至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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あなたが好きな範囲攻撃(MAP兵器)はなんでしたか。

次回更新は6月14日(土)を予定しております。



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■16.ゼーゴック デスザウラーか N・E・P。

 冬が訪れようとしている。

 ブルネーロ東方宮中伯との戦争に勝って拡大したジシャガミ極東城塞伯領。その北方を治めるグレイヘンガウス低東地方伯が参加している独立派諸侯たちが、ニコラエヴナ北方擁護伯との合戦に敗北した旨は、すでに俺たちのところまで伝わってきていた。

 

「ま、また戦争にな、なりそうですかね?」

 

 隣に座るヤナ、その横顔には不安がちらついており、顔色もまた青かった。

 

「まだわかりません――」

 

 と言いつつも、俺はグレイヘンガウス低東地方伯、あるいはニコラエヴナ北方擁護伯のどちらかと戦争になると確信していた。

 端的に言えば、『至帝戦記グロリアスチャージ2』は内政を楽しむためではなく、戦争をするために作られたゲームだからだ。

 

(プレイ経験からいえば、このあとグレイヘンガウス低東地方伯は俺たちを味方に引き入れようとするはずだ)

 

 保守の立場を採るニコラエヴナ北方擁護伯と対戦しているグレイヘンガウス低東地方伯が、同じく保守派のジシャガミ極東城塞伯を警戒するのは自然な流れだ。そして彼はニコラエヴナと俺たちが連携し、挟撃に打って出ることを恐れる。ゆえに彼はまず、不戦条約の締結を申し出てくるはずだ。

 それがうまくいかなければ――厳冬によってニコラエヴナ北方擁護伯が身動きできない合間に、俺たちを潰しに来るだろう。

 

 一方でニコラエヴナ北方擁護伯と組むとしても、安泰だとは言えない。

 好戦的というよりは、無軌道。彼女と攻守同盟を締結できたとしても、そのうちに言いがかりをつけてきて、グレイヘンガウスら独立派諸侯ともども轢き殺しにかかってくるのが目に見えている――。

 

 いずれにしても、次の戦場は北方になるだろう。そう考えた俺たちは新たに極東城塞伯領となった旧ブルネーロ領、そのなかでもグレイヘンガウス低東地方伯領に接する地域を視察しておくことにしたのである。

 

(しかし、移動手段に馬車を選んだのは失敗だったか)

 

 収支に余裕が生じたためにようやく手に入れることができた4頭立ての有蓋馬車であったが揺れがひどいせいで、神経も使うし、余計疲れる。

 

「閣下はニコラエヴナ卿にお会いしたことはありますか?」

 

「帝都での祝賀行事のさ、際に、一度だけ――」

 

「どんな御方でしたか」

 

「あの方は――う゛ぅろ゛っ゛」

 

 彼女がえずいたので、俺は咄嗟に足元に置いていた革袋を手渡した。

 立ち上る酸っぱい臭いと嘔吐の音に、俺は自分が最後に吐いたのはいつだったかとなんとなく考え、課全体のノルマ達成打ち上げの後、駅前のグレーチングに吐いたのを思い出した。

 それから俺は馬を操る副長に向けて「止めてくれ!」と叫んだ。続けて窓を開けると並走する護衛役の騎兵らにも、止まるようにハンドサインを出した。

 

 休憩を挟みながら到着したのは、柵で囲まれた低木――ヤナいわくナシの木らしい――の樹列と丹精された畑地が目を惹く農村であった。人々が踏みしめてできた小道の脇には、ツバキによく似た花が咲いている。

 そして俺たちを出迎えたのは、4つの人影であった。

 

「お久しぶりです、閣下」

 

 ウスマン、ルティトナ、アルファ――それから、頬骨が出るほどに痩せた女性がそこに立っていた。白い長衣のうえに更に外套を1枚、2枚と羽織り、使用人姿のアルファに背中を抱かれている彼女は、上体を曲げることができないまま、会釈した。

 

「お初にお目にかかります。(わたくし)、クロティエルデ・バレロと申します。この度は主人が――」

 

