至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG)   作:河畑濤士

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次回更新は5月15日(木)を予定しております。

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■7.開発は 思うどおりに いかないよ?

(戦えば勝つ。が、ブルネーロ東方宮中伯領を一気に席捲するのはまずい)

 

 野戦に勝ち続け、可能な限り敵の人的資源を削る。

 ブルネーロ東方宮中伯の極東城塞伯領侵入から始まった戦争における俺の戦略は、これに尽きる。敵が連携しきれない複数個の大部隊で攻め寄せてくる限り負けることはないし、また300名という小勢であっても敵の城塞を陥とす裏技があるため、一気に敵の版図を切り取って勢力を伸ばすこともできなくはない。

 しかしながら、人材と兵力が揃っていない状態で広大な領土を抱えても、守るべき範囲が広がって苦しくなるだけである。小軍備のままでブルネーロ東方宮中伯領を全土併呑したら、今度は帝都を押さえている南方辺境伯ルケルブやその周辺勢力と連戦することになるだろう。

 ゆえに俺は麦の収穫を迎える直前の農村を幾つか占領し、漁港を有する港町リービークを手中に収め、ヤナと相談したうえで現地の有力者を代官に据えるに留めた。

 こうした占領地における鎮撫工作は楽である。この世界の一般的な人々は皇帝陛下に対する尊崇の念はある一方で、特別なことがない限り、領主への忠誠心はほとんどない(ゆえに戦場では士気の変化が激しく、逃亡兵が続出するわけである)。

 

 さて、照りつけるような日差しが憎らしく、草葉生い茂る夏の訪れとともに、ブルネーロ東方宮中伯からの使者もまた我々のもとを訪れた。

 

(それがし)はブルネーロ東方宮中伯の臣下、ウスマン・バレロでございます」「私はウスマンの血のつながっていない年下の姉です」「あたしは妹でーすっ!」

 

 占領した農村の陣屋にやってきたのは、使用人姿の妙齢の女性に背負われた男であった。

 その男――金属片を綴った鎧を着ているウスマン・バレロは、腰に片手剣を佩いている。

 と、同時に彼はさも当然のように白いワンピースを着た少女を背負っていた。

 

(……)

 

 当然ながら俺はウスマン・バレロとウスマン(姉)、ウスマン(妹)というキャラクターを知っている――彼らが奇抜だからではなく、高性能な強キャラだからである。

 それは単純に3人分の頭脳・技能が1つに纏まっているだけに留まらない。政戦両面で以心伝心、異様なコンビネーションをみせるのだ。仮にいまこの瞬間、俺がウスマン・バレロ(妹)(本人)(姉)と決闘したとすれば、戦闘形態となった彼らを前に必ず負けることになるだろう。

 

「フォーメーションチェンジ!」「チェンジ」「チェーンジ♪」

 

 とりあえず陣屋のなかへ招き入れて席を勧めると、ウスマン・バレロがまず椅子に座り、その膝の上にウスマン(姉)が座り、続けてその膝の上にウスマン(妹)が座った。

 

「それでウスマン卿、本日はどういったご用件で」

 

 そう聞いたのは、俺の後ろに控える副長だった。

 

――現状維持での停戦。

 

 ウスマンから切り出されたブルネーロ東方宮中伯からの提案は、ただそれだけであった。

 賠償金の要求や占領地の返還要請もなければ、逆に向こうからの謝罪や領地の割譲も何もない停戦の提案。

 港町と幾つかの農村を手に入れたことで収入が伸び、ここで軍備増強のために時間が欲しいこちら側としては、断る理由はなかった。

 

(とはいえ、2、3か月もすれば再び攻めてくるだろうが……)

 

 俺は溜息まじりに口を開いた。

 

「さきほども申し上げたとおり、停戦には合意いたします」

 

「ありがとうございます」「ありがとうございます」「ありがとうございますっ!」

 

「しかしお互い時間を稼ぎたいがゆえの停戦。すぐにウスマン卿とも戦場で相まみえることになるでしょうな」

 

「そうでしょうね」「どなたが敵であっても弟と妹を守るだけです」「別に戦いたいわけじゃないけどしょうがないよー」

 

『至帝戦記グロリアスチャージ2』において、交戦中の相手が国力・軍事力でこちらに優っているにもかかわらず停戦を申しこんでくるケースは、たいがい他陣営との軍事同盟を成立させ(戦闘が現在進行しているなかでの軍事同盟を締結することは“戦争に巻き込まれる可能性がある”と評価されるため難しい)、さらに同盟相手からの援軍が前線に到着するまでの時間を稼ぐためであることが多い。

 そのため停戦しても、向こうの用が済めばすぐに再戦となる。

 

(おおかた不戦協定を結んだ南方辺境伯ルケルブとの関係を進展させようとしているのだろう)

 

 俺はブルネーロ東方宮中伯の狙いを読みつつ、思考を別のところに持っていく。

 

