日付が変わってからもう一時間が経っていた。俺は道場で一人、電気もつけずに正座している。
ちなみに格好は私服。風呂から出て髪を結んだ訳でもないから下ろしたままだ。
帰ってからリアは必要以上に俺に話しかけなかったし、俺も声をかけなかった。そんな俺たちをみて凛が首を傾げていたけど、何事も無く夜を迎えてみんなが部屋に向かっていった。
リアから「午前二時道場で」とすれ違いざまに言われて、日付が変わると同時に道場に着き、それからずっと正座している。深夜のこの時間を指定するのだからおそらくリアが一人で来るのだろう。だから室内灯もつけていない。
俺の心は不思議と静まり返っている。取り乱すでもなし、焦っているわけでもない。ばらしたくないと思っていたし今も思っているのに、不安はあるが何故かどこかで安らいでいる。リアに言われた時は流石に気が気でなかったけれど、道場で精神集中しているうちに雑念は消えた。
なるようになるだろう、と開き直っているだけかもしれないけどさ。
それより問題なのはリアが俺の話を信じてくれるのか。自分の状態をうまく人に説明できるかっていうと、そんな自信は毛頭無い。
それに、もし俺がリアの立場だったら、とてもじゃないけどこんな話信じられそうもないし。だから俺が体験したことをそのまんま話そうかと思ってるわけなんだけど。
「……はぁ」
そういえば当面の状況を処理することに精一杯で、何故こうなったのかと考えたことがない。
なんていうか、我ながら呆れる。自分の呆け具合にため息が出るなんて、気が滅入るというか力が抜けるというか。
目を瞑って己に埋没し、記憶を掘り起こす。
ギルガメッシュとの戦い、必死だったためかしっかりとは覚えていない。
セイバーが倒れ、彼女を守るために立ちふさがり俺もまた倒れた。体が分断され、魔力が切れた俺は……
俺は?
……そう、『鞘』を投影しようとした。
衛宮士郎を別の物に作り変えてセイバーに『返した』んだ。そして『鞘』になった俺はセイバーの体に包み込まれ、俺の記憶は一旦そこで途切れた。
『鞘』? 『返した』?
ちょっとまて。『鞘』ってなんだ? それになんで『返す』なんて表現がでてくるんだ?
あれは既に俺の中に在ったモノ。投影したものとはいえ、セイバーに渡すことがなんで『返す』ことになるんだ?
そもそも、なんでそんなものが俺の中に在ったんだ?
無意識に『鞘』の構造、骨組み、理念に至るまでが頭に呼び起こされる。頭の中で組み立てたところで体の中からその『鞘』の存在を感じた。
あ、れ? それに、俺はまだそれを持って、いる?
……でもセイバーに渡したのだから、俺が持っているのは当然なの、か? 俺は『鞘』? で、その『鞘』はセイバーである俺が持っている?
駄目だ、わからない。
突きつけられた疑問に思わず頭を抱え、ぶんぶんと音が鳴るぐらい頭を振る。頭の動きに合わせて髪の毛が揺れ、頬に当たった。
いつもならセイバーの髪の毛だからと思いもしなかったのに、今だけはうっとおしい。結んでおいたほうが良かったかな、とどうでもいいことに思考回路が流れ始めたので、一旦頭を空っぽにする。いつの間にかセイバーの髪の結い方を習得している俺に軽い危機感を覚えながら。
――――とりあえず『鞘』と俺については後で考えよう。
とりあえずは俺がセイバーに包み込まれた後どうなったのか。
そう。次に気づいた時、既に体はギルガメッシュに肉薄していた。
あいつの宝具を『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』で相殺した後、カリバーンを投影して呆然として隙だらけだったギルガメッシュを切り捨てた。その後、たぶん魔力切れでその場から消滅したのだろう。
なにせ俺の記憶はここまでしかない。ここから後は凛に呼び出された場面に跳んでしまう。
まぁ、細かいことを言うなら本当は呼び出される前に脳裏にうっすらと赤い丘が浮かんだのだけど、きっと死に際に幻でも見たのだろう。
――――まず、セイバーはどうなったのか?
