至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は6月10日(火)前後を予定しております。



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■15.日本の 春秋短い これもバグ?

 

 マルセル・ブルネーロの死から2か月後――すっかり暑さも和らいで、秋。

 俺たちを巡る情勢もまた、季節とともに移り変わりつつあった。

 

 まずマルセル・ブルネーロの死後、ブルネーロ東方宮中伯領では内紛イベントが生じた。

 本来ならば家督を継ぐのは、長男のジニ・ブルネーロ。それに対して次男のガエターノ・ブルネーロが異を唱え、ブルネーロ領内が二分されたのである。否、二分ではない。次男のガエターノのほうが、遥かに優勢のかたちで内戦は始まった。

 長男のジニは確かに、先代に指名されていた後継者であった。

 ……言い換えるならば、ブルネーロ家の威信を地にまで落とした故マルセル・ブルネーロに指名されていた後継者、である。

 しかも長男のジニよりも次男のガエターノのほうが能力は高い。

 ゆえに軍事貴族を中心として次男のガエターノに支持が集まり、ジニの側は籠城戦すらできないまま、押し込められて皆殺しの憂き目に遭った。

 

 続いて東方宮中伯の称号を継いだガエターノ・ブルネーロは、南方辺境伯ルケルブとの攻守同盟を破棄。一方で、我がジシャガミ極東城塞伯との停戦と、続けて期限付きの不戦条約を求めてきた。

 驚くには値しない。

『至帝戦記グロリアスチャージ2』では陣営全体の威信が低かったり、家臣たちからの忠誠心が低かったりする状態で陣営のリーダーが急逝した場合(加えて後継者候補が複数名いる場合)、内紛イベントが起きやすくなっており、また新たに指導者となった人材は、前政権とは異なる政治的立場を選ぶことが少なくない。

 実際、ガエターノ・ブルネーロは新たな政治方針として、まずは自立自存の独立勢力として地盤を固めることとしたらしかった。

 

「私はね、有能な人間が大好きなんですよ。人はひとりでは大事を成し遂げることはできない、ゆえに人は、人を求めるッ!」

 

 極東城塞の広間に、高笑いが響き渡る。

 金髪を無造作に伸ばした男――そのガエターノ・ブルネーロ本人は、上半身を反らしながら笑いに笑い、俺を閉口させた。

 つい先々月まで戦争をしていた陣営に堂々と乗りこんでくる豪胆さには感心するが、それとともに粗野な面もある若者であった。

 

「というわけでね、トマシノ卿。私に仕えませんか?」

 

「お断りいたします」

 

 即答する俺に、ガエターノ・ブルネーロは再び哄笑した。

 

「300の兵で10倍、100倍の相手を破ったトマシノ卿には、現在の10倍、100倍の禄を出しても惜しくはない! どうで――」

 

「あの」

 

 ガエターノの言葉を遮ったのは、ヤナであった。

 

「ブルネーロ卿、きょうは不戦条約の調印にいらっしゃったんですよね? そうでないならお帰りください」

 

 俺はいつになく毅然としているヤナを、二度見した。

 他方、ガエターノは気を悪くした様子もなく、満面の笑みを浮かべる。

 

「もちろんダメもとですよ、ジシャガミ卿。しかし、素晴らしく有能な臣下を揃えている貴女がうらやましい限りだ。元宮仕えのウィンストン師に、出奔したウスマン卿、そして戦上手のトマシノ卿。どうですか、ひとりくらい……」

 

「わ、私は、トマシノさんが、別に有能な臣下だから言っているわけではありません、トマシノさんは――」

 

 そこで俺もまた営業スマイルを浮かべて、軽く頭を下げた。

 

「ブルネーロ卿、私は畏れ多くも皇帝陛下にお仕え奉る身でございます」

 

 それでようやくガエターノは、俺の引き抜きを諦めたらしかった。

 

 ガエターノが帰ってからしばらくして、正午ちょうど、練兵場に向かった。

 

 本来ならばこの時間は誰もいないはずの練兵場――訓練中の士卒が大けがをしないように撒かれている砂の上を、少女と竜種が歩き回っている。

 日課となっている散歩。

 竜鱗をまとった大型犬サイズの怪物と、その首輪から伸びる(リード)を持つ少女。

 夏までは食べるか騒ぐか寝るかしかしていなかったはずのダラーカは、いまや翼膜を有する前肢と、筋肉が発達し始めている後肢を使い、一歩一歩力強く歩いている。

 一方の皇帝陛下の歩みは、といえば未だたどたどしいところがあり、ダラーカの側がその歩調を彼女に合わせているように見えた。

 

「で、竜種(あれ)の名前は決まりましたか?」

 

 藍色の長衣が砂で汚れるのも気にせず、練兵場の隅にどっかりと座りこんでいるウィンストンに聞くと、彼は木製の水筒を口から離すと鷹揚にうなずいた。

 

「ラーカだ」

 

「皇帝陛下がお付けあそばされた名前ですか」

 

「ああ」

 

 俺はウィンストンから皇帝陛下とラーカへ再び視線を遣った。

 ラーカが気を遣っているのはどうやら俺の気のせいではなく、彼は(彼女は)黄色い眼球をぎょろぎょろと動かしては、歩くことに四苦八苦している皇帝陛下の様子を窺いながら、ペースを調整していた。

