Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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8日目⑦

 

 

 

 痺れる両手。その手に握られたままの二刀の、刀身に刻まれた文字を眺める。

 

「…………」

 

 文字が掠れ、かすむ。アサシンの秘剣を受けて、端から崩れ落ちていくのをただ見つめている。

 ここに形を成した幻想は、たった一合でその存在を保持できずに消えていく。

 

 ――――まだ、甘い。宝具と呼ばれるものが、一合で砕ける筈がないだろう。

 果たしてそれは本当に俺の思考だったのだろうか。この剣、如いてはその持ち主だったあいつに言われたような気さえする。

 

 この剣――干将・莫耶を投影するときに読み取った理論。

 創り手の意思に共感し、構造を網羅したところでもう一つの意思に気がついた。剣をこの世に生み出した創り手とは別の、この剣を読み取り模倣したあの男の剣製理論。

 これに至るまでに繰り返した数千、数万を越える試行錯誤。その末に得た模倣の技術。魔術師がこの剣を解析しただけは決して分からない……衛宮士郎にしか読み取れない『投影魔術の経験』。

 

 頭がショートする。あまりの情報量に処理が追いつかない。

 いったいこの双剣は幾たびの戦場を共にし、乗り越えてきたのか。万華鏡を覗き込んだ時のように、持ち主の様々な戦闘が浮かんでは消えていく。

 

 

 いずれも退かなかった。

     ――――否。退く事など考えなかった。ただ伸ばされた手を握り返そうとしただけ。

 ただの一度も、敗北する事は無い。

     ――――そしてただ一度の勝利も無い。ただの、一度も。

 その場その場での最善を尽くし、小を切り捨て大を救う。

     ――――違う。全てを救いたくとも切り捨てる他、なかった。

 血潮は鉄で、心は硝子――――体は剣で……

     ――――自分をガチガチに固めないと、俺は……

 

 世界に害を為す大本を潰す為に、目の前で助けを求める者を素通りしなければならない。

 表舞台に出てきたときには、助けを求めていた者たちが既に物言わなくなった後だったこともあった。

 助かりたいと手を伸ばした人に、届かないこの手。助けようと伸ばした手に、動かない骸――――――――

 石のように固まっていく俺の心。次第に助かる者、助けられない者を機械的に分け、無感動に救うだけの存在に成り下がる。

 俺は■■の味■になれなかった。俺は、間違っていた――――?

 

「くっ!!」

 

 流れ込む思考を振り払う。

 こんなのは、俺には必要ない! 俺は俺の持つ全てで、救える全てを救ってやる!

 そんな弱音、聞きたくなんて無いし、俺には関係ない! 泣き言にまで、同調して堪るものか!

 

 

 けれど、認めざるを得ない情報も流れてくる。

 ――――投影精度の桁が俺とは違う。

 

  創造理念

  基本骨子

  構成材質

  製作技術

  憑依経験

  蓄積年月

 

 どれをとってもあいつに並ぶ再現は、俺には出来ていない。

 

 

 俺の進む先、そのまた遥か先に続く道筋。あいつの通った道が、まるで手本のように開いている。

 この道を進めば、あいつに追いつけるかもしれない。そう、俺に見向きもせずに前を向いているあいつに辿り着く、近道になるだろう。

 

「――――投影、開始(トレースオン)

 

 再びこの両手に現れる双剣。確かな質感。先のものよりも存在は確か。

 しかし、鑑定が、想定が、複製が、模倣が、共感が、再現が――――あいつには及んでいない。

 

 

 両腕を下ろし剣を握る。魔力を両眼に通し強化、相手の小さな機微をも見逃さない。元々優れた視力を持つセイバーが使わない、魔術師の俺としての戦闘準備。

 思考をひたすらに回す。剣技で劣る自分が、優れるアサシンを打倒するにはどうすればいいのか。少ない可能性の中から結果を見出し、実行する為の過程を脳内に展開していく。

 

 目の前には刀を握りなおすアサシン。柳洞寺からは光とともに爆発音が聞こえてくる。キャスターの魔術だろうが、気にする余裕は俺にはない。

 

