Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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10日目⑤

 

 

 浮かぶ、担い手の存在しない二十七の宝剣。

 そのいずれもが伝説に成り得る――後世において逸話を伴なう筈の神秘の結晶。

 ふたつとして同じ存在を許さない『原典』。其れらが綻びを持つ影として写し出され、所有者である王に相対する。

 

 頭の中が白熱する。それを気に留めずエクスカリバーを両手に構え、いまだ動かないギルガメッシュに向かって駆け出した。

 

「――全投影連続層写(ソードバレル フルオープン)

 

 その一言で背後の剣が目前へと狙いを定め投射される。

 放たれ始める剣を背に、身を躍らせて先陣を切り戦場を駆け抜ける。

 

 

 押し寄せる剣の矢。逃げ場など無い、圧倒的な物量による一斉投射。個を蹂躙するその進みは最古の王だけが持ち得る奇蹟であり、力である。

 ――――それが、あろうことか本来の持ち主の目の前で展開されている。

 

 あり得る筈のない、あってはならない光景に息を呑むのは周囲のみ。そも大量の武具を呼び出すということからして別格だというのに、その片鱗を見せていたとはいえ同等のものを展開させていることに凛は目を見開いている。

 だが、相対するギルガメッシュには動揺はなく、ただ凄まじいまでの怒気を周囲に溢れさせていた。目の前に浮かぶ其れがどんなものなのか、本来区別をつけるほどの差異を残さない其れらを『違う』と理解したのは『原典』(オリジナル)を蒐集し保有しているからこそ。

 ――彼の嫌う『紛い物』によって精巧に写された、『贋作』だということを。

 

「な、めるな、貴様ァ――!」

 

 ギルガメッシュが瞳に怒りを滲ませながら右手を振り払うと、背後から多数の剣が現れ、今俺がしたように放たれる。

 体を前傾にしながら、向かってくる其れらを視界に収める。

 年月、それに伝説という名の、大小こそあれ神秘を築いてきたルールブレイカーやゲイ・ボルクに比べたらこんなもの――経験が存在しない、それだけで再現が容易。

 

「――――投影、再装弾(トレース・リロード)

 

 火花が散る。剣が弾け飛ぶ。

 金属の――剣戟音が響く。無数に重なりあい、城を満たした音の嵐は、古の軍と軍による戦争を再現させる。

 ギルガメッシュの『原典』と、俺の『贋作』は互いの主を滅ぼさんと掃射されその全てが阻まれた。並々ならぬ力を持つ宝剣たちは拮抗し、真正面から衝突して双方とも重力に負けていく。

 

 だが、アイツも俺も『兵』に、――取り出す剣の数に限りはない。

 俺の背後に、俺を殺さんと放たれたばかりの宝剣たちが影となって現れる。

 そしてアイツの背後にも、新たな剣が際限なく生み出されている。

 

 背後の二陣が放たれる前に、俺はギルガメッシュを射程に捉えていた。

 ギルガメッシュまであと五メートル程。深く踏み込み、体を捻る。脚に、腕に、この体に熱が篭る。

 通る魔力、猛る力。全身の挙動が手に取るように理解る。力の充填。この体ならば、この距離など一足で――――。

 

 肩越しに見えるアイツの顔。余裕はない。だが、焦りもない。

 鋭く光る瞳は研ぎ澄まされ、怒りに任せた激情は今は見えず。ただ冷徹な色だけが残っている。

 

 ――弾けた。

 

 拳銃を発砲するように、溜め込んだエネルギーが爆発する。

 周りの景色が吹き飛んでいく。視界は切り取られた正面、ギルガメッシュのみ。

 

 エクスカリバーを右後方へと振り上げ、体ごと捻る。この並外れた身体能力をフルに使った、初撃にして必殺。

 推進力をも威力に換えた一撃を携え、肉薄する。そうして振り下ろし、そのまま振り抜いた。

 

 

 

 ただ広い空間に響く、鉄の悲鳴。

 手から、腕に伝わる衝撃。体の芯を震わすような心地よい手ごたえ。――吹き飛び、城の壁へとぶち当たるギルガメッシュ。

 

 アイツの手にはいつの間にか魔剣グラムが握られ、だがしかし打ち合うには至らずに受けるにとどまった。

 ――――いや、そうじゃない。しっかりと魔力供給を受けている俺の……セイバーの全力の一撃を、吹き飛んだとはいえ受け切っている。

 かなりの手ごたえを感じたにも関わらず倒しきれなかった。カリバーンの原典でもあり、龍殺しの名を持つグラムはやはりこの体の天敵のようだ。

 

「――――っ!?」

 

 追撃をかけようと出した脚に急制動をかけ、その場に立ち止まり思わず胸を押さえて蹲る。がらん、と両手のエクスカリバーが地面に落ちて音を立てる。

 

 体の中が激しく脈を打っている。心臓が暴走している。体がおか、しい。

 セイバーの持つ魔力――いや、全身魔力炉であるこの体が、活性化し始めて――?