本当なら何よりも先に気がつかなければならなかったこと。何よりも大事に思わなければならなかったこと。
この体の本来の持ち主であるセイバーの意識はどこへいってしまったのか。眠ったような状態なのか。それとも、もうこの体には残っていないのか。
そもそも、俺がどうやってセイバーの体を乗っ取ったのかわからないと解決方法も出てこない。
……なにもできない。悔しい。結局俺はセイバーを犠牲にしてここにいる。
でも、それでもセイバーは死んでいない筈だ。死ぬ直前のアーサーが聖杯戦争に呼び出されているのだから。
聖杯戦争を何らかの理由で退場しなければならなくなった場合、その体は過去に戻って死ぬ直前のアーサーに返される。
そしてまた聖杯を手に入れるために呼び出され、手に入れられなければ戻り、そしてまた次の聖杯戦争へ召喚されていく。
そう、繰り返している。聖杯を手に入れるまで、ただ延々と――――。
この体がセイバーなら世界との契約がおかしくなってしまう。
瞳の色、服の色。それに『衛宮士郎』に備わっている魔術回路がこの体にもあることと、俺の意識。
姿形こそセイバーだけど、中身はまるきり違う。同一人物ではない俺が、死ぬ直前のアーサーに『戻る』ことはできないだろう。
もし他のサーヴァントなら俺の場合と同じように乗り移ってしまってもその場で消滅するのだから問題は無い。
ただ、アーサーだけは違う。アーサーは『生きているうちに聖杯を手に入れる』という世界との契約が果たされない限り生き続ける。呼び出された先で消滅するわけにはいかないのに、戻ることができない。
仮に、『アルト』の体がセイバーならば、アーサーは死ぬ直前で『アルト』になって死ねないままなのだろうか? 『アルト』が俺である限りアーサーが願いを叶えることも、世界との契約から解き放たれることもないんじゃないか?
とりあえずわかったのは衛宮士郎だった俺は完全に死に、少なくともセイバーの体は生きているだろうこと。セイバーの意識については、体と一緒に無事であることを祈るしかない。
なんとかしてこの体をセイバーに返してあげたい。いや、返さなければならない。少なくともこのままでいいなんてことはない筈だ。
ふと思ったんだけど、このままいくとリアと士郎はいずれ『アルト』になるのか?
アーサーは一人だし、そう考えると自然と『アルト』がリアの未来の姿だってことになる。
でも、俺の時の聖杯戦争に『アルト』はいなかった。
てっきり俺は過去に召喚されたものと思っていたんだけど、もしかして考え違いをしていたのかもしれない。俺が経験していないことが起こっている以上、過去ではなく、よく一般に言う『平行世界』ってやつではないだろうか。
たぶん、そういうことなのだろう。それがわかったからといって何か変わるわけではないのだろうけど。
っと、思考が逸れたな。
次に、何故セイバーの体に俺が乗り移ってしまったのか。どうやら投影した『鞘』が今の俺に密接に関係している気がする。確証はない。事実はその『鞘』についてはっきりしないとなんともいえない。
……では、今の『アルト』をリアに説明するには何と言えばいいのだろうか。
衛宮士郎じゃあない、セイバーでもない。こんなことは前にも考えた。あの時の俺はアーチャーというだけでよかった。リアがいなかったから、真名、というか俺の正体に固執されないで済んでいた。
今はそれでは済まない。本物のアーサーは呼び出されてしまい、本物に俺が偽者じゃないかと勘付かれているのだから。
自分を衛宮士郎だと思っている限り、意識は衛宮士郎なのだけれど、他人に身分を明かすには全く理解されない。
――――ああ、やっぱり俺が体験したことを一から話すしかないんだな。
結局はそこに帰結するらしい。後は、俺が何者なのかはリアに判断してもらうしかないみたいだ。
一通り考え終わったところでからり、と戸が開く音がした。
大した音ではなかったけど、無音状態の道場にずっといた俺には一際大きく聞こえ、体に電気が走ったような衝撃を与えた。
ゆっくりとそちらを見やるとリアが立ったまま俺を見下ろしている。俺と同じく普段着、ただ、髪はしっかりと結い上げてある。
その目は猜疑の色が見え隠れしているものの、憎悪や殺意のようなものはない。……どうやら話は聞いてくれるようだ。
一瞬の間の後、リアが俺の対面に同じく正座した。
「さて、聞かせてもらえますか?」
一呼吸おいてリアが口を開く。
くそ、心臓が跳ねるように鼓動する。体全体が脈を打っているようだ。さっきまで静まっていたのは何だったのだろうか。
