューヒューとお決まりで囃(はや)し立てられる。

 

「な! ち、ちがっ!」

「それに遠坂さんも満更でもなさそうだったし。むしろ衛宮を名前呼びしてる彼女の方が積極的というか」

「いや、それは……」

 

 ……聖杯戦争を勝ち抜く為の作戦なんだ、なんてことは間違っても言えない。

 それっぽく理由をつけて誤解を解かなければいけないのだけど、なんて言ったらいいのやら。こんな事態は全然全くこれっぽっちも想定してなかったから、脳みそは空回りするばかりでまともに稼動してくれない。

 

「なんで衛宮ごときが遠坂さんとーー!!」

 

 俺が否定も出来ずにうろたえていると、教室の隅から怨嗟の声が届く。そちらを視ると、頭を抱えてぶんぶんと振り乱す男子生徒が多数。

 

「ま、応援はしてやれないけど、頑張れ、よっ!!」

「っげほ!? いや、だから……」

 

 死角から背中をばしばし叩かれる。……これは激励じゃない。溢れんばかりに怒りが込められている。

 むせ返りながらも弁解しようとするも、叩いただろう彼は俺から離れて周囲を取り囲む女生徒の影に隠れてしまっていた。

 

「ねぇねぇ、衛宮くん、なんて告白したの? もしかして遠坂さんから?」

「う……ぁ、いや……」

 

 次いで、興味津々といった風に寄ってくる女子生徒の面々。キャーキャー、とこの上なく姦しい。こちらが言葉を紡ぐ間すら与えてくれない。

 …………まいった。どうしたらこの窮地を脱出できるのか? とてもじゃないが独力では切り抜けられそうもない。

 

   キーンコーンカーンコーン

 

「あ、あー! ほら、みんなチャイムだぞ。早く席に着かないと」

 

 丁度よく響く、休み時間終了を知らせる鐘の音。この機を逃せば活路は最早存在しない。なんとか煙に巻くんだ! 士郎!

 

「しょうがないなぁ。衛宮くん、後でちゃんと聞かせてよ?」

「納得がいかねぇぇぇーーー!!! 俺も遠坂さんに名前を呼び捨てにされてぇぇぇーー!!!」

「衛宮、月の出てない夜は気をつけろ」

 

 様々な言葉を投げかけ、席に戻っていく。……全然誤魔化せてないし。こうなったら授業が終わったら即刻逃げ出すしかない。

 

 

 

 授業中、ふと背中に視線を感じる。いや、今やクラス中から注目されている身ではあるんだけどその中でも特に悪意を含むものがあった。

 

 これは、慎二、か? ……なんだって慎二が俺を睨むのか。

 ああ、そういえば慎二は遠坂に交際を申し込んだって言ってたな。そこにきて、『衛宮士郎が遠坂凛と付き合っている』って話だから慎二が俺に殺意やらを抱いても仕方ないのかも、って。いや、大前提に俺、遠坂と付き合っているわけじゃない。これ以上事態が悪化する前に、早めに誤解を解いておいたほうがいいのかもしれない。

 

 

 

 四時限目の授業が終わるや否や、一応弁当を持って教室を飛び出していく。

 なんとか教室からは抜け出したけど、クラスのやつらが俺を追ってきているみたいだ。

 後ろから数人の足音が聞こえてくる。それに振り返ることなく、遠坂のクラスに辿り着く。

 

「遠坂っ!」

 

 その勢いのままバンッと扉を開け放ち、大声で呼びかける。

 これは俺一人で対処出来るような規模ではない。だとするならば、一刻も早く遠坂の指示を仰がなければならねばならない。

 

「衛宮くん!」

 

 教室中の視線が遠坂に、廊下を歩いていた生徒の視線が俺に集まった。

 そんな中、遠坂が口を閉ざしたまま小走りで俺に走り寄り――結果的に俺達二人が周囲の視線を独占してしまっていた。

 

「確かに来いっていったけど、なんだってそんな大声で呼びかけるのよッ!」

 

 耳元で、小声で怒鳴られた。器用なことが出来るんだな、遠坂。

 

「あんまりおおっぴらにすると色々と面倒になるでしょう! なんだか知らないけどこのクラスに、私と士郎が付き合ってるって噂まで流れてるのよ!」

「いや、きっとこのクラスだけじゃない。俺の後ろを見てみてくれよ」

 

 背後から見えないように指で指し示す。怪訝そうな顔で俺の影からそちらを覗き見る遠坂。

 

