Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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6日目⑥

 

◇◇◇

 

 居間にて、リアがたい焼きを頬張りこくこくと頷いているのを眺めながら、俺は茶請けの煎餅をかじっていた。

 深山町の商店街までを行って帰ってきたばかりだが、それによる肉体的な疲労はほぼない。流石はサーヴァントというところだろうか。

 むしろどちらかといえば二人の妙なプレッシャーを受けて精神的に疲弊していた俺だけど、リアが食べ物を美味しそうに食べているのを見ているとそれも癒されてしまうのだから安いものだ。

 

 お茶を啜り、口の中を洗い流して一息つくと、リアに尋ねておきたいことがあったのを思い出した。見ればリアもいつの間にか四つもあったたい焼きを食べ終えて、お茶を啜っている。話を切り出すには丁度いいタイミングだ。

 

「リア。ひとつ尋ねておきたかったのですが。バーサーカーに宝具を使いましたが、魔力の残量は大丈夫なのですか?」

 

 俺が気にかかっていたのは、リアの魔力に関してである。前回はバーサーカーにやられた傷の修復、今回は宝具の発動と程度の差こそあれ序盤で魔力の消費をしてしまっている。

 そもそも俺の最期だって、そうなった原因はセイバーに充分な魔力を送ることが出来ない力不足だ。早いうちから確認しておくことも必要だろう。

 そんな俺の問いに、リアは佇まいを正して俺へと向き直る。

 

「今後の戦闘に支障はありません。風王結界の発動程度ならば知れていますし、これといった手傷を負わされたわけでもない」

「それならばいいのですが」

 

 あくまでちょっとした状況確認、そのつもりで声をかけたのだが、どうやらリアにはそう聞こえなかったらしい。すっかり会話を終えたつもりでいた俺は、目の前にいるリアが俺を真剣に見据えていることに気がつく。

 

「なにか?」

「……共同戦線を張っていたとはいえ、私では力及ばずに結果的にシロウを守ってもらいました。借りはいつか必ず返します。それに同盟を組む者として、今後はあのような無様をしないことを約束しましょう」

「いえ、私は……」

 

 そんな意図での発言ではなかった。そう告げようとするも、外から聞こえてきた声に中断されてしまう。

 

「リア! アルト! 助けてくれぇ!」

「シロウ!!」「ッ!」

 

 士郎の声。助けを求める声。認識するや、俺とリアは考えるよりも早く動き出す。居間から庭へと飛び、そして離れへと最短距離を一足飛びで向かう。

 リアの進んでいく速度に合わせて順路を追っていくが、風景がものすごい速度で後に流れていく。

 

「どうしたのです! シロウ!!」

 

 声から秒で三も数えていないだろう。一足早くリアが凛の部屋に辿り着き、迷う間もなくドアを開け放った。遅れて着いた俺は、リアの直ぐ後にいて中が見えなかったので横から覗き込む。

 そこにいたのは、ベッドの上で半裸の男にまたがる女。もつれあう二人の男女だった。

 

「――――――はっ?」

 

 ぱきん、と乾いた何かが割れる音がする。発生源であろう下を見れば、そこには砕けた煎餅が散らばっている。……ああ、口に咥えてるの忘れて、馬鹿みたいに口を開けたから落ちちゃったのか。

 うわ、結構細かく砕けちゃってるな。破片がフローリングの間に入って掃除しにくいんだよなぁ。ちりとりはどこに入れておいたっけ?

 

 ……。

 

 ちがうっ! あまりのことに現実逃避してた。

 いや、まて。なんだってこんな状況に!? 落ち着け衛宮士郎。焦っては事を仕損じるぞ。まずは冷静に状況判断だ。

 

 まず、ベットの上で士郎を押し倒されていて、あまつさえその士郎の上には凛が馬乗りになっている。

 凛の片手が士郎の口を塞いでる。もう片手は士郎の両手を押さえつけて身動きを取れないようにしている。

 士郎の上着が捲られて半裸。凛の顔は上気していて、まるで「まずいものを見られてしまった」といった表情だ。

 

 以上の情報から推察すると……。凛が士郎を押し倒して、無理やり?

