至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG) 作:河畑濤士
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次回更新は1週間以内を予定しております。
理由は私生活がトマシノ状態になりつつあるからです。
感想もすべて返せておらず、申し訳ございません。
今後ともよろしくお願いいたします。
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「サン・アロンフィルドです。よろしくお願いしますっ!」
ウスマンに案内されたあばら家の庭先に、爽やかな声が響く。
頭を下げているのは赤毛の好青年だ。縁側にはよく手入れされた槍と、同じく自身の手で修理中であったとみられる短冊状の鉄板を繋ぎ合わせたラメラーアーマーが置かれており、彼の生真面目さを物語っている。
そう、悪いやつではないのだ。
(平時はな)
俺は内心で溜息をついた。
そして彼を採らなければならない台所事情に対しても。
「次の戦争は近い。すぐに最前線に立ってもらうが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですっ!」
(大丈夫ではないんだよな)
彼の溌剌とした返事を、俺は無意識のうちに腕を組んで聞いていた。
サン・アロンフィルドは猛将タイプの人材だ。
必殺技を有するウスマン・バレロのような爆発力はないが、前線指揮官に求められる統率と武力については頭一つ抜きんでているし、歩兵、騎兵ともに高い適性がある。騎兵隊を指揮させて
ところがその長所を台無しにするのが、マスクデータとなっている素直さの低さだ。
武力の高さが反映されているのか、戦場までは大人しく付いてきてくれるのだが、戦闘に加入した途端に人が変わる。
平時は常に丁寧語で話す好青年が「功名だァ゛――!」(セリフ原文ママ)と怒鳴りながら、こちらの指示を無視して狂ったように
ゆえに、ついたあだ名は“功名マン”――。
そして大抵の場合、そのまま単独で突出。敵中にて彼と同じように武力の高い敵将にぶち当たり、足を止めたところを周囲から押し潰されて戦死の憂き目に遭うのである。
そのためプレイヤーは、アロンフィルドを最初から使い捨てるつもりで敵の戦列を突き崩すために利用するか、彼が突進することを念頭においたうえで彼の部隊を援護する戦術のどちらかを採ることになる。しかし、後者のプレイングでも彼を生かし続けることは、なかなか難しい。
好青年が敵中で孤立したまま無為に死ぬことに後ろめたいものを覚える場合は、そもそも戦場に出さないようにするという選択肢もあるが、それでは猛将タイプである彼の価値というものはなくなってしまう。
(まあ素直さの問題で勝手に戦場に出てくるんだが……)
アロンフィルドは、とにかく最前線に出張って手柄を挙げたい、そんな血気盛んな若者なのだ。
それから問題点がもうひとつ――彼の忠誠心は上がりやすいが、下がりやすくもある、ということだ。
彼が手柄を立てて戦場から生きて帰ってきたときに、何かしらの報奨を与えないとすぐ出奔するのである。
(土壇場で好き勝手やって周囲のフォローが必要になるくせに、終わったあとに叱責されたり、自分が評価されていないと感じたりすると、さじを投げてしまう人間だ)
端的に言ってあまり一緒に働きたくないタイプだが、前述のとおり人手が足りない。
そして次の戦争までの時間もまた、同様であった。
予想通り、まずグレイヘンガウス低東地方伯ら独立派諸侯は、不戦協定どころか、対ニコラエヴナ北方擁護伯に対抗する攻守同盟の締結を求める使節団を送ってきた。
こちらの用意している回答はノーだ。将来的にニコラエヴナ北方擁護伯と戦うにしても、いますぐ戦う必要はない。ただし俺たちは、即答は避け、可能な限り使節団を領内に留め置いて彼らに対するアンサーを遅延させた。
姑息な時間稼ぎ――一応、『至帝戦記グロリアスチャージ2』のプレイ中でも、同様の小技がある。