 ウスマンの妻、クロティエルデは最後まで言えずに咳きこんでしまった。

 

「だっ、大丈夫ですよっ!」

 

 むしろそれを見て、ヤナは慌てて彼女が再び何か言おうとするのを制した。

 

 ウスマンらバレロ家は暗殺失敗の後に、クロティエルデら関係者を引き連れて出奔し、マルセル・ブルネーロの敗死直後に、ジシャガミ極東城塞伯領に駆けこんできたのである。

 勿論、俺は歓迎したし、加えて彼らの要求はただひとつ、禄はなくてもいいから平時は家族が一緒に過ごせるように取り計らって欲しい、ただそれだけだった。

 

(当然だが、これは慈善じゃない)

 

 こちらが引き抜こうとした際に提示した港町リービークではなく、グレイヘンガウス低東地方伯領に近接するこの農村の代官に任命したのも、打算あってのことだ。

 

(連中が攻めてきたときには、まず彼らに対応してもらう)

 

 極東城塞伯領の拡張に合わせて軍拡も進んでおり、俺はそのうちの300名の兵士をウスマン・バレロに貸し与えた。300名は心もとない人数のように思えるが、実際のところ敵の攻撃を2、3回凌げればいい。

 

(俺のような凡夫と、ウスマンら“個”の戦闘力が高い連中とでは戦い方が違う)

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』は、剣と魔法が支配する中近世ファンタジーを舞台としたSLGであり、先に触れたウィンストンのように、単騎で数十名、数百名の兵士を薙ぎ倒せるような特別な人材が存在している。

 このウスマン・バレロらも同様だ。中近世ファンタジーに存在してはいけない火力――たとえるならば『現代大戦略』の多連装ロケット砲や、PSゾイドの荷電粒子砲のような“範囲攻撃”で、複数の敵部隊をズタズタに引き裂ける。

 こうした単騎で一定の攻撃力が担保されている人材にとって、兵士数というのは敵からの反撃を代わりに受ける肉壁、あるいはHPに過ぎない。

 対策はあるのだが、対ブルネーロ戦で彼が陣頭に立つことがあれば、苦戦必至であっただろう。

 

 彼らの新居を兼ねている陣屋にて、周辺の地形やグレイヘンガウス低東地方伯領の動向について説明を受けた後、ヤナがクロティエルデと話がしたいとのことで、俺とウスマン、自称・妹のルティトナ、明らかに人間ではないアルファとともに、外に出た。

 菜園でもやるつもりか、土が耕されている庭に夕陽のオレンジが差している。

 

「トマシノ殿、我々がここを任された理由はわかっている」

 

 機先を制して口を開いたのは、ウスマンであった。

 

「武門に生まれた身だ、北方の備えとして尽くす」

 

「ありがたい。とにかくウチには武将がいない。とはいえウスマン卿に無理をさせるつもりはない。奥方は……」

 

「良くない」

 

 ウスマンは腕を組んでから、無精ひげを撫でた。

 

(クロティエルデ・バレロ)

 

 俺は生前にその名前を目にしたかどうか考えこんだ。

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』の人材がゲーム中から消滅するケースには、戦死をはじめとした人為的な死と、寿命を迎えての自然死がある。そのキャラクターごとに目安となる経過ターン数(=寿命)が設定されており、そのターン数を経過すると、毎ターンごとに判定が行われる仕組みとなっていた。

 つまりゲームプレイ時に登場する人間であれば、あとどれくらい生きるかくらいはわかる。

 

 が、クロティエルデ・バレロはゲーム中には存在しなかった、少なくともプレイしている範囲では表に出てこなかった人物である。

 

(そして、ウスマン、というかこの3人は――)

 

「あのさ、話戻すけど」

 

 俺の思考を断ち切ったのは、ウスマンの腰にしがみつくルティトナだった。

 

「グレイヘンガウスならともかく、ニコラエヴナが相手じゃ300の兵でもたせるの無理だけど――まあどれだけ頭数揃えてもあんまり意味ないか」

 

