至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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■2.初手ムーブ みんなも皇帝 ゲットじゃぞ。

『至帝戦記グロリアスチャージ2』は、とにかくプレイヤーに対して不親切だ。

 

 当然のようにチュートリアルはなし。加えて周辺勢力のスタンスが定まっていない1ターン目から自勢力の旗色をはっきりさせなければならないという仕様はまさに初心者には優しくない。

 

 またクソゲーと評されることになった一因には、プレイヤーからは見えない数値、いわゆる“マスクデータ”が多すぎたことがある。

 他のシミュレーションゲームではお馴染みの“威信”や“忠誠度”(このゲームでは事情があり“関係性”と呼ばれる)から“正統性”、“安定度”といった外交・内政にかかわる数字さえもわからないのだ。

 そのためプレイヤーからすると

 

「急に部下が離反した」

 

「理由なく急に全勢力と敵対状態になった」

 

「同盟を結んだ直後に同盟が破棄されて敵対状態になった」

 

 といった事態が起こりうる。

 

 関係者いわく、

 

「キャラクターの忠誠心や主従の関係性、その勢力の正統性が、数字で見えるっておかしくないですか?」

 

 ということらしい。

 

 が、コマンドを実行できる人材がごく少人数である陣営からすると、外交・内政・軍事関係に手を入れながら、内部数字の調整にまで気を遣うのは不可能に近い。

 

 だからこそ極東城塞伯領の人間は、初手で皇帝陛下の身を掌握しなければならないのだ。

 

 

 

「……」

 

「畏くも龍顔(りゅうがん)御前(おんまえ)に推参いたし奉りましたこと、万死に値する非礼、しかしながら……」

 

 帝都の宮城(きゅうじょう)・謁見の間――俺は平伏したまま階上の玉座に視線を遣ることなく、声を張り上げた。慎重に定番イベント“謁見”を思い返しながら、言葉を選び取っていく。

 

「賊軍がこの帝都に迫りつつあること臣下一同慙愧(ざんき)しつつも、いま情勢は天祐、地力、人心の欠落甚だしく、御味方きわめて不利……」

 

 とはいえ、多少の無礼があったとしても、咎めだてする人間はこの場に誰もいない。

 なにせ近衛軍将兵から高級官僚、女官に至るまで、「南方辺境伯ら賊軍が迫りつつあり」と聞くなりみな逃げ出してしまったからである。

 俺の周囲で同じように平伏しているのは、みな極東城塞伯領から連れてきた兵士たちだった。

 

「畏くも陛下におかせられましては、どうか臣・極東城塞伯のもとに御下りあそばされますようお願い申し奉ります」

 

 俺がいったん言葉を切ると、打てば響くように階上から小さな声が響いた。

 

「わかった」

 

「では」

 

 俺はすぐ横で這いつくばっている兵士に目配せするとともに、階上へ駆け上った。

 

 そのまま玉座に腰かけている少女――皇帝陛下に手を差し伸べる。

 

 綺麗なようで何も映していない空虚な色の瞳と、色素が抜け落ちている虚無の長髪。

 

「陛下、時間がございません。すぐに出立いたします」

 

「わかった」

 

 とった手はどこまでも軽い。

 

 そのまま皇帝陛下は俺の手に縋りながら玉座から立ち上がったが、立ち上がってからすぐにバランスを崩しかけた。

 

「陛下。支えましょう」

 

「わかった」

 

 皇帝陛下の足はおそらく同年代の少年少女よりも小さかろう。

 

 醜い宮中の“常識”と“慣習”は、彼女の足を変形させてしまっており、足指は凝り固まったまま動かなくなっている。

 

 俺は彼女を半ば抱きかかえるようにして立たせ、階下を見た。

 

「よし、これより我らは往路と同様に復路もまたブルネーロ東方宮中伯領を通過し、畏くも陛下を臣・極東城塞伯領にお送り奉る!」

 

「はっ!」

 

 それを見下ろす皇帝陛下は、どこまでも無感情であった。

 

 ああ、と俺は思う。

 

 魯迅の作品の一節が思い返される。

 

 専横する官僚ども、予算を横領する軍人ども、無責任な優雅な日々に耽溺する貴族どもが、よってたかって彼女をいじめ、手足を奪い、言葉を奪い、想像力を奪い、思考力を奪ってしまったのだ。

