Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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7日目②

 

◆◆◆

 

 俺が思うに朝食とは、一日の活力を得ると共に、ゆったりと摂って心身ともに豊かにするべきものである。

 反して、この頃の我が家の食卓は争乱の一途を辿っている気がしてならない。いや、改めて言うまでもなく辿っている。

 

 普段はそれは静かなものだ。作り手に対する感嘆や、料理の感想などはところどころで漏れるとしても、それはきっと大抵の家庭で行われていることだろう。

 問題は、食事時になるとばたばたという音とともに現れる藤ねえだ。――そこから食卓が加速する。

 手間をかけてこしらえた料理がものすごい速度で消費されていく。ほら。今出したばっかりの煮物が、あっという間に目の前で“消”えていった。

 

 その速度を生み出しているのはもちろん藤ねえ、それにリアにアルト。

 藤ねえが他の人のことを考えないで次々におかずを口に入れていくものだから、リアとアルトが触発されて箸を伸ばす。それを見た藤ねえの目が光り、何故か対抗心を燃やしてさらに速度を上げていく。

 全て取られるわけにはいかないとリアとアルトがまた箸を伸ばす。そしたらまた藤ねえが……というように互いに触発されて大規模な争いに発展していく。

 その様はまるで『取らねば何も食えない大家族』のようなもので、見てるこちらとしては微笑ましいのか、どうなのか。ただ、うちの財政が思った以上に芳しくないのは間違いない。このままじゃ今月越せないかもしれないなぁ……。

 

 俺は、大皿料理という戦場から遠坂と共に離脱し、ゆっくりと食事を摂る。流石にあの中に割って入っていく気にはなれなかった。……お、今日の味噌汁は良く出来てるな。

 

 ちなみに昨日の夜、リアたちが俺の胸に手を当てていた理由は、後でリアから聞いた。聞いて何が起こっていたのかっていうのは理解したんだけど、結局何故それが起こったのか、なんてのはわからない。

 ただ、遠坂は「そんな不確かなものを頼っていたんじゃ命がいくつあっても足りないわ」だそうで、当面は放っておくという形になった。害があるというわけでもないようだし、それどころか役に立ってくれる……かもしれないしな。

 それにしても、昨夜感じた暖かさって見に覚えがあるんだけど、いつ感じたんだったっけか?

 

「ねえ、士郎……」

 

 俺が思考に沈んでいると遠坂が話しかけてきた。だけど、呼びかけてきた割にはこちらに顔を向けてはいない。眉根を寄せ、その顔は不機嫌そうに歪んでいる。

 何事かと遠坂の視線を追っていくと、その先にはテレビの画面。ニュース番組が流れていて、テロップには『冬木町で女性ばかりの行方不明、その数7人』と書かれていた。画面ではリポーターが見覚えのある風景をバックに、うちの学校の制服を着た女生徒に話しかけている。

 

 聖杯戦争が行われている冬木の町で、あまりに不自然な女性の失踪。連鎖するように思い起こされるのは先日の一家惨殺事件に、集団昏睡事件。

 知らず咽喉が鳴る。このごろの冬木の町はおかしい。いくらなんでも事件が多すぎる。

 

「遠坂、これってもしかして」

「どうやらそのようね」

 

 やっぱりそうか。頼りにするわけじゃないけど、遠坂が言うなら間違いないだろう。ニュースを見る限り行方不明になったのは三日前から集中しているようだ。間違いなくサーヴァントの仕業だ。

 一家惨殺事件から人死は起きていないけど、いまだに7人の内、誰も見つかっていない所をみると……。

 

「……なんとかしないとな」

 

 俺がそう呟くと同時に速報が入ったらしく、ニュースキャスターに原稿が渡されるのが見えた。

 

『只今入った情報によりますと、この事件での新たな行方不明者が出ていた模様です。新たな行方不明者は4人。調査中のため、同一事件なのかは今のところわかりませんが、行方不明者は11人にのぼります』

 

 ニュースキャスターは記事を機械的に繰り返し読み上げる。

 ぎり、と歯が鳴る音。ふと見れば、手のひらは爪が食い込んで白くなっていた。知らずに力を入れていたようだ。

 

「とりあえずは学校からだからね」

 

 遠坂がそんな俺の様子を見て念を押してくる。

 

「――――ああ、わかってるさ」

 

 今日の予定は学校の結界潰し。遠坂の見立てだとあと数日で完成してしまうらしいので、率先的に学校の結界を排除することになっている。

 ニュースのやつにしろ、学校に結界を張ったやつにしろ、他人をなんとも思っていないのだろうか。自分の願いを叶えるためとはいえ、人をないがしろにしていいという道理はない。

 

「ふぃー、ごっちゃんです」

 

 どこぞの相撲取りよろしく、妙にくぐもったそんな声に思考が中断された。ふい、とそちらをみると机の上を汁やら野菜屑やらでめちゃくちゃにして藤ねえが満足そうに腹を叩いていた。