「何なの? 廊下の角から覗いてるのが……十人はいる。こっちから見えないと思ってるのかしら」

 

 教室を出る時は確かに数人程度だったのに、ここに来て明らかに増えているのだが。

 

「あいつらも同じみたいだ」

 

 こうしている間にも、遠坂のクラスと廊下から視線を感じる。こそこそと話している俺達を見て、小さくない動揺が広がっていく。

 

「とりあえず屋上に行かないか? ここじゃ話もろくに出来そうにない」

「わかったわ。一応私もお弁当持ってくるから待ってて」

 

 遠坂が俺の右手にある包みを見て言う。その持ってくるって弁当の中身は、俺が作ったやつなんだけどな。

 弁当を携えた遠坂を伴い、足早に屋上に向かう。廊下を連れ立って歩いている間も、やっぱり注目が解かれることはなかった。

 

 

 

 

「それで、話って?」

 

 屋上に入り、フェンス近くまで進んで辺りを見回す。どうやらまだ他の生徒はここにはきていないようだ。寒いため、夏に比べてここで昼食をとる生徒も少ないが、午前授業終了の鐘から脇目も振らずに走ったからまだ来ていないのもあるのだろう。

 さて、どうやら屋上の見える範囲には俺たち二人だけしかいないのだけれど、完全に無人というわけでもなさそうだ。出入り口の扉は少し開いていて、何人かがこちらを窺っているのがわかる。

 見えてないだけで、もっと人数はいるに違いない。けれど、まぁこの距離ならこっちの会話が聞かれることはないだろう。

 

「あー、えーと、そのことなんだけど三時限の休み時間覚えてるか?」

 

「士郎が全然気づかなかったから、私がわざわざ出向いてあげた時のこと?」

 

 腰に手を当て憤る遠坂の言葉を受けて、そういえば失念していたことに対してしっかり謝っていなかったことを思い出した。

 

「ああ、あれはすまなかった。――ってそうじゃなくて、色々言ったじゃないか。『出来る限り一緒にいよう』の話の件とか、俺を呼び捨てにしたりとか」

 

 自分で言ってても顔が赤くなってくる。今思えば、勘違いされて当然だ。そんな状況を見れば、俺だって絶対勘違いする。

 

「……もしかして、それが原因?」

「そうみたいだ。大方、携帯で広まったんだろう。『衛宮士郎と遠坂凛は付き合っているようだ』なんて感じで」

「あっちゃあ、やっちゃった。道理で授業中に注目されていたわけだ。私もおかしいとは思ったんだけど」

 

 ちなみに俺も遠坂も携帯は持っていない。持っていたら授業中もメールがきて大変だったことだろう。

 

「でも、士郎が気づいていればこんなことにはならなかったんだから」

「それを言われたら言い返せないけど……」

「――――いいわ、私も迂闊だった。っていうか、消しゴムの投擲がまずかったみたい。力加減間違っちゃったみたいで、消しゴムであそこまで威力が出るとは私も思ってなかったのよ」

 

 ……加減を間違えたで済ますのか、なんて疑問は残るが今話しておくべきことはそれじゃない。

 

「まぁ、それはそれとして。どうするんだ? このままじゃ誤解されたままだぞ」

 

 そうなのだ。否定しようにも大体こういう手合いを相手にむきになって否定すると逆に火がつく。だいたい、こういう場合は放っておくか、適当に流すに限るのだけど。

 

「――――」

 

 遠坂が顎に手を当て、何かを考える。俺はというとこういったことには頭が働いてくれない。遠坂に任せたほうが穏便に収まってくれるだろうから、遠坂の決定を待つほかない。

 

「うーん。思ったんだけど、このままでいいんじゃない?」

「……このままって、遠坂!?」

「だってそうでしょう? これから先も士郎と私は一緒に行動しなければ危ない。だけど、一緒にいるには何かしらの理由が必要でしょう?」

「確かにそうだけど……」

「それに私も色々とつきまとわれて大変なのよ」

 

 ああ、遠坂ってもてるもんな。色々ってのは慎二とかのことだろう。

 

「で、どう?」

「――わかった。遠坂が助かるっていうなら俺が手を貸さない理由はないよ」

「そ、そう。助かるわ」

 

 ひゅう、と寒風が吹いて遠坂の顔がじんわりと上気する。何でか知らないけど俺から顔を逸らした。

 笑ってる、のだろうか。顔が見えないからどんな表情をしているのか俺にはわからない。何かおかしなことでも言ったっけか? どうも俺には覚えがないのだけれど。

 

