Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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9日目⑥

 

 目の前でふるふると震える凛と、口をパクパク開閉させているリア。

 士郎の上に跨ったまま上体を起こして、それでも様子の戻らない二人を眺めてみる。

 

 さて、ところで困ったことがある。というのも、二人が取り乱している理由がさっぱりわからない。

 ……そういえばさっき俺が士郎に抱きついているってリアが言ってたけど、それの何がまずいのだろうか?

 リアは俺の正体を知っているんだから、俺が自分に抱きついているって知ってるのに。俺が凛やリア相手に抱きつくのだったら大問題だろうけど、相手は自分じゃないか。何にも問題はないよな。

 

「二人ともどうしたのですか?」

「……え? どうしたって、その、わかるでしょう?」

 

 その言葉に反応した凛は視線をあっちこっちにやりながら、まだ顔を赤くして俺に問いかける。もごもごと喋っているので、声が聞き取りづらい。ちなみにリアも俺の言葉に対して何だか変な顔をしている。

 

「ええと、何をでしょうか?」

「あ、あのねぇ……。いい? 貴女は女、士郎は男。そのあなたが士郎の体を、その。ま、まさぐってたら何があったかと思うのも当然でしょうがっ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら、叫ぶ凛。その後、自分が言ったことに軽く自己嫌悪したのか、頭を抱えて座り込んでしまった。

 まさぐったって……なんでさ。凛にも筋肉のつき具合をみてたってしっかり伝えたのに、何でそんな卑猥な表現が出てくるんだ?

 今回抱きついたのは俺で、抱きつかれたのは士郎。まぁ、そこまではわかる。見様によってはそう見えると思う。でも寝ている士郎に抱きついただけだから士郎の居心地が悪くなったりしないし、俺の肌を晒した訳じゃないから慌てる必要もない。

 そも、セイバーが言うにはサーヴァントには性別はあってないものということらしいし。俺にはそうは思えないけど、セイバーが言ってたことだしそれが正しいんだと思う。

 

 つまり、俺が抱きついたら士郎の精神的に穏やかじゃいられないと思う。でも士郎は寝ているから大丈夫。

 士郎の体に付いた筋肉を見ているって言ってあるし、その前にサーヴァントだから男女がどうとかも関係ない。

 ……うん。考えてみたけど二人が慌てふためくような問題はなさそうだよな。

 

「何もありませんし、大丈夫ですよ。それに男女がどうのとのことですが、事、私と士郎でしたら何も問題はありません」

「はぁ!? 何でよ!?」

「アルト、それは違う! あなたと私、リンならばともかく、あなたとシロウだけは危険です!」

 

 目を見開いて声をあげる凛。そして俺の言葉に反応したリアが俺に詰め寄ってくる。

 な、なんでこんなことに二人とも必死になっているんだ? 特に、リアの発言の理由がわからないだけにその気迫に気圧されてしまう。大丈夫って伝えてるのに、何故すごい勢いでリアに否定されているんだろう。

 

「ち、ちょっと待って! 何でアルトの相手が私とリアだと問題ないの!? …………って、一般的には問題ないのかも。え、でもそれじゃ何でアルトと士郎だけ危険なのよ?」

「あ、いえ、深い意味は……。ですが、アルトとシロウだけは良くないのです……!」

 

 ……話が都合の悪い方向に向かっているような。

 凛には解らないだろうけど、リアも暗に俺と士郎が同一人物ってことを指摘している気がする。なんでそこで俺の正体をばらすようなことを言うのかはさっぱりわからないままだけど。

 

「そ、それより。凛は何故私を蹴倒したのですか?」

「……もしかしてアルトと士郎って、その……そういう仲だったわけ? 問題ないってことはそれぐらいしか。でも、そんな素振りなかったわよね……」

「凛?」

 

 話を逸らそうと……というより大筋に戻すべく問いかけるも、ぶつぶつ何か呟いている凛にはしっかり届いてなかったらしい。

 仕方ないのでもう一度問いかけてみると、ようやく気づいた凛はかしこまって俺を見る。

 

「……へ? あ、うん。以前、士郎に宝石呑ませた時、アルトが触れていたら症状が快復していったでしょ? 今回も同じことが起こらないかなー、とか思ったんだけど」

 

 そういえばそんなこともあったかな。――いや、そうだとしても蹴倒すのは間違ってないだろうか?

 はいそこ、「なるほど、流石はリン。抜かりはない」なんて簡単に感心しないよーに。

 

 気を取り直して腰の下で横たわっている士郎を見下ろす。

 けれど、昨日の帰りの時より若干落ち着いた感じはするものの熱病にかかったような顔色や呼吸は戻っていない。顔は赤いままだし、呼吸も弾んだままだ。この様子だと少なくとも午前中は起きてこれないと思う。

 

「駄目、みたいね」

「そのようですね」

「あの、せめて蹴る前に一言欲しかったんですが」

「むー、やっぱり直じゃないと効果が出ないのかしら……」

 

 直? というと、また前回みたいに士郎の服を捲り上げて胸を触ったりするのだろうか?