 

「えええぇぇぇーーー!?」

 

 俺の上げた大声に、他の固まっていた二人がビクッと体を振るわせる。

 

「何で? どういうこと? 俺そんなの知らないぞっ!」

 

 なんだって凛と士郎が? 俺の時だってこんな状況無かった。こればかりは断言できる。

 

「――――マスター同士での、その、交流を邪魔してしまったようですね。失礼しました」

 

 一つ頭を下げ、そういって俺の腕を引っ張って部屋から出て行こうとするリア。どうやら俺の声で再起動を果たしたらしい。俺はおたおたと取り乱すばかりだ。

 

「ちょ、ちょっと! 違うのよ!!」

 

 ようやく自分の体勢を思い出したのか、凛が士郎から飛びのきリアに食い下がる。その凛の顔はさきほどよりも真っ赤になっていた。声をかけられたリアは足を止めて、凛に振り返る。

 

「その、私たちも勘違いして飛び込んだのも悪いとは思いますが、ただシロウに凛も昼間からというのは感心できません」

「だから、話を……」

「そ、それに! シロウが悲鳴を上げるような……その…………行為は自重していただきたい」

 

 見ればリアの頬も幾分桜色に染まっている。それだけ言うと、俺を引っ張って部屋を出ていこうとするのだが、一向に話を聞こうとしないリアに凛が爆発した。

 

「あ゛-! 人の話を聞きなさいっての!! 私は士郎の魔術回路の調子を診ようとしてただけ!」

「そうなのですか? しかし……」

「そ・う・な・の!!」

 

 そうだったのか。いや、そうだよな。士郎が凛となんて冗談でしかないか。

 ん? やけに静かだと思ったら、一人なんか様子がおかしい。

 

「あのー、凛。士郎はどうしたのですか?」

 

 ベッドで仰向けに倒れたままの士郎。まるで高熱が出た時のように呼吸を荒くし、顔を真っ赤にして意識もないように見えるのだけど。

 

「ああ、少し興奮させすぎちゃったのかも。できるだけ安静にさせておかなきゃいけなかったのに」

「そ、それで、シロウは大丈夫なんですか!?」

 

 今思い出したかのように気楽に言う凛に、慌てた様子でリアが詰め寄る。

 

「ま、大丈夫でしょ。明日の朝には落ち着いてるわよ。たぶん」

 

 ……たぶんって。いや、まぁ大丈夫なんだろうけどさ。とりあえず無事ならあとは安静にしておいたほうがいいだろう。

 

「そうですか。それでは士郎を彼の部屋に運びましょうか。ベッドを占領したままでは凛も寝られないでしょうし」

「別にこのままでもいいわよ。遅くても明日には目を覚ますでしょうし、一日ぐらいなら私がアルトの部屋で寝れば済むことだわ。わざわざ運ぶのも大変でしょ?」

「いえ、別にそれくらいなら苦でも何でもありませんが」

「いーの、いーの。ほらほら、士郎は寝てるんだから居間に行きましょ」

「は、はぁ」

 

 パンパンと手を叩いて凛が俺たちと一緒に部屋から出て行く。

 うーん、寝てるっていうか気を失ってるんだと思うけど。熱があるみたいだし、後で様子見がてら濡らしたタオルでも持っていってやるか。

 

 

 

 

 時の流れは早いもので時計の短針は5の字を指していた。まぁ、これといってやることもないので料理の下ごしらえを始める。

 今日は士郎の希望もあって和食だ。時間も充分にあることだし、そこそこ手の込んだものが作れるだろう。献立はイサキのから揚げ、サトイモの煮物、シイタケとしし唐の大根おろし和えってところか。

 

 まずは米を洗い、炊飯ジャーに入れて寝かせておく。

 メインディシュになるイサキを三枚におろし、腹骨、小骨を取って両面に軽く塩を振る。

 次にサトイモの皮をむいて、下茹でし、塩、砂糖、醤油を加えて弱火にかける。

 シイタケの軸を切り、しし唐のヘタをとって種を取っておき、網で焦げ目がつくように火を通す。大根をおろし器で摩り下ろし、醤油と酢で味付け。

 んー、しし唐が少し余ったから、イサキをあげる前に素揚げにしちゃうか。本当は食べる前に揚げるのがいいのだけれど、油ににおいがついちゃうからな。

 

 ジャーの開始ボタンを押して、とりあえずは一段落だ。後は食べる直前で大丈夫だろう。

 さて、まだ夕食には早いし、士郎の様子でも見てくるか。あいつ、和食を希望するのはいいけど、夕食までに起きてこれるのか?

