至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は5月24日(土)ごろを予定しております。

「フォーメーション、ルナティウス・アルファ!」

この一文を入れるかどうか悩んでこの時間です。



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■10.暗殺は 味方殺しの コマンドよ??

 西に傾く太陽。

 その太陽から逃げるように、街道の端を疾走していく一塊の人影を、すれ違う人々はみな一様に二度見する。

 当たり前だ。疾駆する馬と同程度の速度で道を駆けていくのは、四つん這いの使用人(メイド)。それに跨っているのは完全武装の騎士であり、その背にはひとりの少女がしがみついている。

 

(それがし)、東方宮中伯の使者である! 道を()けられよ! 急ぎの使者ゆえ、迷惑をかける!」

 

 竜騎兵(ドラグーン)竜騎士(ドラゴンライダー)ならぬ変態騎士(メイドライダー)とも揶揄されるウスマン・バレロは、無関係の平民を轢き殺さぬように大声を張り上げながら、使用人の服を纏った姉を操る。

 

「ウスマン」

 

 肩越しにウスマンの妹とされる少女がささやく。

 

「クロティエルデさんもわかってくれるよ」

 

 不離一体の呪い――否、不離一体の祝福ゆえに、彼女はウスマンの叫びのなかに焦燥や動揺を感じとっていた。

 ウスマンは声を出して返事をする余裕もない。

 自らの姉が蹴り上げる砂埃のなかで目を凝らしながら、ただただ前方を睨むだけだ。

 

(クロエ、すまない――)

 

「ウスマン。この仕事が終わったらさ、義姉さんと逃げない?」

 

「……」

 

 妹の口にした“仕事”という言葉に、ウスマン・バレロは反射的に舌打ちをしていた。

 

――宣戦布告のついでにトマシノを殺せ、()が悪いならヤナ・ジシャガミでもいい。

 

 ブルネーロ東方宮中伯の御伽衆(おとぎしゅう)から命じられた任務は、一般的に感覚でいえば決死の覚悟が要る代物(しろもの)だった。使者としての役割を終えた瞬間に、要人を暗殺せよ、というのだ。もちろん、常人であれば要人を殺したあとに、四方八方から押し斬られて己も殺されるであろう。

 とはいえ、ウスマン自身は身命賭すること自体に特に疑問は抱かない。

 己も、姉妹もまた、零落したとはいえ武門に生まれた身であり、殺し合いをするがゆえに禄を()んでいる。

 

(だが)

 

 士は己を知る者のために死ぬ、という有名な格言を後生大事にしているわけではないが、しかし決死の命令を色白の御伽衆から告げさせるブルネーロ東方宮中伯の在り方はどうであろう。

 

――もしも事をうまく運べば、加増も考えてやると仰せだ。しかし釘は刺しておくが、奥方と住居を構えるという話はナシだ。

 

(加増? 加増だと!? 俸禄の加増が、何になるというのだ!?)

 

 ウスマンが無意識のうちに歯ぎしりをしたので、対する少女はぎょっとして声量を上げた。

 

「ウスマン、気持ちはわかる。ごめん。私が軽率だった。いまは冷静になって」

 

(カネや位階のことしか興味のない連中がっ――クロエと共にいたいという願いのどこがおかしいかっ!)

 

「い、一回、休憩しよう。アルファ、止まって!」

 

 少女の声に、アルファ――使用人の服を纏った自称・年下の姉は少しずつ速度を落とし、やがて止まった。

 

「日没まで時間がありません」

 

 ウスマン・バレロと少女がその背から降りるとともに、アルファと呼ばれた自称“年下の姉”は汗ひとつかいていない額を拭い、砂まみれになった黒い長髪を払ってから言った。

 

「1時間も休めばぎりぎりになりますが……」

 

「誰もそんなに休むなんて言ってないよ、アルファ。10分きっちり計って」

 

「……すまない」

 

 対照的にウスマン・バレロは、少し疲れてみえた。

 

 とはいえ彼は武人である。

 10分きっかり呼吸を整えると感情の昂りを押し殺し、年下の姉に騎乗する。

 そうして彼らは日没前に極東城塞へ辿り着くことができた。

 

(ここが極東城塞――)

 

 ウスマン・バレロやその姉妹は、天守塔に翻る22の白星を描いた皇帝旗と、蒲公英を大書した極東城塞伯旗を見上げてから視線を下に移し、その粗末さに溜息をついた。

 コンパクトにまとまっているがゆえに中央の天守塔と、城壁四方に設けられた城壁塔・側防塔に魔術兵を置けば相互に援護が可能な小粒の堅城、と評せないこともない。

 が、単に規模が小さいといえばそれまでである。

 その後、城門の前で守備兵に誰何(すいか)されたウスマンは、言われるがままに愛用の片手剣を鞘ごと手渡し、案内されるままに小さな広間に通された。

 

(何から何まで、ブルネーロ東方宮中伯の居城とは違う)

 

 化粧がつぎはぎになっている崩れそうな天井と、絨毯も何もない板敷の床。

 壁もまた板張りになっており、補修の跡がうかがえる。

 質素というべきか、貧乏というべきか。

 

「え、遠路はるばる、たっ、大儀? 大儀でした……?」

 

 広間で待っていたのは、濃緑のチュニックを着た茶けた髪の少女であった。

 領主らしい威厳も何もない、むしろ年相応の愛らしさが先に来る彼女を一目見て、ウスマン・バレロは殺せる、と踏んだ。

 壁に沿うように立っているのは、数名の守備兵。

 これも物の数ではない。

 

(しかし、あれは影武者か?)

