Fate/Imitation Saber   作:柚子餅

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10日目⑥

 

 

 あの聖剣、エクスカリバーであっても、単発ではエアには敵わない。

 剣の投射もアイツの財宝に数で負け、一か八かの『ゲイ・ボルク』もいくつかの『財宝』によって潰された。

 

 あの投影は無我夢中ではあったけれど、俺にしては悪くない出来だった。――――その結果として、セイバーは倒れ、俺の投影は一矢を報いることもなく完全に防がれてしまっている。

 サーヴァントの中でも出鱈目な宝具を持つあの男には、投影した宝具の開放こそが奥の手だった。それですらあの様。

 俺の中の冷静なところが囁いている。手詰まりだ。今の俺では、こいつに勝てない。対峙する前からその算段は元よりなく、僅かな可能性も今潰えてしまった。

 

 ――――だから、どうした。挫ける訳にはいけない。勝てないのなら、負けない。

 アイツにだけは絶対に負けられない。あんな情けない、不甲斐無い結果にはさせてやらない。

 

 力がなかったあの頃の俺とは違う。護られるばかりだった無力な俺じゃない。

 セイバーは一人でも立ち向かった。一人でも、みんなを護ったんだ。今度は俺の番。一人で、アイツを食い止める!

 

「負けない。これ以上、お前に負けてやれない。絶対に負けてなんて、やるものか――――!!」

 

 この両手に現れる双剣。俺の背後に現れる『財宝』の影。

 体を苛んでいた呪いは時間の経過と共に消えている。代わりに、俺の激情に呼応するように体に力が溢れ出している。

 

「また贋作か。余興はもういいと言ったろう――不愉快だ」

 

 ギルガメッシュは表情を欠いたまま、俺に向かってそう告げる。指を鳴らす音に、疾駆する財宝。鳴らした対の右手にはカラドボルグの原典が握られたまま。

 

 双眸は常に敵を中心に捉え、視界の中の刀剣を分析。

 投影開始――。それまで控えていた背後の剣が動き出す。視界全ての刀剣の投影を終えたとき、剣戟音が鳴り響き始める。

 

 

 埋め尽くされる頭の中。設計図は積み重なっていく。空白を作る余裕はない。常に情報を取り込み吟味する。

 白熱し、加速する思考。回路に充填され、氾濫しそうになる魔力を片っ端から使ってやって、流れに強制的な指向性を与えてやる。

 

 だが魔術回路をフルに廻しても、十あれば一、投影した剣では落としきれないモノが出てくる。

 今や一度にかち合う宝剣は十じゃきかず、打ち合う頻度も増え続けている。

 金属音は一向に途切れず、逸早く投影を終え、逸早く次の投影をしなければならず、何を以って始めの一とするのかも既にわからない。そこまでやっても、二つ三つは打ち漏らしが俺へと届く。

 

 其れらを、思考の余地無く両手の干将・莫耶で弾き返す。両腕を振るって受け流し、衝撃を殺す。力の流れを断ち切って、叩き落す。

 エクスカリバーではこうはいかない。比類なき一撃とその余波を以って大多数を吹き飛ばせるが、その方法では今以上に打ち漏らしが出てきてしまう。

 単身乗り込むのならそれでもいい。だが今は、みんなを助けるために俺はここにいる。『負けない』為の干将・莫耶を取った今、『勝つ』為のエクスカリバーは必要ない。

 

 ――――――――しかし

 

「……凛、士郎! セイバーとイリヤを連れて逃げろ!」

 

 ――ギルガメッシュの立ち振る舞いに、先のような余裕が見られない。油断が消えている。

 常時財宝を射出し続けているその数たるや、津波が迫ってきているかのよう。一度に顕現できる数で負けているとはいえ、それは数えるほどの差。しかし互いに休みなしで打ち出し続けている今、その差が埋めきれないものになりつつある。

 声に出す間にも俺を目指して一直線に飛来してくる様々な武器。大多数に同じ、または同程度の投影物を宛がい続ける。その思考が打ち漏らしを生み出し続ける。

 

 禍々しく歪んだ木製の矢。――鋭く、速い。干将を盾にして受け止める。

 煌びやかな銀の長剣。――まだ遠い。莫耶を投げ、打ち落とす。

 

 ギルガメッシュに向けて残った干将を投げ放つ。そうして間髪入れず上から二つの槍が降り注ぎ、干将は地面に打ち落とされた。

 続いて俺に向かってくる財宝。だが、両手にはもう次の双剣が握られている。

 

「ふっ、はぁ――! はっ、はぁっ!」

 

 途切れがちになる呼吸。体に熱が篭る。休み無く迫る攻撃に息が荒くなっていく。

 

 細く、装飾もない短槍。――右の干将を袈裟に下ろす。手応えも薄く吹き飛んでいった。

 見事な設えの方天戟。――左の莫耶で内から外に弾き上げる。手に鈍い感触を残しながらも回転しながら地面に落ちた。

 幅広の両手剣。――腕を振った勢いを殺さずに回避。背後に流れ弾を飛ばさぬよう、両手でもって打ち落とす。

 血のように赤い短剣。――く、駄目だ。体勢を立て直せない。間を置かずに左肩に衝撃。

 

