至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG) 作:河畑濤士
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「射かけよっ!」
白昼。
同時に城壁や城壁四方に設けられた城壁塔・側防塔に詰める弓兵たちが、射撃を開始する。
500を超える弓箭の音響とともに解き放たれた矢。
しかしながらそれは、極東城塞に迫る敵の隊列を乱すことはなかった。
「
黒曜石のように輝く揃いの長衣を着用した隊列は、同じく金属製の杖を掲げ、掲げながら悠然と歩みを進める。
弾雨にも怯まないのは、彼らひとりひとりが己の技量に自信をもっているからにほかならない。
その威容、まさに精鋭。
次々と虚空で砕け、魔術兵の隊列の手前に落着する
それを見て最先頭を歩む古参の魔術兵が「この距離ならば弓矢は通らん」と勝ち誇ったように叫ぶ。
「そんなことはわかっておるわ」
敵古参兵の言葉が聞こえていたわけではなかったが、ウィンストンはそう呟いた。
目の前の光景は、彼にもまた予想できていた。
軍事訓練を受けた一騎当百の魔術兵の戦列に対して、有効射程ギリギリのところで矢を射かけても無駄だ。
“反射”のレベルにまで発動速度を高めた魔術障壁に防がれるだけである。
……それでも自身の眼で確かめなければ練度はわからない。
もしかすると士気を崩せるのではないかと期待しての一斉射撃だった。
――魔術兵から成る敵部隊の極東城塞強襲の可能性あり。
数日前。極東城塞にいたヤナ・ジシャガミ極東城塞伯とウィンストンの下に、トマシノからの報告とウスマン・バレロからの警告が届いたのは、ほぼ同時だった。
対するウィンストンの行動は素早かった。極東城塞の敷地内に露天状態で存在する可燃物をすべて遠ざけるか城内に隠し、城下の人間やめぼしい財を収容するとともに、城門も閉ざしてしまった。
「ろ、籠城戦ですか? 確かにトマシノさんからの指示はそうでしたけど……」
「魔術兵相手に野戦で勝てるはずがなかろうよ」
対応策を話し合おうともちかけたヤナに対して、ウィンストンは飄々と言った。
将がいない。
極東城塞に詰めている軍兵は少なくないものの、前線の指揮を執れるのはウィンストンしかいなかった。
加えてウィンストンは魔術兵の厄介さをよく知っていた。
魔術を修める者は探究者ゆえに体力がなく非力、というのが一般的な認識である。
が、軍事訓練を受けて戦術を学び、画一的な戦闘用魔術に熟達した魔術兵たちは学者ではない――魔法戦士だ。
距離が開いているときには攻撃魔術を駆使し、格闘戦には己の肉体を強化して臨む。
単純に剣兵、弓兵、槍兵の上位互換だといっていい。
(あれを撃退するには突破力が要る)
攻撃魔術を掻い潜ってぶちあたり、死力を尽くして圧倒する。
俺ならば単騎で、とウィンストンは真剣に考えたが、勝負は五分五分といったところだろう。
(仮に俺が敗死すれば)
籠城戦の遂行さえも危うくなり、皇帝陛下以下すべてが危険に晒されるであろう、というのが彼の下した結論であった。
次の瞬間、足下から突き上げるような衝撃が轟き、ウィンストンは思考を打ち切らざるをえなかった。
魔弾が一斉に城壁に向かって投射され、複数の直撃弾が出た。
が、被害はそこまで深刻ではない。
城壁の上方にある凹凸状の胸壁が一部破壊され、破片がパラパラと落下しただけである。
極東城塞は堅牢とは言い難い軍事施設であったが、城門の前面は急勾配な坂となっており、直射では城門を狙うのが難しくなっている。
敵の第二撃はそびえる目立つ城壁塔・側防塔に集中したが、こちらもまた魔弾の射撃を弾き返した。
そして魔弾の投射が有効ではないと見た彼らは、曲射が可能な焼夷魔術に攻撃手段を切り替えた。
この間、双方から戦死者が出始めた。