 

 

 一応部屋に入る前にノックをしてみるけど、返事はない。

 ドアを開けて入ると、士郎はベットの上で汗を掻いて呼吸を荒くしていた。快復に向かっている様子は見えない。

 近くの机に洗面器を置き、タオルを絞って士郎の額に乗せる。そしてそのまま、ただただ呆っと士郎を眺めてみる。

 

 今回こうして士郎が寝込んだのは、魔術のスイッチを作る為。その理由は、僅かであっても戦力を充実させる為である。

 ただ、俺としては士郎が戦うのは、出来るだけ避けて欲しい。なんていったって、強化と投影だけの魔術使い。今いる四人で敵にやられやすいのは、間違いなく士郎である。

 強化なんかサーヴァント相手じゃ数合ともたない。投影は下手なもの投影しても役に立たないし、宝具の投影は危険だと遠坂にも忠告されていた。危険を顧みずに宝具の投影をしたところで、それを十二分に発揮するだけの能力も技術も持っていない。そんな戦闘能力しか持たない士郎が戦闘に参加するなど、自殺しにいくようなものだ。

 

 だが、他ならぬ士郎のことだ。凛やリアに危険が迫ったら形振り構わずに敵サーヴァントの前に飛び出すだろう。

 これが思ったよりも厄介だ。防ぐには士郎に戦う機会を与えず、且つリアや凛を危険に晒さないようにしなければならない。

 いや、逆に考えればそれさえ防げれば無茶をすることもないのか。つまり、戦闘で苦戦することなく、常に勝ち続ければいい。

 

 だが、そんなことが出来るなら最初からやっている。アーチャーとして戦ったバーサーカーやランサーを、苦戦もなしに倒せるかと聞かれれば否と答える他はない。そもそも、倒せるかどうかからして怪しいっていうのに。

 ただ、理論としては間違っていない。俺やリアの苦戦が少なくなれば士郎が出張る機会は減る。つまりは、事前に対策を練り、リアや凛と協力して頑張るしかないのか。

 

 士郎が寝汗を掻いているので、タオルで首周りや額を拭ってやる。冷たいタオルが心地いいのか、苦しそうな表情が少し和らいだ。拭いているうちに士郎の熱も治まっている気がする。

 ――そういえば、こうして意識のない士郎と二人でいることで思い出したけど、士郎が学校でランサーに貫かれていた時に感じたあの共有感はなんだったんだろう。

 

 たしか……そう、あの時士郎の腕に触れた途端にその感覚があったんだ。

 思い当たり、思考のままに投げ出された士郎の腕を掴んでみる。しかしこれといった変化はなく、部屋には士郎の荒い呼吸が響くだけだ。

 

 ……駄目だな。まぁ、あんなものを感じたのはあの時ぐらいのものだったし、触れた云々ではなく、同じ存在が死に瀕している方に関係があったのかもしれない。

 ん、そういえば心臓を貫かれたのはもう大丈夫なのか? 俺のときは結構違和感が残って、ちょっと激しく動くと気持ちが悪くなったりしていたものだけど。

 

 腕を掴んでいた手を離し、そのまま士郎の胸に手を伸ばす。シャツが汗で濡れているが、士郎の体が熱を発していて冷たいとは感じない。

 

 お……? 共有感……そう、あの時感じた、士郎と俺とが共鳴しあっているような不思議な心のざわめき。

 でも、不快なものではない。体がじわりと暖かくなっていくというのか、そんな熱の広がりが心地よくて不思議と心が落ち着いてくる。しかしそれも、この前に感じたほどじゃない。やっぱり直じゃないと駄目なのだろうか?

 

 そう思い、今度は士郎の上着を捲って胸に手を当てる。

 士郎に触れた手の平が熱を持つ。魔力を集中させたものによく似ていて、けどそれとは確実に違った熱。その熱を確かめるように、手の平で士郎の胸板をさする。触れれば触れるほどこの不思議な感覚が強くなっていく。

 

 おー、やっぱりこのほうがいいみたいだ……

 

「な、なにやってるのよ! アルト!!」

 

 いきなりの大声に振り向く。その先には顔を真っ赤にした凛がいた。すぐ後にはリアもいる。

 

「へ?」

「どこに行くのかと思ってついてきてみれば」

 