 俺の発言が綺麗に無視されたことはひとまず置いておいて、立ち上がって二人の側まで寄っていく。

 俺がいつまでもまたがったままだと士郎もいい加減重いだろうし、病人の上で話しているのも気が引ける。

 

「凛。でしたら直という方法で試してみるべきではありませんか?」

「そう? いいの?」

「それで士郎が快復するかもしれないのでしたら、試さない手はないかと」

 

 触るくらいで治るのなら、やるべきだろう。わざわざ俺に聞き返すほどのことではないと思うけど。

 

「本人の許可を得たわ! リア、アルトを押さえなさい」

「はい!」

 

 言われるや、後ろからリアに羽交い絞めされる。

 

「な、何ですか!?」

「ふふふ、蹴り倒した時は思っていたような反応じゃなくて取り乱しちゃったけど、今度こそは!」

 

 って、そんな理由で俺を蹴倒したのか!

 いつの間にリアは俺の後ろに回ったのか。何故押さえられる必要があるのか。それに他のマスターの命令を素直に聞くのはサーヴァントとしてどうなんでしょうか、リアさん。

 

 後ろに下がろうにもリアに抱きかかえられて、地面を蹴れず。女の子を殴る訳にもいかないから本気で抵抗する訳にもいかない。

 疑問が幾つも浮かんでは消えていく中、半ば呆れながら凛を見ると、含み笑いしながら士郎のTシャツを脱がしている。

 

 ……もしや。

 上半身を裸にされた士郎が布団の上に横たえられる。それを見ている俺は、浮かんでしまった考えで顔が青ざめてくる。

 

「はーい、次はアルトの番ですよー」

「ひっ」

 

 怪しく光る凛の瞳。伸ばされるほっそりとした指。その先には俺の着ているブラウスが。

 その先――迫ってくる凛のその奥には、裸で横たわる士郎がいる。

 

 あまりに昨夜の夢に、状況が近すぎる。

 

「うわぁ! リア、放してくれっ! 嫌だ! お願いだから放して!」

「その、リン。どうすれば……アルトがあまりにも……」

 

 癇癪を起こしたような必死な様子で暴れる俺を、抑えようとしているリアは凛に向かって困り顔を見せている。

 取り乱している俺を尋常ではないと察してくれたようだ。リアと凛相手に抵抗できるとは思っていなかったけれど、これは何とかなるかも――――

 

「放しちゃ駄ー目。うまくすれば、あなたのマスターの容態がよくなるかもしれないんだから」

「わかりました」

 

 ……まぁ、こうなるとはわかってたけどね! 確信に近い感じで。

 諦めに似た感情で体が満たされていく。もう抵抗する気も起きない。……いや、これって紛れもなく諦めか。

 

「さてさて、ご開帳~♪」

 

 リボンが取られ、ブラウスの前が開けられる。虚空を見つめながら、(凛ってこういう時、親父臭い)などとぼんやり考える。

 

「って、あんたブラは!?」

「……してませんけど」

 

 びっくりした様子の凛の問いに、無感動に答える。もはや一切の抵抗もしていない。

 

「してませんけどって……一応渡しておいたでしょーが。女の子としてそれで良い訳?」

「あ、私もしていません」

 

 直ぐ後ろからリアの声が聞こえてくる。む、言われてみれば背中に柔らかい感触が……。

 

「……そういえばあんた達って、そういう環境で育ったんだものね。言った私が馬鹿だったわ」

 

 動きづらいのは確かだけど、しなきゃならないほど邪魔には……。なんて雑念が混じってきたので振り払う。言ったら最後、リアにのされそうなので間違っても声には出しません。出せません。

 

「ま、そうね――――倫理的に危ない気がするけど、士郎も寝てることだし構わないか」

 

 是非とも、そこで踏みとどまってくれると嬉しかったんですが。

 

「リン、流石にそれはどうかと……」

「女性として踏み込んじゃいけない一線だと私は思います!」

 

 おずおずと上がるリアの声に、俺もすかさず同意の声を上げる。

 

「う……でも士郎が動けないことには今後の予定も立てられないじゃない」

 

 流石の凛も一瞬怯む。でもやっぱり止めるまでには至らず。俺としてもそれを出されたら断ることなんてできない。

 

「ほらほら、私だって好き好んでやってるわけじゃないんだから」

 

 あ、それは嘘だ。だって口元がちょっと吊りあがってぴくぴくしてるしさ。

 

「さぁ。さっきみたいに抱きつきなさい。今回に限り、場合によってはそれ以上も許すから」

「それ以上ってなにをさ」

「いいからいいから」

 

 小さく謝るリアによって士郎の前まで輸送される。

 いいんだ、リアは悪くない。悪いのは赤いアクマだからリアが謝る必要は……なくもないと思う。

 

 地面に下ろされ、軽くたたらを踏んでいると凛に後ろから、とん、と軽く押される。どうやったのか、羽織る形になっていたブラウスも一緒に剥ぎ取られる。

 

「へぶっ」

 

 倒れた衝撃で肺から空気が漏れる。ひゅ、と軽い空気の音と一緒に士郎の呼吸も一瞬止まった。

 