攻撃に移行する魔術兵部隊は、全員が攻撃魔術を行使するわけではない。攻撃魔術を発動するのは全体の3割ほどであり、残りは敵の反撃に備えての防御魔術を担当したり、魔力の集積にあたったりする――そうなれば、防御を掻い潜る矢が現れてもなんらおかしくない。
先程、勝ち誇るように叫び声を上げていた古参の魔術兵が、どうと後ろ向きに斃れた。
飛来した矢が彼の顔面を貫徹し、先端の鏃によって脳を破壊したのである。
その背後でもひとりの魔術兵が狙撃されて体を捻りながら転倒し、それに動揺した若い魔術兵もまた肩に矢を受け、膝をつく。
他方、魔術兵が放つ焼夷魔術もまた極東城塞の上空で次々と炸裂した。
魔力の塊が炸裂するとともに降り注ぐのは火の雨。
いや、そんな生易しい代物ではない。
たとえるならば、火焔の襲雨、劫火の瀑布。
ところがその火線は確かに十数名の弓兵らを焼き殺したが、ほとんどが見当外れの場所を叩いた。城壁前の地面や可燃物がいっさい取り去られた練兵場、中央の天守塔の表面を焦がし、それで終わった。
焼夷魔術は見た目こそ派手であるが、実際のところ魔力操作、発動タイミング、指向性の設定が難しいのである。
「しかし派手にやる」
が、ウィンストンは決して軽視はしなかった。
敵が魔術兵を最先頭に押し出してきた狙いは、直接的な殺傷にはあらず。
実際に魔術兵の戦列、その背後から軽装の剣兵や、戦槌、戦斧で武装した徒歩兵たちが飛び出してきた。
魔術兵の火力で守備兵を制圧、拘束し、その間に城門を破るか城壁を突破する腹積もりなのである。
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「追撃戦だ、手柄を挙げる好機だぞ――!」
アロンフィルドが陣頭に立つ槍兵の群れが、逃げ惑う敵兵を後背から突き殺し、踏み倒していく。
残されるのはねじれた敵兵の骸と、分解された状態の投石器。
その光景を眺めるウスマン・バレロは苦い顔だった。
「グレイヘンガウス領内で警戒に就いていたアロンフィルド卿や、俺のところを無視して極東城塞に殴りかかるとは」
まさか、と彼は言いたげだったが、俺は納得していた。
『至帝戦記グロリアスチャージ2』のCPUは、前線を無視して敵陣営の本拠地を急襲することがままある。
確かに決まれば、一撃で敵の指導者を敗死、あるいは捕獲できるのだから狙わない
ただし砦や城といった軍事施設を陥とすには(バグを使わないのであれば)、それ相応の兵士の人数、士気、攻城兵器、そして時間が必要になる――ちなみに兵士の質はほとんど関係がなく、人数を揃えることが大事である。
(つまりいま奴らは貴重な上級兵科である魔術兵を磨り潰しているわけだ)
と、一端のプレイヤーでいられたならばそうほくそ笑んだだろうが、いまは心配と焦燥を抑えて平静を保つので精一杯である。
俺はグレイヘンガウスらに最前線の守りを任せるとともに、ウスマン・バレロらとサン・アロンフィルドと合流し、極東城塞の救援に向かっているところだった。が、その途上で同じく攻城兵器を抱えた敵の増援と遭遇。やむをえず足を止めて、これを撃破したのである。
「足が速い魔術兵や剣兵を先行させ、足の遅い攻城兵器に後を追わせた、というところですか」
俺と同様の思考に至ったか、アルファが口を開いた。
「トマシノ様、極東城塞はもつのですか」
「籠城していれば」
俺としてはそこが不安だった。
(素直さが低いウィンストンが極東城塞を開いて打って出るようなことがあれば――)
「大丈夫だよ」
慰めの言葉を吐いたのは意外にもルティトナであった。
「あのジジイだってさすがに陛下のこととか考えて慎重になるでしょ」
「……ああ」
と頷きながらも、やはり不安は拭えない。
(そうか)
俺はここに至って『至帝戦記グロリアスチャージ2』と、この世界の違いに気づいたというか、相違を痛感した。
プレイヤーだったとき、味方のユニットが勝手に動いたとしても、俺は“神の視点”からすべてを把握できていた。
が、いまはそうではない。