「何を話せばいい?」
「全てを」
全て、か。俺自身わからないことがたくさんあるっていうのにな。
「――ああ、わかった」
気を静める。どうやらリアは話し出すまで待ってくれるらしいから、心の起伏をゆっくりと平らにしていく。……よし。顔を上げてリアの瞳を見つめる。
「始めに……俺はアルトリアじゃない。生前は、聖杯戦争に参加していた魔術師だ」
「っ! それは、どういう……!」
途端にリアが目を見開く。その瞳は揺れている。立ち上がって俺に詰め寄ろうとするのを、手で静止させる。
「ごめん。言いたいことはわかるけど、とりあえず最後まで聞いてくれ。最後まで聞いて、それを信じるかどうかはリアに全部任せるから」
「……わかりました」
リアが小さく頷くのを確認してから、続きを口から紡ぎ出す。
「魔術師といっても、一般の魔術師と比べるのがおこがましいほどで聖杯戦争すら知らなかった。サーヴァントを呼び出したのも一番最後で、呼び出したサーヴァントはセイバーだった」
リアは信じられないといった様子だが、とりあえず話を聞いてくれている。まさか、いきなりこんな話を聞かされるとは思ってもなかっただろう。
「セイバーは他に呼び出されたサーヴァントの中では、たぶん最強だった。ただ、マスターである俺の所為で魔力供給が出来ないなんて不利な点がなければだけれど」
「サーヴァントがセイバーで、魔力供給が出来ない? それではまるで……」
リアの呟きを無視して先を進める。
「聖杯戦争について知らなかった俺に色々と教えてくれたのはアーチャーのマスター。その後すぐにいきなりバーサーカーに襲われ、余りに強いバーサーカーに俺たちは敵わず、倒すまでアーチャーのマスターと共同戦線を張ることになった」
「あなたは、巫戯けているのですか」
流石に話の流れからそのマスターが誰だかわかったのだろう、リアが怒りを浮かべながら俺を睨みつける。
いきなり『俺の正体は衛宮士郎』はまずいかと思って遠回りしたけど、こうなるらしい。からかわれていると思われてもしょうがない話だとは、俺も思う。でも、俺に出来るのは話すことだけ。
「頼む、最後まで聞いてくれ」
出来る限り瞳に意思を込めてリアを見つめる。
「――わかりました。何が目的かわかりませんが続きをどうぞ」
そういって、三文芝居を見るかのように見、俺に先を促させる。リアの様子を気にせず、俺は口を開く。
「最初に倒したのは、ライダーだった。結界を学校に張られたけどその時はなんとか撃退して、その後ビルの屋上でセイバーが宝具を使い撃破。その後、俺はバーサーカーのマスターに拉致され、セイバー、それにアーチャーたちが俺を助けてくれた。けれど、バーサーカーに襲われ、俺たちを逃がす為にアーチャーが犠牲に。それでも足止めの役割を持たされたアーチャーはバーサーカーを何度か“殺した”」
そう、考えてみればあいつがいなきゃ、俺たちはあそこでリタイアしていたんだよな。
目の前でリアが息を飲み、俺を見ている。顔を軽く顰め、何を言っているのか、と今にも言いたげな表情だ。
「俺とセイバーとアーチャーのマスター……遠坂が力を合わせたことで、なんとかバーサーカーを倒すことが出来た。次に来たのはキャスター、その時の話だとどうやらアサシンは既に現界していなかったらしい」
「……」
「キャスターの宝具は厄介なもので、その上俺がセイバーの代わりに受けて傷を負ったものだから圧倒的に不利。セイバーも俺を守るためにキャスターの要求を呑んでくれようとしていた。そして――――」
一息つく。かなり掻い摘んで話しているが、これでどこまで伝わってくれているのだろうか。
「そこに現れたのは……ギルガメッシュ」
「――ギルガメッシュ? 確か、古代ウルクの王の名だったかと思いますが、どのクラスのサーヴァントなのですか?」
あれ? あ、そうか。この時点ではまだあいつの正体はわかっていなかったのか。
「セイバーが言うには、前回の聖杯戦争に召喚されたサーヴァント。クラスはアーチャーだったらしい」
「なっ! そんな莫迦な!! 何故彼が、前回の聖杯戦争のサーヴァントが、未だ現界しているのですか!?」
まるで俺が悪いかのようにリアに詰め寄られる。全然全く、一寸たりとも俺はその問題に関係していないのにこうまで責められているのか。
……やっぱりここだけは説明をしておかなければならないのか。そもそも話を聞いてくれそうな状態にない。