 

 作法どおりに十数歩離れてひざまずいて少女の言葉を聞きながら、ウスマン・バレロは、ちらとアルファに視線を遣った。

 瞬間、彼女は僅かにうなずく。

 と同時に、目を伏した。

 

(目の前の人間は、ヤナ・ジシャガミ本人。そしてこの場にトマシノはいない、か)

 

 ウスマンは彼女の仕草から情報を読み解き、すぐに決断した。

 

(ここで、彼女だけ殺る)

 

 彼が心に決めるとともに、ウスマン・バレロの横でひざまずいていた少女が挙手をした。

 

「あのーブルネーロ様からお手紙もらってきましたっ!」

 

 天真爛漫な少女は手紙を握った左手をパタパタと振り、そのまま立ち上がってヤナに走り寄ろうとする。

 

「待て!」

 

「え、副長?」

 

 が、守備兵の中からひとりの男がヤナと少女の間に割りこんだ。

 

「失礼。使者殿からの手紙は我らがいったん預かり、それから閣下へお渡しするのがご作法ゆえ」

 

「ご、ごめんなさーい」

 

 守備兵らから副長と呼ばれた男は、平然と少女から手紙を預かると、そのまま背中を見せることなく後ずさりし、それをヤナに手渡した。

 

(あの男、村の陣屋で見たことがあるな)

 

 ウスマンは副長と呼ばれた男に見覚えがあった。

 対する副長もまたウスマンとその姉妹を見て、苛立たしげに板敷の床を2、3回蹴った。

 が、ウスマンの意識はもう副長には向いていない。

 

「手、手紙――いま読みますね」

 

 ヤナは震える手で手紙を開いて、それを顔の前に広げる。

 つまりその視界からウスマンらを自ら隠してしまっていた。

 

(いまだ!)

 

 ウスマン・バレロが立ち上がった瞬間、3つのことが同時に起きた。

 まず彼の意図どおり、ウスマンの妹を自称するルティトナ・バレロが魔力を練り、年下の姉を自称するアルファ・バレロが手首から白刃を展開させた。

 それを予期していたように、副長と呼ばれる平民の男はヤナ・ジシャガミの前に出るとともに、彼女を抱いてウスマンらに背を向け――壁を押して、その向こう側に消える。

 そして最後に、崩れそうな天井の向こう側で何かが切れる音がした。

 

「ウスマン、ルティ、しゃがんでください」

 

 比喩ではなく、天井が崩れる。

 いわゆる釣り天井。広間の中央に落ちてきた天井と瓦礫の塊。

 常人ならば反応はできても、そのまま圧死の憂き目に遭うであろう。

 が、その大部分を使用人の服を纏うアルファ・バレロは顔色変えずに支え、またルティトナ・バレロもまた不可視の障壁を展開して細かい瓦礫を弾いていた。

 

「ヤナ・ジシャガミは――!?」

 

 アルファ・バレロが運動エネルギーを失った天井を粉砕するとともに、ウスマン・バレロはアルファの脛の外装から展張した2本の短剣を引き抜きながら、先程までヤナ・ジシャガミが立っていた壁際に視線を遣った。

 その壁が、再びくるりと回転する。

 

「暗殺者はだいたいその釣り天井で死ぬはずなんだが……」

 

 現れたのは鉄板を縫いつけた鉢巻をして、安っぽい革製の防具を纏い、いわゆる袴と呼ばれる極東土着の黒いズボンを履いた男であった。

 

「トマシノ殿、だな」

 

「ウスマン卿。悪いが、閣下はもう遠くまで逃げた。諦めて退()け」

 

 すでにウスマン・バレロと対峙する男は、片刃の両手剣を抜き、真っ直ぐにその剣先をウスマンらに向けていた。

 もちろんトマシノだけではなく、壁際に立っていた数名の守備兵らも刀槍を構え直している。

 対するウスマンは、怯むことなく口の端を歪めた。

 装飾よりも実をとった造りの広間の罠と、彼らが放射する殺気に、心地よささえ感じている。

 

「狙いは最初から貴方だ」

 

 ウスマン・バレロの肩に、ルティトナ・バレロが這いあがり、そのふたりをアルファ・バレロが担ぎ上げる。

 この間、1秒。

 ルティトナが頭上で不可視の風槌(エア・ハンマー)を完成させて振り回し始めるのを前に、トマシノは小首を傾げた。

 

「……え?」

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』をプレイした経験のあるトマシノからすれば、目の前の事態は青天の霹靂であった。

 

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