 

 鼓動のリズムに合わせて、魔力が際限なく生成されていく。過剰な魔力を回路に送り全身に張り巡らせ、だがしかし莫大な魔力を持って初めて気付いた『衛宮士郎が行使する魔術回路』の脆弱さでは、その全てを収めることなど到底不可能だと理解する。そんな無茶、灯油のポリタンクに柳洞池の水を全て収めろというようなことだ。

 体中に痛みが走る。神経が熱を帯びる。無意識のうちにセーブしていてくれたリミッターが取り払われてしまったのか。

 収まり切れずに全身から魔力が漏れる。それを無理に圧縮、全身に留める。けれども、それをしても魔力は余りある。魔力の生成は止まらない。

 

「が――――!?」

 

 ゴキン、と何かが破綻した音。全身の神経をいじり回されたような激痛――――小さな穴に大きなモノを通そうとするその行為。

 唇を噛み締め耐える。が、目の焦点が合わない。意識が、飛びかける。

 

「ぎ――――が、あ゛ァ――――――――!」

 

 開く眠っていた路。拡張される既存の回路。五体が引き千切られていく錯覚。口の中に広がる鉄の味。白濁していく思考。

 

 

「……! …………!!」

 

 ――――、――――――――

 ――――――――。

 

 鉄が弾ける音。目の前に剣が突き刺さる。切れかけていた意識の糸が、その音、瞳に映る動体によって結び直される。

 その間も弾けて吹き飛ぶ、剣と剣。思考は止まり、意識は激痛によって手を離しかけたというのに体が勝手に動いていた。『放つ』という意識によって引き絞られていた俺の背後の剣は、飛んできた飛来物に向かって正確に射られていく。

 思考に送られなかった映像に、防衛本能は反射的に引き金を引いていた。

 

 

 次第に回復し始めた意識が現状を把握し始める。いつの間にか、俺は片膝をついていた。すぐ目の前には突き刺さった剣。ギルガメッシュのものだ。

 どれほどの時間が経っていたのか、ギルガメッシュはいつの間にか立ち上がっていてグラムを片手にこちらに突き進んでいる。

 表情は消えている。しかしその見開いた瞳は、俺を視線だけで殺すばかりに射ている。一歩一歩、決して急ぐ様子のないその歩みの間も、弾丸のように放たれ続けているギルガメッシュの『財宝』。

 なりふり構わなくなったのか、長剣を中心に編成されていたものが、短剣、斧、槍など種類を問わず殺傷力があるものを延々と生み出している。その数も先程の比ではない。先まではせいぜい背後に控えていたのは三十がいいところだったのが、今では百を超えるか否か、というところだ。

 

 

 立ち上がろうとして、体に力が入らないことに気づく。以前、遠坂に宝石を呑まされた時の高熱が出たような虚脱感。

 今回はそれに加え、全身には痛みが走り続けている。いや、意識が飛びそうになっている今その痛みに助けられているのも確か。

 

「――――投影、開始。連続投写」

 

 焦点がぶれて止まない両眼に力を篭め、ギルガメッシュの背後の剣を端から読み取る。

 その間にも飛来する十三の『財宝』。――――その場で投影した同一のもので打ち落とす。

 

 無駄なことを考える暇はない。ギルガメッシュの歩は止まらず、その『財宝』も止まらない。

 ならば俺に出来ることは、『財宝』を打ち落とすことだけ。云う事の聞かない体と違い、何故なのか魔術回路の廻りは異常なほどにいい。

 設計図に流す魔力の補填がスムーズにいく。例えるなら、今まで蛇口からコップに一々注いでいたのを、水桶にコップを突っ込んで汲み上げているような無駄のなさ。

 溢れていた魔力を投影という形で放出することで、微量ながら全身の回路の流れの淀みも抑えることが出来てきた。

 

「……それが貴様の全力か?」

 

 しかし、廻りがよくなった魔術回路による投影を以ってしても、アイツの足を止めることは出来ていない。

 既に目の鼻の先、その気になれば斬りかかれる距離にギルガメッシュは詰めている。

 震える両手。でも、緩くだけど、なんとか握れる、か――

 

