至帝戦記グロリアスチャージ2(KOTY次点受賞SLG) 作:河畑濤士
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次回更新は5月18日(日)を予定しております。
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「いわゆる4X(探検・拡張・開発・殲滅)シミュレーションゲームではない戦術級シミュレーションゲームであっても、特産品を作ったり、土地改良をしたりする開発コマンドが設けられているものは少なくない」
「そしてこの『至帝戦記グロリアスチャージ2』においても、拠点となる城塞の城下町や村で建造物を建設する以外に、領内の開発を進める開発コマンドが存在しており、実行することでプレイヤーが享受できる開発の恩恵は、田畑の新規開墾から、馬産の開始までなんと驚異の255種類以上となっている」
「しかしながらこの開発コマンドだが、仕様を知り尽くしているプレイヤーならば誰も実行しない」
「なぜならプレイヤーは、何を開発するかを選択できないのである。プレイヤーは開発先となる町や村と、開発を実行する人材を選択して開発コマンドを押すことしかできず、あとはランダムにもたらされる結果を待つことしかできない」
「つまり、収入を伸ばしたいから特産品を開発しようと思っても、マスクデータの安定度にかかわる源泉(温泉)の発見が報告されるような事態が頻発する。なにせ狙った開発が行われる確率は1/255である」
「基本的にマイナスな結果をもたらすハズレは存在しないのだが、なかには大麻の栽培と薬効の発見(収入増加と戦闘時の士気向上)といった結果もある。デメリットはないとはいえ、現代の倫理基準で善政を敷くロールプレイを楽しみたいプレイヤーのなかには、不快に思う結果もあるだろう」
「また問題は一部の兵科を編成するために必要な開発が存在することである。たとえば一から騎兵を編成しようと思えば、
①馬産技術の導入と馬産の開始(開発コマンド)
②厩舎施設の建設(建設コマンド)
③騎兵の訓練(軍事コマンド)
④騎兵の編成(軍事コマンド)
という順番を踏む必要があるが、起点になる①を1/255の確率から引き当てなければならない」
「ゆえにこの仕様を知っているプレイヤーは、馬鹿正直に馬産から始めようとはしない。ゲーム開始時から馬産地となっている拠点を奪い、そこを軍馬の供給源とするのである。乱世だけに他者から奪うのは間違ってはいないのだろうが……」
「なぜこのような仕様にしたのか、開発陣がインタビューで語っているところによると、
“領地開発は領主の一存ですぐに始められるものでも、うまくいくものでもないでしょう。現地住民からの提案や協力が必要ですし、何がうまくいくか彼らのほうがよく知っている。タイミングの問題もありますよね。そのあたりを表現したかった”
とのこと。確かに領地開発の成功・不成功はあってしかるべきだが、何にチャレンジするかも決められないほうがリアリティを欠いていると開発陣は思い至らなかったのだろうか?」
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(いや、さすがに開墾事業を計画して命じれば開墾するだろ……常識的に考えて)
皇帝陛下とウィンストンに任せるつもりだった俺も、最初だけは一緒に領地開発に噛んだ。しかしながら、現地の有力者の反応は「収穫時期で人手が足りない」だとか「ここを切り拓けば地脈が乱れる」だの、よくまあこれだけの反論が繰り出せるものだと感心してしまうほどであった。
というわけで俺は早々に匙を投げ、皇帝陛下とウィンストンに一任するに至った。
「……」
そしてその結果は、といえば。
「皇帝陛下、ウィンストン様。それは――」
円卓の間、唖然としたヤナの視線の先には、皇帝陛下が座っている。
否、ただ座っているだけではなく、皇帝陛下は彼女の胸から腹ほどの大きさの白い楕円形の球体を抱いていた。
