至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は8月12日(火)を予定しております。



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■25.赤・青・緑の絵の具で白を作り出せるのはAI生成動画だけ!

「こちらです」

 

「ありがとう」

 

 副長とともに案内役を務めることとなった俺の言葉に、銀糸で飾られた近代風の軍服と非実用的な装飾が為されたサーベルを佩いた彼女は、軽く会釈を返した。その横顔には僅かな微笑みさえたたえている。が、彼女の翠眼は俺と副長をいっさい映していなかった。彼女に続くフルプレートメイルの護衛もまた、同様だった。

 要は彼女たちにとって、俺たちは路傍の石同然というわけだ。

 しかし呑まれてはいけない。

 門をくぐり、城内に入り広間に向かう――そこで俺は切り出した。

 

「しかしなぜわざわざこの極東まで?」

 

「……」

 

 隣を歩く彼女はこちらに一瞥もくれないままであった。

 

「攻守同盟の締結さえも考えていらっしゃるというお話でしたが――」

 

「私は」

 

 彼女が吐き出した言葉には、多少の苛立ちが乗っていた。

 

「君と交渉に来たわけではない」

 

「そうでしょうね。極東城塞伯閣下はこの先でお待ちです」

 

「極東城塞伯とも話すつもりはない。私は君たちに用はない」

 

 ならば誰に、と問う愚は犯さなかった。

 その代わりに俺は心の底から湧き上がる懐疑、好奇を押し殺しながら頷き、頷きながら副長に目配せした。

 

「……そうでしたか」

 

 副長はすっと俺たちから離れていく。

 

「畏くも皇帝陛下もまたこの先でお待ちあそばされています」

 

「ほう」

 

 彼女はそこで初めて俺の顔をまじまじと見つめて、口を開いた。

 

「君たちはしっかりと分をわきまえているようだ。安心したよ」

 

「というと?」

 

「疑っていた。皇帝陛下を政治上の単なるカードとして扱っているのではないかとね」

 

「まさか。私は皇帝陛下の臣、畏れ多くも皇帝陛下の御身をお守り奉り、御心のままに働くのは当然のこと。この点は臣・ジシャガミ極東城塞伯も同様でございます」

 

 と答えながら内心で安堵する。

 

(第一関門突破、というところか)

 

 一応は同じ保守陣営の勢力同士だ。もとより皇帝陛下の臨席は決まっていた。

 

(しかしながら彼女の“地雷”がわからない)

 

 ここまで彼女は理知的に話ができている。

 ゲームプレイにおいては同盟を結び、相手の要求を呑んでいたとしても「この裏切者が!」と突然キレ始めるのが彼女なので、逆にこうして落ち着いて話ができること自体が新鮮だった。一方で彼女の好悪を知る機会は、生前のゲームプレイではいっさいなかったし、彼女が嫌悪するポイントについては、マニュアル&公式設定資料集にも載っていなかった。

 

「畏くも皇帝陛下におかれましては――」

 

 それから間もなく始まったニコラエヴナ北方擁護伯による“拝謁”は、とんとん拍子に進んだ。

 当然だ。なにせ彼女が一方的に挨拶の言葉を口にするだけだからである。

 俺とヤナたちもまた上座にいる皇帝陛下の傍に控えて、押し黙っているだけだ。

 彼女の一通りの口上が終わると、間髪入れずに皇帝陛下は口を開いた。

 

「はるばる、大儀である」

 

 宮廷儀礼についてはウィンストンが皇帝陛下に教育した成果が出ている。

 たしかに宮廷儀礼では初歩の初歩となる定型での返答ではある。

 しかし1年前には「わかった」「そうか」しか口にできなかった彼女からすれば、大した成長だといえるだろう。

 

「……」

 

 ニコラエヴナ北方擁護伯も驚いたのだろう。

 少し呆けてから「畏くも皇帝陛下のお言葉に、この臣・ニコラエヴナ、恐悦至極でございます」と言葉を震わせながら答えた。

 

