Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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9日目⑦

 

◆◆◆

 

「いっ! つぅ……、あれ?」

 

 ずき、という痛みを前頭部に感じて、顔をしかめながらもなんとか上半身を起こす。

 かぶりを振って辺りを見渡すとそこは俺の部屋で、事態を把握しようと試みても昨日の帰りで記憶が止まってることに気づいた。

 

「……そっか。また倒れたのか、俺」

 

 意識が段々とはっきりしていく。そして、意識が覚醒するにしたがって自分の失態を思い出して、軽く落ち込んだ。

 どうにもこの頃、倒れて迷惑を掛ける事が多くなってしまっている気がする。前回倒れたのも、遠坂に宝石を呑まされた時――そう、ほんの三日前のことだ。

 

 布団から立ち上がろうとしたが、体が自然と横に傾いてよろけてしまった。結構睡眠をとった感じはあるのだけど、本調子ってわけじゃないみたいだ。

 しっかりと床に手をつけて動作一つ一つを確かめるように立ち上がる。気を取り直して時計を見ると、もうすぐ昼というところ。枕元には水を張った洗面器が置いてあり、寝返りした時にでも落ちてしまったのか枕の横には濡れたタオルが落ちている。

 

 誰が看病していてくれていたのだろう。……アルト、だろうか。

 リアは俺のことをずっと見守っていてくれそうだけど、濡れタオルを用意してくれるイメージはないし。

 遠坂は……どうだろ? 正直言ってやってくれそうでもあるし、やってくれなさそうでもある。

 慎二に至っては、悪いけど考えるまでもない。

 

 そんなどうでもいいようなことを考えながら着っぱなしだった服から着替えを終える。

 タオルを入れた洗面器を片手に、若干おぼつかない足取りで居間へと歩き出した。意識してしっかり踏みしめるように歩きながら、今後の予定を浮かべようと頭を働かす。

 

 ……いや、そういえば今後の予定どころか指針すら立ててなかった。

 当面の脅威であった学校に張られた結界の解除に、立て続けに対応しなければならなかったキャスターにと予定を立てるどころじゃなかったし。

 だからといってこれからは自由に予定を立てられるのかというと、他のマスターがどこにいるのかもわからないから選べる選択肢は少なそうである。

 なんにせよ皆と合流してから考えればいいことか。

 

 

「えーと、おはよう? ところで、これ何だ?」

 

 昼食を終えたばかりなのか、居間には遠坂にリア、アルトが揃っていた。まぁ、いつも通りの光景だ。

 ただ、不自然というか、一般家庭にあってはならないものが床やら机の上やらに転がっている。

 

「おはようって、もう昼よ」

 

 まじまじとそのうちのひとつを手にとって検分している遠坂が顔も上げずに返してくる。

 

「いや、でも起き上げでこんにちはっていうのもおかしいだろ?」

「確かにそうですね。その場合は何て言えばいいのでしょう?」

「おはようでいいと思いますが」

 

 同じく手にあるそれを眺めていたリアが真面目に考える横で、若干憔悴している風なアルトが力なく答える。

 

「で、話を元に戻すけど、これ、どうしたんだ?」

 

 そう。この空間に不調和を起こしている原因。一般家庭に転がってちゃいけない『刀剣類』に目をやりながら、リアとアルトに問いかける。

 

「リンが、アルトの能力を確認しておきたいと言いまして……」

「え? アルトの能力ってこの剣とかがか?」

 

 手に持ったままだった洗面器をとりあえず机の上に置き、リアと遠坂に倣って、床に打ち捨てられている内の一振りを拾い上げる。

 形状は……グラディウスの流れを汲んでいる相当古い型。時代的には中世初期ヨーロッパあたりだろう。両刃で材質は鉄。なので強度の問題から刀身は幅広である。傭兵や兵士が使っていたような一般的な物だ。大量生産を旨としているため装飾類は0に等しい。

