至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG) 作:河畑濤士
「3回もの発売延期を繰り返し、ようやく新年度に合わせて発売されたグロリアスチャージ、略してアチャー。やりたいことはだいたいできる、初代の自由度の高さを期待して、多くの前作ファンと新規プレイヤーが購入したが、待っていたのは“最適解”を探り当ててそれを繰り返すシミュレーションであった」
「あからさまなバグを抜きにしてもこのアチャーはそもそも戦闘バランスに問題があり、公式の意図どおりに真っ当に人数を揃えてチャージしてくるCPUを、アーチャーで粉砕するのが最適解となっており、効率を考えれば戦術の幅がなく、おそろしいほど自由度が低い出来となってしまっていた」
「なぜなら今作、弓兵が序盤最強の兵種となっているからである」
「より正確には、弓兵の間接攻撃がぶっ壊れている。今作ではよくあるシミュレーションゲームと同様に、各部隊には兵種に合わせた能力とコマンドが用意されており、攻撃力、命中率といったおなじみの数値が設定されている……」
「のだが、弓兵の間接攻撃が狂っている。攻撃力、命中率は他兵種と有利不利がないように設定されているのだが、明らかに攻撃対象に対して与える被害が大きい。これは今作から“攻撃回数”が導入されたからである」
「一般的な感覚でいえば、1回の攻撃コマンドで繰り出される攻撃は当然ながら1回である。が、弓兵の間接攻撃の場合は3回――つまり攻撃成功判定が3回行われる。これにより当時の電子掲示板では、
“知ってたか? 弓兵の攻撃1回は、弓兵の攻撃3回分なんだぜ?”
と揶揄される事態となった」
「開発者いわく“歩兵や騎兵で攻撃に参加できるのは最前列の人間だけだが、曲射する弓兵についてはほとんど全員が攻撃に参加できる”ことを表現したためだとか……」
「しかも弓兵の間接攻撃による敵部隊への士気ダメージは、歩兵や騎兵の
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矢の雨を浴び、倒れる者、その場で振り向いて反撃を試みる者、逃げ出す者――混乱状態に陥り、身動きが取れなくなる長弓兵の密集陣。
そこに新たな矢が降り注ぎ、また複数の人影がバタバタと崩れ落ちる。
踏みとどまれ、逃げるな、と誰かが叫んだが、部隊単位での転回を号令されていない――つまり個人個人が自身の判断に基づいて動いている混沌とした状態。この状態から部隊全体が整然として転回し、反撃するのにどれくらいの時間がかかるだろうか?
この光景を眺めながら、俺はつくづく思った。
(あー、やっぱりこの世界、間違いなく『至帝戦記グロリアスチャージ2』だ)
弓兵が異様に強いので、魔術兵や
「弓兵1回分の攻撃は弓兵3回分の攻撃」
と当時の電子掲示板で揶揄されたとおり、バグを使わずとも弓兵は強い。
(確かに他作品に例がないわけじゃない)
たとえば『大戦略』シリーズで、水上艦艇等を攻撃機が襲撃するケースだ。
ある程度相手が“固い”目標に対してにもかかわらず、攻撃力の高い誘導爆弾を使うよりも攻撃力が低い機関砲を使ったほうがダメージを与えられる場合がよくある。これは誘導爆弾の攻撃回数は1回と設定されているにもかかわらず、機関砲の攻撃回数が2回となっているためだ。
が、士気が重要かつ、その士気が攻撃でゴリゴリ削れる戦闘システムで攻撃回数3回はさすがにぶっ壊れ性能であろう。
「者ども聞けえ!」
俺は頃合いをみて絶叫し、続けて副長が戦鼓を叩く。
「転回、右向けェ――右ィ!」
おそらく500名以上から成る敵部隊とは異なり、300名以下の俺の部隊は極めて機敏に動く。
――ひとりの人間の声が届く範囲で指揮できる人数、100名から300名程度であり、これが近現代軍における“中隊”の端緒となっている。
という真偽不明の話を真に受けた開発によってデザインされた『至帝戦記グロリアスチャージ2』であるが、実際に301名以上の部隊と300名以下の部隊とでは動きがあまりにも違いすぎる。
このゲームは部隊ごとに“行動力”という数字が与えられており、その行動力が尽きるまではコマンドを実行できる。
その一方で移動や攻撃だけではなく、部隊の向きを変えたり、装備を変えたり、武器を棄てたり、何かにつけても行動力を要求されるのだが、301名以上の部隊と300名以下の部隊とでは、部隊の向きを変えるだけでも行動力の消費量が倍近く違うのである。
そのため敵の背後や側面をとれれば、300名以下の弓兵は攻撃を1回行って(事実上の3回攻撃であるが)、敵の士気を挫き、敵部隊が混乱している間に逃げることが可能になっている。
行動力の多寡で部隊の機動性を表現するのは、『POWER DoLLS』シリーズや『マブラヴオルタネイティヴ・暁遥かなり』など先駆例があるが、もう少し人数と行動力の相関にグラデーションをつけてもよかったのだろうに、まあいまはどうでもいい話だ。
重要なのは、リアリティを追求したらしい馬鹿げた開発のおかげで、300名以下の弓兵が兵力差をひっくり返して暴れ回るというリアリティのかけらもない現実が、いま俺を生かしてくれようとしているということである。
「移動射撃!」
そしてバグを利用した裏技として悪名高いのが、移動射撃を利用した無限移動である。
「射点までぇー駆けあァーしッ、始め!」
「
「射点までぇー駆けあァーしッ、始め!」
「弓箭ぇーん、構えッ! 構ぇー中止ッ!」
左右の人間がまったく違和感を覚えていないことに、恐怖さえ感じる。
この瞬間、まるで周囲の時間が止まったように――敵はまったく身動ぎしないにもかかわらず、誰もそれに対するリアクションをとろうとしないのだから。
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【コマンド】“移動射撃”
①移動地点を指定し、移動する。
②移動後、攻撃目標を指定する。
③弓兵は間接攻撃を実施できる。
④前面の敵部隊にダメージを与える(射程3)
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このコマンドにはバグがある。
移動地点を指定して移動したあと、攻撃目標を指定する際に中止を選択することで、なぜか移動後の地点から新たに移動が可能になるのである。
しかもこの間、行動力はまったく消費されていない――つまり「行動せずに移動している」。
これにより300名以下の弓兵部隊は、倍近い敵部隊を士気崩壊に導く攻撃力、敵よりも機敏に動ける機動力、騎兵部隊の追撃さえ振り切る速力をあわせもつ極悪バランスブレイカーと化す(もともとバランスがとれているとは言っていない)。
一応、敵部隊の間や脇をすり抜けることができるわけではない(ZOCを無視できない)ため、万能というわけではない。
のだが。
どうだろう。
(これどう見ても“時間が止まっている”んだが……)
俺は部隊を最初に布陣した丸山という小さな丘にまで戻すと、再び戦場全体を俯瞰する。
それから次の標的を吟味するのであった。
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次回更新は5月10日(土)を予定しております。
無限移動バグの元ネタはガンパレード・マーチ。
これほど強くはありませんが……(敵の射線から逃れる機動力という点ではもっと有用なコマンドがある)
攻撃回数は大戦略のイメージから引っ張ってきていますがよく考えるとギレンの野望にもありましたね。
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