「シャーッ」

 

 なぜか皇帝陛下の足下で丸くなっている幼竜ラーカが威嚇の声を上げ、その鉤爪を床に食いこませてみせる。

 

「ラーカ、どうしたの」

 

 皇帝陛下は小さい掌をラーカの頭部に乗せて、彼を制した。

 その様子をニコラエヴナ北方擁護伯は注視してから、ぴくりと眉を動かした。

 

(なにかおかしい)

 

 この瞬間、俺はそう感じたが、うまく言語化ができなかった。

 時間稼ぎでもするべきか、とも思ったが、仮にニコラエヴナ北方擁護伯が生粋の尊皇タイプの人間だった場合、彼女と皇帝陛下の間に水を差すのは危険であった。

 微妙な間が空いてから、再びニコラエヴナ北方擁護伯は頭を深く下げて口を開く。

 

「畏れ多くも臣・ニコラエヴナが献策奉ります」

 

「わかった。申せ」

 

「臣・極東城塞伯と臣・北方擁護伯、畏れ多くも両者は皇帝陛下をお守り奉るため、攻守同盟の締結を献策奉ります」

 

「わかった」

 

 皇帝陛下はわずかに頷いた。

 このニコラエヴナ北方擁護伯の献策についても想定済みだ。同盟締結を申し入れられたら(あとで破棄されるにしても)とりあえず承ける、それが基本方針となっていた。

 

「臣・極東城塞伯と臣・北方擁護伯はともに協働(ちから)せよ」

 

「はっ」

 

「朕――このイリスが、盟の締結を見届けよう」

 

「陛下」

 

「……?」

 

「そのイリス、とは」

 

「朕の名だ」

 

 少し誇らしげに皇帝陛下が答えた瞬間、魔力が弾けた。

 俺が捉えられたのは、白銀の刃が放つ光と、翠眼が曳く眼光。

 しかしそれだけ見えれば十分だった。

 彼女の視線と殺気、その指向先は皇帝陛下ではなく、俺でもなく、俺の隣――。

 

「え」

 

(いつぞやもこんなことあったな)

 

 そんなしょうもない思考だけは速く、そしてその思考と同時に体は動いている。

 俺はヤナとニコラエヴナの合間に割りこんだ。

 迫るのはサーベルから繰り出される苛烈な刺突の一撃――その刀身に俺もまた抜き身の刀身を這わせる。

 

(ここから鍔競り!)

 

 金属音と火花を放射しながら、俺の刀身上を滑っていくサーベル。

 恐れることなく俺は前に出て、相手の鍔にこちらの鍔を叩きつけてその剣技を封じ、同時に体当たりで相手の動きを制しようとする。

 が、それよりも一拍早く、彼女は魔力を全身から噴射した。

 続くのは超人的な戦闘機動。彼女は本来ならば制御不可能であるはずの前方への運動エネルギーを即座に打ち消し、それにとどまらずに強引に後退、後退しながら頭上へ切っ先を振り上げていた。

 

(疑似スラスターの急制動、ロボットアニメかよッ!)

 

 勿論、次に来るのは大上段からの斬撃!

 切っ先の動きを見てからでは間に合わない。反射的に刀身を持ち上げて防御と返し技の用意に移る――と同時に、俺は読み合いに負けたことに気づいた。

 僅かに相手の切っ先がずれ、それから大きく横薙ぎの一撃に繋がっていく。

 

(違う、胴狙い――!)