「暗器使いか? いや……しかし微かに読み取れる気配は確かに剣士のもの」

 

 アサシンは防がれたことを気にした様子はない。むしろ突然現れた剣に多少の驚きがあったようだ。彼に魔術の知識があれば、魔力の感知から魔術によるものだとすぐに考え至っただろう。

 だが、アサシンは生粋の剣士。魔術に疎くても仕方が無い事だろう。いや、あるいはオーソドックスな魔術ならば知っているのかもしれない。けれど剣を作り出すなんて特異な魔術など知る筈もない。

 

「まぁ、いい。いまだ貴殿と士合える、其れで充分。さて、次はどのような手を見せてくれるのか」

 

 勝てないのなら勝てる状況を己が用意しろ。勝ちを得る。そのためには策を弄せ。

 剣で敵わないのなら、自分の持つあらゆる手段を使って目の前の敵を打倒しろ――――!

 

 アサシンの言葉を聞きながら、俺の中では思考の変革が行われていく。

 エクスカリバーを振るい、セイバーの体捌きを駆使してアサシンと戦っていた時。正々堂々、剣士として恥ずことの無い戦いをしようと、そんな志がついて回っていた。――――俺自身が剣士だというわけでもないのにだ。

 アサシンに斬られ、死に掛けたのがきっかけになったのか、それともこの双剣を手にしてからか。それを境に塗り替えられていく。

 

 ……元々、衛宮士郎(おれ)は形振り構っていられるような立場ではない。そして、今となってもそれが変わらないことを、忘れていた。

 セイバーやアサシンに剣で劣り、動きで劣る。ライダーやバーサーカーには力で劣り、ランサーには速度で劣る。防ぐ事ができるといっても、キャスターの魔術と俺の魔術では比べ物にもならないだろう。

 

 セイバーの身体を借り受けている事で、知らないうちにアドヴァンテージを得ていた気になっていた。これだけの身体能力を持っていれば、なんとかなるかもしれないと自惚れていた。

 身体の性能を引き出してきているといっても、それでも俺がセイバーになったわけじゃない。

 俺は、俺。身体はセイバーでも、それでも中身は魔術使いである、衛宮士郎でしかないのだ。それを、目の前のアサシンは教えてくれた。

 

 

 一跳びで十数段上るアサシン。それを追撃するように駆け上がる。

 

 鋭さを増して迫る銀の線。

 そして回して受け流すようにかえしていく、干将・莫耶。

 交差する白と黒と銀。

 甲高い音を生み出しながら、火花を散らす鉄と鉄。

 

 ――――この状況では永遠に勝ちは見えてこない。

 ――――だが、それに焦り、アサシンと同じ高さで戦ってはいけない。

 

 頭のどこかが冷静に判断を下す。

 そしてそれに従い、剣を振るう。

 

 初めて振るう筈の剣。だが、それはこの手にあつらえた様に馴染み、体の一部かのような動きを見せてくれる。

 一定の間隔を空けたまま、攻め入ることもせず、アサシンの一刀一刀を丁寧に捌いていく。

 身体能力、魔力放出をフルに使うセイバーの剣術とは違う。

 力強さなどはない。けれども、最低限の力で受け、かわし、流せる。受けるという点に特化した戦い方を心がければ、これほど適した得物はそうないだろう。

 バーサーカーやセイバーのような強大な威力を誇る相手には、受けるという選択肢を作り出すことがまず不可能なのだが。

 

 いくら体の一部のように扱えようと、受けに適した戦い方だとしても、あくまで初めて。細かい動作に齟齬が出てくる。

 打ち落とされる干将。弾き飛ばされる莫耶。拾う隙を作れば、その瞬間に勝敗は決してしまう。即座に投影。当たり前のように両手に現れる干将・莫耶。

 

 鋭い一撃を受け、綻ぶ二刀――――崩壊する。

 まだ甘い。一節――鑑定からしっかりと踏みなおせ。

 

