至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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■1.小勢力 いまいる人材 上司(うえ)と俺。

『至帝戦記グロリアスチャージ』は、要は名作シリーズ『信長の野望』のように領地経営を通して軍を養い、合戦と謀略で敵を打ち負かして大陸統一を目指す、中近世ファンタジーを舞台としたシミュレーションゲーム(SLG)である。他のSLGよりも長けていたのは、きわめて自由度が高いということであり、プレイヤーが思いつくことはだいたいコマンドとして用意されているという点で、コアなファンを生み出した。

 

 しかしながらPS2で待望のグロリアスチャージ2が発売されたあと、『信長の野望』や『太閤立志伝』、『大航海時代』、『大戦略』、『カルネージハート』、『POWER DoLLS』、『ギレンの野望』――こうした大作国産ゲームのように次々と続編が出る、ということはなかった。

 

 それはひとえにグロリアスチャージ2がクソゲー&バグゲーであり、しかも当時の開発会社が要らぬ言動を繰り返し、当時の行政を巻き込んでの返品騒動が起こってしまったからである。

 

 他方、当時の俺はといえば、ある程度クソゲーに対する耐性があったため、とりあえずダラダラと『至帝戦記グロリアスチャージ2』を遊び続け、ネット上に転がる数少ない攻略情報とフリーズや進行不能バグの回避条件をヒントにして、あらゆる陣営を遊び尽くした覚えがある。

 

 それから10年以上、あるいは20年が経っただろうか?

 

 いま思えば『至帝戦記グロリアスチャージ2』にまつわる快不快も、単なる笑い話である。

 

 

 

 ……笑い話になるはずだった。

 

 

 

「ト、トマシノさん――ど、どうしましょうっ! 南方辺境伯ルケルブが、叛旗を翻しましたっ!」

 

 円卓を挟んだ向こう側に極東城塞伯ヤナ・ジシャガミが座っていなければ、である。

 

「畏れ多くも陛下は諸侯に出兵を御命じあそばされたんですけど――っ!」

 

 彼女は(とび)色の瞳で、ちらちらとこちらの様子を窺ってくる。

 

 対する俺は彼女の瞳を見つめ、それから彼女の茶けたショートカットの髪型や、着ている濃緑色のチュニックを眺め、

 

(ああ、間違いない。『至帝戦記グロリアスチャージ2』弱小陣営のリーダー、極東城塞伯のヤナだ)

 

 と、未だ完全に忘却しきっていない当時の記憶と、眼前の人物を照合させていた。

 

「た、たぶん、もうルケルブの軍勢は帝都に迫ってると思うんですけど、どう、どうすれば――って、トマシノさん?」

 

 そしてトマシノというのは、ゲームスタート時におけるヤナが部下とする唯一の家臣の名前である。

 

「……」

 

 とりあたっては、俺のことらしい。

 

「トマシノさーん……? 聞いてます……?」

 

 ヤナは心配になったのか、身を乗り出してきた。

 

 その表情は――。

 

(だいぶ追い詰められているな)

 

 対する俺は、驚愕も悲歎も呑みこんでから、両手を出した。

 

「閣下、10分だけお時間をください」

 

(考えろ――これは“意見具申”のチャンスだ)

 

 驚いている時間も、なぜ俺が“トマシノ”としてここにいるのか考える時間も惜しい。

 

(最悪の場合、半年後には俺も彼女も処刑される……。幸いにも俺は序盤の流れをよく覚えている)

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』は必ずこのイベントから始まる。

 

 地方に対する施策を何も打ち出さない一方で、諸侯に対しては定められた額の租税の納入や法律の遵守を求め続ける帝国に対して、南方辺境伯ルケルブが叛旗を翻し、大陸全土に戦乱の時代が訪れる。

 

 そしてこのイベント発生時、つまり1ターン目に、プレイヤーは自陣営のスタンスを「叛乱」「独立」「保守」から自由に決定できるのだ。

 つまり南方辺境伯らに同調してもいいし、周辺地域を攻撃して地方統一を目指してもいいし、帝国を守るという大義の下、叛乱軍の討伐を目指してもいい。

 

(だが極東城塞伯領だ)

 

 このゲームにおける城塞伯とは、ひとつの城塞を管理する貴族のことを指す。

 その名のとおり、ヤナ・ジシャガミが治める領土は最小クラスである。救いはこの城塞伯領が海に張り出した岬にあり、北、東、南の三方から攻撃を受けることがないということで、この点はかなり有利である(水軍、海軍という概念は存在しない)。

 が、大陸一、二を争う最弱陣営ゆえに、正攻法でできることは少ない。

 

(たしかジシャガミが動員できる初期兵力はたった300名ぽっちだったはず。まともなプレイングで周辺勢力を叩き潰せるわけもない)