「ああ、あいつが言うには、聖杯の中身をサーヴァントが浴びればマスターを必要としなくても世界に存在することができるらしい」
「そんな……」
「続きだけど……そう、キャスターはいきなり現れたギルガメッシュに串刺しにされて消滅した。そこはあいつが退いたんだけど、その数日後にギルガメッシュがセイバーを奪おうと俺たちの前に現れたんだ。セイバーがギルガメッシュに倒されて、俺が立ち塞がったんだけど、手も足も出なくて……俺も結局やられちゃったんだ」
「では……何故貴方はここに?」
リアはいつの間にか真剣に聞き入っていてくれたらしい。真剣な顔で俺に問いかける。
「ああ、ここからは自分でもよくわかってないんだけどさ。俺の体の中に『鞘』があるんだ」
「……『鞘』、ですか?」
「あ、うん。確かにあれは『鞘』だったように思う。漠然とだけど『これをセイバーに渡せば、セイバーは助かるかもしれない』って思って。でも魔力がなかったから、体を対価にしてなんとか作り上げたんだ」
「それをセイバーに渡して――――それで、次に気がついたときには俺がセイバーになってた。ギルガメッシュの虚をついて何とか倒したんだけど、魔力切れで俺も消滅したんだ」
「そうして気がついたらサーヴァントとして呼び出されていたと?」
「ああ」
リアはそれきり黙り込んでしまった。時折「いや、まさか」など呟く声が聞こえるが、俺はリアが考えを整理するまで待つことにした。いきなりこんなことを話されて、混乱しないほうがおかしいだろう。
数分後、リアが顔を上げたので、俺も返答できるように身構えた。
「話はわかりました。作り話だとしたら大したものでしょう」
「いや、作り話なんかじゃないんだけど」
「しかし、貴方の話には矛盾が多すぎる。私がライダーを倒す際に宝具を使ったとします。言いたくはありませんが、供給が絶たれている今、宝具を使えば魔力は確実に底をつくでしょう。それにその後バーサーカー相手に勝利している。アルトがいない上に魔力供給の絶たれた私では、例え凛とシロウの援護があれど勝つことは難しい」
アルトがいない……? ああ、そっか。アーチャーについても話しておかなければならないか。
「勘違いがあるようだから言っておくけど、俺が衛宮士郎だったころのアーチャーはアルトじゃなかったんだ」
「貴方ではなかった?」
「ああ。赤い外套を纏った白髪の男だった。……もしかしたら、俺は並行世界から召喚されたんじゃないかって思っているんだけど」
「平行世界……名を馳せていた
ふむ、と首肯しているところを見るに、一応は納得してくれているみたいだ。
ただ、話の粗を指摘しているだけという感じで、話を信じた上でどうだったのかと訊いている様子ではない。
まぁ、俺がいなければここの聖杯戦争もその通り進んでいたのかもしれないけど、もう俺が大分流れを変えちゃったみたいだし。もう流れを変化させた俺本人にもどうなるかさっぱりわかっていない。
「それで、魔力不足の件なんだけど……、あー……」
くそ、言い難いったらありゃしない。
「なんですか? はっきり言ったらどうですか」
はっきり……。
「……体液の交換で、パスを繋げた」
出来れば言いたくなかった。あー、絶対俺、顔赤くなってるな。
沈黙が二人の間に流れる。
「ま、まぁ、魔力が足らなければその必要もあるかもしれません。ですが、あのバーサーカーを倒すにはそれでも戦力が足らないのではないですか?」
何とか持ち直したリアはごほん、と咳払いを一つして俺に疑問を投げかける。よくみるとその頬はほんのり桜色に染まっている。
「っていってもこの三人でなんとか勝てたぞ。アーチャーが事前に何度か殺してくれていたっていうのがでかいけどさ」
「……三人、ですよね? 凛やシロウもバーサーカー相手に戦ったというのですか?」
言いたいことはわかる。確かに並みの魔術師ではバーサーカーに傷一つ負わせる前に叩き潰されてしまうだろう。
「遠坂は手持ちの宝石を全部使って不意打ちでバーサーカーにぶつけた。流石のバーサーカーにもその攻撃は届いたみたいだ」
「……確かに凛ほどの魔術師ならば、それも可能な域かもしれません。ですがシロウにはバーサーカーを打倒しうる要因を持ち合わせているようには思えないのですが」
「衛宮士郎が使える魔術は強化だけじゃない。俺も知らなかったけれど、もう一つ、強化よりも俺に向いている魔術があったんだ」
成功率でみると、雲泥の差。向いているっていっても決して過言ではないだろう。
「もう一つ、ですか?」
「ああ。投影魔術っていうんだけど今からやってみるからちょっと待っててくれ」