 ってつけてきたんですか、あなたたちは。

 

「いえ、別に何をしていたという訳ではないのですが」

「あんたねぇ。士郎の服を捲っておいて、胸弄って何もしていないって――」

 

 凛がずかずかと俺のそばに歩み寄り、詰めかかってくる。そう言われてもこの現象自体、自分の中でもまだ理解できていない。いや、凛が言ってるのはそういうことじゃないんだろうけど。

 

「おや? ――リン」

「ん、どうしたの? リア」

 

 いつの間にか士郎の横にいるリア。その声に凛だけでなく、俺もそちらに視線を向ける。

 

「士郎の様子が……」

「――元に、戻っている?」

 

 凛とリアの言葉の通り、士郎のつい先ほどまで赤かった顔色は普段のそれになっていた。それどころか汗は引き、規則正しい寝息をたてている。寝汗などの名残はあるが、今となっては静かに眠っているようにしか見えない。

 

「そんな、でも……宝石の魔力自体が消されているわけでもないし、魔力の過負荷による副作用だけが緩和されている? アルト、あなたいったい何をしたの?」

 

 一通りその様子を診察した凛は俺に振り返り、鋭く見つめてくる。リアは士郎から俺へ視線を移したまま。一瞬にして部屋の空気が重くなる。

 

「いえ、先ほども言ったように特には何も。ただ、士郎に触れると何かが『繋がった』ような感じがしたので」

「『繋がる』って、もしかしてライン――――とも思ったけどそういうわけでもないみたい」

 

 凛は士郎の胸に手を当てるが、俺の時のようなことはないらしい。何事か考えている。リアも士郎の胸を触りながら、首をかしげている。

 何だ? この状況? 女二人、いや俺もだから女三人……いや、そこはどうでもいい。っていうか考えたくない。

 ともかく、女の子が寄ってたかって男の胸を触っているのはどうなのだろうか?

 

「……ん? っと、リア!? 遠坂!? 何やってるんだ?!」

 

 あ、士郎が起きたか。途端にリアと凛が自身の胸を触っているのに気づき、うろたえ始める。

 そんな中、リアは慌てず騒がず何事もなかったように俺の横まで歩いている。

 

「ってそうだ!! リア! アルト! 誤解だ!」

『何がですか?』

「いや、だから俺と遠坂は別にそういうんじゃなくて、魔術回路を診てくれるって」

「あー、あー。衛宮くんいいの」

「なんでさ?」

「それさっき説明したから」

「さっき? ……っていうか、もう六時!?」

 

 あー、士郎のボケで張り詰めていた部屋の空気が軽くなった。そもそも気を失ったことに気づいてなかったのか。

 

「とりあえず居間に行きませんか? そろそろ夕食の時刻でしょう?」

「あ、ああ」

「そうね。話は後でもいいか」

 

 リアが居間に向かって歩いていく。なんていうか、マイペースというかなんと言うのか。

 

「アルト、あなたがいなくては夕食が完成しません」

「わ、わかりました」

 

 俺はリアの威圧感に押されて足早に台所に戻っていった。

 

 

 

 

 夕食は大好評だった。衛宮士郎だった頃に遠坂に触発され、自分の料理を見つめ直して試行錯誤していたのは無駄じゃなかったようだ。

 士郎に至っては「今度レシピを教えてくれないか?」なんて言ってくれる。これだけで頑張った甲斐があるってものだ。

 いつの間にかそこに居た藤ねえなんか、「アルトちゃん、うちにお嫁に来ない?」なんて半分本気の目で訊きやがってくれました。

 

 それぞれが風呂に入って、藤ねえが蜜柑を散々食い散らかして帰っていったのを見計らってから、みんなで居間に集まった。

 各自の前に緑茶を置いていく。なんだかこの頃こういう役回りに慣れてきたというか、完全に小間使いになりつつあるというか。

 

「それで早速だけれど、さっきの話ね。士郎、体は大丈夫なの?」

「ああ、全然問題ないぞ」

「全然?」

「ああ。気持ち悪さも、体に残ってた痛みもきれいさっぱり消えてる」

「ふぅん、そう……」

 

 士郎の返答を聞き、凛は考え込む様子を見せる。そうして顔を上げ、また士郎と向き合う。

 

「スイッチの感覚は掴めた?」

「ああ、なんとなくだけど」

「それじゃ、これ強化してもらえる?」

 

 そういってすぐ横からランプを取り出す。……いつ持ってきてたんだ?