 投影、投影、投影、投影投影投影――――――。

 繰り返す度に上がる水準。比例するようにキレを増す体捌き。

 

 完成度が上がれば上がるほど、動き、技術は洗練されていく。それは、経験の再現レベルが上昇しているお陰だろう。投影した経験を読み取り、一つ一つ自分のものに変えていく。

 

 

 相変わらずの冴えを見せるアサシンの刀。

 弾き飛ばしたはずの二刀が何度も両手に現れたのを見、アサシンは僅かに戸惑う。けれどもその動きには淀みは生まれない。俺をそういった能力を持つ相手と認識したらしい。

 燕返しを何とか受けきってから、その攻撃は針の穴を通すような正確さで振るわれ、だというのに剣速も上がっている。

 

 それを、俺はなんとか受けきっていた。それどころか、エクスカリバーを使っているときよりも余裕が生まれている。

 この二刀は威力や重さを重視したものというよりは、回転する体捌きからの手数を武器に戦うもののようで、西洋剣一本で渡り合うよりも相性が良い。弾いた刀が軌道を変えて迫っても、なんとかもう一方で対応できる。

 それでも、防戦一方な状況に変わりは無い。技量で負けているだけに受けるだけならこなせるものの、攻めに転じる隙すら見つけられない。

 

 剣で勝てるとも、勝とうとも思ってはいないが。

 

 そしてさらに数合。確かめるように剣を振るいながら、勝利に向かう為の一言を紡ぎ出す。

 

「――――投影、開始(トレースオン)

 

 がちん、と撃鉄を押し込む。途端に体が違うものに作り変わる。

 

 干将・莫耶を頭に浮かべ、一から読み直す。わかってはいたが、これは斬りかかる他に使い道がある。

 既に脳裏には設計図が出来上がっている。後は魔力を通せばそれが引き金になり、この両手に現れてくれるだろう。

 

 そして、続くように頭の中に次の剣を書き起こしていく。

 見たのは前回の聖杯戦争。長身のサーヴァントが持っていた武器。宝具ではないので、骨組み、材質の理解、把握は難しくない。分類すれば剣なのだろうが、その容貌は日本でいう鎖鎌。……完了。

 

 次。これは一度複製したものだ。己のうちに埋没し、一から読み取り理解しなおさずとも呼び起こすだけで済む。

 それでも、普段投影する『剣』ではないためにどうしても時間が掛かる。以前投影した感覚に、今回得た投影技術を適用させ、模倣をより真に近づけていく。………………………………完了。

 

「――――投影、装填(トリガーオフ)

 

 待機させたのは三枚の設計図。ギシギシギシ、と脳が拒否反応を起こす。以前なかったのは、精度が甘かったお陰だったのだろう。オリジナルに近づければ近づけるほど、その情報量が過負荷となる。おまけに今回は一気に三つ。こんな連続で投影を試みるのは初めてだ。

 ……だが、その負荷も衛宮士郎の頃に比べれば軽い。この身が世界と契約した身だからかはわからないが、こんな無茶をしても掛かる負担は大きくない。

 

 

 攻めるチャンスは一度。それを逃せば、巻き返す機会さえなくそのまま敗北となるだろう。外したなら確実に隙が出来る。目の前の男はその隙を見逃すような甘い剣士ではない。

 無理にこちらから距離を詰めようとしない。そして、アサシンも攻めてこない。それはこちらにとって好都合。後ろに退き、アサシンの射程から逃れた俺は、手に持つ干将・莫耶を構える。

 

 俺の攻め気を感じ取ったのか、僅かに刀を上げるアサシン。それに構わず、俺は干将・莫耶をアサシンに向かって一直線に投擲する。

 

「よもや得物を投げるとは――――!」

 

 縦に回転しながら風を切る重い音を聞いて、アサシンは刀で受けずに身のこなしだけでかわす。

 距離が無い為、横の回転をかけて投げることができなかったが、足止めにはなっただろう。

 