バグなのか意図した仕様かはわからないが、プレイヤー側は他陣営から同盟等の提案を持ちかけられた際、「承諾」か「拒否」のどちらかを選ぶ小ウィンドウの裏でプレイを続行することができる。しばらくすると断った扱いになるのか、小ウィンドウ自体が消えるため、長期に亘って保留にすることはできないのだが、この小技によって決定的な外交関係の変化を遅らせることが可能だ(相手からの宣戦布告については承諾も拒否も何もない、一方的な通告のため、戦争突入を先延ばしにすることはできない)。
独立派諸侯の使節団がやってきたのは奇遇にも、比較的温暖な気候である極東城塞周辺で初雪が降った日であった。
「い、いいんですか?」
ヤナは心配そうに相談してきた。
それも当然だ。
独立派諸侯たちには、制限時間がある。
ニコラエヴナ北方擁護伯の軍勢が雪に閉じ込められている間に、俺たちを味方に引き入れるか、あるいは排除するかして、後顧の憂いを断ちたいはずであった。
同時に、独立派諸侯にも、これより厳冬の影響を受ける土地に所領を有する者がいる。
この極東城塞伯領に隣接するグレイヘンガウス低東地方伯や、その周辺の軍事貴族らは冬季でも軍事行動を起こせるが、ニコラエヴナ北方擁護伯領にほど近い諸侯は身動きがとれなくなる――つまり、俺たちを叩き潰すとなれば、早く動き出したほうが都合がいいのだ。
「相手、怒っちゃいますよ……」
が、俺は「いいんです」と即答した。
いまここでグレイヘンガウス低東地方伯らと関係を築けば、ニコラエヴナ北方擁護伯にまとめて轢き殺されるだけだ。
むしろ諸々の事情から、彼ら独立派諸侯たちと連携しないほうがうまく戦えるまである。
そうして立場を曖昧にしている間に、俺たちは戦争準備を急ピッチで進めた。
この間、活躍するのはヤナである。
以前より彼女には、ウスマン・バレロが代官を務める農村であるイマリ村に、より多くの兵士たちを収容できる兵舎を築かせ、またイマリ村を中心として領内の交通網の再整備に着手してもらっており、時間が経てば経つだけこちらの兵站は強化されていく格好になっていた。
この備えについてはグレイヘンガウス低東地方伯ら、ニコラエヴナ北方擁護伯、いずれと戦うにしても有効に働くであろう。
「戦略を聞かせてもらおうか、トマシノ」
独立派諸侯らがしびれを切らして帰っていったあと、極東城塞の円卓の間でウィンストンが面白そうに言った。
いま円卓についているのは、
皇帝陛下の背後には竜種のラーカがうずくまっており、アロンフィルドは一瞬ぎょっとしたが、すぐに平静を取り繕い、生真面目な表情を浮かべた。
(ずいぶんと大所帯になったものだ)
と俺がぼうっと考えていると、ウィンストンが言葉を続けた。
「噂によると連中は攻守同盟締結の交渉が不首尾に終わった場合、こちらへの侵攻を考えているようだがな?」
ウィンストンはそこで水筒に口をつけた。
周囲に漏れた酒の臭いにアロンフィルドは怪訝な視線を遣り、それでも彼は紳士的であった。
「ウィンストン翁、皇帝陛下に弓引く
「小僧。この酔いどれは、あいにく正義が必ず勝つとは思っていないもんでね」
実際、勢力拡大に成功したとはいえ、ジシャガミ極東城塞伯領の軍事力と、グレイヘンガウス低東地方伯領の軍事力はようやく互角になった程度だ。
もちろんグレイヘンガウス卿は独立派諸侯のひとりに過ぎないのだから、今回もまた相手側のほうが戦力的には優勢である。
しかしながらアロンフィルドは腕を組んでから、老人に対する反抗心を少しばかり舌先に乗せた。
「それはそうかもしれませんが、正面の敵に驚いて背面にも敵を作ろうとする連中など取るに足らないかと。加えて彼らは烏合の衆です。先日のニコラエヴナ卿との合戦において、諸侯揃い踏み、万単位の軍勢を揃えることができたのは、奇跡にすぎません」
(こ、功名マンとは思えない発言だ)
と、俺は内心感じ入った。
実際『至帝戦記グロリアスチャージ2』において、同盟を結んだ複数の勢力が連合軍を編成して戦闘に臨む際には、大きな問題が生じるのである……。