 

 手にとって改めて思う。これと同じ物を一度、見たことがある。

 

「ん……?」

 

 その後期型グラディウスの構造を、半ば無意識に読み取っていた。だから気づいたけど……これは『俺が以前博物館で見たものに劣っている』。

 手に持つ其れは、もちろん博物館でみたような時間の経過による錆や劣化はない。そういった、現段階での武器としての性能や強度でいうなら間違いなくこの手にある物の方が優れている。

 表面的なものではなく、作りそのものというのか。そう、言うならばほんの少し、見逃すくらいの微量な空白がこの剣に巣食っている。

 

 ただ、使う分にはまったく問題はないし、物によっては同型の物より耐久力や切れ味は優れている。決してこれ自体が劣っているわけじゃない。

 俺が感じているのは、武器としての脆さじゃなく、存在としての脆さ。

 ただ、なんとか言葉にしようとしてもどうにも上手くいかない。そもそもぴったり当てはまる単語が見つからない。でも、この感じは確か昨日葛木先生と戦った時にも……。

 

「なるほどね……。生前縁があった剣を出現させることが出来るってこういうこと。その上、個数の制限も無し、と。ただ神秘性はほとんど感じられないし、魔術的な付加もないからサーヴァント相手じゃ決定打になりそうにないわね」

 

 聞こえてきた声に反応し、剣から意識を離して遠坂を見ると、寸分違わないショートソードが両手に一振りずつ握られている。

 ……いや、ショートソードじゃないな。本来なら両刃のそれが片刃だ。サクス、だろうか? これの起原もまたヨーロッパだった筈。このサクスの由来はサクソンから来てるって何かで読んだことある。

 そして、このサクスにも俺は見覚えがあった。子供の頃から刀剣類に興味を覚え、調べていたからたぶんどこかで見たことがあったのだろう。

 

「んー、聖杯戦争中でもなければ反則って言ってもいいくらいの能力なんだけど……。アルト、他にはないの? ええと、そうね……衛宮君が投影したっていう剣なんかも出せる?」

「あ、はい」

 

 遠坂の視線が俺を捉えている。何故かアルトは俺の顔を見て少し躊躇った後、リアをちらと見て目を瞑る。口が何かを紡いでいるように見えるが、彼女が声を出しているのかも分からない。

 

「シロウ」

「え? ……ああ、リアか」

 

 同じ声色で話しかけられたものだから、一瞬アルトに話しかけられたのかと思った。

 

「疑問に思っていたようなので、私から説明しましょう。シロウは倒れてしまったので知らないと思いますが、アルトには私にはない特殊能力があったようです」

「えーと、話の流れからすると、この剣とかのこと?」

「そうですね。どうやらアルトは生前所有していた武器を手元に持ってくることが出来るようです。アルト自身、昨日初めてこの能力を認識したようなので、リンが使えそうなものはないかと剣を出現させているところです」

「……なるほど。居間に剣があるのはそういうことか」

 

 改めて居間を見回す。

 

 ここにある剣のそのほとんどが、ヨーロッパで使われていたものだ。アルトが生前所有していたということは、彼女はヨーロッパ地方の英雄なのだろうか。

 いや、金髪だし肌も白いから予想はついていたけど、ただその正体の心当たりっていうのがな……。俺が知ってる英雄とも呼べそうな女性ってジャンヌ=ダルクぐらいしか知らないから、どうにもならない。

 あ、そういえば遠坂がアルトのこと『王』って言ってたっけ。女王ならいくらか該当する人物も浮かぶけど……駄目だ。まったく思い当たらない。余計わからなくなったぞ。

 

 そこまで考えて、改めてアルトを見る。手には、既に昨夜の二刀――干将と莫耶が握られていた。

 手元に出現させる瞬間を見てみたかったんだけど、見逃してしまったようだ。なんか気になるんだよな、ここにある剣。まぁ、現存している物じゃないんだろうし、違和感があって当たり前なんだろうけど。

