至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は8月20日ごろを予定しております。

今回の話は事前のプロットや設定にまったくなかった代物です。
(小説ストーリーテラー出身者はこういうことをやりがち(X敗))

つまり過去に“設定”をしている作者であるはずの私でさえ、リアルタイムで「俺」をコントロールできていないというかたちです。

今後ともよろしくお願いいたします。



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■27.憑依した先は平均的能力の武将でした~「これクソゲーでやったやつだ!」クソゲーマニアの俺は原作知識で生き残る~

 

「右脇腹については、特に問題はありませんね」

 

 その数日後、死霊術師にして自称・大陸一の生命魔術の使い手であるガーメイカーが、城内に開いた医務室にいた。

 ヤナによれば、彼女が自らやりたいと申し出たことらしく、いわく「研究は大衆に理解されてこそ進展をみせる」ということだそうだ。

 戦場に駆り出されない口実づくりではないか、と思うのは穿ちすぎだろうか――しかし、士卒や士卒の家族たちからは好評らしく、俺の番が回ってくる前にも、2、3名の患者がいた。

 

「そのあと、吐き気や頭痛は?」

 

「ない」

 

「それは良かった。頭だけは――正確には脳だけは時間を巻き戻して治療することができません」

 

「やったことがあるのか?」

 

「ええ。祖父はそのまま亡くなりました」

 

「それは……」

 

 興味本位で聞いたことを後悔した俺に、そっけなくガーメイカーは言う。

 

「ご心配なく。私の見立てに間違いはありませんでした」

 

「え? は?」

 

「脳内の血管の問題でした。しかも時間が経ち過ぎていた。破れた血管だけを特定して、それを修繕すればいい、という状態ではありませんでした。死んだ脳細胞も特定して巻き戻さなくてはならない。しかし健全に働いている部位と死んでいる部位を判別するのは困難を極めます。しかし、もうその猶予もありませんでした。結果、大部分の脳細胞の時間を巻き戻しにかかりましたが、実は生きている部位と死んでいる部位でかかりかたに差異が生じます。予想通り脳機能全体の整合性が――」

 

「……」

 

「……」

 

 閉口している俺に対して、ガーメイカーは不可思議な表情を浮かべたあと、咳払いをした。

 

「とにかく私の治療の技量については御心配なく。私の見立ては正確です。祖父の場合は、まあ、ダメもとでしたから」

 

「そういうことじゃない」

 

 俺は他人の過去に踏み入ったことに後ろめたさを抱きつつも、目の前の彼女との“ずれ”に、寒気さえ感じた。

 しかし次の瞬間、ガーメイカーは人間らしい溜息をついた。

 さも自然に、だが悔恨とともに。

 

「祖父は私の学費をはじめ、物理的・精神的支援をしてくれました。最後には自らの脳まで私に差し出してくれたのです。にもかかわらず、祖父の“時間切れ”に不死の実現を間に合わせることができなかった。いまもできていない」

 

 身近な人間との死別は、特別なことではない。

 

屍人(グール)は蘇生しているわけではありません。あれは身体(ガラ)を操っているだけです。祖父は永遠に失われた。永遠に」

 

 そしてガーメイカーもやはり人の子だということだ。

 

(誰しもが何かしらそういう過去を持っていて当然か)

 

 俺は、そこまで語らせて申し訳ない、と軽く頭を下げた。

 と、同時に内心、罪悪感を覚えた。

 頭に血が上っていたとはいえ、ニコラエヴナに揺さぶりをかけるために、この世界の人間の“過去”が単なる設定で、本当は彼女たちの実体験を伴わない代物だ、と内心で決めつけて語ったことについてである。

 

(いや、おそらくそれは正しいのだろうが……)

 

 俺がそんなかたちで考えていると、ガーメイカーは「経過にだけは注意してください。特にこのまま何もなければ大丈夫です」と、机上に向き直って何か記録をとった。

 それから彼女は意外なことを言い始めた。

 