 投擲を終えた後、俺はすでに投影に取り掛かっていた。魔力を流し、形に変えていくが――――やはり、剣に比べてどうしても時間が掛かる。

 だが、それも僅かな差。アサシンの隙を使いきるほどではない。既に設計図は時間をかけて組み立ててある。それが幸いした。

 

「――――ああぁぁぁぁっ!!」

 

 掛け声と共に赤い軌跡がアサシンへと走る。並大抵の動体視力では目視できない速度の乱打、乱打、乱打。

 俺の手には、槍が握られている。青い男――ランサーの所有する、血のように赤い魔槍。

 

 持ち主の培ってきた経験に従い、弾幕のような突きの連打を繰り出す。

 初発にして、最速。セイバーの体でも追いきれないランサーの速度。魔力をブースターに、数秒間だけ無理矢理近づける。

 

「これは……ランサーの槍、か!?」

 

 迫る槍を受け流しながら、驚愕するアサシン。どうやら、ランサーはここの偵察を終えていたようだ。アサシン自身も彼と戦ったことがあったのだろう。

 本来の持ち主であるランサーに及びもつかない、槍術と呼べもしない曲芸だろう。だが、いきなり変わった俺の戦法には流石のアサシンもすぐには順応できない。

 

 そして同時に、手に持ち、振るってみて気づく。この完成度では真名の開放など出来る筈もないことに。

 万が一出来ても、因果に関与できるのは微々たるもの。心臓を捉えられるのは、相当に運の悪いやつくらいのものだろう。

 

 けれども、ゲイ・ボルクの真名を使って倒そうと考えているわけではないのだからこれで充分。

 欲しかったのは、あの長刀に匹敵するリーチと、アサシンの斬撃で斬りおとされない程度の強度。これ以上の長さを誇りながら、アサシンの攻撃を耐えられる武器は、俺の中には他に存在しなかった。

 

 そして、あくまでこれは相手との距離を広げる為の布石でしかない。

 いきなりのリーチの変化に、アサシンが下がる。止まる事の無い槍の弾幕を受けても、その体に傷は無い。

 しかし、これで俺の思惑通り。アサシンとは距離を開けることが出来た。無茶な戦い方をしたから普段よりも多くの魔力を消費してしまったが、凛とのラインのお陰で常時供給されている。

 よし……問題は無い。

 

 

 槍を手放した俺は、既に次の投影を終えている。

 手には再び干将・莫耶。視える軌道に乗せて、交差するようにアサシンに向かって投擲。それを見届けることなく、次の投影を開始する。

 

 横に回転しながら迫る干将・莫耶を、何とか避けるアサシン。突然の槍の弾幕、間髪入れずに二刀を投げたというのに、それすら凌ぐ。

 刀でも受けられるだろうが、アサシンの得物は宝具でもなんでもない。わざわざ避けたのは、一般的な刀と比べて余りに長いその刀身が、その特性から大きな加圧には耐えられないからだろう。

 流石のアサシンも、ふたつの一斉の攻撃を、衝撃を殺しながら弾く事は容易ではない筈。そして、アサシンがかわすことも俺の予想の範囲内。

 

「――――投影、完了(トレースオフ)

「これは!?」

 

 避けた一瞬の隙をつき、逃げる先に待ち構えるように動いていた鎖が、アサシンに絡みつく。

 その鎖の先には、ライダーの持っていた釘剣を握る俺の手。まるで蛇が絡みついていくような軌道で鎖を操ってアサシンを拘束した俺は、両側の釘剣を石段に突き立てる。

 

 これで全ての投影を終えた。残るは、全力で攻めるのみ!!

 

「はああああぁぁぁぁぁっ!」

 

 手にはエクスカリバー。これが、セイバーの体を借り受けている俺が持ちうる、最大最強の攻撃。

 脚に流した魔力を爆発させながら、瞬く間にアサシンに肉薄する――――!

