至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は7月11日(金)前後を予定しております。

いつも感想もありがとうございます。

頑張って順番に返信していきます。

今後ともよろしくお願いいたします。



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■21.ドラゴンと オクトパスとね エルフです。

 勝利の凱旋というにはあまりにも地味すぎる。

 マントイフェル貴石奉献伯を総大将とした敵部隊を撃退した俺たちは、ウスマン・バレロに任せた農村、イマリ村に戻ってきた。

 村にはヤナが廻した物資が到着しており、またウスマンの妻であるクロティエルデ・バレロの采配の下で食事をはじめとした休息の用意が万全に整えられていた。

 

(連中が中途半端な連合軍を繰り出してきたおかげで勝てたな)

 

 部隊の士気は、その戦場をとりまとめる総大将に対する士卒たちの忠誠心や、部隊長と総大将との関係性によって決定される。

 つまり他勢力から援軍として派遣されてきた部隊は、総大将を務めている人間との関係も、忠誠心も構築できていないため、最低限の士気しか有さない。そのためすぐに崩れるし、あるいは勝手に撤退していく。そうして派遣された友軍が退くと、今度は総大将が直卒する部隊も含めた全軍の士気が低下し、著しく不利になってしまうのだ。

 

「とはいえ綱渡りは始まったばかりだわな」

 

 軍議を開くために集まった陣屋で元・宮廷魔術師のウィンストンは「油断禁物」とのたまいながら、大きく欠伸をした。彼がここにいる理由は、ヤナから物資輸送の護衛を命じられ、輜重部隊とともに極東城塞からイマリ村までやってきたからであった。またウィンストンはただ素直にヤナの命令を遂行するだけではなく、隣接するグレイヘンガウス低東地方伯領や、マントイフェル貴石奉献伯領に侵入して情報を収集していた。

 

「ウィンストン様、たしか貴石奉献伯に子どもは――」

 

「おらんわ。実際、主君を失った貴石奉献伯領じゃ、家臣どもはみな自領や自身の持ち場の守りを固めるばかり。新たな動きは何も見受けられなんだ」

 

(やはり、ブラックホール化したか)

 

 ブラックホールバグによってマントイフェル貴石奉献伯の軍兵たちは、組織的抵抗が行えなくなっている。

 

(チャンスだが、飛びつく必要はない)

 

 いまマントイフェル貴石奉献伯領を切り取りにかかれば、容易に併呑できるであろう。しかしながらそのためには、野戦軍を貴石奉献伯領へ派遣する部隊と、敵野戦軍を迎撃するための部隊に分割しなければならない。

 ここで焦ってマントイフェル貴石奉献伯領に手を出す必要はない――なにせ彼らがブラックホールバグから抜け出すには、最低でも1年はかかるのだから。

 

「ウィンストン様、ありがとうございます。とりあえず敵連合軍の一角、貴石奉献伯は脱落――この調子で敵野戦軍を破り、有利な盤面を作り出しましょう」

 

 俺は左右の反応に注意した。

 ウィンストン、ウスマンら3人組、そしてアロンフィルド。

 誰かがマントイフェル貴石奉献伯領を一挙総()りしよう、と発言すれば、事態は面倒臭い方向に向かう。

 

「おっしゃるとおり、我々は戦場での勝利を重ねるほかありますまい」

 

 真っ先に口を開いたのはアロンフィルドであった。

 その横に座っているウィンストンが、ふんと鼻を鳴らす。

 

「小僧、戦略的失敗を戦場の勝利で覆すことはできない、という理論を知らんのか」

 

「ウィンストン翁、物事はすべて理論に即するわけではありません。一対多の盤面は確かに我々の不利であり、1度や2度、戦いで勝ったくらいでは覆せません――」

 

 アロンフィルドは努めて冷静に言った。

 

「が、10回勝てばどうでしょう。100回なら?」

 

「お前は脳味噌まで筋肉とみえるな」

 

「現実としてそうするほかないから、そう言っているだけですよ」

 

 アロンフィルドの言葉に、ウィンストンはにやりと笑うとともに水筒を口にやった。

 

 その後、軍議が散会となったあと、俺は“功名マン”――サン・アロンフィルドに呼び止められた。

 

「戦功に対する褒賞をいただきたい」

 

「もちろん金子(きんす)なり、領地なり、褒賞は与える」

 

 俺はそう答えた。

 強欲な、とは思わない。

 ただ続けて、生前から疑問に思っていたことを素直に口にした。

 

「しかしなぜそこまで功名を立てることに、褒賞にこだわる?」

 

「……生きるために必要だからです」

 

「生きる?」

 

軍兵(ぐんぴょう)が――特に亡くなった彼らの家族が生きていくために、です。帝国の軍政において、遺族に対する十分な補償はない。ならば私が分配するしかない」

 

「……」

 

「戦場に出れば、多かれ少なかれ、勝っても負けても、人は死にます。稼げなければ、私は士卒の家族に損をさせる一方だ」

 

「先進的な考えだ」

 

「先進的、ですか。奇人だと言われるかと思いました」

 

