至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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■19.仕様とか まったく知らずに 書くヘルプ。

 

「え……」

 

 正方形の黒帽子に同じく黒いガウンを着用し、石造りのゴーレムが背負う輿(こし)にかけているマントイフェル貴石奉献伯は、連続する喊声と悲鳴を前にして、思わずつぶやいた。

 ガルシア卿らグレイヘンガウス低東地方伯の騎兵たちから“成金女”などと称されていたとおり、彼女は家督の継承とともに莫大な富を築いた。父、祖父と先代の領主たちが領内で採れる貴石を租税代わりとして皇室に納めるだけだったのとは対照的に、彼女は父が健在の頃から貴石とその貴石の研磨について研究していた。

 運がいいだけの女だ――と周囲からは妬まれる立場の彼女だが、実際のところ彼女は勤勉な勉強家で、強い興味関心を有していた貴石とその関連技術だけではなく、加工した貴石をいかにして売りさばくかといった販路開拓をはじめとする経営学についても猛勉強の末に会得したのである。

 要は運を活かすだけの努力してきた人間であった。

 そして春先から現在に至るまでは軍事教本を読み漁り、軍事戦術についても知識を蓄えてきた。

 

「おかしいです」

 

 ゆえに彼女は目前で繰り広げられている現象が理解できなかった。

 まず待ち構えての反撃を得手とする槍兵が、己の長所を棄てる先鋒陣(スピア・ヘッド)を組むこと自体がありえない。

 槍兵と相性がいい陣形というのは地平陣(ホライズン)、いわゆる横陣や防御力の高い円陣じゃないのか。

 槍兵は先鋒陣(スピア・ヘッド)で突撃を敢行するような兵科ではなく、騎兵の集結や展開を援護したり、弓兵を保護したりするためのいわば“壁”じゃないのか。

 槍兵は所詮、百姓たちを集めて戦わせるための兵科じゃないのか!?

 

「閣下! 低東地方伯家臣ガルシア殿、お討ち死に! 続いてフロリアン卿、お討ち死に!」

 

「フロリアンくんまで!?」

 

 マントイフェル貴石奉献伯は、両掌で顔面を隠した。

 

 彼女が家臣の中でも最も信を置く軍事貴族のフロリアンは、マントイフェル貴石奉献伯の手勢における最前衛部隊であった。

 フロリアンが率いていたのは、剣兵約500名。マントイフェル貴石奉献伯は、極東城塞伯家臣のトマシノが弓兵部隊の運用に長けていると聞いていたため、長剣と盾で武装した剣兵を揃えて彼に託したのだった。

 そしてガルシア卿ら騎兵部隊の後方にいたフロリアンは、自ら率いる長剣と盾で武装した剣兵500名を以て、敵の猛攻を食い止めようとした。

 ところが敵の勢いに呑まれたうえに指揮官を失って逃げ惑う騎兵たちを目にした時点で、剣兵たちの間では動揺が広がり、間髪入れずに騎兵を追ってきた槍兵が殺到したことで、瞬く間にその戦陣は瓦解したのである。

 

「ハハハハハハハ! 敵将、()ったァ!」

 

 槍兵の先鋒陣、その最先頭に立つ男は刺し貫いた上半身――おそらくフロリアンのそれ――を驚異的な腕力で持ち上げ、高笑いを上げていた。

 

「みんな、敵は貴石奉献伯だッ! 捕えれば、身体から宝石まですべてがカネになるぞっ! 行け行け行け行けェーッ!」

 

 対する生き残りの剣兵らは、フロリアンの遺体を取り戻そうと槍兵たちに突進する者と、一目散に逃げだす者に分かれた。

 前者は泥濘を踏みしめて駆け、盾を捨て、片手剣を両手で握りしめると目の前の槍兵に斬りかかる。

 特に彼らの反撃は、フロリアンの遺体をひとりで槍玉としていた男――サン・アロンフィルドに集中した。

 

「みな俺よりも前に往け! 俺に構うな! おのおの手柄を立てろ、稼ぐ好機だぞ!」

 

 彼は槍を一旦置くと、その代わりに落ちていた2本の剣を拾い上げ、二刀流の構えをとった。

 それからまず目前に迫る敵刃を左手で保持する刀身で抑えこみ、相手の顔面に右手の剣先を叩きこむ。

 篩骨(しこつ)が破砕され、さらにその奥の内部構造を破壊された敵が後ろに倒れこむと同時に、続けて脇から上段に剣を構えた剣兵が迫る。

 

「褒美をもらって故郷へ帰るぞ! 行け!」

 

 アロンフィルドは左右に叫びながら、剣兵が剣を振り下ろす前に体当たりを仕掛けて転倒させる。

 それを避けて、またひとり、ふたりと新たな剣兵がアロンフィルドに肉薄する――が、それに文字通り横槍が入った。

 ひとりの剣兵が横殴りの一撃を浴びて転倒し、加えて繰り出された槍の穂先が無防備な脚に突き刺さる。

 

「ニイちゃん、アンタが死んだら俺らの褒美がパアだ!」

 

 横槍を入れた中年の男は再度、槍を繰り出す。

 さらにその横には若い男が並び、アロンフィルドに近づこうとしていた剣兵に対して槍の切っ先を向けて、その動きを牽制してみせた。

 そこへさらに複数の剣兵が散発的に駆けつける。

 槍兵らと剣兵らの殺し合いに決着がつくには、まだ時間がかかりそうだった。

 