 

「……へぇ、やっぱりこれは別格ね」

 

 干将・莫耶を受け取り、感嘆の声を漏らす遠坂。その言葉の通り、確かに干将・莫耶だけはこの中でも異彩を放っている。

 

「ええと、ちょっと待ってて」

 

 そう言って遠坂は干将・莫耶をアルトに返し、居間を出て行ってしまう。

 

 

 取り残された俺やリア、アルトは自然と顔を見合わせた。

 

「士郎はもう大丈夫なのですか?」「シロウはもう大丈夫なのですか?」

 

 す、ステレオで声が。それがまた同じ声色なものだから自分の耳がおかしくなったような感じだ。

 個別に聞けばリアとアルトを聞き分けられるんだけど、重なっちゃうと流石にどっちがどっちなのかわからない。

 

「ああ、俺はもう大丈夫。迷惑かけちゃったな、ごめん。そういや慎二の奴はどうしたんだ?」

 

 いつもなら机の隅を陣取っている慎二の姿が見えない。そろそろ昼だからまだ寝ているってこともないだろうし。

 

「シンジですか? 午前中に一度起きてきましたが、その後ふらりと居間を出て行きました。それからは見ていません」

「そっか。まぁ、キャスターも慎二の事を狙うのは止めてくれるって言ってたからそんなに心配はないけど……。どこに行くとか言ってなかったか?」

「私が知る限りでは慎二からは何も聞いてませんが」

 

 首を振るリアに、思い出すように顎に手を当てて答えるアルト。

 あいつ、今防衛手段がないから襲われたりしたらひとたまりもないのだろうけど、でも考えてみれば慎二には令呪ないんだよな。そう考えればうちにいるほうがよっぽど危険なのかもしれない。

 

「アルト、お待たせ」

 

 そんなことを考えているところで、遠坂が一冊の本を片手に帰ってきた。

 結構厚めのハードカバーで、表紙に金で書かれている文字は『Holy Grail』。えーと、……『聖杯』、か? 表紙にも銀色の杯が描かれている。

 横から覗いてみるが中身はどうやら英語で書かれたもののようで、教科書に載ってる程度の単語ならともかく、俺にはほとんどわからない。

 

 その本をぱらぱらと捲っていき、お目当てのページを見つけたのか、遠坂はそのページをアルトの方に向けて

 

「これとか、これなんかも出せたりしない? あ、盾とかアクセサリとかはどうなの?」

 

 カタログを広げるが如く、注文を始めたのだ。対するアルトは何だか困った顔をしているし、横からページを覗き込んだリアはアルトの耳元で何やら話しかけている。

 むう、今更だけど俺だけリアとアルトの正体を知らないってのは酷く蚊帳の外というか、物悲しいのだけど。というか、こういう話をされると入っていけないし、聞いていいのかも分からないから迂闊に近寄れない。

 

「どうやらアクセサリなどは手元に持ってくるのも不可能のようです。そもそもです、その剣は私のものではなく騎士達の物ではありませんか」

「ちょっと言ってみただけよ。アクセサリとかだったら私にも使えそうだけど……そう簡単にはいかないか」

「……リン、アルトも言っていましたが武器の出現にも魔力を使うのですから。昨日の戦闘でも消費したでしょう?」

「へ? 大丈夫よ? 宝具は使ってないみたいだから私もちょっとだるい程度で済んでいるし。……ううん、そうね。確かに。余ってるわけじゃないし、敵マスターもまだまだいるみたいだからこの辺りにした方がいいのかも。――――あ、アルト、この盾って貴女のでしょ? これは?」

「あ、ええと。それは……」

「リン、この辺りでは止めにするのではなかったのですか?」

 

 俺を置いて、本格的に話し込み始める三人。

 ……洗面器、片つけてくるか。

 

 

 

 

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