「しかし、私としては皇帝陛下のほうが心配です」

 

「……ここ2、3日は皇帝陛下に変わったご様子はない」

 

「どうでしょう。大の大人がああもギャアギャアと喚き散らせば――」

 

「反省している」

 

 数日前のニコラエヴナの一件の直後、皇帝陛下は明らかに気持ちを落としていた。

 それはそうだ。あのとき皇帝陛下の前で起こったのは、単なる殺し合いだけではなく、彼女が皇帝として相応しいかどうかという論争であった。売り言葉に買い言葉で年甲斐なく乗せられた、とはウィンストンの言であったが、俺も当事者として反省しなくてはならない。

 

(昔、似たようなことがあった)

 

 (えいこ)から初めて離婚の話を切り出されたとき、俺は呆けた。

 それから彼女の主張を聞き、こちらも話をしているうちに、他ならぬ俺がヒートアップしてしまったのである。

 細かいやりとりはあまり覚えていないが、要はもっと子どもや家庭に目を向けてほしい、現状でそれが難しいなら転職してほしい、それができないなら離婚である、という相手の要求はまったく理解できなかった。

 当時の俺にはその要求を満たすのは無理だと思った。

 現状でこれ以上、時間を捻出することはできなかった。

 転職はできるかもしれないが、同じ業界内の他社はどこも似たような労働条件だから解決にはならない。

 そして他業界に転身しようと思えば、根性しか取り柄がない俺の年収は当然落ちる。

 ふたり所帯なら特に問題はないが、小学生の海優(みゆ)は彼女本人が私立への進学を望んでいたし、海優(みゆ)が私立に進学すれば、妹の芽生(めばえ)も私立に入りたいと考える可能性があった。

 ゆえに転職もありえない。

 

 いちばんの問題点は、俺がそのことを当然彼女も理解してくれていると勘違いしていたことだった。

 

(あれは相当、声がデカくなってた。おそらくその会話も、海優と芽生に聞かれていたんだろうな……)

 

「精神面に対するアプローチは」

 

 ガーメイカーの言葉に、俺は我に返った。

 

「ここに来て日が浅い私にはできません。また主に脳が関わっているとみられている精神面については、私も外科的な手段では手が出せません」

 

「……」

 

「もちろん、ご自身の頭のほうも気をつけてください」

 

「わかった」

 

「よく勘違いされている方がいますが、死の可能性は誰しも平等に存在している。あなただけが特別なわけではありませんよ」

 

 俺は感謝の言葉とともにガーメイカーに頭を下げた。

 彼女の医務室を出てから「あなただけが特別なわけではない」、その言葉が妙に強く印象に残った。

 そう、俺だけが特別だとは限らない。

 薄暗い廊下を歩いていると、思考が後ろ向きになる。

 が、それを差し引いてもこの数日間、考えていたことがある。

 

(俺は元・日本人でもなければ、トマシノでもなく、ここは『至帝戦記グロリアスチャージ2』が原作の世界でもない?)

 

 昔、俺は『機動戦艦ナデシコ』や『新世紀エヴァンゲリオン』といったアニメ作品のSS――二次創作サイドストーリーを読んだことがある。

 だいたい原作の主人公がシナリオ開始時点や以前に転生、あるいは憑依、逆行するといった代物だ。

 そして俺がトマシノになる直前には、現実には存在しない原作を舞台にして、転生、憑依、逆行した主人公が知識を活かして活躍する、という作品が人気を博していることも、俺はなんとなく認知していた。

 

(シナリオスタートの時点で俺もまた行動を始めた。客観的にみれば、ヤナと変わらない)

 

 何の確証もないが、俺もまた偽物の記憶をもった他の人間と同じなのではないかという疑念を抱いてしまう。

 もしかすると『至帝戦記グロリアスチャージ2』もまた“存在しない”のかもしれない。

 俺は『至帝戦記グロリアスチャージ2』の“バグ”に、どこか既視感を覚えていた。

 

(まるで実際にあった悪名高いバグを掻き集めたような)

 

 そんな既知のバグを掻き集めたようなゲームが、現実に発売されるだろうか?