 

「しかし、まだ『詰め』が甘い――――!!」

 

 鎖に下半身の自由を奪われながらも、上半身のみで刀を返すアサシン。

 

 鉄が悲鳴を上げた。一際大きい火花が、剣と刀から生み出された。最大の魔力を込めたエクスカリバーの一撃を、刀身を歪めながらもアサシンは受けきった。

 こんな不自由な体制から刀を繰り出し、全力のエクスカリバーを受けきるアサシンの剣技はどれほどの高みにあるというのか。こうして目の前にしていても信じられない。

 ――――だけど。

 

「いいや、これで『詰み』だ!」

 

 アサシンの刀をたわませ、全力でアサシンと刀身を押し合わせながら、俺は口を開いた。

 

「なにを――っ!?」

 

 そして、背後の気配を感じ取ったアサシンは、その顔を強張らせる。

 微かに聞こえているだろう、風を切る音。アサシンの背後から弧を描くように戻ってくる白と黒のふたつの刃。

 

 鎖で下半身を縛られて身動きが取れないアサシンは、背後に迫る双剣を弾こうと思ったなら、鍔迫り合いをしている俺に背中を見せることになる。

 かといってこのままに俺と押し合っていれば、凶悪な風きり音を立てて背後から迫るそれを、無防備なまま受けてしまう。

 

 ――――アサシンに逃げ道はなかった。

 

 鈍い音の後、アサシンが血を吐く。

 結局、俺と向き合ったまま鍔迫り合いしていたアサシン。肩と脇に入った二刀は肉をえぐり、骨を断ち、体を分断させる手前でようやく止まった。

 

 

「負け、か……」

 

 血を吐きながら、ぽつりと呟くアサシン。致命傷をふたつも受けているというのに、倒れずに天を仰ぐ。負けたと呟きながらも、その顔は何故か晴れ晴れとしたものだった。

 

「……アサシン。俺は、セイバーのような騎士じゃない。こんなだまし討ちのような手段でしか、勝てなかった。――すまない」

「何を、謝る事がある?」

 

 あくまで剣士として戦ったアサシンに、真正面から応えられなかった俺は、しっかりと顔を向けられない。そんな俺を、アサシンは心底不思議そうな顔で見る

 

「其方は、其方の戦いをしただけであろう」

 

 言葉に詰まる。確かに、これは俺にしか出来ない戦い方だったろう。でも、それだって全て借り物だった。

 セイバーの剣、アーチャーの双剣、ランサーの槍、ライダーの釘剣。どれ一つ、俺のものじゃない。

 

 他の人の武器を借り、戦い方を借り、得た勝利。贋作者――――全てがメッキ。偽物だ。

 

 

 

 ごふっ、と血を吐き出した音で思考から浮上し、アサシンに顔を向ける。

 

「最期だ、名を訊かせてもらえないか?」

「……サーヴァントクラス、アーチャー」

 

 クラスは、聖杯より与えられている。けれど、名を名乗れと言われても、俺は誰なのだろうか。何と答えれば、俺を表してくれるのだろうか。

 

「名は…………真名は、アルト」

 

 名前もアーチャーだと答えようとして、直前で踏みとどまった。迷って、結局俺はこう答えていた。

 アルトという名前は、結局はセイバーの名前の一部でしかなく、聖杯戦争に参加してからの対外的に作った仮初のもの。

 だけど、衛宮士郎ではなくセイバーでもない俺が何者かと問われたなら、やっぱり俺はアルトとしか答えられない。

 

「そうか」

 

 数秒の沈黙の後、アサシンは呟いて俺の顔を真正面から見つめる。

 

「アーチャー、もう行くがいい。キャスター……あれは、一筋縄ではいかぬ相手よ」

「ああ、わかった」

 

 ひとつ頷き、駆け出す。一人立ち尽くすアサシンを残して柳洞寺に走り出した。

 

「アーチャーよ。いい、士合であった」

 

 すれ違いざま、アサシンは小さく呟く。その声色から、彼が微笑んでいるのがわかった。

 俺は、立ち止まることなく先を進む。

 

 

 

「何のことない野花かと思えば、よもや棘つきであったとは。ふ――――摘み取ることは侭ならぬか」

 

 アサシンの最後の言葉は門の閉まる音によって掻き消えて、俺の元には届かなかった。

 

 

 

 

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