 

『ごちそうさまでした』

 

 横ではこちらも満足したのか、すっかり落ち着いたリアとアルトが背筋を伸ばしていた。ただリアは左頬、アルトは口元に米粒がついていてすまし顔が台無しだ。

 

「――っく」

『?』

 

 ついつい忍び笑いが漏れる。まだ自分の顔についた米粒に気づいてないリアとアルト。

 二人して首を傾げて俺を不思議そうに見るので、俺が自分の左頬と口元を指差してやると、先にアルトが気づいて手を当て真っ赤になり、リアにも教えてあげていた。

 

「それじゃ、お姉ちゃんは先に行ってるね~。遅刻したら怒っちゃうんだからぁ~」

 

 食後のお茶を一杯飲んだ後、藤ねえはそれだけ言い残し、というかドップラー効果を残したまま走り去っていった。

 大人として決して褒められた行為ではないけど、そんないつもと変わらぬ藤ねえに、凝り固まっていた頭がこの短い間でほぐれていくのが感じ取れた。

 

 

 

 

 リアとアルトの見送りを受けて家を出る。二人には家で留守番してもらって、何かあったときにすぐ来れるように待機してもらっている。

 余談だが、アルトはようやく遠坂の許しが出たらしいので、今日はいつもの白のブラウスに藍のタイトスカートを穿いていた。リアとの見分けもつきやすいし、似合ってるからあの格好でもよかったと思うんだけどな。

 

 それはそれとして、時計を見るといつも登校する時間より十五分くらい早い。その所為か空気が澄んでいて、こころなし寒く感じる。ふと、すずめの鳴き声が聞こえてきた。見上げると電線の上にすずめが留まっている。

 まだ生徒が多い時間でもないので、生徒たちもまばらにしかおらず、空気がゆっくり流れているように感じる。このところ平和とは程遠いところにいたものだから、こういう時間は本当に貴重だと思うようになった。

 

 遠坂と横に並んで学校に向かう。隣には、澄ました顔の遠坂。

 ――こんな状況、一年前の俺は考えもしなかった。完全無欠のお嬢様だと思っていた遠坂が思っていたより付き合いやすい奴だとか、嘘とはいえその遠坂と付き合っているなんてことが予想できる筈もない。実際、先日だって遠坂があんな提案をしてくるなんて微塵にも思ってなかったしな。

 

 いやいや、何考えてるんだ、俺は。同盟を組み、協力するって上でこういう状況になっているんだから、こんなこと考えること自体が遠坂に対して失礼だ。

 遠坂だってそんなつもりは毛頭ないだろうし。

 

「何? 何か顔についてる?」

 

 そう言って手鏡を取り出してチェックする遠坂。知らず、遠坂の顔を見つめていたみたいだ。それに遅れて気づき、何とか取り繕おうと口を開く。

 

「い、いや、何もついてないぞ」

「それじゃ何で私の顔なんか……ははーん」

 

 うわ、なんだその『ははーん』ってのは。何か企んでいるんじゃないだろな?

 

「な、なんだよ?」

「そうだよねー、私たち恋人同士だしねー」

「な、何言ってんだ!? それは一緒にいるのに理由が必要だからってことで……」

「……あんたねぇ、人に訊かれてそんな風に答えないでよ?」

「う、わ、わかってる。学校ではちゃんとやるからそんなに心配しなくても大丈夫だ」

「はぁ。ま、そもそも衛宮くんに演技させようってのが無茶なわけだしね」

「む。そりゃ、確かに演技とか苦手だけどそのぐらいならなんとかなる」

 

 なんとかなるなんて言っておいてあれだけど本当はあまり自信はない。だが無茶なんて言われちゃこちらとしては退くことは出来ない。

 だって、これが本当のため息ですっていうため息つかれて『できません』なんて言えるわけないじゃないか。期限付きとはいえパートナーなんだから、対等に手助けくらいはしてやりたい。

 遠坂が立ち止まって俺の目を見つめてくるから、俺も立ち止まって目を逸らさない。十秒も経って、周りに集まってきた生徒の目に気づいて顔が赤くなったころ、遠坂は俺の様子に決心してくれたのか「ふぅ」と息を吐き、

 

「そ、それじゃお願いね」

 

 なんて一言だけ残して先に歩いていってしまった。

 

 

 そんな遠坂の背中を眺めて、対策を取っておかなければならなかったことに気がつく。すっかり失念していたけど、付き合うという噂が流れた次の日に二人して休んでいたことについてを一切考えてなかった。

 

「どうしようか……」

 

 駄目だ、いい言い訳が思いつかない。このままではそうこうしているうちに学校についてしまう。……こうなったら、みんなが忘れてくれてることを祈っていよう。

 

 

 

 

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