 

(いや、俺も同類か――)

 

 結局のところ、俺も皇帝陛下を利用しようとしていることにはかわりないのだから。

 

 

 

________

 

【イベント】“謁見”

 

○条件

①プレイヤー陣営のスタンスが「保守」である。

②プレイヤー陣営の部隊が帝都にいる。

③帝都が他陣営に占領されていない。

 

○イベント後

・皇帝陛下がプレイヤー陣営に加わる。

 

________

 

 

 

 皇帝陛下を味方に引き入れるイベント“謁見”を起こせるチャンスは、周辺勢力が中立であり、プレイヤーの部隊がその領内を好き勝手に移動できるこのプレイ開始直後にしかない。そして5ターン目には、南方辺境伯が尖兵を遣って帝都を占領し――皇帝陛下を弑逆してしまうのである。

 

(彼女を極東城塞伯領に引き入れるメリットはふたつ)

 

 俺は抱きしめれば折れてしまいそうな陛下をやむなく背負った。

 

(ひとつは皇帝陛下自身だ)

 

 現時点の皇帝陛下のステータスは『信長の野望』でいうところの

 

統率:10

政治:10

武力:10

知謀:10

(上記100が最大)

 

 に近いいわゆる無能キャラなのだが、皇帝陛下は様々なイベントの起点になるキャラクターなのである。しかも彼女はこれから“成長”する。

 

(それからマスクデータ対策だ)

 

 加えて皇帝陛下を迎えることに成功した「保守」陣営は、正統性や威信といった数値に多大なボーナスが加わる。

 事実上、これにより農民の反抗や兵士の逃走等は、まったく考えなくてよくなるくらいだ。

 逆に皇帝陛下を握った陣営と対戦するとなると、前線部隊の士気がガタ落ちする(貴族層に叛乱の強い意思があっても、士卒層は皇室を尊敬する平民が多いため)。

 

「トマシノ様、しかしこれで南方辺境伯――賊軍とは完全に袂を分かつことになりますな」

 

 すっと隣に歩み出てきたのは、周囲から“副長”と呼ばれている平民の男であった。

 

 俺は皇帝陛下に腕を前へ廻すようにお願いしてから、左右にも聞こえるように言った。

 

「ジシャガミ、トマシノはもとより皇帝陛下の藩屏(はんぺい)。それに――これはあくまで喩えだが、井戸に落ちようとしている赤ん坊がいるとき、俺はそれをかわいそうに思うし、可能であれば助けようと思う。それが人道というものだ」

 

「なるほど。では行きましょう。南方辺境伯は慌てて追ってくるかもしれません」

 

「こちらに気づいてからおっとりがたなで駆けつけて、間に合うものかよ」

 

「復路は再びブルネーロ東方宮中伯領を移動します。いいですね」

 

「動きはあるか?」

 

 副長と呼ばれている平民の男は「いえ」と首を横に振った。5ターン目まで他陣営が軍事行動を起こすことはないとわかっている俺だが、副長と示し合わせて街道上に見張りを残していっていた。

 

「トマシノ様、街道上には特別な動きはございません」

 

「ならば同じ道を往く」

 

 正直なところ俺は事態をかなり楽観視していた。

 仮にゲームスタート時の初期設定が適用されておらず、南方辺境伯や東方宮中伯の大軍勢が追ってきたとしても、こちらの手勢は頭数が少ない分、機敏に動ける。これはゲームの仕様も関係ない道理の話である。

 

 また軍事行動が『至帝戦記グロリアスチャージ2』の設定、仕様にきわめて忠実であれば、大軍を率いる南方辺境伯は絶対に我々に追いつけない。

『至帝戦記グロリアスチャージ2』においては301名以上になると、部隊行動速度は大きく減じられることとなる。

 これによりゲームプレイ時には、大部隊から301名未満の小部隊が逃げ回るという事態が頻発するようになっており、大部隊だけを揃えて敵を押し潰すというプレイングは封じられていて、プレイヤーからはかなりの不評だった。

 

 それから俺には、切り札があった。

 

(いざとなれば、無限移動バグを使う)

 

 陛下を利用してでも、バグを利用してでも生き残る――それが俺なりの覚悟であった。

 

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