至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は1週間以内です。

いつも誤字報告など、ありがとうございます。

主人公の名前を間違えていたため、訂正いたしました。



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■30.離反・従属・面白く(いや面白くはない)。

『至帝戦記グロリアスチャージ2』の“従属”は、プレイヤーとCPUの間で非対称的な仕様となっている。

 プレイヤー側が選択する従属コマンドとは、それすなわち無条件降伏にほかならない。従属を選択すると、自領が従属先の領主と家臣たちによって分割された旨の字幕とともにゲームオーバーとなる。

 

 一方でCPUのプレイヤーに対する従属というのは、不対等な同盟関係にすぎない。

 上位者にあたるプレイヤーは、当然ながら従属したCPUの人材や兵士を自由に操作できる。

 しかしその主従関係は永久に続くものでは決してない。CPUはマスクデータの数値変動や乱数、戦略の情勢によって、突如として再独立することがある――つまりCPU側はプレイヤー側が選択する“従属”コマンドとは対照的に、従属と、従属関係からの離脱を平然と行えるのだ。

 よってゲームプレイ中盤になってくると、従属と離脱を繰り返すCPUに悩まされることがある。

 

(だが従属の申し出を断る、という選択肢は終盤以外にはありえない)

 

 大陸の大部分を手中に収めたあとならともかく、未だ強力なライバルがいる中でCPUからの従属の申し出を断るプレイヤーはほとんどいない。

 なぜならばCPU側からの従属を拒絶すると“威信”や“正統性”といったマスクデータが大幅に低減してしまうからである。

 プレイ中に出現するメッセージいわく、

 

「保護を求めてきた弱者を助けないのは王道にあらず」

 

 ということらしいが、二度三度と従属と離脱を繰り返す裏切者に対しても気を遣わなければいけないのは異常というか、物には程度というものがあるだろう。

 

「……それで、閣下はなぜ従属を?」

 

「閣下と呼ぶのはやめてくれないか」

 

「わかりました、グレイヘンガウス卿」

 

 石造りの城壁から眺める景色は雄大である。

 雪原と低い丘陵、そして凍りつかずに流れる川――旧・低東地方伯領の北限にあたる城砦ジルニアから一望する景色は、大河ドラマのオープニングやWindowsのデフォルトの壁紙にでも使われていそうな大自然そのものであった。

 そしてグレイヘンガウスもまた、まるで何かから解放されたような晴れやかな表情で隣に立っていた。

 

「独立を標榜して周囲と連合してうまくやる――俺の度量ではなかった」

 

「だから従属の申し出を?」

 

「領民のため、この地のため、などと格好はつけることはできるだろうが、正直なところ遠因は俺自身にある。俺の力不足で、役が勝ちすぎていた」

 

「遠因、ですか」

 

 俺は首を傾げ、より深く聞くことにした。

 

「その仰りようでは、より直接的な理由があるように聞こえるのですが……」

 

 ゲームのプレイ経験で言えば、現在のジシャガミ極東城塞伯とグレイヘンガウス低東地方伯の力関係で、後者が前者に従属を申し出てくることはまずない。現状、こちらの陣営に勢いがあるとはいえ、総合力でみればまだまだ拮抗していると言えるのだから。

 ゆえに理由を知りたかった。

 ところがグレイヘンガウス卿は「俺にもよくわからん」と言いながら、無精ひげの生えた顎をさするばかりだった。

 

「寝て起きたら、家中揃ってヤナ・ジシャガミ極東城塞伯に降ることになっていた」

 

「それはクーデターでは……?」

 

「ウチのがそうしたらしい。家臣たちは特に疑問も差し挟まなかったようだ」

 

 “ウチの”という言葉が、彼自身の妻を指していると気づくのに少し時間がかかった。

 

「……お名前はたしかヴェゼッタ様、だったでしょうか」

 

「よく知っているな。あいつは社交には興味がないから、表に出ることもあまりないだろうに」

 

「……」

 

(状況が全然想像できん)

 

 ヴェゼッタ・グレイヘンガウスを知らないわけではない。

 プレイ開始の陣営リーダーであるグレイヘンガウス卿が寿命を迎える前に何らかの理由で死亡すると次のリーダーとして現れるのが彼女だ。

 能力は高い。とはいえプレイする度に見かけたり、ユーザーにネタにされたりするようなキャラクターではなかった。

 人材画面に載っているフレーバーテキストも「実家は取り潰された弱小貴族。夫を深く愛している」のような当たり障りのないような代物だったはずだが、詳細は思い出せない。

 