「策なら考えている。……ニコラエヴナについて知っていることを教えてくれ」

 

「忠誠の言葉を口にした部下に自分の髪を切って食べさせたとか、赤ん坊を集めて10年かけて子どもだけの衛兵隊を作らせたとか、隣り合う領主と協定を結んだ直後に破棄してみるとか――そんな噂ばっかりだよね。知ってるだろうけど」

 

(知らねえよ)

 

 とツッコミつつも、俺は頷いた。

 

「悪評ばかりが先に立つが……。彼女の人物像は噂通り、残虐、悪辣というところでいいんだろうか?」

 

 この世界に意識が迷いこんで半年以上――もう少しで丸1年にもなるが、最近考えているのは『至帝戦記グロリアスチャージ2』の設定は、この世界のすべてを物語っているわけではない、ということである。

 戦略・戦術級シミュレーションゲームにおいて、プレイヤーは知るべき情報しか与えられない。例えば軍備。集めた兵士の数は報告されても、その過程についてはまったく語られない。プレイヤーが触れるのは、主に数字と結果だけだ。

 キャラクターもまた、同様だ。経歴や性格などは設定集のなかで語られるが、400字にも満たない説明で、ひとりの人間のすべてを語り尽くせるわけがない。

 ウスマン・バレロに、ゲーム上は登場しないクロティエルデという妻がいるように――ニコラエヴナにもプレイ中には表面化しなかった付け入る隙があるのではないか。

 それが俺の考えであった。

 

 そんな心中を知っているわけもなく、ルティトナは期待とはズレた答えを返してきた。

 

「残虐、悪辣、というよりは人を信じたいけど信じられない、信じられないけど信じたい、だから試したい、みたいな性質(たち)だと思うけど」

 

「信じたい?」

 

「部下に髪の毛を食べさせたのもその忠誠の言葉が本当か知りたかったから、協定を結んで即座に破棄したのも相手の本心を窺いたかったからとか? 知らんけど」

 

「……軍事面では?」

 

「戦場で多用するのは鉄床戦術だと聞く」

 

 答えたのはウスマン・バレロである。

 

 鉄床戦術とは、正面の部隊が敵部隊と対戦して拘束している間に、その敵部隊の側面を機動力のある別部隊が廻りこんで攻撃するといった戦術だ。

 現実においては古代から現代に至るまで、騎兵や戦車を投入して数多の勝利をもたらしてきた基本かつ効果的な戦術だが、シミュレーションゲームでこれを再現できるか、あるいは再現してメリットがあるかはタイトル次第だといえる。

 俺が知る限り最も印象深いのは『マブラヴオルタネイティヴ・暁遥かなり』だ。このタイトルには視界内の目標を大出力レーザーで攻撃する敵が登場するため、正面の部隊で敵の視線を拘束し、車高の低い戦車でビルの影から飛び出して敵を叩く、という戦術が極めて有効だったが、方向や一斉攻撃、包囲効果の概念がない場合は、これを積極的に狙っていく理由はない。

 ちなみに『至帝戦記グロリアスチャージ2』においては部隊が向いている方向、つまり側面、背面の概念があり、真正面から仕掛けるよりも、側面、背面を衝いたほうが敵兵力・敵士気によりダメージを与えられる仕様となっている。

 

「理屈のうえだが、鉄床ならば破りようもあろう」

 

 ウスマン・バレロはそっけなく言った。

 確かにポピュラーといえる鉄床戦術には、破りようがある。

 が……。

 

「そもそも部隊を率いることができる人間がウチにはいない」

 

 俺は溜息をついたのを見て、ウスマンは切り出した。

 

「実は旧知の人間が、仕官先を探していてな……」

 

「それはまさに、渡りに船だ」

 

「サン・アロンフィルドといってな。武功を立てられる居場所を探している」

 

(アロンフィルド?)

 

 彼についての能力よりも先に、散々ネタにされた渾名のほうがすぐに思い浮かんだ。

 

功名(こうみょう)マンじゃねえか――!)

 

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