卵、である。
もちろんサイズからいってただの鶏卵ではない。
「竜種の卵、ですよね。な、なんで……」
ヤナの言葉は尻すぼみになって消えていった。
皇帝陛下は巨大な卵を抱いているだけで、ただただきょとんとしている。
続けてヤナは半ば責めるような視線を、皇帝陛下とともにいたはずのウィンストンに向けた。
「陛下と城塞の周りを散歩しておっただけだ!」
彼はといえば一瞬だけバツが悪そうな表情をしたあと、木製の水筒を煽ってから、
「そしたら河口のほうで大騒ぎしておって。見やれば川上から流されてきていたそれが岸辺にひっかかっておった!」
「ならそのまま流しておけば――」
「畏くも陛下も“あれは?”とご興味をお示しあそばされたのだから、仕方がなかったのだ!」
とまくしたてた。
「竜種、ですか」
俺は当たりなのかハズレなのか判断がつきかねていた。
一介のプレイヤーとしては、大当たりのSSR。竜種の孵化といえば『至帝戦記グロリアスチャージ2』における “竜騎兵”の編成につながる第一歩である。
しかしながら付随していた鈍器じみた分厚さのマニュアル&公式設定資料集では「世間一般的には害獣として忌み嫌われている」とされていた。
その理由は、野生における竜種の生態にあるらしい。
■卵生。孵化後、2年程度で成体となり、3年以内に性成熟を終える。
■メカニズムは不明だが、単為生殖も有性生殖も可能であり、単為生殖の場合は冬から春にかけて数個から最大20個程度の卵を産卵し、この卵は春から夏にかけて孵化する。
■単為生殖から生まれた個体に身体的な異常はみられず、この個体もまた単為生殖が可能である。
■単為生殖によって生まれた個体たちは親個体・兄弟姉妹個体ともに群れをつくることが多い。
■食性は雑食性であり、環境に合わせて食物を摂取する。
つまり自然界における生態系の頂点に君臨すべき存在が増え続け、森林資源から野生動物まで食い潰し、山野を荒野に変えたあとは人里に下りてくるケースが少なくなかったためだという。
(そのくせゲーム中では維持費が格別にかかったり、兵糧が大量に必要だったりするシステムじゃなかったけどな。竜騎兵を保有していて維持できずに滅びる勢力もなかったし……)
ゲームプレイの仕様とマニュアル&公式設定資料集で語られる設定が噛み合わない。
俺は迷いながら皇帝陛下へ視線をやる。
すると彼女は少しだけ力を入れて卵を抱き直し、空虚な瞳でこちらを見つめ返してきた。
「閣下」
俺はヤナに声をかけた。
「畏くも皇帝陛下の御心をご推察いたし奉るに」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
夏真っ盛りでタンクトップ姿のヤナは慌てて俺の右肩に縋りついてきた。
それから小声でひそひそと話し始める。
「まずいですよ、ほんっとーに……」
「何か問題が生じれば、私が処分いたします」
「犬猫じゃないんですよ」
「しかし竜種を飼い馴らした例もありましょう。実際、北方の領主のなかには竜種を飼っている御仁もおられるとか。皇帝陛下の情操教育にもいいと思いますが」
「でも私たち竜種の飼い方なんか――」
「竜種の飼い方くらいなら知っとる!」
助け舟を出すというより割りこんできたのはウィンストンであった。
「竜種は竜社会では竜になる。が、人間社会では人間になるのだ! まあ見ておれ!」
俺はウィンストンの言葉がまったく腑に落ちなかったが、とにかく皇帝陛下のためにもこの場を収めようとした。
「皇帝陛下。それでは陛下が臣下ウィンストンとともに、この竜種をお育てあそばされるということでよろしいでしょうか?」
彼女は身じろぎもせず、数秒間なにか考えこむ様子を見せてからこくりと頷いた。
そこで俺とヤナは顔を見合わせた。
(少し前だったら「わかった」と言っていただろうが……)
彼女は高級貴族や中央の官僚から教わったのであろう「わかった」という思考停止の言葉ではなく、自分自身の意思を見せ始めたのである。