 タイムラグが減ったとはいえ、同時に投影しても最大二十超、『財宝』を見た瞬間に投影しても相手の手数には追いつけない。

 ましてや、剣のみならば兎も角、槍や斧、鈍器が混ざっては処理が遅れてしまう。お互いに、魔力が続く限りほぼ無限に生み出すことが出来るとはいえ、一度に現界させる量に差がありすぎた。

 

「づぁぁーー!」

 

 ギルガメッシュがこちらに一歩を踏み出した瞬間、最も投影に慣れた双剣――干将・莫耶を撃ち出す。『財宝』への対抗に思考が敷き詰められている今、過分に投影できるのはこれしかない。

 

「悪足掻きが。見苦しいぞ、疾く散れ!」

 

 ギルガメッシュはちら、と飛来したものを見るや右手のグラムを袈裟に振り下ろす。その一振りで干将・莫耶は二刀とも彼方へ弾け飛んだ。

 ――くそ、たった一振りか。思考しながらも確かめるように両手を開き、握る。反応は鈍い、が動かないわけじゃない。

 

 間に合うかどうか、じゃない! 間に合わせろ!

 床に落ちたエクスカリバーを両手を使って拾い上げる。其れを支えに立ち上がった。

 

 立ち上がり剣を構えた時には、既にグラムは振りかぶられていた。

 ギルガメッシュがグラムを振るった場面ならば、以前に見たことがある。思考を展開する。その動きを記憶の中と合わせて、次の剣筋を推察する。

 ――干将・莫耶を払った状態からの、胴を狙った外への払い。これならば受けられる。しかし問題は衝撃。全身に力が入らない今、どこまで耐えられるか。

 ならば、いっそ――。

 

「ハァッ!」

 

 ギルガメッシュは短く吐き出したその声と共に、踏み込んでくる。

 咄嗟に右手を逆手に持ち替えてエクスカリバーを地面に突き立てる。姿勢を落としながら、左手の手甲を刀身に当てて衝撃に備えた。

 

「ぐ――!?」

 

 グラムは俺の動きに構わず振り抜かれた。狙いは読んだ通り。

 だが、来る場所が分かっていたにも関わらず、衝撃を殺し切れない。踏み止める足が機能していない。

 衝撃に、体が宙を舞う。このままなら壁へと飛ばされるが、体勢が崩れ切っていないから大事にはならない。

 が、そこで終わらなかった。身動きができない俺に、空からギルガメッシュの剣が殺到する。

 

「なっ!? ――――投、影(トレー、ス)……」

 

 目の前に迫る七の長剣。すぐさま七本の剣への同調を開始。

 読み取った。然程複雑な機構も無く、投影も可能。だが――同じ数の剣を用意したとしても、この近距離じゃ打ち落とし切れない。

 

 地面に突き刺さる岩塊を背後に、グラムを振り抜いた状態でギルガメッシュが口元を歪ませた。始めからこれが狙いだったのか――!

 ギルガメッシュの、物量で押し切るという一辺倒の戦法しか見たことがない俺は二段構えという可能性を完全に失念していた。予想外の戦法に、完全に反応が遅れてしまっている。

 

 けれど、まだだ! 同程度の神秘が間に合わないなら――質量で!

 手元のエクスカリバーを還し、イメージを固めるために両手を目前へと突き出した。

 

完了(オン)……!」

 

 目の前に現われたのは三つの岩塊。三角形を作るように、超重量の其れが重なり盾になる。

 

「なんだとォっ!」

 

 ――バーサーカーの斧剣。

 『財宝』は宝剣といえど、切れ味は担い手が振るわない限りは通常の剣と然程変わらない。ましてや、魔力不足とはいえセイバーの剣と打ち合うこの斧剣ならば、受け切れる筈だ。

 

 咄嗟の投影だった所為か、宝剣は斧剣の刀身に易々と突き刺さる。突き抜けた宝剣の刀身部分が目の前に迫るが、後数センチというところで止まった。

 穿たれた斧剣は重力に引かれ始め、その役目を終えて存在を希薄にしていく。三振りを陰にしてギルガメッシュを窺うと、右手にグラムは既になく、新たにあの『エア』と呼ばれた剣の柄が見え始めている。

 

 アレを使われたら、勝てない――――! 使わせてはならない!