 サン・アロンフィルドは気恥ずかしげにそう言った。

 しかしその表情や言葉には、翳りはいっさいない。

 一方で俺は彼の思想と、彼の戦術が微妙に矛盾していることを指摘すべきか一瞬だけ迷った。戦功を挙げて手に入れた褒賞を分配する行いは、士卒からの人気を集めるだろうし、人道的に間違っていないといえる。だが一方で、戦功を挙げるために実施する遮二無二の突撃は、士卒の死傷率を増大させる――要は不幸な人間を増やしてしまっているのである。

 

(このまま気づかないでいたほうが幸せかもしれない)

 

 とりあえず俺はその場で彼に現金を渡すことを約束した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 グレイヘンガウス低東地方伯ら独立派諸侯連合は、初戦の敗北に衝撃を受けつつも、次の手を打った。シュトゥブニック東方宿星伯の部隊を中核として、特別兵科・上級兵科でまとめた機動部隊を極東城塞伯領へ差し向けたのである。直近の戦闘において常勝のトマシノが向こうにいるのであれば、正面戦闘を避けて焼き討ちや略奪を繰り返し、敵のリソースを奪ってやろうという作戦だった。

 

「……嫌だねえ」

 

 前方警戒の務めを任されたグレイヘンガウス低東地方伯の家臣、ライアン卿は馬上からぺっ、と唾を吐いた。

 

「……」

 

 轡を並べる副将、シュローダーは顔をしかめてから「何がですか」と聞いた。

 対するライアン卿は愛おしげに馬の背を撫でてから、彼女に一瞬だけ視線を遣った。

 それから忌々しげに言う。

 

「あの醜悪なバケモノどもだよ」

 

「この非常時です。やむをえないのではないですか」

 

「いや、あれ自体が問題なんじゃない。俺が思うにあれを1年かそこらで造り出せるわけがない」

 

 ライアン卿とシュローダーの遥か後方を行軍しているのは、シュトゥブニック東方宿星伯が率いる異形の戦列である。

 まず目立つのは、人型のフォルム――その後頭部や背中から8本の巨大な触腕を伸ばし、うち4本の触腕で歩行する怪物、ドラゲルフォクトパス。もちろん天然の存在ではありえない。臨海囚獄伯領に収容されていた少数民族を改造した人工生命体だ。

 さらにそれを警護するように、四つん這いの人体の背中の上に、もうひとつ索敵用・戦闘用の上半身を搭載した合成獣(キマイラ)スーパーエルフが随伴する。

 それに続くのは、シュトゥブニック東方宿星伯の家臣であるキャシー・ガーメイカーが操る200余名の屍人(グール)

 

「東方宿星伯領では以前からあれらを製造していたというわけですか?」

 

「そらそうよ。しかも臨海囚獄伯と結託して、だ。“鬼の北獄、過労の南獄、戻ってこれない臨海獄”なんて戯言があるが、実際そのとおりだったのかもな」

 

 そんなやりとりが行われている遥か後方では、キャシー・ガーメイカーと同じくシュトゥブニック東方宿星伯の家臣であるハンフリー・ブラックストンが、馬車の中で歓談していた。

 

「戦争とはなんと素晴らしいことなんでしょうか?」

 

 歓談、といってもここまでは、この部隊を率いているブラックストンが饒舌に語っているにすぎない。

 

「私の傑作たちが日の目を浴びる。もうこそこそ隠れて実験をしなくてもいい。原材料も調達し放題――そして造ってみたら試してみたいのも人の情というもの」

 

 返り血も体液も目立たない黒衣に身を包んだブラックストンは、フハハハハ、と哄笑する。

 

「そのすべてを、戦争が満たしてくれる!」

 

 対して黒の長髪を切り揃え、黄金の瞳を有する死霊術師のキャシー・ガーメイカーは小首を傾げた。

 

「そうではないですか、ガーメイカー卿! あなたもその揃えた死兵たちがどのくらい活躍できるのか、ずっと見てみたかったはずだ!」

 

 唾を飛ばしながら語るブラックストンを前にしても、白衣を纏ったガーメイカーは動じない。

 

「北方戦線は運用面で不安が残るため見送りましたが――」

 

 ブラックストンの言葉を聞きながしながら、ガーメイカーは思う。

 

(狂っている)

 

 ガーメイカーは無言のまま、水筒に口をつけた。

 

(戦争の何が面白い?)

 

 ちなみに北方擁護伯との戦端が開かれたとき、ガーメイカーはシュトゥブニック東方宿星伯に対して土下座し、額を擦りつけて従軍だけはしたくないと懇願している。

 今回はシュトゥブニック東方宿星伯から“劣弱なジシャガミとの戦いであるから”と懐柔されつつ、暗に従軍しなければ殺すという脅迫をされたがためにここにいる。

 死人を操り、生死の境を研究し、そして荒事を避ける彼女のことを周囲は「狂っている」と評する。

 

 が、彼女からすれば周囲の人間こそが狂っているとしか思えない。

 

 人は死ねば終わり。

 

 なのになぜ容易に他者との殺し合いの場に出ていける?

 

 なぜ貴様らは訪れる死を考えないまま平然と日々を生きていられる?

 

 なぜ死に抗おうとしないまま、必ず来たる終わりに向かって時間を空費できる?

 

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