そういって立ち上がり、ある剣を頭に呼び起こす。
こればっかりはリアに信じてもらうために絶対必要なことだ。もしかしたなら魔力の消費で凛に後で問い詰められるかもしれないが、上手い言い訳でも考えるしかないだろう。
たぶんラインから供給されている魔力で事足りるだろうから問題はないとは思うけど……正直、連日の説教は勘弁してもらいたい。
「――――
己を変革させる自己暗示。意味こそ違えど、音は強化と同じ。目の前のリアもランプ強化の時に士郎の呪文を聞いていた。
彼女の前に急ごしらえの下手なものを出す気はない。慎重に手順を踏み、丁寧に細部までを仮構し、作り手の意思に習い、模倣する。ただひたすらに本物を夢想し、自分の中に写しだした。
……確かな手ごたえを感じ、一気に魔力を通す。
「――――
右手にずしりとした重さを感じ、目を開ける。その手にはいつか見た美しい剣が握られていた。
「これのお陰で何とか倒せた。逆に言えばこれがなければ、俺たちはみんなそこでバーサーカーにやられていたと思う」
そういってリアに向けて差し出す。リアは立ち上がり、おずおずと手を伸ばして両手でそれを受け取った。
窓から差し込む月明かりで照らされ、その剣が明らかになる。
「そんな! これは、失われた筈――――」
「……『
立ち上がったままカリバーンを両手で握り、その質を確かめるように剣を振るうリア。どうやらリアの記憶の中にある通りのものを投影できたらしく、まるで一つであるかのように手に馴染んでいる。
「……では、シロウもこれを作り出すことが出来ると?」
「士郎がこれを見たことがあるなら、おそらくできる。俺がこれを投影できたのは、夢でセイバーの過去を見たからだ」
思い当たることがあるのか、カリバーンを見つめて微動だにしないリア。
「でも、宝具の投影は流石に規格外だからか、なんていうか……そう、頭の回路が焼き切れるような感覚があるんだ。酷いときには麻痺が残ったりもしたし。士郎だって出来るとは思うけど、投影は避けさせたほうがいいと思う」
「俺はこの体になってからは大丈夫みたいだけどさ」、そう続けて話を終えた。リアは俺が話している間もじっとカリバーンを見つめていた。
「わかりました」
「えっ?」
リアはそう言って俺にカリバーンを大切そうに返してくれた。戸惑いながらも、なんとかそれを両手で受け取る。
「にわかには信じ難いことですが、一応納得しておきます」
「でも、いいのか?」
「正直なところ、話だけでは信じられるようなものではありません。ですが、この剣を目の前で作り出されては一笑に付すわけにもいかないでしょう」
まさかこんな穏便に済むとは思ってもいなかった。最悪、切りかかられるかもしれないと思っていた。
「それに……これでも一国の王。人を見る目くらい持ち合わせているつもりです。貴方が悪い人間ではないということくらい前からわかっています」
そう言って、リアは俺に微笑みかけてくれた。何だかリアがぼやけて見える。
話は半信半疑だが、俺という人物は信じてくれるらしい。どうしてこう、リアは嬉しくなるようなことを言ってくれるのか。
微笑んでいるリアの顔が、心配そうなそれに変わる。
「アルト? どうしたのですか?」
「え?」
「涙が……」
あれ? 勝手に涙が……。
「なん、で……」
拭えど拭えど、涙は後から溢れてくる。悲しくもないのに、なんで。
なんだか恥ずかしくなって俯いた。手のひらじゃ抑えられなくて、袖で拭ったけど、それでも涙は止まらない。
「ごめん。勝手に涙が」
「……一人で抱え込んで、辛かったのではないですか?」
「そんな、辛いなんてそんなこと……」
確かに最近は特に気負っていた。ここに召喚されてからばれないようにと気を張っていたのも確か。
一通り話し終わった後、肩の荷が軽くなったように感じたのも気のせいなんかじゃないだろう。でも、そこまで不安を感じていたつもりはなかった、なのに。
この体になってから情緒不安定になっているのかもしれない。以前なら、自分の中にずっとしまっておけた筈だった。
「……大丈夫ですか?」
リアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
情けないな。いつまでも泣いているわけにはいかないだろう。やらなければならないことは、まだまだ残ってる。
「ごめん、もう大丈夫。それと……ありがとう」
全て終わるまで、頑張らなきゃな。
最後に袖で顔を拭い、しっかりとリアに微笑んだ。