 

「――――投影、開始(トレース・オン)!」

 

 斧剣が陰になってこちらから僅かな間しか見えなかったように、ギルガメッシュからもこちらの姿のほとんどは見えていない筈だ。

 設計図を脳裏に組み立てる。瞬時に想定の甘いところを修正。通りが良くなった回路を回転させて一気に投影を終える。いつもよりも魔力の消費が激しいのだろうが、半ば暴走状態にある今、魔力の喪失による虚脱感は感じない。

 

 

 ソレを両手で構えると同時に魔力の補填、大気中のマナを汲み上げ始める。

 

 斧剣が目の前から落ちていく。視界が開け、ギルガメッシュと睨み合う。

 軽い笑みを浮かべていたギルガメッシュだったが、俺の姿を視界に収めると今度こそ驚愕を露にした。

 すでに勝負を決める気でいたのだろう、エアの柄を今正に掴む瞬間に生まれた空白。

 

 体は相変わらず壁へと勢いを止めずに流れている。この体勢では、普通にやっては何を投擲しても当たらない。けれど、コイツならば――!

 

 

「……その心臓、貰い受ける――――!」

 

 右手に掲げたソレを、弓で狙うように引き絞る。視線はギルガメッシュの金色のプレートメイルに覆われた心臓に。

 投影で、精度がかなり落ちている。せめて、その狙いを違わないように、その軌跡を浮かべて狙いを定める。

 

 

「『突き穿つ(ゲイ)――――」

 

 

「何故、貴様が宝具の真名を――――!?」

 

 手にあるこの紅い槍には、伝説と共に培われてきた『経験』がある。

 そして、俺はその『経験』に『共感』し、一時的に持ち主の動きを模倣することが出来る。もちろん、投影で生み出した宝具では本人の技には、及ばない。

 

 

              「――――死棘の槍(ボルク)』ッ!!」

 

 

 この違いは、蒐集し、保有するだけのギルガメッシュにはなく、影を作り出す俺にのみあるもの。

 製作の意図を理解し、扱われてきた道筋を辿り、持ち主を己に写し出す。

 決して本来の持ち主と同一とはいかない。真名を開放出来たとしても、俺なんかじゃ呪い程度の効果しか出ないかもしれない。

 けれど、槍は、剣はそれに少なからず応えてくれる筈――――。

 

 

 渾身の力を篭めて、魔力を帯びた槍を放つ。

 纏った魔力は、ランサーの放ったものに比べたらなんとも頼りない。それでも、放たれた槍は一直線にギルガメッシュへと突き進む。

 

「ちぃっ――!」

 

 手に取りかけていたエアを戻し、大きく後方へ跳躍して浮かんでいる剣――カラドボルグの『原典』を手に取り直した。

 同時に周囲の『財宝』たちが、赤い光の軌跡を描いて進む『ゲイ・ボルク』に向かって疾駆する。

 

 数十もの宝剣が俺の放った『ゲイ・ボルク』に対抗し、そして弾かれていく。仮の担い手によるものとはいえ真名を開放した宝具の前には、宝剣といえども神秘、効果、威力ともに劣る。

 しかし、本来の担い手ではない俺が放つ『ゲイ・ボルク』は『心臓を穿つ』という特性が発揮されなかった。正しく発動していたなら『因果の逆転』により飛来する『財宝』を潜り抜け、勢いを弱めるなどということなく心臓を貫いていただろう。

 

 ――そう、『ゲイ・ボルク』の魔力は、度重なる宝剣との衝突でその魔力を削ぎ落とされていた。『因果の逆転』は起こらず、敵の心臓を捕捉し続けるだけの追跡弾に成り下がっている。

 最後に、ゲイ・ボルクの『原典』を弾き飛ばしてギルガメッシュへと届いた時には、籠められていた魔力の一切は霧散し切っていた。

 

「ふ……はははははははッ! 所詮は贋作か! これでは伝承となった彼の所有主も浮かばれぬだろうよ!」

 

 高笑いするギルガメッシュは、目の前に迫る『ゲイ・ボルク』をその右手に握るカラドボルグで苦も無く叩き落す。その衝撃で刃が欠け、罅割れたゲイ・ボルクは、跡形も無く消えていった。

 

「がっ!? ――けはっ、ごふ!」

 

 それを見届けた瞬間に、体全体に伝わる衝撃。視界が揺れる。

 背中から壁に衝突し、地面にずり落ちた。ゲイ・ボルクを投擲したことで、受身を取る余裕を使ってしまっていた。

 呼吸が一拍止まる。咳き込みながら幾分マシになった体を動かし、片膝を立てて前方を見上げた。

 

 正面。ギルガメッシュからは今までの笑みが消え、だが怒りによる激情の色もない。代わりに、ひたすらに冷徹な瞳で俺を射抜いている。

 それを受けながらも立ち上がる。ふらつく脚に鞭を打ち、睨みつけてくるギルガメッシュに対峙する。

 

「さぁ、次は何を見せてくれるのだ? 道化」

「く、そっ…………」

「これで見世物が終わりなら、早々に退場するがいい。――――目障りだ」

 

 

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