(いや、目を通したときに「スイーツ(笑)」と思ったような気がしなくもない)

 

 そういえば思いこみが激しい、みたいな記述があったような気がしなくもなかった。

 

「しかし追認とはいえ、よくご決断されましたね」

 

「いや俺も抗議はしたんだが、喧嘩では口でも腕っぷしでも勝てなくてね」

 

「……」

 

「それにヴェゼッタいわく、君たちなら信用できる、だそうだ」

 

(何をもってそう言えるんだよ)

 

 と俺は内心そう思ったが、口には出せなかった。

 グレイヘンガウスとヴェゼッタは従属の申し出とともに、わざわざ末っ子だという3、4歳の男児を極東城塞にまで差し出してきた。

 もちろん、人質である。

 

「で、俺は君や極東城塞伯閣下に信用してもらえるように努力するさ」

 

 次はないからな、と彼は口の端を自嘲ぎみにゆがめた。

 まったくもってそのとおりで、いくら乱世といっても裏切りは信用を損ねる。

 俺はグレイヘンガウスが『至帝戦記グロリアスチャージ2』のCPUとは異なり、いたって普通の神経をしていることに、安堵した。

 

 その翌日からグレイヘンガウスが信用獲得のために行ったのは、殺しであった。

 

「連中は自身の領内で攻撃の準備を整えているところだろう」

 

 ゆえにそれを先制して潰すのだ、と語った次の瞬間にはもう彼自ら陣頭に立ち、ジルニア城砦を出発していた。

 即座に追随できたのは、俺との話を傍で聞いていた数名の従者だけであり、慌てて騎兵たちが城門から遅れて飛び出していく始末。

 その背中を見ていて、俺はなるほどな、と思った。

 

(確かに他の連中とちんたら歩調を合わせるよりも、こっちのほうが気性に合っている)

 

 城壁の上から見送った俺が得心していると「ルイト様~」と声をかけられた。

 

「……ヴェゼッタさん、ですか」

 

 美しい金髪碧眼――しかしアニメやマンガのような華奢で可愛らしいお姫様では決してない。

 身長も肩幅もあるうえに、プレートアーマーをガシャガシャと鳴らしながら近づいてくるその姿は、威圧感さえ漂わせる。

 しかし対照的に、顔面には柔和な表情が在った。

 

「このたびは感謝申し上げます~」

 

 俺の両肩に彼女は両手を置き、にこりと笑った。

 

「これであの方も煩わしいことから解放されました~」

 

「煩わしい、というのは連合のことでしょうか」

 

「そのとおりでございます~。城門を出る姿、生き生きとしていたでしょう~」

 

「確かにそうですが……」

 

「この半年ほど、何かと会議だ調整だと奔走してしましたから~」

 

「自由人、というほどではないですが、グレイヘンガウス様は何事も身軽なほうが性格に合っているのかもしれませんね」

 

「ええ。それから――」

 

 ヴェゼッタは数歩退いて、膝を折って跪くと頭を垂れた。

 

「これからはこのグレイヘンガウス、ジシャガミ極東城塞伯の藩屏としてお扱いください」

 

「もちろんです。顔を上げてください。ともにヤナ・ジシャガミ極東城塞伯閣下のために働きましょう」

 

「?」

 

 顔を上げたヴェゼッタはきょとんとした表情をしてから、再び口を開いた。

 

「グレイヘンガウスはヤナ・ジシャガミ極東城塞伯と、ルイト・ジシャガミ様、そしてこれからお生まれになるであろうお子様に忠誠を捧げる所存です~」

 

「……」

 

「……」

 

「は? え?」

 

「隠さずとも大丈夫ですよ~。おふたりの関係が内縁の――」

 

「あの、誤解です」

 

 俺は慌てるというよりも困惑しながら手を振ったが、ヴェゼッタはにっかりとした顔で「では、私も参ります~」と城内に戻っていった。

 その途中で左右の兵士たちに声をかけ、どうやら彼女の得物らしい金棒を持ってこさせている。

 

「内縁の夫妻だったとは」

 

 少し離れたところに立っていた副長が、にやりとした顔でそう言うので俺は彼の爪先を軽く蹴った。

 蹴りながら、

 

(というかふたりともこっちが命令してないのに出陣していくのか……)

 

 と気づいた。

 ふたりの設定上の“素直さ”がどの程度だったかは、もう忘れていた。

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