「ぎ――!?」

 

 捌き切れなかった短剣が肩口に深々と突き刺さる。それでも視線はギルガメッシュから逸らせない。

 一拍遅れて、熱と、痛みが走り始めた。ギョル、と耳に障る音が俺の肩から――いや、短剣から聞こえて始めている。

 何かが抜けていく感覚。おかしい。傷ついたなら起こるべきこと、それが起こっていない。

 

「ふっ、う!」

 

 咄嗟に右手でその柄を掴み引き抜き、投げ捨てる。

 奪われたのは血と、魔力。……解析。傷口から相手の活力を奪い取る呪いの吸血剣。

 

「はぁっ……はっ、ぐ」

 

 僅かな時間だというのに、ごっそりと持っていかれた。大量の魔力を消費した時に感じる倦怠感が、全身を満たしている。

 次いで痛みに僅かに顔をしかめたが、直ぐに上から驚愕で塗りつぶされた。

 

「ッ?」

 

 鎧が、手甲が消えた? 急激に減った魔力に体が反応し、本能的に温存をさせるためだと気づいたのは目を見開いたその瞬間。

 

「――――がっ!?」

 

 だが、そのタイムラグが次への対応を遅らせた。

 ひとつ息を吐く間もなく、三叉槍――トライデントが無防備になった脇腹の横を抜けていく。三つに分かれた刃の内一つが、肉を抉っていった。

 血が傷口からどぼっ、と溢れ出てくる。反射的に、傷口を手で押さえそうになる。けど、それをやったら今度こそ終わってしまう。

 

 動かす度に疼き出す痛みを強制的に排除し、両手に双剣を握り直す。

 まだ癒えない左肩の傷。その先、左の手に握る莫耶で、目前に迫っていた戦斧を薙ぎ払った。

 痺れが残る左腕。衝撃もそうだが、失血し過ぎている。

 

 改めて向き直る。好機と思ったのか、ギルガメッシュは射出の間隔を更に狭めてきている。

 俺は、即座に視界内の財宝を投影する。鎧や手甲は置いておくとして、とりあえず投影するだけの魔力は戻ってきているようだ。

 

 既に、射出して撃ち落とせる距離ではない。

 迫るは十。同時ではないのが救いか。その十以降は、今投影したものが間に合うだろう。

 

 右足で地面を蹴って左方へ跳び、一気に向かってくる其れらを引き離す。

 地面に突き刺さったのは八。備わっていた特性によるものか、方向を修正して迫ってくる残り二つは、着地の前に両手の双剣で受け流して落とす。

 

「早くっ! その間、コイツの相手は俺がする!」

 

 体勢を崩し、地面を転がりながらもギルガメッシュから目を離さない。追撃の『財宝』を両手の干将・莫耶で弾き飛ばしながら声を荒げて叫ぶ。

 

 こうしてギルガメッシュが俺の宝具開放を警戒してくれているうちはまだいい。不利な状況とはいえ俺一人の力でも拮抗できている。

 けど、この状況が続けば続くほどに俺は追い込まれていく。そうしているうちに財宝だけで押さえ込めると確信したなら、アイツは間違いなくエアを使ってくる。

 そうなっては背後に被害が及ばないよう、こちらだってエクスカリバーを用いる他ない。しかし、先ほどの宝具戦を見る限りでは令呪でブーストをかけたとしても良くて相殺がいいところ。

 もしかしたなら二度のエアの使用によってギルガメッシュの魔力を枯渇させることが出来るかもしれない。しかしそれはあまりに博打的な要素が強すぎる。

 

 むしろ、それよりも今恐れていることは後ろの凛たちにその矛を向けてしまうことだ。

 手の足りないところで、財宝の狙いが背後にも向かい始めてしまえば完全に後手に回る。それならまだ俺一人のほうがやりやすい。

 それに、凛が応急処置してくれているだろうけど、セイバーの限界は近い筈だ。

 

 もう、俺に出来ることはこれくらいしか残っていない。

 

「な……! 何、言ってるんだよ! 逃げるならアルトも一緒に――――!」

 

 戸惑ったような声が聞こえた後、返ってきたのは士郎の声。

 

「……士郎、逃げなさい。アルトが抑えているうちに、早く!」

「おい、遠坂。お前、逃げなさいって……。アルトも、遠坂も逃げるなら一緒に!」

「衛宮君。これから言うことをよく聞いて。アルトがあの能力で打ち合ってなくちゃ、私たちなんかとっくの昔に穴だらけになってるのよ。わかるでしょ」

「それは――」

 

 口ごもる士郎の声。声はなんとか聞き取れるものの、口を挟む余裕は俺にはない。

 