 

「思ったよりも賢いですね」

 

 素直に感想を漏らした俺に、ウィンストンはふん、と鼻で笑った。

 

「阿呆たれ。成長した竜種はいかなる個体であっても大なり小なり魔術を使うのだから、人より賢いのは当然だ」

 

「そうでしたか」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙する俺とウィンストン。

 

「あ」

 

 皇帝陛下はこちらに気づいたらしく、リードを軽く引くとコースを変えてこちらに近づいてきた。

 が、その途中で足がもつれる。

 

「陛下!」

 

 思わず俺は一歩踏み出したが、つまずいた皇帝陛下を支えるには距離がありすぎる。

 が、彼女の上体は少し揺らいだだけで静止した。

 その襟首を俊敏に動いたラーカが鉤爪でひっかけつつ、さらに自らの首を回して、彼女の上半身を支えたためであった。

 皇帝陛下はうん、とラーカに対して頷くと、体勢を立て直して再び歩き出す。

 

「……」

 

 そうして俺とウィンストンの前まで歩いてきた彼女は無表情のまま、口を開いた。

 

「イ、リ、ス」

 

 その声色にはかすかに感情が織り交ぜられている。

 不満――それを感じ取った俺は、うなずいた。

 

「イリス様、お気をつけてください」

 

 イリス。

 それが俺やヤナ、ウィンストンが話し合って決めた彼女の名前であった。俺にはさっぱりわからないが、ヤナやウィンストンといった“現地民”からすると、この音は美しい響きであり、なおかつ貴人に相応しい名前であるようだった。

 それから彼女は、皇帝陛下、陛下、と呼ばれるたびに、僅かに口を尖らせてから「イリス」と不満を表明するようになった――つまり、気に入ったのであろう。

 

(早くこっちも慣れないとな)

 

 むしろ俺たちのほうが、彼女を「イリス様」と呼ぶことに未だ慣れていなかった。

 

(が、それも時間の問題だ)

 

 移りゆく季節と同様に、少しずつだが、彼女も俺たちも変わっている――いや、変わっていける。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ジシャガミ極東城塞伯領――その遥か北方。

 

 皇室の保護を謳うニコラエヴナ北方擁護伯の領土と、攻守同盟を結んだ独立派諸侯の勢力圏が接する盆地には、数万の軍勢がひしめいていた。

 

 ライ麦を描いた旗を掲げた北方擁護伯の軍勢が整然と戦列を組んでいる。雪や曇天を意識した白装束。大陸の標準的な槍よりも倍近く長いそれを携えた横陣は、長大かつ重厚。黒槍の山、白刃の海と称されるその(さま)に偽りなし。

 

地平陣(ホライズン)――」

 

 泥土を踏みしめながら、一糸乱れぬ前進。

 それだけで対峙するグレイヘンガウス低東地方伯をはじめとした独立派諸侯軍の士卒は、慄いた。

 そしてみな揃って天を衝く長槍の中から、戦鼓の轟きと怒声の連呼が放射される。

 

突撃(チャージ)!」

 

 ライ麦の軍旗を翻しながら、白装束の戦陣は、黒槍を天に掲げたまま駆け、怯懦なく独立派諸侯軍の戦列に急接近するなり、その大重量の穂先を敵兵の頭上に振り下ろした。

 黒槍の山が崩れて生じた土石流は、瞬く間に独立派諸侯軍の最前衛を叩き潰す。

 続けて長槍を操る北方擁護伯の士卒らは、驚くべき腕力で穂先を水平に維持すると、二度、三度と刺突、斬撃、打撃を繰り出して、目の前の敵兵を打ち倒していく。

 

「連中とまともにぶち当たるな、後退!」

 

 諸侯軍の中央部を固めていたチャンドラ北方猟司伯の軍勢。

 彼らは白き波濤と黒き激流の直撃に直面して圧されるまま、即座に後退を始めた。

 敵前で自ら後退を開始するなど、愚の骨頂であろう。

 が、彼の両翼には他の独立派諸侯の部隊が存在しており、自部隊が後退しても両翼の部隊がいる以上、安易に敵は追撃してこない――そんな考えがチャンドラ北方猟司伯の将兵の頭蓋の中にはあった。

 

毒虫陣(ワーム)――」

 

 その両翼が、いま食い荒らされようとしているとも知らずに。

 

突撃(チャージ)!」

 

 ニコラエヴナ北方擁護伯の重騎兵は、警戒にあたっていた独立派諸侯軍の軽騎兵部隊を蹴散らすと、そのまま独立派諸侯軍の側面を衝いた。そのまま穿入する重騎兵に、両翼の歩兵から成る密集陣は抵抗もできないまま倒壊していく。

 さらにそれに合わせて、両翼の長槍兵らが運動を活発化させ――数時間後には独立派諸侯軍は破砕されていた。

 

 しかしながら、独立派諸侯たちにも希望は残った。

 

 この大敗の数日後には雪が降り始め、お互いの軍事行動が凍りついた。

 

 彼らには風雪とその後の泥濘の季節も含めて、150日近い自然休戦の期間が与えられたのであった。

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