 

(いや、されるかもしれないが)

 

 KOTYを知っている身としては、世の中には先達の悪いところを掻き集めたようなゲームは普通にあると断言できる。

 

 しかしながら俺にはまだ引っかかる部分があった。

 

(俺は『至帝戦記グロリアスチャージ2』を遊んだ記憶がある。が、大陸西部を中心とした地形や細かい勢力の位置、特徴的な人材について、すべていま思い出せるわけではない)

 

 なにせハードはPS2。

 もちろん遊んだのはずっと昔のことだから、記憶があやふやになっていてもおかしくない――しかしこの欠落は異常だとわかる。

 プレイした実体験があれば、いくらなんでも大陸西部の強力な陣営をまったく思い出せないというのはおかしいのではないか?

 

(もしかするとここは『至帝戦記グロリアスチャージ2』という架空のゲームを舞台としたフィクションの世界で、俺も元・日本人の登場人物として過去を“設定”された存在でしかないのか?)

 

 ……そうなるとなんだ。

 

 (えいこ)との言い争いも。サルみたいな生まれたての頃から育っていくのを見ていたはずの海優(みゆ)芽生(めばえ)も、記憶に存在するだけの設定にすぎないのかもしれない。

 

 そう思うと、裏切られたような、むなしいような。

 

 そして、どこか、安堵するような感じがした。

 

 何のあてもなく廊下を歩き、外に出る。

 そのまま呆っと歩いていると、俺は練兵場にさしかかった。

 日は西に傾きつつある――その橙色の日差しの下に、ふたりの人影があった。

 

「1! 2! 3ッ! (えい)ッ!」

 

「いち、にぃ、さんっ、えいっ!」

 

「……」

 

 伸びているふたつの影は、あまりにも長さが違いすぎた。

 声を張り上げながら、槍を模した棒を突き出すふたり。

 ひとりはこちらまで風圧が来るのでは、と思わせるような鋭い突きを放っている。

 もう一方は槍術の素人からしてもかなり危なっかしい、というよりも体幹も姿勢も維持するだけでも精一杯という様子だった。

 

「……陛下」

 

 アロンフィルドと、皇帝陛下は、並んで稽古していた。

 

「邪魔するなよ!」

 

 声をかけられて、少し離れたところにウィンストンが立っていることに初めて気づいた。

 水筒を一煽りしてから笑いながら、彼は近づいてくる。

 

「イリスがやりたいと言ったことだ」

 

「陛下が?」

 

「話はしとらん。ただやりたい、と」

 

「……」

 

「ニコラなんとかのド阿呆の言をあまり真に受けるなよ」

 

「ウィンストン様、別に真には受けてません。あれは狂人の戯言です」

 

 と言いつつも、あの一件は俺自身を見つめ直す契機になったと言えるだろう。

 そんな俺の心情を知ってか、知らずか、ウィンストンは哄笑した。

 

「そのとおり。私の知っている過去の陛下がそうだったから云々かんぬんと女々しい……過去などなんの意味もないわっ!」

 

「……ウィンストン様はそう思われますか」

 

「過去はいまここになく、未来もいまここにない。あるのは現在の人の意志だけよな!」

 

 そう言ってからウィンストンは杖の先でイリスを指し示し「さあ、頑張れえい!」と大声を張り上げた。

 

「いち、にい、さん、えい!」

 

 イリスの声はお世辞にも大きいとは言えなかったが、それでも一生懸命なのはわかる。

 

 西の空にかかる夕陽は、冬のくせになんだか明るく練兵場を照らしているように見えた。

 

 そうすると俺もなんだかじっとしていられなくなって「ウィンストン様、自分も混ざってきます」と走り出していた。

 

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