「……ルーカス卿を左翼へ」

 

 押し寄せる怒りと悲しみにマントイフェル貴石奉献伯の思考が止まったのは、わずか10秒だった。

 彼女は(まなじり)をぬぐうとともに、左右へ叫んだ。

 

「ルーカス卿を左翼へ廻してください! フロリアンの剣兵があの槍兵どもを足止めしている間に、ルーカス卿に側面を衝かせますっ!」

 

「しかしそれでは、この隊とあの槍兵部隊を遮るものはなくなります」

 

「構いません」

 

「予備部隊として後背に温存していた東方宿星伯の部隊と、臨海囚獄伯の部隊に迂回攻撃を命じましょう。特に東方宿星伯から派遣された魔術兵部隊ならば――」

 

「かの部隊はもう逃げましたよ」

 

 マントイフェル貴石奉献伯は後方を一瞥してから言った。

 

「……」

 

「ルーカス卿と半包囲してあれを殺します。絶対に」

 

 マントイフェル貴石奉献伯は、頭上でハンドサインを出す。

 

 同時に彼女が有り余る金で買った機甲兵(ゴーレム)たちが、一斉にその両腕を打ち鳴らしてウォークライを上げた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

教本(ヘルプ)を読んできたような動きだな)

 

 俺は小山の中腹からマントイフェル貴石奉献伯が率いる軍勢の動きを眺めていた。

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』には前述のとおりチュートリアルモードは存在しない。

 しかしながらプレイ中にはヘルプを開いて、攻略のヒントを得ることができる。

 ウォーシミュレーション初心者向けにもわかりやすく、何が得意で何を苦手としているのかがまとまっており、また歴史的背景にも触れてくれている。

 

 “槍兵は防御力に優れた兵科です。防御力にボーナスが加わる陣形を組み、敵の攻撃を受け止めたあとに反撃に転ずるのが定石です。また味方騎兵の集結を支援したり、前線を押し上げて騎兵突撃のチャンスを作り出したりすることが得意です。”

 

 “ただし古代の重装歩兵とは異なり、盾は装備していません。そのため、弓兵の射撃に対しては脆いです。”

 

 “中世においては、招集された市民や農民が主体の歩兵は、軍事訓練を受けている騎兵に対して極めて劣弱だと考えられていました(実際そのとおりでした)。しかしながら14世紀に入ると、長柄武器で武装した市民たちや農民たちが密集陣形を採り、騎兵を撃退し、戦闘自体にも勝利するケースが現れました。こうした一連の流れを、現代の軍関係者の一部は歩兵革命と呼びます。ただしこうした歩兵の勝利は、槍兵だけでもたらされるものでは決してなく、大抵の場合は長弓兵や友軍騎兵の活躍、そして後の世には銃兵との連携が必要でした。”

 

 “こうした歴史上の背景からいっても、攻撃陣形を組んだ槍兵だけが突出する事態は避けなければなりません。攻撃陣形を組んでいる槍兵は、長柄武器を使用している関係上、側面からの攻撃に対応できません。剣兵の側面からの斬りこみに注意してください。剣兵は槍兵の得物を斬り捨て、容易に懐に入ってきます。”

 

 と、たとえば槍兵であれば上記のように解説が用意されている。

 これだけを読めば「なるほど、槍兵は防御に長けた兵種で、防御の陣形をとらせたほうがいいんだな」だと捉えるだろうし、他のSLGに触れたことがあるプレイヤーは「このゲームでも騎兵に対しては槍兵が有利か」と思うだろう。

 

(が――)

 

 上記のヘルプは大嘘である。

 いや、真っ赤な嘘を書いているではないのだが、ヘルプを書いている人間は開発チームとはまったく関係のない外注のライターだと判明しており、地球における一般論を書いているにすぎないのである(しかもそのライターも現代戦を専門とするライターであり、中世・近世ヨーロッパに詳しいわけではないので、微妙に間違っている点があるらしい)。

 つまり『至帝戦記グロリアスチャージ2』で有効な教本(ヘルプ)だとは言い難い。

 

 まず槍兵であっても反撃を前提とした防御陣形を採るのは不利だ。

 少しでも戦闘機動にボーナスが入る攻撃陣形を組み、積極的に敵の士気を削ぎ、味方の士気を稼ぐ突撃(チャージ)を選択したほうがいい。

 

 またゲームにありがちな“三すくみ”さえも機能しているか怪しい。

 同じ陣形で各兵科の相性を考えてみる。

 

 騎兵と槍兵では、先制攻撃を仕掛けた側が有利だ。

 槍兵と剣兵では、先制攻撃を仕掛けた側が有利だ。

 剣兵と騎兵では、先制攻撃を仕掛けた側が有利だ。

 

 そういう意味では功名マンは、不格好な縦列となっていた敵軍に対して、極めて有効な戦術を採っているといえる。

 

「トマシノ殿、そろそろだろう」

 

 今回の戦闘では副将としてそばにいるウスマン・バレロの言葉が終わらないうちに、敵軍勢の一部が明確な意思をもって動いた。

 マントイフェル貴石奉献伯の隊伍、その前面に展開していた剣兵たちが左翼へ運動し始めたのである。

 狙いは勿論、功名マンの側面を衝くためだろう。

 

 ゆえに俺は移動射撃を命じた。

 

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