Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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7日目③

 

 

 通学路を学校に向かって進んでいく。毎朝同じ道を歩いているっていうのに、今朝は違和感ばかりが付きまとう。

 原因はわかってるんだ。俺と遠坂の周りに生徒が極端に少ない。この時間にもなると朝錬の生徒が登校しているから学校付近では生徒たちの列が続く。だというのに、俺たちを中心にクレーターができたように人がいないのだ。

 

 外側からかなりの数の視線を受けて、緊張で体が硬くなってしまっているのがわかる。やっぱり隣に遠坂がいるからなのだろう。その遠坂もやはりいつもと勝手が違うのか、どこか居心地悪そうにしながら横を歩いている。

 それにしてもこの時間、友達同士で誰かしら談笑しているものなんだけど、いつものような生徒たちの喧騒がない。何があったのか。そんな疑問についてを考えていると、いつの間にか校門は目の前に迫っていた。

 

「衛宮くん、結構マズイことになってるのかもしれない」

「マズイこと?」

 

 遠坂が学校の塀を見ながらそんなことを言ってくる。なにがマズイことになっているんだかわからない。訊き返しながら校門をくぐった。

 

「うっ!?」

 

 視界が赤く染まり、歪む。泥沼を歩いているような感覚。体自体が重いわけじゃない。精神的に疲れきってしまって、体が思うように動かない時のような重さ。

 

「なんだ、これ……」

「この前、拠点を一つ潰したから後二日くらい余裕があった筈なんだけど……。どうも外部から無理矢理魔力を流して結界を作ってるみたいね」

 

 遠坂が辺りを見回しながら俺にしか聞こえないように小さく呟く。

 遠坂に倣って周りを見ると生徒たちにも活気がない。誰も彼もが俯き、視線は地面に向かったままとぼとぼと校舎に向かっている。

 

「もう、結界として成り立ってしまってるのか?」

「それはまだ大丈夫。ただ、後ちょっとで起動するだけっていうところまできちゃってるみたい」

「ならリアとアルトを呼んだほうが……」

「そうね。学校内には無理だけど、近くで待機していてもらったほうがいいかもしれない。とりあえず裏の森に来るようにアルトに言っておくわ」

 

 そうか、念話だったっけ? 俺とリアとじゃ出来ないからいまいちどんなものなのかわからないけど、マスターとサーヴァント間では普通に使えるものらしい。

 遠坂とアルトもいくつか不備があったからリアと同じく霊体化できないみたいだけど、それでもしっかり手順を踏んだ召喚だったようだからな。

 

「私ならこんな昼から仕掛けるなんて馬鹿なことやらないけど、相手が何考えてるかわからないからね」

 

 それでこの話は終わり、と遠坂は歩き出す。

 

 

 少し歩いた所で見知った顔がグラウンドの脇の水道で水を飲んでいた。挨拶しようかと近寄ると、相手も俺たちに気づいたみたいだ。そいつは弓道着のままの姿で校庭を歩いてくる。

 

「や、遠坂に衛宮じゃないか」

「美綴さん、おはよう」

「おはよう」

 

 瞬時に猫を被った遠坂が挨拶を返す。素の遠坂に慣れてしまった俺としては今の遠坂を見るとなんだか背筋が無性に寒くなってしまう。

 

「ああ、おはよう。ところで朝から仲がいいな。やっぱり二人は付き合っているのか?」

「え? あ、いや……、いっ!」

「ええ、彼とは先日からお付き合いさせていただいてます」

 

 俺の言葉を遮って微笑みながら答える遠坂。そうか、なんて言ってからから笑いながら美綴は俺の肩を叩く。

 遠坂、ちょっと言いよどんだだけで足を思いっきり踏むのはどうかと思うんだが。

 

「それで、どっちから告白したんだ?」

『え?』

 

 俺と遠坂は反射的に顔を見合わせた。美綴は俺と遠坂のその様子を興味津々に見ている。

 そうだ、ちょっと考えれば訊かれるってわかっている事だった。なんということか、そこまで打ち合わせていなかった。サーヴァントと結界のことへの対処を考えるので一杯一杯だったってのもある。

 

 目の前の遠坂を見ると、迂闊、なんて言葉がぴったりの表情で考えている。

 そういえば俺、こんな近くで遠坂のこと見つめてるよ。うわ、絶対顔が赤くなってるぞ、俺。――――違う、問題は美綴への返答をどうするのかってことだ。

 

「あー……」

 

 とりあえず声は出してみたけど、解決にはならない。

 俺からってことにしておいたほうがいいのかもしれない。恥っていうつもりはないけど、好きでもない男に告白するなんて汚点、遠坂だってつけたくない筈だ。

 

「俺が遠坂に」「私が衛宮くんに」

 

 俺の声に被って声が聞こえた。推察するにその発信源は隣。その隣の遠坂は驚いた顔をして俺を見ている。きっと俺も遠坂と同じに吃驚した顔で見返しているんだろう。

 なんにせよ、このままだと話が食い違う。遠坂の尻馬に乗って話を進めないと。

 

「いや、遠坂が俺に」「いえ、衛宮くんが私に」

『~~~っ!』

 

 遠坂が顔をぐいっと耳に寄せてくる。美綴は俺たちの言動が何かツボに入ったらしく、文字通り腹を抱えて笑っていてこっちを見る余裕もないみたいだ。

 

「ちょっと士郎。私があんたに合わせようとしているのになんで意見をそうほいほいと変えるわけ?」

 

 顔を赤くしながらもばつが悪そうに俺にささやきかける。こんな事態だっていうのに、その仕草にどきどきしてしまう。

 

「そんなこと言ったって、俺だって遠坂に合わせようと……」

「あー、もう! そんじゃ私からってことにしておくから。士郎もそれで通して、わかった?」

「あ、でも遠坂はそれでいいのか?」

「いいもなにも……」

 

