至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG) 作:河畑濤士
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俺が学生の頃はゲーム脳などという言葉が流行ったが、戦術SLGに慣れ親しんでいると、ともすれば忘れそうになってしまうのが騎兵突撃の恐ろしさである。
ポニーでさえもその体重は百数十kgから200kgを超え、時速30kmから40kmの速度で疾駆する。
さらにそれを操るのは、当然ながら軍事訓練を受けている人間だ。
掻き集められた士気の低い士卒たちでは、大挙して押し寄せる彼らを押しとどめることは難しい。
これならば騎兵を突き殺せると己に自信を持たせてくれる槍と、逃げ出すことなく隣で踏み止まってくれると信頼できる戦友、決して諦めずに戦列を維持するであろう指揮官。この3つによって担保される勇気と士気が、騎兵に対抗できる有効な武器だと言える。
このあたりを良くも悪くも表現しているのが『至帝戦記グロリアスチャージ2』だといえた。
(交差する手鎖の旗印――臨海囚獄伯か)
旧・低東地方伯領の北限にあたる城砦ジルニア、その防御城塔に立つ俺は、ホンヴェン臨海囚獄伯の囚人部隊から成る戦列がこちらに近づいてきているのを見た。その後方や左右にはちらちらと別の色の旗印も翻っている。
独立派諸侯たちはグレイヘンガウスが離脱した後も、なんとか連合軍としての
――敵の主攻は、旧・低東地方伯領および造反者であるグレイヘンガウス。
自然な話である。
裏切り者を見せしめとして早急に倒すことができなければ、第2、第3の離脱勢力が現れる可能性が残る。
加えてグレイヘンガウスの騎兵が捕らえた捕虜からも「ジルニア城砦を陥とすために連合部隊が編成された」旨の証言を得ていた。
一方、それを迎え撃つのはグレイヘンガウスと彼らの旧・家臣たちである。
前面に展開したのは長駆突撃を可能とするグレイヘンガウスら複数の騎兵部隊。
その後背に控えるのは、ヴェゼッタ・グレイヘンガウスの剣兵たちだった。
(……なんだか申し訳ないな)
敵軍を迎え撃つ戦陣のなかに、俺のような極東城塞伯の譜代ともいえる人間はいない。
これはヴェゼッタから「まず我々だけで打ち払いますね~。ジシャガミの軍兵のみなさんはこの城砦をお守りください~」と申し出てきたためであり、グレイヘンガウスもまた「騎兵主体の我々と、徒歩兵中心の君たちとでは連携も取りづらかろう」と賛意を示していた。
(いや、彼らが気を遣っているのは戦術面のことだけではない)
謀略の可能性など毛頭ない、ということを示したいのだろう。
仮にこれが逆で、俺たちジシャガミ極東城塞伯の譜代が野戦に臨み、グレイヘンガウスの軍兵が城砦を固めるという格好であれば――グレイヘンガウスが背後から俺たちの背中を衝き、前後挟撃を実行することも不可能ではない。
ゆえに彼らは敵の大部隊を前にしても、一手でこれにあたるつもりなのである。
(政治的な配慮、か。しかしまあ合理的ではある)
「トマシノ様、出陣の準備は整っております」
隣に立つ副長も形勢を見守りながら、俺に小声で報告した。
「ああ。いざとなれば、弓兵で援護する」
「はい」
「……この戦闘で見るべきところはわかっているよな?」
「もちろんです」
そんな会話を交わしているうちに両者の対戦が始まった。
各所で上がる少数の怒声とともに、囚人兵たちが前進する。
遠方ゆえにわかりづらいが装備にはかなりのバラつきがあり、出だしからつまずく士卒も散見された。
「前進――!」
それとは対照的に、雪を踏みながら動き出す騎兵と剣兵の戦列の歩みに、迷いはない。
一定のリズムで奏でられる蹄鉄と革靴の音。