 

 次の瞬間、意識が飛んだ。

 

◇◆◇

 

 トマシノが吹き飛ばされると同時に、ヤナ・ジシャガミ極東城塞伯の悲鳴が響き渡る。

 腰を浮かせた皇帝陛下の前にウィンストンが割りこみ、その脇を追い越したサン・アロンフィルドが握る短槍から鋭い刺突をニコラエヴナの脇腹目掛けて繰り出した。

 それを視界の隅で捉えていた彼女は、僅かに上体を反らして切っ先を紙一重で躱し、やはり魔力噴射で飛び退る。

 

「ト、トマシノさんッ! トマシノさん!?」

 

 喚きながら倒れ伏すトマシノへ走り寄るヤナ――それに対してニコラエヴナは虫でも見るような冷徹な視線を遣った。

 

「ニコラエヴナ卿、乱心か?」

 

 その殺意の放射にも怯むことなく、アロンフィルドが槍を手元に引き絞りながら立ちはだかる。

 

「乱心?」

 

 ニコラエヴナはハハハ、と乾いた笑い声を上げた。

 その遥か背後に控える彼女の護衛たちは、刀槍こそ構えているものの、どちらかといえば困惑の空気をまとっている。暗殺を計画してきたのだとすれば、実に不可思議。アロンフィルドが彼女の乱心を疑うのも道理であった。

 ところが、ニコラエヴナは「正気だよ」と嘲った。

 

「いや君、むしろ君たちのほうが誅殺されるべき禁忌破りを犯した。私は正気だ、実に正気だ」

 

「何?」

 

「それに比べてそこの女はなんだ? 皇帝陛下に何をした!?」

 

「まるで閣下が皇帝陛下を洗脳したかのように物言い!」

 

「そうではないか?」

 

 威嚇しながら幼竜のラーカがアロンフィルドの横に躍り出て、その影ではこそこそとガーメイカーがヤナの横にまで走り寄り、指先に灯した光をトマシノの眼前で振っている。

 それを無視しながら、だがしかし彼らにも聞こえるようにニコラエヴナは叫ぶ。

 

「君たちは私が敬愛する純真無垢の皇帝陛下を汚した!」

 

「まったく話が見えない」

 

「俗世と切り離されているからこそ皇帝陛下には神聖が宿るのだよっ!」

 

「マジックボール」

 

 踏みこもうとしたニコラエヴナの前方をウィンストンの放った魔弾が通過してその動きを制し、続けてアロンフィルドが疾風の如く突進する。

 一合、二合。白刃が激突し、火花が散る。

 魔力噴射による超人的な戦闘機動を行うニコラエヴナに、常人の延長線にある筋肉だけで食らいつくアロンフィルド。

 数度の打ち合いの結果は、さらにニコラエヴナを数メートルほど後退させるだけに終わった。

 

(いや、これでいい)

 

 それでもアロンフィルドは満足であった。

 必要なのは彼女と彼女の標的の間に距離を設けることにほかならない。

 槍を構え直し、相手が動けばこちらもそれを制することができるように準備を整える。

 

「この勘違い女が――」

 

 そのとき憤怒の声を上げたのは、ウィンストンである。

 

「何が神聖か、皇帝陛下もまたただの人にすぎんわっ」

 

「元・宮廷魔術師とあろうものが不敬きわまる。純真純白、ゆえに皇帝陛下は俗事に惑わされず正しく政を執り行うことができるのだよ!」

 

「ド阿呆が、その結果がこれではないか! 宮廷の貴族どもは皇帝陛下に何も教えようとせずに好き勝手を働いた!」

 

「それは周囲の――皇帝陛下を傀儡とした奸臣どもの問題だよ」

 

 ニコラエヴナは哄笑する。

 

「無知であるからこそ皇帝陛下は、天地人が求むるところの審判をくだせるのだ!」

 

「まったく理解できんわ、この狂人め!」

 

「そう、私は狂人かもしれない。私の命令で人々が死んでもなんとも思わないのだからな。だからこそだ。私や君たちのような汚濁の塊に、皇帝陛下は影響されてはいけないのだ」

 

 すん、と彼女は冷静になったかと思うと再び叫び出した。

 

「その純性、その無垢性こそ、皇帝陛下に必要な資質! ゆえに皇帝陛下は神聖不可侵でなければならない! 我々同様の思考も、我々が使う言葉も、究極的には皇帝陛下には必要がないっ!」

 

 言葉を切って、彼女はウィンストンを睨んだ。

 

「もちろん、名前もだ」

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