「おーい、あたしを放って置いて何を話しているんだ?」

 

 遠坂がそこまで言ったところで美綴に遮られる。いつの間にか美綴が復活していたようである。

 

「あ~あ、遠坂に先を越されちゃったか……。それで遠坂、約束はどうするんだ?」

「約束?」

「え? いや、それより、さっきの質問は?」

 

 話の前後が見えない。質問に対処しようと遠坂と折り合いをつけたってのにいきなりその質問自体がなくなってしまった。そりゃ俺じゃなくたって疑問に思うだろう。

 

「言いづらいのなら別に言わなくても構わないさ。どうやら衛宮は素の遠坂を知っているみたいだしね。本気かどうかってのを知りたかったから訊いたけど、これはいよいよ本物か――ってわかっちゃったからさ」

 

 なんて、美綴が自己完結してくれた理由を教えてくれた。

 遠坂のやつの顔がボッと赤く染まる。あいつがそんな反応すると俺まで赤面しちまうじゃないか、チクショウ。

 

「ああ、約束ってあれ?」

「そ、あれ」

「……いい、無効にしましょう」

「は? いいの? 後から言ったってもう聞かないぞ?」

 

 遠坂に問いかける美綴。その顔はどこか残念そうに見える。対する遠坂も心残りがありそうだ。

 

「ええ。……それに、衛宮くんに失礼でしょ? そういうの」

 

 約束がなんなのか、あれっていうのが何を指しているのかわからないけど遠坂と美綴は二人で納得したようで笑いあった。

 っていうか俺が関係してるのか? 美綴と遠坂関連で思いつくことなんて何もないんだけど。

 

「遠坂、あんた変わったね。やっぱ、男が出来たからかい?」

「ええ、まぁ。ちょっとばかり事情があってね」

 

 そう言って遠坂は顔を美綴からふいっと逸らす。俺からは後頭しか見えないからどんな顔をしているのかわからないが真っ赤になっていることだろう。

 そういう俺も男っていうのが俺を指しているものだから平静にはいられないんだけどさ。

 

「それにしても何か用があるんじゃないの?」

「ああ、衛宮に訊きたい事があったんだ。間桐の兄妹知らないか?」

「間桐の兄妹って、桜もか!?」

 

 慎二のやつはわかる。あいつだって今回の聖杯戦争のマスターなんだから何か考えがあって家を離れているかもしれないし、俺や遠坂と会うのを避けているのかもしれない。

 

「ああ、昨日も学校に来てないし、今日の朝練にも出てきてない。せめて連絡くらい寄越せばいいのに。こっちから電話かけようにも家は出ないし、あいつら、携帯なんて持っていないしさ」

 

 慎二のやつも朝練はさぼってたりしてたらしいけど、意味もなく学校を休むやつじゃない。ただ、連絡もしないってのが気になるけど、それもマスターだっていうから許容範囲内だろうか。

 けれども、桜に至っては多少の無理を押しても学校に行こうとするくらい強情者だっていうのにどうしたんだろう?

 そこまで考えてある可能性に思い至る。――――もしかして、連絡しないんじゃなくて、出来ないんじゃないだろうか、と。

 

 サーヴァント――会った事のあるランサーが、いまだ見ぬ慎二のサーヴァントをあの赤い槍で穿ち殺す。予想もしていなかった事態に間桐邸に逃げ込む慎二。そして、それを追うランサー。

 手の届くものを青い男に投げつけるが、もちろんそんなものがサーヴァントに通じるわけもない。生き汚い慎二にランサーは嘆息し、槍を放つ。胸に迫る赤い槍はそのまま慎二を貫き、その体を壁に縫い付ける。

 その口から漏れる赤い液体。魔槍によって血液の流れが止められ、間もなく慎二の心臓は動きを止める。

 家に居た桜が、槍に貫かれた慎二を見て叫び、駆け寄ってその肩を揺する。ランサーは目撃者を残すまいと槍を慎二から引き抜き、その切っ先を桜へ――――

 

 勝手に頭に流れていく映像を何とか消そうと頭を振る。何を、考えてるんだ、俺は! そんな自分に怒りを俺自身に覚え、奥歯を噛んだ。

 遠坂も似た考えに至ったらしく、そんな考えをした自分に怒るような、それでいて焦ったような複雑な表情を浮かべている。

 

「衛宮? それに遠坂も。どうしたんだ?」

「あ、いや。なんでもない。悪いけど、桜のやつこの頃は家に来てないからわからないんだ」

「そっか、悪いね衛宮。この頃の事件のこともあるし、明日も休むようならあいつの家に様子を見に行っておいたほうがいいか」

 

 それはまずい。もしかしたら美綴を巻き込んでしまうかもしれない。

 

「いや、俺が行くよ。丁度あいつに用もあるしさ。美綴も部活の主将で大変だろ?」

「んー、それじゃ頼んでいいか? なんだかここ数日は調子が悪くてさ、今もなんだか体が重たいんだ」

 

 美綴はふう、と息を吐き、遠くを見ながら肩を回す。

 

「綾子、あなたその格好のままでいいの? そろそろホームルームが始まるわよ?」

「ああ、そうだった。引き止めて悪かったな」

 

 そういいながらどこか気だるそうに片手を上げ、美綴は弓道場に向かって行った。

 

 

「遠坂」

 

「……ええ。言いたいことはわかってるわ。でも、とりあえずはこの結界を何とかしてから」

 

 そう言って遠坂は唇を噛んだ。俺はいつの間に握っていた拳をひらき、力の入れすぎで指の関節が痛みを訴えていることに、今更ながらに気がついた。

 

 

 

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