焦燥も、怯懦もなく、整然と進む彼らの姿を見て、俺は意外に思った。
(やはり他の陣営の連中と協同していたのが彼らの間違いだったか)
「
もたつく敵陣を突撃の射程に収めるとともに、色とりどりの馬体が駆け出す。
「
順当な結果がもたらされた。
喊声を上げながら突撃する騎兵たちは、細長い馬上槍とともに前面の敵陣へ殺到。
てんでばらばらに繰り出された槍や戦斧を半ば無視した人馬一体の騎兵たちは、瞬く間にその槍を未だ戦意のある囚人兵の胸に突き立て、その槍が折れるとともに長剣を抜いて、ひとり、ふたりと敵兵を斬殺した。
実際のところ、騎兵に対して抵抗できた、抵抗した囚人兵は多くはない。
過半数が迫る馬体を見て逃げ出す、あるいは馬上槍の一撃によって吹き飛ばされた囚人兵の巻き添えを食って転倒してしまった。
容易く散逸する組織的抵抗力。
が、その脆さは敵方も織りこみ済みだったか。
囚人兵の後方にいたのは、長槍兵たちであった。
「グレイヘンガウス様の衝撃力を囚人部隊で多少なりとも吸収し、後方の槍兵で食い止める算段ですな」
副長の言葉に、俺は頷いた。
グレイヘンガウスらが逃げ惑う囚人兵たちの背中を襲い、考えなしに前進と攻撃を続ければ、あの長槍兵たちの反撃を受けるであろう。
ところが大胆なくせに細かいところは慎重なグレイヘンガウスは、事前に「馬上槍が折れたら原則として退け」と騎兵たちに命令していたことを、俺は知っていた。
大波が寄せて、それから返すように、騎兵たちは速やかに引き下がる。
「
後退する先にいるのはヴェゼッタの剣兵たちの戦列だ。
揃いの盾と長剣を構えた彼らの合間をすり抜けて、彼らは安全な後背へと逃れる。
生死問わず地に這いつくばる囚人兵たちを踏みつけ、敵の長槍兵たちが前面に進出してきたときには、もう遅い。
格闘戦に備えた戦陣に組み直したヴェゼッタの剣兵たちは、盾を頭上に構え、長剣を肩に担ぎ、決死の覚悟とともに前方を見据えていた。
「
盾を頭上に構えたまま、腰を落とした姿勢で突っこむ剣兵たちと、いっせいに槍を振り下ろす長槍兵たちが殴り合いを始める中、その後方でグレイヘンガウスの騎兵たちは折れた馬上槍を捨て、新しい馬上槍を輜重兵たちから受け取る。
鮮やかな戦術。
だが俺たちは何も気にせず観戦に夢中になっていれば良いというわけでもなかった。
「いないな」
俺の呟きに、副長もまた頷く。
副長が事前に選抜していた視力の良い弓兵たちにも聞いたが、答えは同様であった。
「わかった。敵の主力はあれではない」
俺たちが探していたのは、魔術兵だった。
連中が本気でこの城砦を陥とし、旧・低東地方伯領を蹂躙する腹積もりであれば、必ず上級兵科である魔術兵部隊を行軍に組み入れるはずだ。
(それがいない。ということは十中八九、こちらは陽動。敵の主力はほかにいて――)
敵の主力が指向された方面がこちらでないとすると、向かう先は限られる。
迂回して旧・低東地方伯領の中央部を抑え、この城砦を孤立させるか。
あるいはより根本となる極東城塞伯領を長駆打撃するか。
「いまはウスマンたちの警戒網が機能することを祈るしかない」
いまこの瞬間にでも極東城塞伯領に戻りたいところだったが、それはできない。
目の前の戦闘が終結する前に城を出てしまえば、グレイヘンガウスが率いる士卒らに「我々が戦っている間に、極東城塞伯の連中は逃げだした」と思われるかもしれなかった。
(しかしよりにもよって魔術兵を警戒しなくてはいけないとは……)
魔術兵にはいい思い出がない。
初心者プレイヤーだった頃に、訓練された上級兵科とはどれほど強いのかを嫌というほど思い知らされた存在である。
魔術士は間接攻撃が得意で、近接戦闘においては脆弱――そんな常識は『至帝戦記グロリアスチャージ2』には通用しないのだ。