 さっきと同じ体勢。違うのはお互い上半身が裸なこと。肌の感触が生々しい。

 素肌の所為か、以前自分の体だったものをまるで別人のように感じてしまう。その上、触れている士郎の体が熱いから余計に拍車をかけている。

 ……士郎に覆いかぶさっているから見ることはできないけど、俺も裸だし。セイバーの体だし。士郎と俺の間に、具体的には胸部にワンクッションがあるというか。それが士郎の体に押し潰されている感触をリアルタイムで感じているのだから、わざわざ言うまでもないけど。

 

 いや、駄目だ。考えちゃ駄目だ。

 無心、思い出せ弓道の心。我を殺せ。己に克つのだ。

 ………………。無理でした。

 

「……」

「……」

 

 あんまりにも二人の反応がないので首を仰け反らせて上を見ると、真っ赤になった凛とリアが映る。

 その顔を見て、今どういう状況に置かれているかを認識してしまって俺の頭にも血が上ってくる。まるで顔面が心臓にでもなったみたいだ。

 

「こ、これは目の毒ね」

「そうですね! 肌が見えないようにすれば……」

 

 そういってリアが布団を被せてくる。士郎の顔と、俺の肩から上だけが出る形で収まった。

 

「ちょっとリア、これじゃ逆に……」

「……ええ。迂闊でした」

 

 なんだ!? これじゃ逆になんなんだ!? 何が迂闊なんだ!?

 

「し、しゅーりょー!」

 

 そう言うや、布団を剥ぎ取って俺を立たせて、ブラウスをせっせと着せてくれる。

 その間にリアが士郎にTシャツを着せていくのを、俺は凛の成すがままになりながらただ呆然と見ていた。

 

「予想以上に破壊力がでかかったわ……。男女間の性ってものをちょっとばかり侮っていたみたい」

「私も同じ姿の者が男性に抱きついていることが、こんなにも気恥ずかしいものだとは思っていませんでした……」

 

 顔を赤くしたままなんだかよくわからない反省の言葉を交し合うリアと凛を見、昨日今日の己の所業を思い出す。

 なんでこんなことになったんだろう。でも、負い目はあっても悪いことはしてないと思います。……くそう。

 

「凛、何故私はこんなことを」

「ほ、ほらっ! 士郎も…………えーと、幾分? よくなってるしね!」

 

 む、確かにちょっと好転しているかも。ほんの気持ち程度だけど。

 

「あー、あれかしらね? 今回と前回の違いから鑑みるに外的なものと内的なものによって回復の違いが生まれるかもね」

「ほう。というと? どういうことなのですかリン?」

 

 リアと凛は必死に話を逸らそうとしている。二人とも早口で議論を始めた。

 その割にはちらちら横目でこっちを見ているし。何だかそれが、何時怒られるのかびくびくしている子供みたいだ。

 

 ……ま、済んでしまったことだしな。多少なりとも士郎も良くなっていることだしさ。

 今回は納得しておこう

 

「続きをお願いします」

「ええ。つまりね、前回は宝石を呑ませるっていう外側からの力が働いていた訳。その時は直ぐに治ったでしょ。対して今回は、世界に真っ向から反発するような非効率な魔術を何度も使っていた訳。士郎の魔術回路がオーバーヒートしているのか、それとも別の要因で倒れたのかは判断がつかないけど、どっちにしても内面的なものが起因しているの。ちなみにその使った魔術っていうのは『グラデーション・エア』っていって、魔力を基に儀礼触媒を擬似的に作る魔術なんだけどね。もちろん擬似的だから存在は脆い。その上に、魔力で編まれた物だから直ぐ消える、使い勝手の悪い魔術よ。これを主に使う現存する魔術師なんて聞いたことないわ」

「しかし、リン。シロウは」

 

 俺の言葉に、目に見えてほっとした二人は話に没頭していく。

 

「ええ、確かに士郎の投影魔術は中身を伴っていたわ。リアでさえ吹き飛ばされた葛木先生の一撃を受けて持ちこたえていた。強化の成功率見てたから、この馬鹿どれだけミソなのかと思ってたけど、投影だけなら一級品よ。まさか士郎がグラデーション・エアの、しかも専門魔術師を越えるレベルの使い手とはね。……効率は悪いけど」

 

 やっぱり自分の魔術が宝石魔術なだけに気になるのか、さっきから効率って言葉を付け足している。

 ……今の段階でも「アイツの頭の中、どうなってるのか一辺調べてみたいわね」なんて顔をしているのに、それが半永久残るって知ったらどうなるやら。

 

 リアとアイコンタクトを交わす。リアも俺の魔術がどういうものか知っているからな。今後、どうあっても士郎が責められることがわかったのだろう。

 

「とりあえず、以前のように治らないってのはわかったし、居間に行きましょう。ここにいても士郎が良くなるわけじゃないしね」

「そうですね」

「わかりました」

 

 リアが若干呼吸の落ち着いた士郎に布団を掛け直して、すっと立ち上がる。

 それを確認した凛が部屋を出、最後に部屋を出た俺が襖をそっと閉めた。

 

 

 

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