「ゴホン。……それより士郎、気づいた?」

「へ? 遠坂の顔が赤くなったことか?」

「ちちち、違う! 屋上に呪術による魔方陣が張られていることよっ!」

「いや、気づかなかった。ってそうなのか!?」

 

 確かに昨日、遠坂が学校に結界が張られようとしているって言ってたが、まさかこんな身近なところに仕掛けられているのか。

 

「見る限りじゃこれは結界の基点になる魔方陣ね。しかも基点はここだけじゃなさそうだし。それにしてもこんなあからさまなものに気づかないなんて、あなた本当に魔術師なの?」

「……ぐ」

 

 そう言われると、「そうだ」とは返せない。とてもじゃないが、遠坂と同じ『魔術師』だなんて言えるような実力は俺にはない。

 

「――ふぅ、ま、とりあえずここだけでも消しておいたほうがいいでしょ」

 

 遠坂が何らかの呪文を唱えると、体にかかっていた気づかないほどの重さが消えた。

 

「お、体がなんか軽くなった気がする」

 

「結界の戒めを一つ解いたんだから。それにすら気づかないようじゃ魔術師失格っていうか、一般人以下。それより、どうせだからここでお弁当食べちゃいましょう?」

「あ、ああ。そうだな」

 

 そうして、ベンチに並んで座って弁当を広げる。一緒に作ったものだから遠坂のも中身は同じ。人が居る所で食べたらえらいことになっていただろう。

 

 屋上出入り口から「本当に付き合ってるのかよー!」「マジでー!?」なんて聞こえてきた気がする。

 顔に血が上ってくる。うろたえて隣を見ると、どうやら遠坂の顔も同様だ。やっぱり、俺だけが聞こえた空耳じゃないようだ。

 

 

 

「ところで士郎、あなた、強化以外に使える魔術はないの? 師事させる側として聞いておきたいんだけど」

 

 弁当を粗方食べ終えたところで遠坂がふとそんなことを言ってきた。箸を止め、視線を隣の遠坂に向ける。

 

「うーん。たまに強化の練習で投影魔術を行っているけど、他には何も」

「『投影』ね……。また微妙なカテゴリを。て、ちょっと待って、なんて言った? 『強化の練習に投影魔術』?」

 

 おお? 遠坂の変な顔。珍しいものを見た。

 

「ああ。なんでも、投影って効率が悪いから強化にしとけって親父がさ。ほんとは先に覚えたのも投影が先なんだ。」

「まぁ、間違っちゃいないけど……」

 

 遠坂は何か言いたそうにしているが、俺は続ける。

 

「それにしても魔術って大変じゃないか? 毎回使うたびに死と隣りあわせでさ、人のこと言えないけど遠坂もよくやるなぁ」

「使うたび?」

「だって毎回魔術回路を作るわけだろ?」

「はぁ!? あなた、そんなことしているの? ……いい、衛宮君。貴方は致命的な勘違いをしてるわ」

 

 なにやら驚いているが、何に驚いているのか生憎俺にはわからない。何かおかしなことを言ってしまったのだろうか?

 

「勘違い?」

「いい? 魔術回路っていうのは毎回作るものじゃなくて、切り替えるものなの。それさえ出来れば、それこそスイッチを入れるみたいに魔術行使が可能になる。使うたびに死に掛けるなんてリスクを背負って行っていたんじゃ、命がいくつあっても足りないわ。まず、前提からして間違っているのよ、貴方は」

「いやでも、切り替えるって……俺にはそんなのできないぞ」

 

 俺は親父からそんなことは習っていない。っていうか、切り替えるって概念すら知らなかった。

 

「あなたの魔術の師匠、それくらい教えてくれるでしょう? 一体その人は何を教えていたのよ? はっきり言って衛宮くん、あなた魔術師と名乗るのもおこがましいほどのド素人だわ」

「ああ、俺の魔術の師匠って親父なんだけど、五年前に死んじまったからさ。とっかかりだけで、教えられたことだけを繰り返してたというか」

「――。ま、そこも含めて私が全部教えてあげればいいわけね?」

「俺としては何が間違ってるのかすらも全然わからないんだけど、よろしく頼む」

 

 俺が頭を下げると、遠坂はふん、と鼻を鳴らして「任せておきなさい」と胸を叩く。

 

「さて、それじゃ、ちょっと帰りに家に寄るから遠回りよろしくね」

 

 遠坂はそれだけ言って弁当の残りを食べ始める。俺は弁当の最後の一口を咀嚼しながら、ベンチの背もたれに体を預けて青い空を見上げた。

 

 

 

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