「おまけにね……ラインの繋がっていない貴方には供給がどんなもんかわからないでしょうけど、私も結構キてるわけ。それだけの魔力消費してて、アルトから距離を取ったら供給量が下がるでしょう? そうなると、貴方も私も逃げ切れそうにはないの」

 

 そうか。それも当然か。もう数にして三百は優に投影している。

 衛宮士郎でも成し得た投影魔術といえど、これだけの投影を行えたのはセイバーの魔力あってのこと。この体の魔力炉も、衛宮士郎の魔術回路も魔力を生成しているがそれも使い潰し始めている様だ。

 『ゲイ・ボルク』の投影。左肩に突き刺さった魔剣の影響。それらを凛が上手く埋めてくれていたんだろう。鎧はまだだが、手甲を編めるほどの魔力は戻っている。

 

 ――俺も意識から意図的に外していたが、時折激しく頭が痛むことがある。きっと、投影の使いすぎによる負担がたまっている。

 対するアイツの放った財宝もいつの間にか回収され、再度の装填を始めているものもある。

 互いに想定外の事態だろう。ギルガメッシュも俺を計りかねているが、痺れを切らすのは遠くない。

 

「イリヤもとりあえず走れるくらいには回復しただろうし。リアは衛宮君が背負っていけば、なんとかなるでしょ」

「ちょっと、まってくれ! 何か――何か方法があるかもしれないじゃないか!」

 

 突き放すのは凛。食い下がるのは士郎。もちろん、凛に折れる様子はない。

 

「残念だけど、そんな時間はないわ。全員ここにいたら全滅。アルトを一人残しても全滅。私も残れば、三人助かる。こんな簡単な計算、子供でもわかるわよね?」

 

 ――――。剣を弾き飛ばし、その勢いと再び現れた手甲を使って影に隠れていた短剣を逸らす。

 

「――ま、私はあの娘のマスターだし、本当の名前もまだ聞かせて貰ってないしね。あ~あ、一日じゃ魔力が完全に戻りきらなかったのが痛いわ」

 

 ああ、約束したんだ。凛には、話しておかなくちゃ。そうだな――士郎やイリヤが退いた後なら、話してもいいかな。

 だからといって、凛を死なせたりは絶対にしない。エクスカリバーでも、カリバーンでもいい。せめて相打ちにもっていってやる。絶対に、マスターは護らなきゃいけない。

 

 いけ好かない奴だったけど、あのアーチャーだってサーヴァントの役目はしっかり果たしていったんだ。アイツがやって、俺がやらない道理はないさ。

 

「ま、そういうわけ。あんたたちとは、ここでお別れ、ね。せめて生き残りなさいよ、絶対」

「……手な」

「え……何よ?」

「二人して勝手なことばっか言うなっていってるんだ!! 俺が首を突っ込んだんだ。俺も、残るさ!」

 

 ――――? 一拍、頭の中が真っ白になる。何を言っているのか、耳が正しく機能していないのだろうか。

 

「な、何言ってんのよ! あんたこそ! あんたが残って、何が出来るっていうのよ!」

「やってやるさ! アルトが抑えきれない部分は、俺が止めてやる! ――投影、開始!」

 

 迫る財宝を迎撃しようと干将・莫耶を構え、無駄に終わる。財宝は後ろから飛来したものにぶち当たり、甲高い金属音を残して弾けた。

 背後に感じる魔力行使。断続的に、一つ、二つ――。後ろから財宝……いや、投影された宝剣が飛んでくる。

 続くように後ろから駆けてくる音。空気の動き。そいつが、俺の横に並んだ。目線もくれずに怒鳴り上げる。

 

「馬鹿! なんで退かない!」

「リアもアルトも、遠坂だって体を張ってるのに、俺が逃げるわけにはいかないだろ!」

 

 くそ、自分勝手な! このままじゃ全滅だっていうのに! お前が退けば、セイバーとイリヤは助かるっていうのに!

 

「ちっ! 貴様も贋作使いか。――雑種如きが逃げずに向かってくるとはな」

 

 舌打ちの後、ギルガメッシュが言葉を紡ぐ。今まで見えなかった表情が、垣間見えた。

 

「ふん。何やら逃げる算段をしていたようだが、その通りにしておけばよかったものを。まぁ、この我がみすみすと逃がすわけが無いがな」

 

 唇の端を吊り上げ、くい、と上げた左腕。それを合図に、唯一人が通れそうな玄関が突如封鎖される。

 

「な――、そんな!」

 

 それは、あのバーサーカーを縛り上げていた鎖。神性の強いモノに対して本来の効力を発揮するようだが、魔術師が破れるようなものでもない。

 視界の端には、膝をついて物言わぬバーサーカーがいる。当然、鎖は既に解かれていた。

 

「貴様らの命運は疾うに、偉大なる王の手の中にあったということだ。この我に逆らい、生きて帰れると思うな」

 

 再び消える表情。その眼光に射竦められる。

 ――――逃げ場は、もうない。

 

 

 

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