「ウスマン卿、単刀直入に申し上げます。私とともに陛下の(おん)為に働くつもりはございませんか」

 

「引き抜きですか」「何事も条件次第です」「えー、裏切りぃ?」

 

「待遇にご不満があるのでは? ご返事次第では港町リービークを任せてもいい」

 

「……」

 

 結局、引き抜きの話のほうはうまくまとまらず、ウスマン卿らは帰っていった。

 

「大胆な引き抜き話でしたね」

 

 副長は腕を組んで、ウスマン卿らが出ていった陣屋の扉を睨んでいた。

 

「宮中への自由な出入りを認められた高級貴族――東方宮中伯は家格で待遇を決めると聞いた。そうなると没落した弱小軍事貴族のウスマン・バレロ卿は冷遇されているだろう、そこに付け入る隙があるかと思った」

 

「ウスマン卿は結婚指輪をしておりました。愛妻家とみえますが……。ウスマン卿の奥方が人質にとられているのでは?」

 

「かもしれない」

 

「しかしトマシノ様が引き抜きに奔る気持ちもわかります。ウスマン卿と妹の実力はわかりかねるところがありましたが、自称・姉のほうはひとたびも瞬きをしませんでした。加えてあの膂力――人間型のゴーレムかもしれません」

 

「……」

 

 俺は副長と呼ばれる男の観察眼に内心で感嘆した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「それでこの酔いどれに何をさせようというのだお前は」

 

 本格的な夏の暑さに満ち満ちている極東城塞に戻った俺は、早々に酔狂のウィンストンに呼び止められていた。

 

 俺は、当時の電子掲示板において「酒カスのガンダルフ」「肉体派ダンブルドア」「田中ぷにえの祖父」「敵だと強敵、味方だと使えない」などと評されていたことを思い出す。

 

(その中でも個人的に的を射ていると思うのは……)

 

 ……そのすべてだろう。

 

 たとえば『指輪物語』の“灰色のガンダルフ”は優れた知性と知識を持っているうえ、戦いにおいては炎と雷を操り、杖や剣を扱った近接戦にも習熟しているが、この酔狂のウィンストンも同様である。異なる点は、ガンダルフが愛煙者で(とはいえ他の登場人物も喫煙するのだが)、ウィンストンはアルコール依存気味という点だろう。

 

 要は何が言いたいかといえば、ウィンストンは内政、外交、戦闘、なんでも高い水準でこなせるオールラウンダーなのである。

 

 一方で素直さが絶望的に低いため、彼を思い通りに操ることは難しく、故に「味方だと使えない(=操作できない)」のだ。

 

(だがこちらにいてくれるだけ助かる)

 

 それに勝手に動いてマイナスな結果をもたらすことはほとんどない。

 

 注意しなければならないのは、素直さの低さからくる無断の単騎出撃くらいであり、彼の場合は数百名の敵兵を薙ぎ倒してから孤立無援のままやられるという展開がままあることだ。

 一プレイヤーとしては無断の出陣による戦死など自業自得ではないかと思ってしまうところだが、もちろん敗戦扱いとなり、陣営全体の威信に傷がつくことになるので大問題である。

 

 まあこうした事情があるので、俺の答えは決まっていた。

 

「ウィンストン様には皇帝陛下の教育と、御政務にお励みになられる皇帝陛下のサポートをお願いいたします」

 

「陛下の教育? 政務?」

 

「はい。とにかく陛下の御身を守っていただきたいのです。それ以外は何をしていただいても構いません」

 

「ほーこの元・宮廷魔術師に子どもの御守りをさせるとは……」

 

「失礼ですが、ウィンストン様はそれがしたくてこちらにいらっしゃったのでは?」

 

「うまい酒を求めて大陸中を遍歴してるだけだ、それでたまたまここに来た」

 

 と、言いつつもウィンストンは、満足そうに鼻を鳴らした。

 

(それから陛下だが――)

 

 大きな戦闘が起こらなさそうな時期については、ヤナには必要な建築物の整備や道路の建設、そして皇帝陛下には領内開発にあたってもらう。

 現時点で皇帝陛下の能力値はまさに幼児並みだが、特に問題はない。

 この『至帝戦記グロリアスチャージ2』は他のSLGと同じように新たな荘園を切り拓いたり、特産品を開発したり、鉱脈を探したりと箱庭ゲームの要素があるのだが、この領内開発にあたって重要なのは実行者の能力ではなく、試行回数である。

 

 なにせ『至帝戦記グロリアスチャージ2』の領内開発は、実行者の能力いかんにかかわらずほぼほぼプラスの成果が出る一方で、何をするかを選べない。

 

 つまり軍事技術向上につながる機甲技術者の招聘をしたいのに山野の新規開墾が始まったり、逆に収入を増やしたいのに威信や士気の上昇をもたらす公営音楽団の創設がはじまったりするのである。

 

――開発ガチャ。

 

 ランダムで生じる結果は、数百種類にも上る。

 

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