 

「わかった」

 

 士郎は渡されたランプを両手で挟むように持ち、目を瞑る。

 途端に部屋の中が静まり返る。

 

「――――同調開始」

 

 居間に士郎だけの、衛宮士郎だけが持つ呪文が響く。途端にその体に魔力が生成されていくのがわかった。

 

「――――構成材質、解明」

 

 吹き出た魔力がランプの中を探査していく。これが魔力行使を察知するということなのか。

 とはいっても目に見えているわけではなく、セイバーの感覚が周囲の空気中の魔素を把握している。

 

「――――構成材質、補……」

 

 呪文の途中で、ぱきゃ、とランプのガラス部分が高い音を残して砕け散った。

 解析しなければわからないが、おそらくは魔力の流し込みすぎだろう。俺もガラスなんかはあっさり強化に失敗していたしな。

 

「ごめん、失敗だ」

 

 机の上には粉々に砕けたガラスの破片。とりあえず用意しておいたちりとりでまとめ、新聞で包んでスーパーの袋に入れておく。

 

「うーん、やっぱり宝石で無理矢理開いたのがまずかった? でも、異常はないんでしょ? 回路の問題かしら」

 

 凛が顎に手を当て考え込み、それを受けて士郎は罰が悪そうに頭をかく。

 

「ああ、いや。実は強化なんてここのところ一回しか成功してないから、これが順当な結果というか」

「……ってことは何? 衛宮くんの強化魔術は『まず成功しない』?」

「む。まぁ、そう言われると辛いんだけどさ」

「それで、スイッチは確認できたわけ?」

「あ、うん。慣れは必要だと思うけど、とりあえずは問題なさそうだ。……って遠坂? 何か怒ってないか?」

「――――」

「遠坂?」

「当ったり前でしょう! 強化しか使えないって聞いていたけど強化も満足に使えないんじゃ役立たずもいいとこじゃない!!」

 

 咄嗟に耳を押さえるが、少し遅かったようだ。凛の大声が、耳にキーンときた。

 

「う、すまん」

「……はぁ、いいわ。元々そんなに期待してたわけじゃないから。それで、んーっと、ちょっとアルト」

「はい?」

「士郎のことさっきみたいに触ってみて」

「わかりました」

「ちょっ、何をする気なんだ?」

「いいからあんたはおとなしくしてなさい!!」

「……」

 

 「いいわ」なんて言っておいて結構頭にきてるみたいだ。士郎なんか完全にその怒気に気圧されてる。

 ともかく、あんまり時間をかけるのも何だからさっさと済ませてしまおう。

 

「それでは失礼します」

 

 士郎のシャツを無造作に捲って、その中に手を突っ込む。俺の手が冷たかったのか、触れた途端に士郎の体がびくりと震えた。

 

「ななな、なー!?」

「衛宮くん、どう?」

「え? ど、どうって、ああ。――――そうだな、なんだか、あたたかく包まれるっていうか。表現しにくいんだけど、いやな感じはしない」

「ふむ……」

 

 またも顎に手を当てて考え込む凛。

 

「何か分かったのですか?」

「…………さっぱりね。何が反応してるのかもわかんないし。士郎とアルトの間に何かあるぐらいしか。はい、んじゃ、次リア」

「では」

 

 リアも俺に倣って士郎の胸に手を当てる。

 

「どう?」

「うん……アルトの時ほどじゃないけど、やっぱり同じような感覚が」

「んー、ほんと、どういうことかしら? サーヴァントのリアよりもアルトの時のほうがその傾向が強いってのがわからない」

「へ? 何のことだ?」

「解剖でもしてみれば色々わかるかもしれないけど、流石にそれをするわけにもいかないし。とりあえずは害もないようだから、保留ってところかしらね」

『そうですね』

「よし。それじゃ、そろそろいい時間だし寝ましょうか」

「はい」

 

 

「へ? なぁ、遠坂? ちょっと待てって。リア? アルト!? 俺、何のことなのかさっぱりわかんないんだけど――――」

 

 ああ、今日は満月だったのか。

 そんなことを考えながら自分の寝泊りしている部屋に向かう俺たちを他所に、士郎は居間でめくれ上がったシャツをそのままに呆然としていた。

 

 

 

 

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