 

 もっぱら“5ターン目”に序盤の敵になるとすれば、北西で境界を接するグレイヘンガウス低東地方伯と、南西のブルネーロ東方宮中伯――前者はこちらの数倍、後者は10倍以上の勢力を誇っている。

 

 が、いまの時点では彼らがどういうスタンスかはわからない。

 

「閣下。確認ですが、グレイヘンガウス卿とブルネーロ卿はすでに旗幟を鮮明にしていらっしゃいますか?」

 

「そのー、一応、聞いてはいるんですけど……」

 

 たはは、とヤナは控えめに笑った。

 

(やはりか……)

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』がクソゲー呼ばわりされる一因として、ゲームをスタートするたびに、南方辺境伯を除く他陣営のスタンスが決まっていないことにある。

 プレイヤーの陣営のスタンスは1ターン目で決めさせられるのだが、この時点では他陣営のスタンスは中立――どこにも攻撃せず、どこの部隊でも通過させる“ガチ”の中立――であり、5ターン目に急に「叛乱」「独立」「保守」のいずれかに転じるのである。

 

 たとえば1ターン目にプレイヤーが叛乱軍に同調したとする。

 それから、5ターン目を迎えてみると周囲が反・叛乱軍の「保守」、つまり敵対勢力一色に染まる可能性もあるのだった。

 

「わかりました。閣下、陛下の御身をお守り奉りましょう」

 

「や、やっぱり、そうですよねっ! じゃあ出兵の用意を――」

 

 パッと明るくなる少女の声に、俺は言葉を被せた。

 

「すぐに私が100名の兵とともに帝都に向かいます。ブルネーロ東方宮中伯領を通過し、帝都にて近衛軍と合流――万が一にもないでしょうが、帝都の護りに不安あるときには、陛下の御身をこの極東城塞伯領にお迎え奉ることをご覚悟ください」

 

「えっ」

 

 と驚く彼女に返事をすることなく、俺は卓上にあった羊皮紙に3、4か月分の指示を書きつけた。

 

 ゲームシステムがこの世界にどの程度まで適用されるかわからないが、コマンドがどうのこうのとは関係なく、現実的にいって部隊を指揮している間、俺は内政には携われないだろう。

 

 それも含めて俺は、「我々が生き残るには、私と閣下、ふたりの力が必要です」と力強く言った。

 

 なにせこの弱小陣営、ゲーム上では軍事や内政、外交のコマンドを実施できるのがふたりしかいないのだから。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

(ホントにトマシノさんがいて良かったぁ~)

 

 白昼堂々、急遽進発したルイト・トマシノを見送ってから、ヤナ・ジシャガミ極東城塞伯はひとり執務室にて安堵の吐息を漏らした。

 

(今回もどうしていいかまったくわかんなかったもん……)

 

 ヤナ・ジシャガミは抱えた羊皮紙を大事そうに撫でた。

 

 流行り病で父と兄が亡くなってから早2年半――領主としての仕事にも慣れてきたつもりだったが、その一方で自分自身の優柔不断さが憎らしい。

 

 それを知ってか知らずか、彼女の父は病床でしたためた遺書に、

 

――トマシノの一族の力は、我がものだと考えよ。

 

 と書き残していた。

 

 要はトマシノは自身の部下なのだから遠慮せずに使いこなせ、というわけなのだが、ヤナはどうしてもトマシノと相対すると後ろめたさを覚えてしまうのであった。なんだか私よりもトマシノさんのほうが領主に向いているのではないか、トマシノさんにだけ任せればいいのでは、とさえ思ってしまう。

 

(いやいや、ダメダメ!)

 

 彼女は椅子に腰かけたまま、ひとりで頭を振った。

 

 数時間前にトマシノから言われた言葉がリフレインする。

 

「我々が生き残るには、私と閣下、ふたりの力が必要です」

 

「私が外交や軍事をみる間は、閣下に内政をしていただかなくてはこのチームは回りません」

 

「畏くも申し上げると、閣下だけ、トマシノだけ、でなんとかなると思っていただいては困ります。閣下のことを、本当に頼りにしています」

 

(トマシノさんが頼ってくれてるんだもん――領主として頑張らなくちゃ!)

 

 ふんす、と気合いを入れ直してから、その表情は再び緩む。

 

 

 

――ふたりの力が必要です。

 

 

 

――ふたりの力が……。

 

 

 

――ふたり……。

 

 

 

「よーしっ! ふっ、ふたりで頑張りますかぁ~!」

 

 それから彼女はトマシノから預かった羊皮紙を開いてみる。

 

 一行目に書いてあったのは、

 

「城に残った兵をすべて弓兵として訓練してください」

 

 だった。

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